VIRGIN HARLEY | ハーレーメカニック育成現場の今 特集記事&最新情報

ハーレーメカニック育成現場の今
今年創設40周年を迎える小山学園。二輪・四輪を含む自動車整備・開発のスペシャリストを育成してきた東京工科自動車専門学校・東京工科専門学校に、ゲーム・IT・建築・インテリア・環境・バイオなどのスペシャリストを育成する東京テクニカルカレッジなど、確かなスキルの習得を目的とした学び舎を長年運営してきた。その小山学園が2009年よりハーレーダビッドソン・ジャパンと提携を結び、ハーレー専属のメカニックを養成する「ハーレー専科」を設立したのだ。ハーレー乗りの我々にとって、メカニックはいかなるシチュエーションにおいても頼りになる存在で、そのスキルや知識、経験が高ければ高いほど信頼度もアップし、安心して愛車を委ねることができる。そんなメカニックの卵を生み出す学校に編集部が潜入取材を試みた。

プロとしての確かな能力が体得できる
基礎を重要視したカリキュラムの構築

編集部が伺った5月12日(火)、ツナギに着替えたハーレー専科の2年生と一階の2輪実習室へと向かうと、そこには30台近くにおよぶさまざまなハーレーが陳列していた。これらはすべてハーレーダビッドソン本社から提供されたもので、よく見ると最新モデルであるXL1200Nナイトスターのナンバープレートがサイドマウントになっており、さらに本来オレンジ色であるウインカーとテールランプが一体化した「LED一体型ターンシグナル」が真っ赤だ。そう、実はここの実習で使用されている車輌はそのほとんどがUSA仕様のモデルで、日本仕様とは微妙に異なっている。よく見回してみると、カスタマイズされた車輌も配置されている。もちろん基本的な構造は同じだから、システムを学ぶ上では何ら問題はない。逆に、こうした多種多様なスタイルのハーレーに触れられ、さらにその構造を事細かに学べるというのは大きな財産だな、と思わされる。

 

自動車整備科の松永一寿先生による授業がスタート。この日の実習は、ハーレーダビッドソン専用の「外部診断機デジタルテクニシャンII」を使用してのインジェクション機能を理解する講義。衝撃や水に強い構造のノートパソコンを用いて、車輌に搭載されたコンピュータからデータを読み取り、故障診断やアクティブテストを行う。Bluetoothで接続できるので遠隔操作も可能だ。さらにアメリカ本国のハーレー本社ともLAN接続できるなど、車載データを一括管理できる最先端のシステムを導入しており、メカニックの卵たちはこうした最新技術を日夜学んでいる。

 

早速学生たちの前にあるスポーツスターとパソコンを接続し、車載データを読み取る。すると本社のデータとリンクし、車輌購入時の状態や現在の走行距離、これまでのカルテなどがデジタルテクニシャンIIに表示される。ここから異常部分や劣化箇所を導き出し、的確なメンテナンスを施すことができるのだ。初めて目にする最新のシステムに、学生たちも色めき立つ。ひと通りの説明が終わると、早速実習作業に取り掛かった。

 

チームごとに振り分けられたデジタルテクニシャンIIを起動させ、実習用車輌にリンクする。コンピュータ上にデータが車輌のデータが表示されると、学生たちはスクリーンに釘付け。そこから実際にハーレーに触れ、先生の指導に従いながら車輌点検を行っていく。当然のことながら、すべてインジェクション仕様の最新モデルばかり。「基本的に現行モデルをはじめ、過去10年の仕様については学べるシステムを構築しています」とは、自動車整備科の蓬田 誠先生。設備が充実していることで、卒業後に現場で実践していく際に役立つ知識を幅広く得られるのだ。

 

実習後は、教室に戻ってチェックシートを用いての点検テスト。実習での内容が学生に正しく伝わっているのか、事細かに確認していく。ただ機械が触れるだけでなく、「なぜ○○というトラブルが発生するのか」について、論理的に理解できていないときちんとしたメンテナンスが施せない。スキルと頭脳の両方をバランスよく鍛えていくことで、確かな技術を身に付けられるのだ。「プロフェッショナルは基本を大事にする」というが、このハーレー専科では、基本的な能力を習得し、現場で役立つメカニックを輩出するためのカリキュラムが組まれている。そう感じた。

 

実習では常にハーレーに触れて行っている

チェックシートを使いながら点検していく

最新機器を用いたインジェクション実習

ハーレーの最新モデルに生徒も興味津々

基本的な手先の技術の育成も怠らない

 

整備に必要な機材はすべて揃っている

ノーマルだけでなくカスタム車輌も取り扱う

ずらりと立ち並ぶVツインエンジンのサンプル

チェックシートによる実習内容の確認

バイクだけでなく四輪車の構造も習える

平成21年度 自動車整備科科目 配置表

 

1年

 

1期 2期 3期 4期 5期

講義

・就職対策講座 I

・自動車の構成

・自動車の電気基礎

・自動車の基礎力学

・就職対策講座 II

・自動車製図

・自動車の要素と材料

・自動車情報リテラシー

・エンジン本体

・就職対策講座 III

・自動車の仕事と出力

・電子回路実験

・動力伝達装置 I

・ガソリンエンジンの燃料装置

・就職対策講座 IV

・制動装置

・ディーゼルエンジンのしくみ

・サスペンション

・潤滑、冷却、吸排気装置

・就職対策講座 V

・ステアリングとアライメント

・制動装置 II

・動力伝達装置 II

・エンジンのバルブタイミング

実習

・工作加工作業

・車両整備の安全作業

・エンジン整備作業

・FMC

・始動・充電のしくみ

・車両整備の基本作業

・エンジン本体の整備

・二輪車の走行実験

・マニュアルトランスミッションの整備

・ブレーキの点検整備

・ガソリンエンジン燃料装置の整備

・エンジン付属装置の整備

・ステアリング・アライメントの整備

・点火装置のしくみ

・デフ・アクセル・タイヤの整備

・バイクの点検整備

・ディーゼル燃料噴射ポンプのしくみ

・クラッチオーバーホール

・車両の電装品整備

・バイクの構造と整備作業

 

 

2年

 

1期 2期 3期 4期 5期

講義

・自動車の走行性能

・エンジン電子制御装置

・ディーゼルエンジンの燃料装置

・走行装置

・操縦安定性能のメカニズム

・エンジン本体・潤滑・冷却・吸排気装置

・エンジン電気装置

・動力伝達装置 III

・大型車両の構造と整備

・整備法規

・自動車工学 I

・シャシ電気装置

・サスペンション II

・検査法規

・自動車工学 II

・自動車と環境

・制動装置 III

・自動車の法令

・ガソリンエンジン構造

・ディーゼルエンジン構造

・シャシ構造

実習

・電子制御燃料噴射装置の整備

・4WD・LSDのしくみ

・パワーステアリングのしくみ

・車両の整備・調整作業

・ディーゼル燃料噴射ポンプの整備

・エンジンのO/H作業

・エンジンの脱着作業

・ディーゼルエンジンの診断整備

・オートマティックトランスミッションの整備 I

・エアサス・エアプレーキのしくみ

・電子制御の実験実習

・ガソリンエンジンの診断整備

・オートマティックトランスミッションの整備 II

・自動車検査実習

・自動車のトラブルシューティング

・ガソリンエンジン故障探求

・ディーゼルエンジン故障探求

・シャシ故障探求

・電装品故障探求

最大の魅力は充実の設備!講習も実作業を想定している

ハーレーダビッドソン・ジャパンと提携を結んでいるとあって、校内にあるハーレー関連の設備は実に充実している。アメリカ本国の本社からアメリカ仕様の車輌を40台以上取り寄せ、すべて学生の講習のために用いている。ノーマル車輌からカスタム車輌まで、種類もさまざま。中にはポリス仕様のモデルまである。そして授業では2人に1台の車輌が割り振られるなど、実際の作業を想定した講習が行われている。ハーレーというメーカーに特化した専門的なカリキュラムだ、H-Dディーラーの第一線でその経験が生きてくることは間違いない。

 

豊富な知識が支える授業と
ハーレーに触れられる実習が魅力

昔からバイクが好きで、高校卒業後とある会社に就職したんですが、メカニックへの夢があきらめられなくて入学しました。今でも分からないことだらけですが、経験豊富な先生からいろんな話を聞けるので、その話題が授業に還元されているのを感じています。実習でハーレーに触れていると、今まで以上に興味が沸いてきますね。いずれは自分のハーレーが欲しいと思うようになっています(笑)。

女の子だってメカニックやります!
いずれはハーレー専属も…?

「男性がメインの仕事に挑戦してみよう」と思って入学しました。今はすべての実習が面白くて仕方がないです。何から何まで知らないことだらけですが、逆に自分が特別なことをしているような気持ちになれるんですよね。私もバイク初心者なので、お客さん目線でバイクが診られるメカニックを目指したいと思っています。ハーレーのディーラーには女性メカニックがいないと聞いたので、興味を持ち始めています。

メカのスキル以上に重要なのが
大切な車輌をお預かりしている意識

僕が学んでいたときは四輪がメインだったんですが、やはりバイクの世界に進みたくて、ハーレーのディーラーに就職しました。以前に比べるとバイクに関する学校の設備はかなり向上しているとのことですから、今の学生さんたちは幸せな環境で学べていると思います。そんな中で特に意識して欲しいのは、「誰のために整備をしているのか」ということですね。プロとして現場に携わるわけですからいい整備ができるのは当たり前。お預かりした愛車にどのような問題があって、どう手を施したのかきちんと説明できるプロフェッショナリズムが重要です。気持ちを込めた仕事ができるようになって、初めて一流のメカニックと呼ばれます。ぜひそういう心意気のある若いメカニックと一緒に仕事がしたいですね。

メカニックとしての技術以上に
一般教養を重要視していきます

ハーレーダビッドソン・ジャパンとの提携により設けられた「ハーレー専科」は、メカニックを養成する我々の業界にいい影響を与えると期待を寄せています。というのも、バイク業界において特にホスピタリティやサービスに対する意識を強く持っているのがハーレーだからです。本校ではメカニックとしての基礎技術を教えるわけですが、それ以上に「社会で通用する一般常識」を学生に意識付けできるよう心がけています。ハーレーのディーラーでは「サービスメカニック」と呼ばれるとおり、ただマシンが触れるだけでは仕事になりません。オーナーさんとのコミュニケーション能力が必要なわけですが、この「ハーレー専科」ではこのような、社会に出たときに欠かせない教養に力を入れていきます。さらに、遠い存在だと思われていた「ハーレーのメカニック」になれるという選択肢を与えられることも大きな要素です。ハーレーだけでなく、バイク業界全体が活性化するお手伝いができれば、言うことはありませんね。

自分が携わる仕事に目的意識を
夢を持ったメカニックの育成が不可欠

「目的意識が希薄だな、と思わされることが多いです。それは実際に自分が携わる車輌と向き合うこともそうだし、なぜハーレーのディーラーを選んだのか?という部分についてもまた然り。そこが希薄だと、仕事そのものに対する思い入れまでもが薄れてしまうんじゃないですかね」

とあるディーラーのメカニックに「新人メカニックを見て、感じることはありますか」という質問をぶつけてみたところ、こんな答えが返ってきた。バイク業界に限ったことではないと言ってしまうと身も蓋もない話になるが、「メカニック」という明確な目標設定があるにもかかわらず、そこからステップアップするために必要な向上心が欠けていては、どれだけ基礎技術を身に付けていても現場での対応力に差が出てしまう、というわけだ。

 

「せっかく大好きなハーレーの世界に入ってこられたんだから、もっと夢を持って欲しいですね。例えば学校で、ディーラー以外にもカスタムショップでビルダーになれるなど、“将来どんな選択肢があるのか”ということをより具体的に教えるというのもいいんじゃないでしょうか」

 

なぜ自分がこの道を選んだのか、その道の先にどんな世界が広がっているのか…。手探りで歩んでいくのもひとつだが、学生にとって人生の先輩である教師が小さな光を当ててあげるだけで、その成長度合いは大きく変わってくる。とりわけ、この専門学校に集まる若者はすべて「メカニックになりたい」という明確な目的意識を持っているわけだから、ちょっとしたキッカケで飛躍できるはず、と思うのだ。「ハーレー専科が、バイク業界の活性化につながれば」という蓬田先生の言葉に期待したい。

取材担当/VIRGIN HARLEY.com 編集部 田中宏亮

東京工科専門学校 品川校

住所/東京都品川区南品川3-7-12
(地図を拡大表示する)

電話/03-5479-8811

ファックス/03-5479-8813

問い合わせ[フリーダイヤル]/0120-1969-04

URL/WEBサイトはコチラ

space 東京工科専門学校 品川校