VIRGIN HARLEY | ハーレー界の巨匠に聞く!カスタム指南シリーズ「第2回 レザージャケット編」 特集記事&最新情報

ハーレー界の巨匠に聞く! カスタム指南シリーズ

レザージャケットの由来は戦時にまで遡る。頑丈かつしなやかな素材である革は、空軍パイロット向けのジャケットに使われ、そして戦後に一般普及することとなった。日本では1960年代、レーサーレプリカ全盛期の頃にライダーの誰もがレザー製ツナギを着用しては峠を攻めていた。レーサーレプリカからネイキッドバイクが台頭してくると、現在のシングルやダブルといったジャケットスタイルが主流となり、「ライダーといえばレザージャケット」といった一種の文化を形成するまでになった。

 

とまぁレザージャケットに関する歴史を振り返ってみたわけだが、現在のバイカーズマーケットを見渡してみると、機能性に秀でた化学繊維を用いたジャケット等々が多数現れ、新たなバイカーズライフのあり方を提案してきている。

 

しかし、ちょっと待ってほしい。

決して化学繊維のジャケットを否定するわけではないが、ハーレー乗りを自認する我々としては、レザージャケットの重要性を無視するわけにはいかない。ハーレー・ムービーの金字塔『イージー・ライダー』を見ても分かるとおり、ハーレー乗りはハーレーというバイクを選んだ時点で「レザージャケットをカッコよく着こなさなくてはならない」という過酷な宿命を背負うことになっている(たぶん)。

 

ご存知のとおり、レザージャケットは決して安くない。それと同時に、着用し続けるほどに革特有の味わいが出てくる点も見逃せない。だからこそ大切に扱い、長く着用し続けることが重要になってくるのだ。それは愛車を大事にする心に通ずるものがある。今まさにレザージャケット購入を検討中のアナタ、そして多くの諭吉さんと引き換えに手に入れたレザージャケットの保管方法に頭を悩ませているアナタ。今回レザージャケット専門店のプロが、皆さんに「レザージャケットとの付き合い方」を伝授してくれる。

PAIR SLOPE 代表取締役
三橋 弘行

1956年6月15日生まれ / 東京都出身

ライディングギア専門店「ペアスロープ」の代表であると同時に、雑誌「BIG MACHINE」でも連載コラムを持つなど、バイク業界の大御所として名を馳せる。乗り継いだバイクは数知れず、自宅のガレージには多種多様なバイクがずらり並んでいるという。

 

実はこの質問、当店のお客さんからよく聞かれることなんです。「革=カビが生える」という先入観があるようですが、これは革靴などと同じように、常に動いている革にカビは生えません。革にカビが生える原因は、収納ケースなどに仕舞い込んでしまっているものばかり。この保管方法がもっともいけません。レザージャケットは、常に空気に触れさせてやることが大事。着用している必要はありません、ただ空気の通りがいいところに掛けておいてやるだけで十分なんです。場所は日陰がベスト、陽に当てるのは逆効果なので注意しましょう。あと気をつけておくといいのがハンガーです。ワイヤーハンガーのような細身のものを使うと、ショルダー部分に妙なラインが残ってしまいます。なるべく幅広のハンガーに掛けてやるようにしましょう。

 

もし仮にカビが発生してしまったら、しっかり水を絞ったタオルで拭い取ってやることです。革には「銀面」と呼ばれる膜があって、カビをはじめシミや汚れを染み込ませない役割を担っています。例えばバイクで走行中、「ヘルメットや体に虫が当たって潰れた」という経験を誰もがお持ちのことでしょう。

そんなとき、化学繊維のジャケットだと汚れが取れないような状態になりますが、革の場合はそうカンタンに染み込みません。もっとも、カビの根っこが奥深くまで入り込んでしまっては修復不可能ですが…。そうならないためにも、特に湿気の多い時期には空気に触れさせてやってください。

 

また、レザージャケットを掛けている部屋に除湿機を設置するのも有効な手です。当店ではレザージャケットを保管している部屋では、空調はもちろん除湿機を設置して湿気を除去しています。僕なんかバイクガレージにも除湿機を置いているので、絶対にサビません(笑)。このあたりを考慮して、大切なレザージャケットを保管してあげてください。

 

直射日光を避け、風通しのいい場所にかけてやるだけでOK。空調を考慮してあげればなおいい。

KADOYA 直販部東京本店アドバイザー
菊地 謙三郎

1978年9月29日生まれ / 北海道出身

以前は役者の道を目指し、さらにバイク雑誌編集も経験したという多種多様な経歴の持ち主。元々レザーアイテムが好きで、老舗として知られる同社の門を叩いて今年で3年目を迎える。愛車はヤマハTDR250。

 

革はもちろん、オイルもさまざまな種類のものがありますが、例えば馬革だとコレ、牛革だとコレが合うといった定義のようなものは完全には当てはまらないのです。と言いますのも、たとえ馬革のジャケットであっても、素上げのものなのか、仕上げで表面加工しているものなのか、仕上げ方によってオイルの種類も変わってきます。中でも気をつけておきたい要素は「水を弾くか否か」ですね。水分の吸い込み方によってオイルも異なってくるので、ここは要チェックです。

 

もっとも良い方法は、目立たない部分に水滴を落としてやること。そこで水を吸い込むようだと、そのレザーはかなりデリケートなものだと言えます。そういったところをチェックした上でオイルを選ぶのがより良いでしょう。しかしながら、そこまでして選んだオイルでもベストのものかどうかは、実際に使い続けて見ていくほかありません。

オイル選びについてはレザーのプロに聞くのが一番ですが、こうして事前に自分のレザージャケットの特性を知ってから相談しに行けば、スムーズに話が進むでしょう。あとは塗り過ぎないことも大切です。触ってもベタつかない程度に、伸ばしながら優しく塗ってやってください。

 

そしてオイルを塗るタイミングについて、よく衣装ケースなどに仕舞う前に塗られる方がいるそうですが、それだとカビの原因になる可能性があります。仕舞うときは水を絞ったタオルで汚れを落としてやり、しっかり乾かしてから保管してあげてください。オイルを塗るのは、ケースから取り出したとき。これが効果的なんです。まもなくレザージャケットを着て走ると気持ちのいい季節、いよいよ取り出そうという方もいらっしゃるでしょう。そんな今こそ、丹念にオイルを塗ってたっぷり空気を味わわせてあげるのがベストですね。

 

オイルの種類はたくさんあるが、革の性質はもちろん仕上げ方の違いで効能も変わってくる。

DEGNER 広報
飯永 亮伯

1978年生まれ / 九州出身

多彩なレザーアイテムを世に送り出す「デグナー」で、製品の企画進行や雑誌などでの広報を手がける。製品テストもするので、革はもちろん、その他の素材についても実験するのが大好き。愛車はBMW R1100Sとベスパカスタム。

 

馬や牛、羊など動物による革の違いよりも重要なのが「なめし(防腐処理)と表面処理(仕上げ)」による違いです。なぜならば、ここの仕上がりによってメンテナンス時に使用するワックスやオイルの種類、つまりは革への浸透性(馴染みやすさ)が違ってくるからなのです。表面処理の種類としては、天然タンニンなめしによる「ヌメ革」(素上げに近く、油分を吸いやすい特性)、クロムなめしによる「クロム革」(これは表面を塗装されているものが殆ど)、そして皮の銀面を削って起毛させた「スエードやバックスキン」の大きく3種類に分けられます。例えばヌメ革やスエード以外のレザーは表面塗装しているものが多いので、その塗装を美しく見せるためのケミカルが必要になり、それによってオイルの選び方や処理方法も異なってくるのです。

 

そして面白いのが、メンテナンスしたときにレザーの良し悪しが見えてくることです。レザーによって汚れ落としやメンテナンス方法は違うのですが、基本的な磨き方は次のとおりです。まずブラシを使ってスティッチやファスナーのすき間に入り込んだ砂埃などを取り除き、それから固く絞った濡れタオルなどでゴシゴシと力強く拭い、汚れを落としてやります(バックスキン系はここまで、あとは専用の防水スプレーがお奨めです)。ここからワックスがけやオイル補充の作業に入ります。まず布を使ってオイルをまんべんなく塗っていき、それから今度は指先で直に伸ばしてやりましょう。「直に触って大丈夫なの?」という声を聞きますが、特に問題はありません。

 

特にミンクオイルなどの栄養剤を染み込ませていくときは、指先の温度でじっくり溶かしながら伸ばしていけるので、革にいい状態で浸透していくのです。実際、指先というのはこうした作業をするうえでもっとも精密な動きをしますからね。

 

このように自分の指でレザーにオイルを塗ってやると、表面処理の質の違いがはっきりと分かるのです。僕はレザージャケットをはじめ、ウォレットや革靴などいろんな革に対していろんな試みを行っています。もちろんレザーアイテムは高価なものですので“潰さない程度に”という前置きをさせていただきますが、「まずはいろんな方法を試してみる」ことが大切ですね。自分のレザージャケットに対する理解や知識も増えますし、今まで以上に大切にすることができるでしょう。

 

布でまんべんなくオイルを塗った後は、自分の指で丹念に伸ばしていってやろう。革の質感が手に取るようにわかる。