VIRGIN HARLEY | 第33回 バイクで行くSL列車の旅(中編) ツーリング・ゼミナール 青木 タカオ

第33回 バイクで行くSL列車の旅(中編)

  • 掲載日/2013年01月16日【ツーリング・ゼミナール 青木 タカオ】
  • 執筆/フリーライター 青木 タカオ

蒸気と煙を上げ、汽笛を鳴らし駆動する往復運動は迫力満点。颯爽と走る蒸気機関車の姿は、いまも多くのファンを惹きつけているが、大井川鐵道 (静岡県) では SL 列車を復活運転させている。

ボクを乗せた列車は新金谷駅を出発すると、間もなく大井川に沿って走り、車窓からは美しい川の蛇行を眺める。大井川といえば江戸時代には家康の隠居城であった駿府城の外堀の役目を果たすため、架橋はおろか渡し舟も厳禁。大名・庶民を問わず、川を渡るには馬や人足による輿 (こし) や肩車で川越 (かわごし) するしか手段がなかった。

青木タカオさんの写真

千頭駅に到着した C11 形 190。1974 年に熊本で廃車となり、2001 年6月大井川鐵道に入線。大規模改修を経て、2003 年7月に営業運転を開始した。SL列車の旅は片道1時間10 分強。

もともと水量の豊富な河川であるが、雨が続けばたちまち洪水に。川留めも頻繁にあったため「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」と詠われるほど、東海道屈指の難所として知られていた。

そんな大河も列車に揺られていくうちに次第に細くなり、見える景色が山深くなると終点の千頭駅となる。所要時間は1時間あまり、鉄道ファンとしてはもう少し乗っていたくなるが、まだまだ帰路も鉄道の旅が楽しめるし、その先に伸びる井川線にチャレンジするのもいい。

青木タカオさんの写真

井川線 (南アルプスあぷとライン) は、大井川の上流部奥大井の渓谷をゆっくりと走る鉄道で、水力発電所建設の資材運搬用トロッコとして建設されたのが、その始まり。

バイクツーリングなら千頭駅で引き返すのが定番だが、ボクは何度も南アルプスの麓に分け入る井川線に乗っている。これがまた“鉄”にはたまらないのだ。

千頭から先、井川まで続くこの路線は、かつては資材運搬用の専用鉄道で、軌間こそ 1067ミリ (日本では一般的に用いられている線路幅) だが、トンネルの建設費を押さえるために車両を軽便鉄道なみの規格で建設。車両はすべて、遊園地のトロッコ列車みたいに小さいのだ。

平均時速は 15km/h 程度と低く、自転車なみの速度で走るから、列車に揺られれば、のどかでやさしい気分になれる。

鉄道日本一の急勾配区間 90 / 1000 を上り下りするために、日本で唯一となる「アプト式」区間があることでも有名。その区間でのみ列車の最後尾に連結されるアプト式機関車には「ラックホイールピニオン」という坂道専用の歯車が付いていて、線路の真ん中に敷設された「ラックレール」という歯形レールを噛み合わせて急坂を上り下りする。

つまり鉄の車輪と鉄のレールの組み合わせでは急勾配でスリップしやすく、これを克服するため2本のレールの中央に歯型のラックレールを敷き、そこに車両側の歯車を噛み合わせながら進むという仕組みで、90 パーミルの急勾配も駈け上る山岳列車ならではの機構は、乗り物好きなら必見といえる。かつては国鉄信越本線横川駅~軽井沢駅間 (1893年~1963年) にもあったそうだ。

ちなみに「アプト」とネーミングの由来は、カール・ロマン・アプトさんが発明したからで、1869 年頃からスイスやアメリカで実用されはじめ、世界に広まったという。

青木タカオさんの写真

アプト区間では、専用の機関車に設置された歯車 (ピニオン) と噛み合うためのラックレールが2本の線路の間に敷かれる。鉄道日本一の急勾配を登り降りするための機構で、日本では唯一。

アプト区間は千頭駅を出発し 40 分ほどのアプトいちしろ駅から長島ダム駅のわずか1駅分の区間だけであるが、井川線の列車は両駅で機関車を連結するためにしばらく停車。乗客は降りて、その連結の様子を間近に見ることができ、もちろんボクもその一部始終を見守り、ラックレールをまじまじと眺める。

青木タカオさんの写真

長島ダムの建設にともない新しく誕生した奥大井レインボーブリッジを渡る区間では、絶景の車窓が楽しめる。湖に突き出た半島には奥大井湖上駅がある。

ハーレーのウェブサイト上で、いったい何を延々と書いているのだとお叱りを受けそうだが、井川線のハイライトはまだまだこれから。接岨 (せっそ) 湖の上を走る区間はまさに絶景で、その名のとおり湖上にある奥大井湖上駅は、結婚式を挙げたカップルがいるほどの人気スポット。大井レインボーブリッジと名付けられた2つの鉄橋に挟まれた半島に位置し、さながら陸の孤島の様相。おとぎ話にでも出てきそうな、とても可愛らしい駅である。

懲りずにつづく

プロフィール
フリーライター
青木 タカオ

バイク雑誌各誌で執筆活動を続けるフリーランス。車両インプレッションはもちろん、社会ネタ、ユーザー取材、旅モノ、用品……と、幅広いジャンルの記事を手がける。モトクロスレースに現役で参戦し続けるハードな一面を持ちつつも、40年前のOHV ツインや超ド級ビッグクルーザー、さらにはイタリアンスクーターも所有する。

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