VIRGIN HARLEY | 第2回 夢の途上 官能エンジンU-TWIN開発秘話

第2回 夢の途上

  • 掲載日/2005年04月25日【官能エンジンU-TWIN開発秘話】
  • 執筆/近藤 弘光
官能エンジンU-TWIN開発秘話の画像

フィーリングを追求したエンジン
その実現は奇跡といえるほど難しい

いよいよ開発に取り掛かったのですが「夢の実現」には膨大な費用だけでなく、当然困難な作業も待っていました。ほとんどの場合には計画を立てるより、その実行のほうがはるかに難しいものです。このコラムを書かせていただくにあたって記憶を辿っていくと、さまざまな思いが蘇り、感慨深く、またエンジンに火が入る事を想像するとワクワクしてしまいます。去年のクールブレーカーに出展して多数の人々からくい入るように見ていただいたことも思い起こされます。

U-TWINの開発に当たっては、試作エンジンを何台も作る訳にはいかず、詳細なスペックを決めてから開発にかからなければいけませんでした。しかし現実には詳細スペックはなかなか決まらず…月日だけが過ぎてしまい、モチベーションが低下した時期もありましたよ。しかし『最後のチャンス』を合言葉になんとか乗り越えたのです。狭い日本と言われますが埼玉(モトスポーツ)・静岡(白鷲氏)・三重(オーバーレーシング)と離れているので、貧乏暇なしの忙しい身にはなかなか顔を合わせる時間も持てません。そんな時は「人生の最後のチャンス」を合言葉に気持ちを奮い起こし、皆で集まりました。

詳細なスペックを決めるに当たっては、「とにかく回るエンジンを作ろう」とテーマを掲げて議論しました。「高回転まで回るエンジン」ということではなく、2軸クランクエンジンの振動特性を「実際に回るエンジン」を作って実験するということですよ。塾のメンバーが「自身の為に」乗って楽しめるバイクを作るのが目標でしたが、皆、気持ちは若くてももう体力が余っていないのでオーバーウェイト、オーバーパワーのバイクは求めていませんでした。話し合った結果「車両重量は250kg以内に、エンジン重量は80kgに」、「低速トルクが充分で車重が250kgならハイパワーなんて必要はない、1000ccで充分」というコンセプトで製作することにやっと決まりました。

21世紀では最初で最後
手書きのエンジン設計図面

コンセプトが決まり、ついにエンジンの設計が始まりました。現在の車両の設計は、ほぼすべてコンピューターで設計図面を起こすのが普通なんですが、エンジンの設計図面を作るのに外注すると最低でも数百万円はかかるんですね。手弁当で集まったメンバーですから、そこまでの予算があるはずもなく、どうしようかと途方にくれたことがありましたよ。でも、そのときに白鷲氏の「凄さ」を改めて実感する事件がありました。彼が自ら「手書きで設計図面を起こす」と言ってくださったんです。

おそらく21世紀では最初で最後の手書き設計図面ではないでしょうか。ぜひ機会があれば設計図面を一度みていただきたいくらい、細かなところまで丁寧に書かれた図面で、心底驚きましたね。一部でハーレーのエンジン部品を流用しているため、当然設計はインチサイズを基準にする必要があったので、その苦労は並大抵のものではなかったでしょう。私も老眼になってはじめてわかりましたが、インチサイズで実寸を測定し図面に当て嵌めていくのはかなり大変な作業なんです。それを自らやってくださった白鷺塾長には感謝の念に耐えません。

設計が終わるとU-TWINの詳細な部品やエンジンの構成に取り掛かりました。シリンダー、ヘッド、ピストンはハーレーのものを流用しました。行程排気量の違いによる圧縮比の調整が必要になりましたが、これは私が、燃焼室を溶接で盛り容積をビューレットで測りながら形を整え、圧縮比は高めの9.5に設定しています。その他の部品はほとんどオリジナルで設計し、製作しています。鋳物部品でクランクケースやカバーを、切削加工部品でフライホイール、ギアを。コンロッドは特注での製作です。

ボアストロークはスクエアに近いものとしました。今後ハーレーのフレームに載る可能性も考えて、エンジン全長を押さえる必要があったことと、位相角を360°にした場合ストロークが長いと振動が激しすぎる可能性を考えた結果です。燃焼室形状はコンパクトなバスタブ型を採用しています。クラシカルなヘミ(半球)型ヘッドは燃焼時間が長く、味わい深いフィーリングは得られるのですが、燃焼室面積が大きく、熱損失が多いため、排ガス規制対策を考えると採用できないんです。他にも燃焼時間とフライホイールマスの関係には苦労しましたね。パフォーマンスよりフィーリングを追求したときには、無数の実験と奇跡をあてにしなくては実現できないのではないか、と今もそう考えてしまいます。フィーリングを重視したエンジン開発とはいかに困難を極めるのか、U-TWIN開発に携わり改めて実感しました。

シリンダーヘッドはとりあえずエボリューションのヘッドを流用しました。行程排気量の違いによる圧縮比の調整が必要になりましたが、これは私が、燃焼室を溶接で盛り容積をビューレットで測りながら形を整え、圧縮比は高めの9.5に設定。バルブトレインもハーレーのものを流用しましたが、候補にはスポーツスターとビッグツインの両方を検討していました。双方一長一短があり、結局ビッグツインのものを採用したのですが、カムカバーの部分が大きくなってしまい立体感はあるのですが、私がもっとも望んでいた「まゆ型クランクケース」が実現できませんでした。ここは絶対譲れない部分なので、いつか必ず実現したいと思っています。私は外観で中身が想像できるエンジンをつくりたいんです。どこかのメーカーのバイクのようにプラスチックの飾りがついていたり、水冷エンジンにネジでフィンがついているような、そんなエンジンなど言語道断です。

「U-TWIN」の完成時には
どれほどの感動を味わえるのか

いろいろな苦労はありましたが、なんとかエンジンの部品が揃ったのは2004年の秋でした。浜松の白鷺邸に塾のメンバー有志が集まり、出来上がった部品を積み上げて鑑賞会を開きましたよ。一般的なエンジンの形とかけ離れたその姿を、初めて目にするメンバーもいましたし、モックアップを見ていた私も暫く声がでませんでしたね。白鷺塾メンバーの元2輪雑誌編集長Y氏がデザインしたUツインのマークも絶妙にマッチしていましたし、クランクケースの出来上がりも最高でとても砂型とは思えませんでした。やはり日本の技術は素晴らしい、そう思いましたね。私は今でもオーバーホールしたエンジンを初めて掛けるときには感慨深く、襟を正して火を入れてしまいます。これだけの試行錯誤を経て、組みあがろうとしているU-TWINに火が入るときにはいったいどれほどの感動を味わえるのでしょう。想像もできませんが、その日が待ち遠しくて仕方がありません。

年齢を重ねてくると、なかなか感動できることは少なくなってきます。しかし私は53歳にもなって、これほど情熱を注ぎ、感動を味わえるモノに出会えました。そんな感動を共有できるのも、同じ志をもった人たち、すなわち「同志」の存在があるおかげです。そんな同志に出会えたことを感謝したい、白鷺邸で組みあがった部品を目にしたときは心の底からそう感じました。

U-TWINに火が灯る瞬間はもうそこまで近づいてきています。次回で最後となってしまいますが火がともったその瞬間を、跨って走らせたその実感をお伝えしたいと思います。

プロフィール
近藤 弘光

52歳。1979年「モトスポーツ」を創業。ショベルヘッドからツインカムまで確かな技術力には定評がある。二輪という乗り物を愛するが故に規制に対応するマフラー「ECCTOS」やオリジナルエンジン「U-TWIN」の開発に携わる情熱家。

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