VIRGIN HARLEY |  第24回 エアサスをなめんなよ!ツーリング・ゼミナール 青木 タカオ

第24回 エアサスをなめんなよ!

  • 掲載日/ 2012年08月30日【ツーリング・ゼミナール 青木 タカオ】
  • 執筆/フリーライター 青木 タカオ

エアサスこそ、偉大なのだ!!

長い距離を快適に走るための装備を全身に持つツーリングファミリーは、乗り心地の良さを求めたエアサスペンションをリアショックに採用している。ストロークすることでエアが圧縮され、反力が増す構造になっているエアサスは、長期間の使用でもヘタりが出づらく、エアの調整で硬さの調整も可能。オートバイでは珍しいがタンデムや荷物満載時もしっかりと踏ん張るツアラーには理想的なサスペンションで、FLH シリーズの大きな特徴にもなっている。

青木タカオさんの写真

乗り心地の良さを求め、ツーリングファミリーに採用されるエアサスペンション。耐久性があり、高い負荷がかかっても音を上げない頼もしいショックユニットは、ツーリングモデルならではの専用装備だ。

そんなエアサスペンションが最先端を行く戦うマシンにも使われ出したから秘かに驚いている。この夏に発表された 2013年式モトクロス競技専用車両 (公道走行不可) ホンダ CRF450R とカワサキ KX450F は、KYB 製のエアサスペンションをなんとフロントの倒立フォークに採用。市販モトクロッサーのフロントフォークにエアサスが導入されるのはこれが初めてで、注目すべきニューテクノロジーである。

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ホンダが発表した 2013年式 CRF450R の KYB 製 PSF (ニューマチック・スプリング・フォーク) は、従来のフロントフォークにあったコイルスプリングを取り除き、その役割を圧縮空気へと変更。

従来のフロントフォークにあるはずのコイルスプリングを圧縮空気に置き換えることで、フリクションを無くし作動性を向上するだけでなく、フロントフォーク全体で 800グラムもの軽量化を実現。セッティングにいたっては封入空気圧の調整だけでコースや路面状況に素早く対応でき、フォーク内にスペース的なゆとりが生まれたことから、ダンパーサイズも φ24mm から φ32mm に大幅な大径化。良いこと尽くめの最新式倒立フロントフォークなのだ!

じつはボク、モトクロスが 10代の頃から好きで、MFJの地方選手権にもあくせくと参戦していたことがあり、もっとも夢中になっていた頃はホンダの同年式同機種のモトクロッサーを2台揃えてレースに挑んでいたほどの熱の入れよう。いまでも休日に仲間とファンライドしたり、ときにはサンデーレースに出場し、モトクロスとは根強く付き合っている。

モトクロスの立体的な動きは、ふだん道路の上で乗るオートバイとはまるで違う感覚で、ボク自身は野球やサッカーといったスポーツを楽しむ感じ。

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フォーク内部のフリクションが発生しないことで作動性がより向上し、高い旋回性を実現。ダンパーサイズは φ24mm から φ32mm に大径化し、乗り心地の向上にも寄与している。

「重厚なハーレーに乗って、モトクロスも好きってどういうこと?」って人には言われるが、ハーレーとモトクロスはどちらもオートバイであることは違いないが、まったく別のジャンル。モトクロスで使うバイクにはハーレーに対するような愛情みたいなものはなく、どちらかといえばグローブやバット、あるいはゴルフやスキーの道具。常に新しくて性能の良いモノが欲しいから、ホンダに乗る時期があればヤマハを選ぶときも。カワサキだってスズキだって、別にこだわらない。乗り手も身体能力がとても大事で、なまりきった現在の身体だと、まるでダメ。速く走るには強いフィジカルが求められる。

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サスペンションの反力調整が封入エア圧の調整のみと容易なため、コースや路面状況の変化に応じた素早い対応が可能。エア圧を落とすことで、空気バネの硬さをソフトにもハードにも自由自在に調整できる。

話がそれたが、そんなエアサスをフロントフォークに採用した最新式のモトクロッサーたちに仕事で乗る機会を得た。『PSF』 (ニューマチック・スプリング・フォーク) と呼ばれる KYB 製のエアサスは、速度の上がらないうち (負荷が大きくかからない範囲) だと、若干フワっとした動きを感じるが、少しペースを上げると減衰がしっかり効き、作動性に違和感はまったくない。言われてみなければ、エアサスであることは気がつかないというものだった。

ヘッドライトもなければ高速道路を巡航する直進安定性も必要ないモトクロッサーのハンドリングは、ただでさえヒラヒラと軽快そのものであるが、スプリングを取り去ったフロントフォークのおかげでハンドリングはますます軽い。450cc のモトクロッサーといえば、欧米人の体格やアップ&ダウンのある広大なコースに合わせてつくられており、日本人が日本の狭いコースで乗ると、大きくて扱いきれないという印象を真っ先に感じる乗り物だが、エアサスに換装したニューモトクロッサーたちは、そんな“手に負えない”イメージが、一瞬のうちに消え去るものであったから驚き。

エア圧は自転車競技などに使う精度の高いショック用ポンプを使って簡単に調整でき、通常のスプリングサスとして考えるならフォークを分解してスプリングをソフトやハードに交換する作業が瞬時に行えるから、まさに革命的! スプリングを交換しようと、あくせく分解していた頃を振りかえると、なんと衝撃的な先進技術であろうか!!

と、熱くなってみたが、一部モトクロッサーの新技術とあって話題がやっぱりマイナー……。ツーリングや通勤などでバイクに好んで乗っている人に話しても、なかなかピンとこないようで「ねっ、スゴイでしょ? スゴイよね!?」を繰り返すのは自分ばかり。そのフラストレーションがたまったので、担当編集者に怒られるのは承知の上、ハーレーユーザーに向けココで思いきって書いてみた。今度の休日は、自分のエレクトラグライドのエアサスをピカピカに磨いてやろうと思う。

プロフィール
フリーライター
青木 タカオ

バイク雑誌各誌で執筆活動を続けるフリーランス。車両インプレッションはもちろん、社会ネタ、ユーザー取材、旅モノ、用品……と、幅広いジャンルの記事を手がける。モトクロスレースに現役で参戦し続けるハードな一面を持ちつつも、40年前のOHV ツインや超ド級ビッグクルーザー、さらにはイタリアンスクーターも所有する。

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