VIRGIN HARLEY | ハーレーミュージアム探訪・ハーレー106年の歴史を知る 特集記事&最新情報

ハーレーミュージアム探訪

1903年の創業から現在まで、106年もの長い歴史を持つハーレーダビッドソン社。これまでに数え切れないモデルが誕生し、多くのユーザーに愛され、各モデルが歴史に名を留めてきたが、今まではツインカム96やレボリューションなどの現行エンジンのルーツを知ろうと思っても、雑誌のバックナンバーや写真集をめくり、数枚の写真からかつての歴史を振り返るしか方法はなかった。しかし、2008年7月にハーレー本社のあるアメリカ、ウィスコンシン州ミルウォーキーに完成した「ハーレーダビッドソンミュージアム(以下、HDミュージアム)」では、106年の歴史を順に追って辿ることができる。ここではハーレー第1号車をはじめとする歴代モデルから、各時代のカスタム車輌、レース車輌まで、400台を超えるハーレーが展示されている。日本国内ではいまだ現役で街を走るヴィンテージハーレーを見かけることが多いものの、メーカーの手で綺麗にレストアされたヴィンテージモデルがこれほどの台数で展示されている場所は世界でここだけだ。また、いわゆる名車だけではなく、「こんなモデルがあったのか」という希少車もここに来れば間近に見ることができる。ハーレーを愛する人ならば、一生に一度は訪れてみたい場所、HDミュージアムについて紹介しよう。

歴代エンジン

HDミュージアムの2F、見学順路の最初の展示は右のような、歴代エンジンがずらりと並ぶコーナーだ。左から右へ、時代に沿って並べられたエンジンを眺めて行くと、106年のハーレーの歴史を一気に体感したような気分にさせられる。約405ccのシングルエンジンから1584ccの現行エンジンまで、一般に知られたエンジンからレースモデル、今は亡きアエルマッキハーレーダビッドソンのエンジンまでが壁にずらりと並ぶ。壁前に設けられたパネルを操作すれば、各エンジンの排気音を聞くこともでき、歴代ハーレーの排気音を楽しむことができる。このコーナーの来場者の楽しみ方はさまざま。新旧エンジン音を聞き比べては楽しそうにする子供もいれば、1台のエンジンをじっくりと眺める年配の男性もいる。壁に並ぶエンジンの中に、過去に乗っていたモデルが含まれているのだろうか…エンジンを見ながら懐かしそうに話す来場者もいた。

 

ここに展示されているすべてのエンジンはフレームから下ろされており、エンジンそのものの造形が楽しめるのもこのコーナーのポイント。緻密に設計された現行エンジンと、コンピューターCADのない時代に設計されたエンジンではフィンの形状やエンジンの質感に明らかな違いがあり、そういった視点でエンジンを見比べてみるのも面白い。

 

左から右へ、時代順に歴代エンジンが並ぶ

左から右へ、時代順に歴代エンジンが並ぶ。

歴代モデル

国内、国外を問わず、歴代エンジンを網羅しているハーレーショップはまずないだろう。一般のショップではツインカムと、せいぜいエボリューション、ショベルヘッドが見られるだけ。パンヘッドやナックルヘッド、それ以前のモデルを見たいと思うと雑誌や写真集を見てイメージを膨らますしかないのが現状だ。しかし、ここHDミュージアムでは創業時から現代に至るまでの主要、レアモデルが400台も展示されている。2008年のオープンまでに、アメリカ国内だけでなく、海外からも車輌を収集、1台1台を丁寧にレストアし、400台を越える展示車両が集められた。1台のヴィンテージハーレーをレストアするだけでも膨大な時間を必要とするため、これだけのコレクションを揃えるのにどれほど苦労があったことだろう。一朝一夕には成しえず、しかもメーカーだからこそ実現可能な規模のミュージアムなのだ。

 

今でも名高いヴィンテージモデルから、初めて目にする珍しいモデルまで、館内を見学していると「これは?」というモデルも目にするだろう。そういった人に向けて、HDミュージアムでは音声ガイドプレイヤーの貸し出しも行っている。英語圏以外の来場者でも楽しめるよう、細かなサービスにも気が配られているのだ。

 

 

 

1936 Model E (Photo by Takao Isobe)

1936 Model E

現在のツインカム96に連なる、OHV Vツインエンジンのルーツとも言えるナックルヘッド。販売開始から70年以上たった今でもこのデザインは受け継がれ、現行モデルのモチーフにもなっている。

1942 Model WR (Photo by Takao Isobe)

1942 Model WR

750ccのサイドバルブエンジン搭載のレーサー。灯火類もフロントブレーキも装備していない。当時はこのような仕様のレーサーがフラットトラックレースで活躍していた。タフなエンジンなため、現代でもしっかり走ってくれる。

 

1957 XL Sportster (Photo by Takao Isobe)

1957 XL Sportster

Kシリーズが進化した初代スポーツスター。1950年代にアメリカで人気を博していた英国車に対抗するために誕生し、排気量や圧縮比などに改良が加えられ、年々進化を遂げていくことになる。

1971 FX Super Glide (Photo by Takao Isobe)

1971 FX Super Glide

ウィリー・Gがデザインした個性的なモデル。販売当初はあまり評判がよくなかったボートテイルリアフェンダーだが、時代を経るうちに評価が高まり、現在ではこのスタイルに憧れるユーザーは多い。

戦前のモデル

一昔前までの日本ではハーレーは特別な乗り物だった。年配の人だと「ハーレーは家が1軒買えるほど高価な乗り物」というイメージがいまだに残っているが、ほんの数十年前までのハーレーは確かにそうだったのだ。本国アメリカでもハーレーは高価な乗り物ではあったものの、日本のそれとは少しイメージが違う。戦前から官公庁や軍隊に数多くのハーレーが納品され、サービカーと呼ばれる商品の配達などに使用されるハーレーも存在した。ここHDミュージアムではそんな用途に使用されたモデルを、当時の仕様のまま、乗り手の制服なども添えて展示されている。今も昔も、ハーレーは飾る乗り物ではなく、タフに走る乗り物だったことがわかるコーナーだ。ハーレーが登場する当時のポスターや写真もここでは見ることができ、業務用としても使用されていたハーレーの一面も楽しめる。戦前から戦後間もない頃にかけてのハーレーの姿が、時代背景と合わせてここで展示されているのだ。

 

1942 Model XS with Sidecar

1942 Model XS with Sidecar

米軍に納品されていたサイドカー付きモデル。エンジンはハーレー伝統のVツインではなく、軍からの要請でBMWを模して開発された水平対向エンジンを採用。日本ではまずお目にかからないモデルだ。

1936 VLH Police Solo

1936 VLH Police Solo

1340ccの3速ミッション、フラットヘッドエンジンのポリスモデル。旭風防を思わせる大きなウインドシールドや無線を搭載。シート後ろには消火器や小型のハードケースを積んでおり、警察用の特別仕様となっている。

 

1930年代のModel G Servi-Car

1930年代のModel G Servi-Car

750ccサイドバルブエンジンを採用したサービカー。後ろの2輪部分に積載スペースが用意され、配達などの商業用に使用されていた。タフで整備性がいいエンジンだったため戦後も長く使用され、現存数も多い。

ハーレーが登場する当時のポスター

ハーレーが登場する当時のポスターや写真

ハーレーが登場する交通安全を訴えるポスターや当時の街並みがわかる写真。バイクによる交通事故が増えてきた時代背景から、交通安全を訴えかける内容のポスターが制作されている。

レースマシン

20世紀初頭のアメリカでは、1950年代の日本と同様、ハーレー以外にもさまざまなモーターサイクルカンパニーが存在しており、自社モデルの性能を広く知らしめるにはレースでの活躍は欠かせなかった。そのため、レースシーンでのハーレーの活躍がわかる資料や実際にレースで活躍した車輌の歴史は100年以上前まで辿ることができる。ハーレーが本格的にレースに参戦しはじめたのは1910年代のこと、パンヘッドやナックルヘッドが誕生する遥か前の時代で、1000ccのFヘッドエンジンを搭載した車輌が出走していた。現代ではハーレー=レースというイメージは薄いものの、過去を遡れば今とは違う歴史があり、HDミュージアムでは、ハーレーのレースシーンでの活躍についてかなりのスペースが設けられている。ただし、レースと言っても、日本で一般的なロードレースではない。アメリカではドラッグレースやダートトラックレース、ヒルクライムなど、日本では馴染みの薄いレースで活躍した車輌や資料の展示が中心だ。展示方法は、ただ車輌を並べるだけではなく、当時のレースの雰囲気が伝わってくる手法が取られている。現代ではもう見られない、板張りのコース(=ボードトラック)でスピードを競い合うボードトラックレースの展示ではそのボードトラックを再現し、ヒルクライムレーサーの展示では傾斜がついたボードに車輌を並べ、タイヤにチェーンを巻くなど、臨場感のある展示が楽しめる。こういったコーナーで並べられている車輌は綺麗にレストアされたものばかりだが、レースで走っていた姿が目に浮かぶような手法が取られているため、何十年も前のレースシーンを疑似体験しているような感覚を受けるだろう。

 

展示されているのは車輌だけではない。当時活躍していたレーサーの姿やレースリザルトを伝える記事、レーサーが着用していたレース専用ウェアなども展示されているのだ。色鮮やかなレース用ウェアを着て、レーストラックを走るライダーの姿は、我々の知る一般的なハーレー乗りの姿ではない。ツーリングバイクやカスタムバイクとしてのイメージが強いハーレーには、レースを楽しむマシンとしての一面があったことを、このコーナーで実感することができるはずだ。

戦前のボードトラックレースを再現した展示

戦前のボードトラックレースを再現した展示。

ヒルクライムレースを再現。タイヤにはチェーンが巻かれている

ヒルクライムレースを再現。タイヤにはチェーンが巻かれている。

 

ハーレーのレース結果を伝える過去の記事なども並ぶ

ハーレーのレース結果を伝える過去の記事なども並ぶ。

当時のライダーが着用したレース用ウェア

当時のライダーが着用したレース用ウェア。

歴代エンジン

HDミュージアムには、ココでしか見られない希少なモデルも展示されている。100年を越える歴史の中にはVツインではないハーレーも販売されており、そのような歴史を知らないユーザーにとっては驚きの車輌も展示されている。1960年代にハーレーが二輪部門を買収したイタリア「アエルマッキ社」が販売していたスプリントやMX250、トッパーのようなスクーターは日本でも見かけることがあるが、軍の要請でBMWを真似て製作された水平対向モデルXAや、2サイクルシングルエンジンを搭載したスキャットなどは、雑誌などの資料で目にする機会もほとんどなく、ここでしか見られないだろう。また、製品開発時に製作されたモックアップ(木製の模型)や、設計図面が見られるコーナーも用意されている。伝統的なVツインエンジンの展示だけではなく、ハーレーが開発、生産にかかわってきたあらゆるモデルや開発風景を、このHDミュージアムでは目の当たりにできるのだ。

 

ハーレーダビッドソンミュージアム一生に一度は
訪れてみたい場所

HDミュージアムはウィスコンシン州ミルウォーキーのダウンタウンに位置する。シカゴから車で2時間ほどの距離にあり、日本からやってくる際にはシカゴ観光を兼ねて訪れるのがオススメだ。

 

また、HDミュージアムを見学する際には、同じミルウォーキーにある工場にも足を運びたいところ。工場内の見学が可能で、ラインで組み立てられるハーレーをガイドが案内してくれる。ハーレーの過去を知るのがHDミュージアム、ハーレーの今を知るのが工場見学と、どちらも楽しめるはずだ。

 

住所/401 W Canal St., Milwaukee, WI