VIRGIN HARLEY |  USAパーツ事情芦田 剛史のUSAディーラー・トレーニングダイアリー

USAパーツ事情

  • 掲載日/ 2006年11月06日【芦田 剛史のUSAディーラー・トレーニングダイアリー】
  • 執筆/芦田 剛史
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本場ディーラーでハーレーを学ぶ USA Training Diarys 第6回

アメリカから見た
ハーレーのパーツ事情

お久しぶりです、メカニック芦田です。
早くもこのコラムを始めて半年が経とうとしています、私のアメリカ生活も1年を越えて、ちょっと体臭と共にアメリカ知識も増えてきています。さて、今回はアメリカの美味いハンバーガー特集…ではなく、アメリカのH-Dパーツ事情とそれに関連したことについて触れてみたいと思います。

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一口にハーレーのパーツと言っても、星の数ほどありますし、とてつもない数のメーカーが軒を連ねています。日本製、アメリカ製、欧州製、台湾製、韓国製、カナダ製など…枚挙に暇がありません。純正部品以外のパーツメーカーが、これほど力を入れているバイクは他に類を見ないような気がします。需要があるということだと思いますが、数が多いということはそれだけ各社競争も厳しいということです。競争の争点として、製品クオリティや受注対応、在庫数、協力店の確保など、重要なファクターが沢山あります。その中でも力を持っているのは言うまでも無く、分厚い本を出しているメーカー数社でしょう。純正、「V-twin」、「C.C.I」、「Drag specialties」、「Biker’s Choice」、「W&W」、「Paughco」、「Vance&Hines」など。これらの本一冊でバイクが作れてしまうほどのパーツ総数です。これらのパーツメーカー&ディーラーの存在が、H-Dをより一層楽しいホビーに寄与しているのは間違いありません。アメリカでも、アフターパーツは当然ながら人気があります。自分で各種カタログを入手し、自宅から注文して自分で取り付けている方も多くいらっしゃいます。純正アクセサリーカタログはアメリカのディーラーでは無料配布していますので、カタログを家で眺めながらカスタム計画を着々と立てているのかもしれません。ただ、モーター関係の部品ともなると自分でやるには特殊工具も必要になりますし、作業リスクが高すぎるということもあり、直接お店に出向いてパーツ購入と取り付けを同時に注文なされるお客さんも多いですよ。その対応窓口として、以前も少しお話ししましたが、アメリカのディーラーにはパーツ専門の部署があります。その中にはサービス工場に部品を手配する係や、ショールーム内でお客さんに販売する係、アクセサリー購入の専門アドバイザー(日本で言うカスタムクロームコンサルタントでしょうか?)など、他にもいろいろといます。そういった部品専門のプロ達によってパーツ部門が円滑に効率的に運営されているのです。

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日本から見て、アメリカ製のパーツを「日本で買うのと、どう違うの?」、「日本でも手に入るんじゃない?」と思われる方もおられるでしょう。はっきり言うと、手に入るパーツの種類に関しては、一部純正を除けば日本でもアメリカとそれほど大差はありません。最近ではPCの普及により、家に居ながらアメリカでショッピングが出来てしまう時代ですから。ただ、アメリカのカスタムショップのオリジナル製品で、日本には入ってこない物も沢山あります。そんなパーツ中には奇抜なアイデアのモノがあり、個人的に「これは!」というモノも結構見かけます。

例を挙げると、たまたま見かけたこの4連スピーカー付きのフロントフェアリング(Soft Brake社製)!「こんな量産パーツは、日本で見たことないなぁ…」と思いました。最近分かってきたのですが、アメリカ人の中にはサウンドクオリティを気にする方が結構いて、純正のハイグレードサウンドシステムも思いの他売れています、これは驚きでした。パーツに関して、日本とアメリカの間で特に差が凄いのが価格ですね。これには賛否両論ありますが、どうしようもないことかもしれません。輸出入には必ず関税が掛かります。輸入ライセンス費、輸送経費等の経費、その他の経費が価格に上乗せされ、長い時間をかけ海や空を越え日本に入ってきます。それだけに現地で買うパーツは、価格の面で魅力的な訳です。アメリカ観光にいらした時は、彼女(飲み屋のネェチャン?)にブランドバッグを買っている場合じゃありませんよ! まだハーレーパーツが日本で殆ど手に入らなかった時代、単身で渡米し帰国時にリュックにスイングアームを入れ、膝の上にホイールを乗せ、預け切れなかったパーツを日本に持って帰った人もいたそう。それ位、昔は日本ではパーツが充実してなかったので、貴重な物ばかりだったんですね。

Do It Yourself
自分でやってみるということ

次にパーツを手に入れたアメリカ人たちはどうやって取り付けているの? というあたりを、もっと詳しく突いてみたいと思います。

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「D.I.Y」。日本でも市民権を得てきたこの言葉ですが、自分で創造してみよう(Do It Yourself)という言葉通りに、アメリカには「自分のハーレーは自分で管理したい!」という方が多くおられます。ハーレーだけでなく、車のメンテナンスや自宅の改造等など、その精神は生活のあらゆる部分で垣間見えます。日本でも最近定着しつつあるこのスタイルですが、アメリカでは日本以上に自然な考え方です。私がホームステイしていた家のホストファーザーは、ガレージで車のヘッドをオーバーホールしていました。愚問ですけれど、私が「なぜ、カーショップに出さないの?」と聞いたら「だって楽しいだろ? 安くつくし時間を楽しめるんだ。お前なら分かるだろ?」と言われました。彼はメカニックではありません。でも、マニュアルを見ながら、嬉しそうにいじっている姿は私よりメカニックっぽかったかも? 自分で自分のバイクを維持するという行為にはたくさんの意味があります。単純に趣味として時間を楽しむこともありますが、自分がいったいどういう構造物に乗っているのか、知識がより深まります。分らないことがあると調べようとする行為が生まれ、さらに経験は深まります。これはバイクに限らず何でも当てはまることで、決して悪いことではないと思うのです。ただ、自分の能力範囲を完全に越えたことにデタラメな作業をしてしまうと、かえって危険な状況を生みかねないので「どこまでやるのか」は気を付けましょう。

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アメリカでの「D.I.Y」人気の立役者として、巨大パーツマーケットの他にも巨大ホームセンターの存在があります。ホームセンター好きが一度行くと、たまらない物が揃っていますよ。日本でもデートはホームセンターによく行っていたマニアな私ですが(笑)、アメリカのホームセンターの巨大さと品揃えには驚愕しました。デカイなんてモノではありません。「手に入らない物はありません!」と言わんばかりの品揃えが「D.I.Y」を支え続けているんですね。店内に並ぶスゴイ商品を挙げてみると(アメリカでは普通です)、車で牽引するトレーラーなどもホームセンターで購入できます。日本以上に引越しの盛んなアメリカでは(ある種の習慣のようなものです)、トラックの荷台に乗り切らない荷物を運ぶことがしょっちゅうあります。バイクやボートなど、遊ぶことが大好きなアメリカ人は遊び道具の量も半端ではないので、日本では一般的でないトレーラーなどがホームセンターで手に入るのです。

また、工具の品揃えも日本にある工具屋さん顔負けの豊富さです。工具コーナーでは当たり前に板金工具セットが置いています。これらの「D.I.Y」精神はホームセンターに留まらず、スーパーマーケットでエンジンオイルはおろか、添加剤まで買えることからもわかるでしょう。レジで並んでいると、お婆ちゃんがガソリン添加剤をカートに入れているのを見た時は思わず笑ってしまいました(笑)。私がアメリカに来たばかりの頃、銀行の駐車場で車のボンネットを、板金ハンマーでガンガン叩いていた人を見ましたが「とにかくやってみるだけやってみよう!」というこの姿勢が「広大な荒野に幾つもの街を造ってきたアメリカなんだなぁ」と感じます。普段の仕事でも、それを感じます。私の勤めるディーラーには、ボルトが折れ残った状態の部品がよく入院してきます。きっと自分でやろうとして無理をしてしまったのでしょう。他にはホイールごとタイヤを外して持ってきてタイヤ交換してくれ、というお客様もいます。こういったお客様をサポートしてあげられるのもメカニックの喜びですね。

代々受け継がれてきた旧車
だからこそ大事にするんです

同じハーレーに乗っているのに、日本人とアメリカ人でなぜこうまで違うのでしょうか。そのヒントになるような体験談をご紹介しましょう。新しい年式のモデルに乗っておられる方には関係の無い話ですが、ハーレーの大きな魅力の1つとして、旧型モデルのパーツが今でも手に入りやすいという点があります。通常のバイクメーカーは、車両生産が終了した時点からある程度年数が経つと、パーツの生産もストップします。メーカーとしてはいつまでも旧型にこだわらずに新型に乗り換えてもらいたいという願いがあるのでしょう。また、需要の少ない部品の生産ラインを継続するより、需要のある部品の生産ラインに切り替えたい。そんな事情もあるのだと思います。

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ところがです! ハーレーの場合は違うんですね、あるんですね! 10年、20年は当たり前、30年前の部品がメーカーにストックとして存在しています。現在も継続して生産しているのか、それとも以前から大量にストックしていた物の残りなのかは分かりませんが、他のバイクメーカーでは考えられない話です。これは決して当たり前と思ってはいけない事実です。感謝モノです。純正パーツの話だけではなく、アフターパーツでの旧車パーツの供給も驚異的で、何処が壊れても消耗しても全然不安ではありません。日本車で20年以上前のバイクともなると、新品のパーツを手に入れることは至難の業で(無いに等しい?)、ほとんどが同車種からのパーツ取りということになります。こんな親身な(?)メーカーの存在があってこそ、時代に流されることなく、旧車をいつまでも楽しめることができるのです。私の働いているディーラーにも旧車のショベルエンジンのハーレーに乗っているメカニックが3人います。エボリューションも1人。私のアメリカでの愛馬もショベルです。

ここで面白い話があります。彼らは新しい年式のハーレーも同時に所有していることが多く、その理由を「このバイク? じいいさんの代から使っているんだ。」とか「ああコイツ? これは親父と一緒に組み上げたんだ」と誇らしげに語ってくれます。う~ん、かなり羨ましいですね。日本ではなかなか一般的ではない話です。やはり歴史的に見てもハーレーの本場だけあって、昔からハーレーがいかに馴染みの深いバイクであったかを思い知らされる出来事でした。先祖代々(大げさですね・笑)売られずに大切にされてきた、家族のような存在にまで成り上がったハーレー。現代ではそれは旧車と呼ばれますが、彼らにとってはあくまで1台の大切なハーレー、ただそれだけの話なのです。つまり、彼らにとってそれが最新モデルだとしても扱いは同じで、大切さに変わりは無いようです。今のハーレーが将来に渡って引き継がれ、元気に走っている姿が見られればいいですね。

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使用環境の問題から、普段街を走っているときに見かけるのは、機能的に安定しているツインカムがほとんどです。しかし、それなりにショベルやエボリューションも見かけます。 流石にパンやナックルを買い物や足代わりに使っている人はかなり少ないですけれど、日本では大人気の旧車のハーレーはアメリカでも人気があります。旧車に乗っている方は、メカに全くの素人であることは少なく、それなりの知識と経験を持っており、メンテナンスもほとんど自分でこなしているようです。工具屋さんの数は日本の比ではないので、手に入らない工具は少なく、プロ顔負けの設備と技術を持って自宅ガレージで全てのメンテナンスしている方も多くいます。そういう方は自宅で友達のバイクを直したりしてアルバイトしているようですね。そういう環境があるので、ディーラーに旧車と呼べるハーレーが修理に入ることはあまりありません。ただ、専門というわけではありませんが、確実に旧車に対応できるメカニックが各ディーラーに1人はいるようですね。

今回はハーレーユーザーを支えるパーツとメンテナンスに関して書きましたが、本当にここまで多方面でユーザーを楽しませてくれるバイクに出会えて「幸せだなぁ」と感じる私です。また、それに直接携わって、こうやって生活させてもらっているわけですから、本当に夢のあるバイクです。しかし、私の立場はメカニックです。ハーレーから夢を与えて貰うからには、それに対して魂を削るかのように真剣に作業をしなければなりません。日々真剣勝負です。皆さんも素敵なハーレーパーツ購入を夢見て、明日からも真剣にがんばりましょう!

プロフィール
芦田 剛史

26歳。幼少からバイクと車に興味を持ち、メカニックになることを誓う。高校中退後、四輪メカニックとして4年の経験を積み、ハーレー界に飛び込む。「HD姫路」に6年間勤務、経験と技術を積み重ねたのち「思うところがあり」渡米を決意。現在はラスベガスHDに勤務。(※プロフィールは記事掲載時点の内容です)

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