VIRGIN HARLEY | USAディーラー事情 芦田 剛史のUSAディーラー・トレーニングダイアリー

USAディーラー事情

  • 掲載日/2006年09月08日【芦田 剛史のUSAディーラー・トレーニングダイアリー】
  • 執筆/芦田 剛史
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本場ディーラーでハーレーを学ぶ USA Training Diarys 第4回

本場に渡って知ったこと
アメリカのハーレー事情

こんにちは、メカニック芦田です。前回は、ついにメインの研修スタートを切った話でしたが、いよいよ今回からは研修先のディーラーでの話をしていきたいと思います。

アメリカのディーラーは一般のショップに比べて高級なイメージがあり、敷居がある程度高く設けられているように感じます。一般的にどのディーラーも立派な店構えで、一部の都心を除き、非常に広い敷地にショップが建てられています。一般のディーラーが日本のメガディーラーに匹敵する広さはあるでしょう。これは国土の面積の差が露骨に出てしまうので、比較しても仕様が無いことかと思いますけれどね。また、従業員の人数の多さも驚きです。私の勤めているディーラーは、店の規模はアメリカでも比較的大きめになるかと思いますが、メカニックだけでも常時10人前後はいます。その他に大雑把に部門分けしても各部門管理職、営業、サービスライター(日本で言うフロントマン)、部品管理、アパレル販売、ロットテック(メカニック見習い兼雑用係)、パーツ販売担当のカワイイ女性たち(おい!)、その他にも非常に多くの部門があります。私が把握しているだけでも、軽く30人以上はいるのではないでしょうか。

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スタッフが多すぎて、正直会ったことが無い人もたくさん居て、たまに名前を呼ばれても何処の誰だか分らずに戸惑ってしまうがあります、特にカワイイ子には(おい!)。これだけ多くの人員がいると、日々の業務ではそれぞれの専門職に専念することができ、僕の場合メカニックの仕事以外一切やったことがありません。僕はバイクを磨き込むのが好きですが、それはアメリカではメカニックの仕事ではありません(個人的には磨きもメカの仕事だと思うのですが…)。また、扱うモデルに至っては、そのおおよそ7割がツーリングモデルになります。入庫してくる車両のエンジン構成はツインカムが80%を占め、吸気に関してはインジェクションが90%を占めます。これは日本の方には驚きの数字かもしれませんね。アメリカ人の「新しい物好き」な性格が出ているのと、アメリカでの日常の使用条件を考えると、いたって自然な結果と言えるでしょう。アメリカではバイクが道中故障で止まった場合、引き上げに来てもらうにも結構な距離になることが殆どです。最悪のケースだと、命に関わることも無いとは言えませんから。

日本では星分け制度
本場でのメカのランク分け

一般のライダーにはそんなに馴染み深くないかもしれませんが、日本のH-Dディーラーにはメカニックの熟練度が視覚的に分る「星分け制度」があります。これはアメリカの制度を日本に持ってきたもので、一番上は「マスターオブテクノロジー」で星5つです。日本でもアメリカでも「マスターオブテクノロジー」に達するには技術の極みとも言える実力を要求されます。ちなみに、私は日本で6年メカニックとして働き、やっと真ん中の「サービスメカニックエキスパート」です。マスター(支配者)なんて遠い月のような存在ですが、長生きして死ぬ間際までには、マスターまで登りつめ「ワシは極めたぞい」なんて言ってみたいものです。5つ星は任せて安心、聞いて安心、全てにおいて完璧である立場だと思います。

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一方、現在私が勤めているディーラーにも熟練度を指し示す指針がありまして、表現は違いますが同じ意味だと思います。熟練度の高い順に「Aテック」、「Bテック」、「Cテック」、「ロットテック」となります。「マスターオブテクノロジー」を筆頭とした「星分け制度」はアメリカでも使われているようですが、ディーラーによってその表現は違うようです。今勤めているディーラーにはAテックが2人おりまして、一人は間違いなく私が今まで会った中でも、1,2を争うメカニックです。その熟練度たるや目を見張るものがあり、常に冷静沈着、メーカーから配布された、過去現在ほとんどのサービスブリテン(※1)を記憶しているという達人です。ちなみに私は(またお前かよ!)Bテックです、パチパチ。ロットテックとは見習いメカニックのことで、彼等は普段雑用をこなしながら一人前のメカニックを目指します。彼等が一貫した作業を任されることは殆どありません。アメリカでは作業を信任出来る人間を「テクニシャン」と呼び、尊厳ある職業として扱われます。もちろん、その責任は大きいです。仕事上でのミスは店の信頼や収入に直結するため、大きなミスをしでかしてしまうとその作業が次に回ってくることはまず無い、と聞きます。再修理や問題のある作業をしたメカニックはその作業時間分、給与を引かれてしまいます。つまり、ミスをして「すいませんでした。」では済まないのです。そんな中でメカニック達は互いにしのぎを削りながら生きていきます。

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また、アメリカではメカニックがお客様に直接問診することは無く、作業に入る前の情報はサービスライターが書いたレポート(もちろん英語!)が唯一の情報となります。点検などではさほど情報は要りませんが、故障診断ともなると相当泣かされます(笑)。そんな厳しい条件下で、決まった時間内でいかに正確に丁寧にシンプルにバイクを仕上げるかがメカニックの腕の見せ所となるのです。決まった時間内とは、作業工数(予め予想されている作業時間の指針)という意味もありますが、アメリカではほぼ8時間労働で引き上げなければならないのです。残業ナシで回ってきた仕事をこなしていかなければいけません。ある意味ハードな環境なんですよ。

※1 サービスブリテン
メーカーからディーラーに向けて随時発行される、リコール情報やマニュアルの記載改正などのマニュアルに記載されていない情報が記載されている書類

ふとしたきっかけから
「故障診断」を任されることに

私が働き始めて早3ヶ月が経ちました。研修前から「研修中の時間の流れは早く感じるよ」と聞かされていました。ところがどっこい私にはスローモーションのような感覚に襲われています(いつも大袈裟なんだよ!)。日本と同じように、この3ヶ月間は試用期間として過ごしてきたのですが、2ヶ月目が始まった頃から故障診断を主に任されるようになりました。きっかけは誰も分らなかった故障を直したことでした。細かく書くと長くなってしまうので割愛しますが、ある配線の被服内での断続的な断線に気づくことができたのです。これも性格でしょうか、こういう故障を見るとアドレナリンが出てきます(笑)。「俺は故障診断が得意なんだ!」なんてアピールしたつもりは無かったのですが、結果的にアピールになりました。

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一般的に故障診断は作業時間が読めない上に、割の良い仕事ではありません。故にBテック以下には回らない仕事です。経験の浅い人間が間違った診断を下すと、担当するメカニックの稼ぎが減って生活がままならなくなるからです。デスパッチャー(仕事を配る人)は私に言います「俺たちはお前のビッグブレインが必要だ」と。そんな重要な信頼の要るポジションに就けたことは、この上ない喜びであり、俄然やる気も出てきます。しかしながら、常に再修理と熟考のプレッシャーに負けそうになる自分がいつも顔を出しもします。これもまた前回お話した、「壁」です。人生には数え切れない壁があって、越える度に洗練されます。この信頼を裏切ることなく、最後までこのポジションでやり遂げ、アメリカで生きていけたなら…その向こう側に見える景色は一体どんな景色なんだろうか? その好奇心と負けん気が私の限界点を更に引き上げてくれます。私がこの研修で持ち帰りたい物、形式上ではアメリカ式の技術、マネージメント、などいろいろあると思います。中でもEFI制御(電子制御燃料噴射装置)に関する技術はマスターして帰りたいですね。けれど、それが私の本当に求めている物かどうか、実はまだはっきりとは見えていません、しかしながら最近はぼんやりとですが、掴めそうで掴めない雲のように「それ」が浮かんでいます。 これが「夢」ってやつかもしれないですね(かっこつけんな!・笑)。

プロフィール
芦田 剛史

26歳。幼少からバイクと車に興味を持ち、メカニックになることを誓う。高校中退後、四輪メカニックとして4年の経験を積み、ハーレー界に飛び込む。「HD姫路」に6年間勤務、経験と技術を積み重ねたのち「思うところがあり」渡米を決意。現在はラスベガスHDに勤務。(※プロフィールは記事掲載時点の内容です)

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