VIRGIN HARLEY | ハーレー界の巨匠に聞く!カスタム指南シリーズ「第3回 サスペンション編」 特集記事&最新情報

ハーレー界の巨匠に聞く! カスタム指南シリーズ

軽量化、曲がりやすさ、制動性、加速力、そこから導き出される車体バランスなど、各国のモーターサイクル・メーカーはさまざまな観点から“乗りやすさ”を追求し、そこに独自の哲学を盛り込んだ開発に日夜注力し続けている。しかしハーレーダビッドソンが生み出すモーターサイクルは、そういった“乗りやすさ”とはかけ離れた部分に価値観を見出している。ゆえに、ハーレーのカスタムの場合、内燃機系や外装といった部分に重きが置かれており、今回のサスペンションのような“乗りやすさ”を求めるパーツ交換は、ハーレーというジャンルにおいては異端と言っていい。『リジッド・フレーム』という発想がその最たる例で、今もリジッドの美しさを高く評価する人が多いのも、“乗りにくくともいい、美しいのなら”という独特の美学があるからだ。

 

そんなハーレーも、時代の流れとともに姿を変えてきた。ダイナ・ファミリーやスポーツスター・ファミリーのように“走ること”に重点を置いたモデルが増え、その性能も年々向上している。さらにモーターサイクルの世界で異端児のような存在だったハーレーダビッドソンは、今や日本でもっとも多くの人が乗るメーカーへと変貌していった。同時にライダーが求めるライフスタイルも変化を迎え、「より遠くへ、より乗りやすく」といった要望がどんどん取り入れられている。

 

サスペンションは、そうした要望を持つ人々がもっとも注目しているパーツである。国産系メーカーのバイクが主流だった30~40年前でさえ、「サスペンションを交換する」という考え方は一般的ではなかった。それが今や、種類の多さも相俟って「乗り味を追求するために」だけではなく、「ローダウンするために」といった外装の一部として注目される部位になっているのだ。

 

だからこそ、改めて問うてみたい。「サスペンションを換えることで、具体的に何がどう違うのか。はたしてその効果は」と。今回、あらゆる観点からチョイスしたプロフェッショナルに、ユーザーのさまざまな質問をぶつけてみた。

ウノパーウノ 尾山台店 店長
我妻 修

1957年6月10日生まれ / 宮城県出身

若い頃からさまざまなバイクを乗り継いできた、根っからのバイク好き。現在はスウェーデンのサスペンション『オーリンズ』のアジア・ディストリビューションである『カロッツェリアジャパン』の社員として、同社が運営するオーリンズ・サスの販売店『ウノパーウノ』尾山台店の店長を務める。

 

最近ハーレー乗りの方がよく来店されるのですが、もっとも多い質問が「サスペンションを換えると、どんな効果があるのですか」というものです。つまり、皆さんのほとんどがノーマルのサスペンションをスタンダードだと思っておられるわけです。ハーレーダビッドソンというモーターサイクルの性質上やむを得ないところがありますが、ノーマルのサスペンションは当社が扱っているオーリンズ製のものと比べると、かなり大味な調整がなされていますね(笑)。当店のすぐ隣りに石畳の商店街があるのですが、わずかな距離ながら振動の少なさを体感できます。乗り比べてみればその違いがハッキリと分かりますよ。

 

サスペンションを検証する大前提として、「自身の愛車とどう付き合いたいのか」という課題があります。走行性能の向上を計りたいのか、長距離走行時の乗り味を追及したいのか、それともローダウンといった外装として捉えているのか。オーナーの好みによって、味付けはまったく変わってきます。そこが明確でないとサスペンションの能力を100パーセント発揮させてやることはできませんし、逆にそのポイントさえ定まっていれば、ノーマル時の状態とはまったく違う、劇的な変化を体感できることは間違いありません。

 

オーリンズでは、車重と取り付け位置によって車種ごとにスプリングレートと減衰力を専用で制作しています。減衰力とは、車体へのショックをサスペンションが受けたとき、伝わってくる勢いを殺す力のことです。この力の調整が、乗り味を変える大きな要素と言えます。ここがサスペンションの重要なポイントで、オーリンズではここの調整幅を広く取ってあります。もし「もう少しサスペンションのことを詳しく知りたい」という方は、ウノパーウノで「オーリンズサスペンション講習会」を開催していますので(講習料金/2,000円/約2時間)、ご興味がある方はぜひお越しください。

 

ダンパーロッドにタイラップを巻き、人差し指一本分まで沈み込むほど使い込むのがベスト

ナイトロンジャパン
テクニカルセクション
井上 浩伸

1974年6月27日生まれ / 東京都出身

高校卒業後、国産系カスタムショップでメカニックとして8年の業務経験を持つスペシャリストで、レースなどにも精通している。英サスペンションメーカー『ナイトロン』と業務提携を結び、2007年ナイトロンジャパンを設立。現在愛車にスポーツスターXL1200Cを持つ。

 

「サスペンションを交換して乗り味を変えたい。でも調整方法が分からない」という声はよく聞きます。このとき私が申し上げているのは、「最初の調整段階である80パーセントはプロフェッショナルにお願いし、残りの20パーセントをご自分で探求してみてください」ということです。味覚と同様、好みの乗り味は十人十色ですから、いかなるプロフェッショナルであっても個人のフィーリングにまで合わせることはできません。この質問をされた方は、細かな乗り味を探られるタイプだと見受けますので、アジャスタ(調整装置)が多く付いたタイプのものがいいのではないでしょうか。

 

フィーリングという言葉を掴むのはかなり難しいですよね。ただ、大きく分けたら「固い」か「柔らかい」かの2点に絞られます。一番いいのは、最初にかなり柔らかい設定にして走ってみることです。かなりフワフワした走行になると思いますので、そこからアジャスタを1クリック(1ひねり)ずつ締めていってやります。すると、あるポイントで急に固くなります。そこが個人で体感できるフィーリングの違いです。人によって「固い」と感じるポイントは違うので、ここを探る実験をしてみてください。

 

またサスペンション選びの際に重要になってくるのが「リザーバータンクの有無」です。サスペンションの一覧を見ると、本体の横に小さなタンクが付いたタイプを見かけられるかと思いますが、これがリザーバータンクです。本体内部にガス室があるタンク無しタイプとは違って外部に設置されているので、ガスとオイルがそれぞれ大きいスペースで稼動することができ、タンク無しタイプよりも細やかでしなやかな動きを生み出せるのです。ここも各自の乗り方によって分かれてくるポイントなので、この内容を参考に、自分に合ったサスペンションを選んでみてください。

 

アジャスタを微調整するだけで、乗り味はまるで変わってくる。この楽しさを追求するのもいいだろう

ネオファクトリー
石井 秀和

1980年8月1日生まれ / 東京都出身

某大手アパレル会社に勤務していた時期に、ハーレーの世界に目覚める。東北や北陸、関西などへバイクをともに足を伸ばす旅に出た後、設立してまもないネオファクトリーに入社。以降、中軸を担う存在として同社を牽引している。好みのスタイルはチョッパーで、現在愛車をカスタム中。

 

まず言っておきたいのが、「サスペンションにも寿命がある」ということです。さまざまなメーカーからいろんなタイプのサスペンションが出されていますが、いわゆる“使いきり”のものでも数万キロで完全にヘタってしまいます。サスペンションのヘタりを見極めるポイントは、リアをぐっと押し込んだ後に収束するか否かです。ここで戻ってこなければ、完全にヘタっていると判断していいでしょう。ハーレーのノーマルサスペンションの場合、かなり大味な設計になっているので、ヘタっていても「こういうものかな」と思っておられるユーザーさんもいらっしゃるようです。これを目安にチェックしてみましょう。使いきりタイプの方は買い替えをオススメします。

 

寿命は各自の使用用途によってまちまちですが、走行距離なら1~2万キロ、期間は2年ぐらいですかね。今の愛車と長く付き合いたいという人は、フルオーバーホールが可能なサスペンションをオススメします。当社にはオーバーホールできる製品がありませんので、そこはハーレーというモーターサイクルですから、割り切っていただければ結構です(笑)。

 

サスペンションの寿命は避けて通れませんが、少しでもよりよい状態を保つためにケミカルを施すのが良いでしょう。例えば雨の日に乗った後など、雨水はもちろん泥などもダンパーロッドに付着して劣化の原因となります。そうすると乗り味にも少なくない影響が出ますので、帰宅されたら水で洗い流してやり、磨いてあげてください。スタッドボルトにグリスを塗ってやるのもいいですね。さらにサビが発生した場合は、一般のサビ取り剤で磨いてやるほかありません。当社の製品だとアブソーバー部分以外ならバラせますので、そこまでやればかなりキレイになり、長持ちすることでしょう。

 

雨の汚れが溜まると、劣化速度は増す。こまめにメンテしてやることで、サスの寿命は延ばせる