VIRGIN HARLEY |  アメリカ工具事情芦田 剛史のUSAディーラー・トレーニングダイアリー

アメリカ工具事情

  • 掲載日/ 2007年08月08日【芦田 剛史のUSAディーラー・トレーニングダイアリー】
  • 執筆/芦田 剛史
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本場ディーラーでハーレーを学ぶ USA Training Diarys 第16回

必要なモノは自腹で
プロの工具を紹介します

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こんにちは、メカニック芦田です。
私事ですが、ついに念願のシンプソンのヘルメットを手に入れました。こちらで売られているシンプソンヘルメットは日本仕様と若干デザインが違い、結構な種類が販売されています。日本に居た頃はフルフェイスヘルメットには興味が無かったのですが、こちらで多数のバイク事故を目の当たりにし、より一層安全性を考え始めたことや、こちらのメカニック達が仕事用にフルフェイスを使っていることに影響されての購入です。しかし、黒色を注文したのですが、なんと! シルバーが届きました…久しぶりにアメリカを感じましたね(笑)。でも、シルバーで良かったかもと苦笑いの芦田です。さて、ヘルメットも然り、プロが実際に毎日愛用する“道具”という物にはさまざまなこだわりや、工夫、選択があります。職人が稼いだお金で、自分自身に設備投資する、これが職人界の通例です。特にメカニックという職業はその代表的なものの一つであり、場合によっては、自前の道具を揃えるだけでも数百万円という投資をしなければならないこともあります。ちなみに私の場合、恐らく概算で300万円くらいは工具に使っていると思います。ハーレー購入も仕事を兼ねて行ったと考えれば…う~ん恐ろしく金の掛かる仕事です。それでも突き詰めていけば、工具はまだまだ足りないくらいでして…。投資額は仕事のレベルが上がれば上がるほど、広がれば広がるほど必要になってくるのです。何故、年頃の男が(もう過ぎた?)遊ぶ金を惜しんでまで道具に拘るのか? 今回は、そんな一度ハマったら抜けられない工具の魅力、またメカニック達にとって自分の指に等しい“工具事情”についてご紹介してみたいと思います。

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ハーレーのメカニックは扱う車両の原産地の関係からか、アメリカ製の工具を使用することが業界では一般的です。日本に進出している有名どころでは「Snap-on」、「Mac tools」などが有名だと思います。本国でも、こちらの2つは当然一般的ですが、その他にもさまざまな工具メーカーが凌ぎを削っています。例えば「Cornwell」や「MATCO」などが有名ですね。それ以外だと、少し値段が安くなってクオリティは下がるかもしれませんが「Craftsman」というメーカもあります。これはアメリカ中にある『SEARS』と呼ばれるお店に置かれていて、手に入れやすい工具です。プロではなく、ホビーで工具を必要とする方にはCraftsmanなどのような店頭販売のモノが人気のようですし、HarbarFlight Tool(大型の工具量販店)などの工具専門店も数多く存在します。逆にSnap-onなどの比較的高級な工具は、基本的には店頭販売はしていません。車で各ショップを回りながら販売する形式のバンセリングとなっているんですね。この方式はアメリカから持ち込まれたものであり、日本でもお馴染みかと思います。電話さえすれば、一般家庭にもバンは訪問してくれるようなので、興味があればご利用されては如何でしょうか。このように、アメリカの工具には日本よりも幅広い選択肢があり、以前お話したD.I.Yのスタイルも合間って、アメリカの工具業界は盛んなマーケットであります。プロとホビーでは工具購入の事情は違ってくると思いますが、基本的な考え方は「安くて丈夫で使いやすい」が至上の理念であることは同じでしょう。何が違うかというと、プロの場合、例えどんなに高くとも、自分のため、店のために必須なのであれば出資は惜しまないという点でしょうか? 例え1つが何万円もしようと、自分のスキルを活かすと見通しが立てば私は一瞬も迷わず買います(自分で作れる場合はできるだけ作りますが)。プロが皆そうだとは言い切れませんが、そうあるべきと考える私は極端かもしれません。

これは日本の方にはちょっと残念かもしれませんが、スナップオンやマックツールは現地で買う方が、日本で買うよりかなり安くなっています。私が日本に居た当時、工具に200万円つぎ込んでも、大した装備が揃いませんでした。こちらで200万円分の工具を買えば、下手すれば倍の設備が手に入っていたかもしれませんね。まあそれは結果論ですし、日本に住んで居たのですから仕方ないですね! 値段的な指針としてはSnap-onが日本の「KTC」などと同じ価格で手に入ると考えていただければ近いでしょう。

私が感じるアメリカ製の工具の長所の一つとして、“堅牢である”という点でしょうか。私が使っていたSnap-onシールド式ラチェットは6年間毎日使ったにもかかわらず、一度も壊れませんでした。未熟だった頃の私が使っていましたし(工具の破損頻度はメカのスキルに反比例すると考えています)、恐らく半端ではないハードな使い方をしてきたと思いますが、大した物です。現在は、腱鞘炎を患っていることもあり、ラバーコートされた柄の長いBeta製(イタリア製工具)のラチェットを使用していますが…。

世界各国にある工具メーカー
その一部をご紹介します

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次に、「アメリカ製の工具以外には一体どんな物があるのか?」というところをメカニック観点から見てみましょう。日本の有名どころでは「KTC」、「Ko-ken」、「SEK」が有名でしょうか。他にも沢山ありますが、ページの都合上すべてを紹介しきれないのが残念。これらのメーカーは私が四輪メカニック時代に大変お世話になった工具たちでして、プロが使う分にも、特に拘りが無ければ申し分ないクオリティです。特にKTCのラチェットスピンナーは絶品。現在もBeta製ラチェットと組み合わせて使っていますが、長さ、タッチ共に文句のつけようがありません。Ko-kenのボックスソケットに関しては世界中に愛用者が居るようで、その信頼性は十分にグローバルスタンダードと言える物になってきているのではと思います。ちなみに日本の工具は、外観にクロームメッキを使用していない物が多くあります。私は特にメッキを施されていない物を選んで買いますが、これは作業では手にオイルが付着するので、メッキされていると滑ってしまうからです(小さな工具は特に!)。そういった意味では、この日本製の梨地のザラザラした工具は魅力です。

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ドイツ製の工具の有名どころとしは、「スタビレー」と「ハゼット」があります。工具好きな方なら、一度はその名を聞いたことがあるのでは? 残念ながらハゼットに関して、私はあまり知識はありませんし使ったこともありません。スタビレーのコンビレンチは以前一度試したことがありまして、コンビの柄の部分の中央がえぐられており、親指がしっかりフィットしてかなり使いやすいと感じたことがありました。ドイツといえば「BMW」、「ベンツ」などの自動車技術の最先端を行くメーカーのある技術大国。そんな車を整備するメカニック達の中で培われてきた性能であれば、クオリティは十分期待できる物でしょう。個人的には、次に何か買う機会があれば(一般工具は殆ど揃ってしまいましたが…)、スタビレーに興味津々ですね。

イタリア製ツールでは「Beta」が有名です。私自身ラチェットレンチでこれを使用してますが、なかなかの物です。コマの送りが細かく、ラチェットのストロークが得られない狭い場所でもコマを送ることができますので重宝しています。柄の長さと、ソフトなラバーハンドルが非常にフィットして使いやすいです。弱点としては、コマの送りが少ないということはコマのギアが小さいということですので、耐久性面で不利ではないかという不安が残ります。後は回転方向の切り替えに誤作動が多いという点でしょうか。最後はフランス製。有名どころでは「FACOM」でしょうか。これも残念ながら使用したことがないので、レポートできませんが…悪い話は聞きませんね。単なる憶測ですが、恐らく日本のKTCなどと同様に、それなりのクオリティを持っている工具だと思われます。他にもドライバーで有名な「PB Baumann(スイス製)」など…、とてもご紹介しきれないメーカーが世界にはあります。

ここでご紹介した工具メーカーに関しては、プロでもホビーでも何ら問題なく使用できる工具であると私は思います。 これらの工具メーカーはいずれも各国で何十年と続く老舗であり、確実にそれぞれの土地のバイクや車、メカニックと共に進化してきた物であり、いずれも原産国を自国に拘っています(安物を含め、有名ブランド内でも若干違う物があります、Blue Pointなど)。正規のKTCにはJAPAN、スナップオンにはU.S.A、BetaにもITALYとしっかりと刻まれています。もし予算に余裕があるのならば、プロもアマも関係なく、これらの工具を購入し長く使用されることをメカニックの立場からお勧めします。

市販工具だけでは足りない
自作のオリジナルツールも必要です

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これまでは一般的な工具についてご紹介してきましたが、次はちょっと変わった工具達(無論プロには普通です)をご紹介していきたいと思います。メカニックが日々の作業を進める中で、メカニックのスキルアップと共に使う工具の進化も当然求められてきます。バイク自体が進化していく中で、そのモデルのためだけに使用する特殊工具(SST)などもあったり、毎年その種類や役目は多岐に渡ってきています。ここまででも十分マニアックですが、ここではもうちょっとマニアック、その中でも比較的分かりやすい物をご紹介したいと思います。まずはエアツールという物をご紹介します。エアツールとは読んで字の如く、空気圧を利用して駆動し、人力ではない半自動のツールを指します。

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私が所持しているエアツールはエアラチェット2機(普通のラチェットを半自動にした物)、インパクトレンチ(強力な衝撃荷重でボルトナットを緩める工具)2機、エアーカッティングツール、エアーリューターになります。随分ややこしい物を一杯持ってるなと思われるかもしれませんが、全然足りないのが現状です。他に必須工具として、ベルトサンダー、エアーソーなどの購入も必須になっています。この二つをまともなメーカーで買うとまた数万円が飛んでしまいます…。続いて、私に一番お気に入りがエレクトリカルテスターです。これは電気の故障診断時には必需品で、これは簡易用と、メイン診断で使う2機を持っています。メインで使う物は結構な値段でして、サイズも大きく点検などでバッテリーの電圧を点検する時には不向きであるため、本格的な電気診断時にしか使いません(簡易テスターはテストレンジが少ない為診断には不向き)。

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他には自作の工具なども必要不可欠になってきたりします。 しかし、私は非常に想像力に欠けている物まねメカニックですので、そのアイデアの殆どが他のメカニックの方々のコピーです(笑)。コピーすることを、昔は恥ずかしいと思っていましたが、最近では図々しくコピーしています。これは自分の成長のためには絶対に必要なことだと思えるようになったからかもしれません。30歳が近づいてきて少し頭が柔らかくなってきたのでしょうか(笑)。プライヤー系統の工具だけでも20本ほどありますし、ハンマー3本、トルクレンチ3本、メジャリング類、プーラー類、特殊ゲージ類などなど・・・、全部紹介したいのですがキリが無いのでこの辺で…。このように、メカニックという職業は正に道具との二人三脚の仕事だという事が分かっていただけたかと思います。ここでご紹介した工具は実際に使う工具の、ほんの1%程度に過ぎないでしょう。その数や用途は一般的な技術職を遥かに凌ぐと思います。特にアメリカH-Dでは給与体制の関係上、仕事の効率が極端に求められる事情から、より合理的な工具の選択と所有を必要とするのです。しかし工具さえあれば、プロ同様に作業が出来るか?といえばそうでもなく、両手と頭脳と五感を鍛え上げなければいけないと思います。

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今回は恐ろしくマニアックな話になってしまいました、私としては正直な所、最初と最後だけ読んで頂ければ、それだけで満足な位です。全て読んでいただいた方は…奇特な方です(笑)。私は時々「何故こんなにお金のかかる仕事を選んだのだろう?」と考えてしまいます。必死で働いて、そのお金でまた仕事の道具を買ってまた仕事をする。お金の掛からない仕事ならば他にいくらでもあるのです。けれど、私はずっとこの場所に拘ってしまいます(拘るというよりもこれしか能が無いので)。純粋に何かを追い求めること、自分を高めようとすること、そんな気持ちが経済的な事情など吹き飛ばしてしまっているような気がします。どんな仕事でもいいんです、お金が掛からないのならそれに越したことはありません、もっと言えば仕事だけではなく、家族でも恋愛でもそうです。一心不乱に何か一つでいい、たった一つの物事を一生かけて完成させてみることが人生の大切なイベントではないかと私は思います。どんなに好きなことでも何かを突き詰めていく内に、お金に困ったり、人間関係に困ったり、冷めてしまったりした時、その時こそ、その人が本当に試されている瞬間だと思います。もしそんな時が皆さんに訪れたなら、簡単には諦めないで欲しいと思います。たった一つでもいいので輝ける物を大切にできたらいいですね。それでは次回をお楽しみに。

プロフィール
芦田 剛史

26歳。幼少からバイクと車に興味を持ち、メカニックになることを誓う。高校中退後、四輪メカニックとして4年の経験を積み、ハーレー界に飛び込む。「HD姫路」に6年間勤務、経験と技術を積み重ねたのち「思うところがあり」渡米を決意。現在はラスベガスHDに勤務。(※プロフィールは記事掲載時点の内容です)

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