VIRGIN HARLEY |  中山 孝志(Moto-Com)インタビュー

中山 孝志(Moto-Com)

  • 掲載日/ 2004年11月19日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

他人に対する
「優しさ」を持てる人と僕は出会いたい

兵庫県神戸市にあるカスタムショップ「Moto-Com」。この名前をご存知の方はいらっしゃる方は多いかと思う。実は「Moto-Com」は私の実家の近くにあり、高校生の頃から知っているお店だ。港町神戸の頼れるカスタムショップとして多くの人からの信頼を得ている。しかし、その活動はいちカスタムショップにとどまらず、メーカーのバイクの開発へのアドバイザー参加や大規模ミーティングの主催も経験している。そんな「Moto-Com」オーナー中山孝志さんに大いに語っていただいた。

Interview

「支持されるバイク」っていうのはね
「性能」じゃないんですよ

ー中山さんは生まれ育った街、神戸でカスタムショップ「Moto-Com」を経営されているわけですが、東京のカスタムショップで修行をされていたんですよね。なぜ東京に出て行ったのですか?

中山●僕が修行をしていた時代は、まだカスタムショップという言葉がない時代だったんですよ。だから関西だと修行できるお店も少なくて。それに東京と関西ではお店に持ち込まれる修理やカスタムの車両の数が、まったく違っていました。だから、同じ期間修行するにしても東京で働いた方が早く一人前になれるかな、と思いまして。ほとんどお金を持たずに東京に飛び出て、上野にあったカスタムショップで修行をしました 。

ーそのまま東京でショップをやろう、とは思わなかったんですか?

中山●やっぱりこの神戸が好きだから。こっちに戻ってお店をやりたかったんです。でも修行で東京に出たのは正解でした。経験もたくさん積めましたし、たくさんのビルダーと知り合えましたから。僕は関西のショップの人の知り合いより、関東のショップの人の知り合いの方が多かったりするんですよ。それも一度東京に出て人に出会えているおかげですよね。だから当時の知り合いから、関東のカスタムシーンのことも聞くことができて。神戸にいても情報が遅れて入ってくることがないんですよ。

ー私も神戸出身なので、中山さんのお気持ちはよくわかります。住みやすい街ですから。中山さんはいつから、神戸で「Moto-Com」をやっていらっしゃるのでしょうか。

中山●1983年からですね。気がついたらもう、20年以上も経ってしまいました。

ー多分、中山さんは覚えていらっしゃらないでしょうが、実は私は高校生の頃に「Moto-Com」に遊びに行ったことがあるんですよ。「Moto-Com」は私の実家の近くだったので、自転車でよく近くを通っていたんです。もともと私はアメリカンバイクに興味があったので、学校帰りにお邪魔して、いろんなお話をしていただきました。生まれて初めてハーレーに跨らせていただいたのが「Moto-Com」なんですよ。

中山●ごめんなさい、覚えてないです(笑)。

ーそんなに足しげく通っていたわけではないですから(笑)。私が「Vulcan」に乗り始めた頃にも、当時まだ数か少なかった「Vulcan」のオリジナルパーツを見に、何度かお邪魔しましたよ。

中山●実は「Vulcan」は僕にとってかなり思い入れのあるバイクなんです。僕の主催しているメンバーズクラブ「Dead Cats」のメンバーがデザイナーとして「Vulcan」の開発に参加していたんです。外部のアドバイザーという形で僕も意見を求められまして、僕なりの「バイクに対するこだわり」を話しました。

ー「Moto-Com」からKawasakiへどんなアドバイスをされたのですか?

中山●多くの人に支持されるバイクって「性能」じゃないんですよね。「アフターパーツの豊富さ」に尽きるんです。だからパーツの取り外しが楽な造り方、例えば、ガソリンタンク下のフレームはハーレーのように1本にして、タンクを取り替えやすいように造って欲しい、とかね。メーカー側からするとタンク下のフレームは2本の方が造りやすいんですよ。でも買った人が簡単にカスタムできるようにデザインして欲しい、そこを強くお願いしました。ハーレーや他のバイクのカスタムを手がけてくると、パーツが取り外ししやすいバイク、とかがやっぱりあるんですよ。メーカー側の都合で造ったのか、買う側の人のことを考えて造られたのか、バイクをバラしていると見えてきますよね。僕らカスタムショップは乗り手に一番近いところにいるので、その声をKawasakiへ伝えて、「Vulcan」の開発に反映してもらいました。

ー「Vulcan」は中山さんが多くのバイクを手がけた知識・経験が詰まったバイクなんですね。

中山●ええ。乗り手のことを考えて造られるバイク、その想いを「Vulcan」については僕からKawasakiに伝えることができた。嬉しかったですね。

実は、「TOYRUN」は
まだ続いているんです

ー「Moto-Com」の中山さんと言えば「TOYRUN」の主催者、そういうイメージで見ている人も多いと思います。中山さんがなぜ「TOYRUN」を中止にしたのか、そして「TOYRUN」は形を変え、今も行われていることをお話いただければと思います。まず「TOYRUN」についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

中山●「TOYRUN」は「Moto-Com」のお客さんを中心に集まった「Dead Cats」というメンバークラブが主催していたチャリティーミーティングです。最初は仲間内のキャンプからのスタートだったのですが、年々参加者が増え、問題も増えてきたので、1998年でひとまず中止ということになりました。

ーそもそも「TOYRUN」が始まったきっかけは何なのでしょうか。

中山●僕が仲間と初めて行ったミーティングが「場所は用意するから、後は皆さんで交友を深めてください」というミーティングで。それはそれでいいんですが、休みをとって遠くから来ている人にとって「これだけなの?他にイベントはやらないの?」と感じるミーティングでした。せっかく多くの人が集まるんだから、もっといろいろな企画があってもいいだろう、そう思いました。「だったら遠くから来た人にも満足してもらえる、イベントのあるミーティングを自分たちでやろう」。ということで、「Dead Cats」のメンバーや仲のいい他のクラブの人にも声をかけて、ミーティングの準備をはじめたんです。

ーミーティング開催にあたって苦労されたことはありましたか?

中山●場所の確保、これが一番大変でした。最初はキャンプ場を借り、スクリーンを用意して、寝転がりながらみんなで「イージーライダー」を見よう、という企画だったんですが「たくさんのバイクが集まるイベントには場所は貸せない」とことごとく断られまして。当時はまだ「バイク=暴走族」というイメージが強かったんです。「バイク乗りの市民権ってこんなに低いんだな」とショックを受けました。そういうイメージを払拭したくて、「バイク乗りのイメージをよくできるような活動もしよう」と、バイク乗りが各自オモチャを持ち寄って寄付する「TOYRUN」のアイデアをスタッフと話しあって決めました。

ー「TOYRUN」の「TOY」はそこからきているわけですね。「TOYRUN」の趣旨は恵まれない子供にオモチャを寄付しようということでよろしいでしょうか。

中山●何をもって「恵まれない」とするか、は難しいのですが・・・当初は「恵まれない子供たちにオモチャを!」だったんです。最初は本当に玩具だけを集めていたのですが、回を重ねてくると、施設によって必要なものが違う事が分ってきました。最近は何が必要なのか先に聞いてから「今年は文房具を」というように集めています。ただ、海外に目を向けると「オモチャより必要なものがある」、「せっかくこの世に生を享けたのに5歳まで生きていけない」そういう子供たちが沢山います。今後はそういう海外の子供たちにも何かしてあげられないのか?という事で、次の段階のことを考えています。

ーそういった趣旨のミーティングに最終的には1000台以上のバイク乗りが集まった、スゴイことですね。

中山●確かにそうなのですが、問題も出てきたんです。「TOYRUN」の趣旨をよく理解していない人も出始めたんですね。大部分の人は「TOYRUN」を理解して共感してくださっていましたが、一部にマナーの悪い人が出てきて、パーツの盗難や酔っ払って暴れる人が出たり、ステージに乱入するような人が出たりと大変な状況になりまして「このままだと今後もっと大きなトラブルが起こるな」と思い、中止という判断をしました。

ー長年続けてきたミーティングを中止するのは勇気が必要だったのではないでしょうか?

中山●規模が大きくなってくると、私たちスタッフも来てくれた人と話す余裕もなく、「TOYRUN」の意義を伝えきれていなかったんですね。「TOYRUN」は「オモチャをもってくればパーティーに参加できる」イベントではなく、「恵まれない子供たちに夢を」という想いを理解して来て欲しかった。ただ、あれ以上の規模になるともう、最初の想いからずれてしまうと思い、残念でしたがオープンなミーティングとしての「TOYRUN」の中止を決めました。でも「TOYRUN」の活動は今も続いています。実はミーティングも事前登録制という形でやっていますし、ミーティングに来られない方でも「Moto-Com」にオモチャを送っていただいた方には「TOYRUN」のワッペンをお送りしています。「TOYRUN」の本当の趣旨を理解していただけている方の中では「TOYRUN」はまだ続いているんですよ。

ー事前登録制とはどのような形でしょうか。

中山●前年に来てくれた方だけに告知をお送りして、参加者を募って開催しています。告知をお送りした方が責任を持って連れてこられる方は参加していただいてもかまいませんし、新しく参加されたいという方は「説明書を送ってください」とご連絡をいただければ、ミーティングの趣旨やルールを書いたものをお送りしています。それを確認した上で申し込みをしていただき、ミーティングに参加してもらう、そういう形で運営しています。「うるさいことをいうミーティングだな」と思われるかもしれませんが、来てくれる人が安心して楽しめる場にするために、こういう形での開催になっているのはご理解いただきたいですね。来場者を増やすだけのミーティングはもう終わり、これからは質の高いミーティングを目指しています。来場者はなかなか増えないですが、今は盗難などもなく「TOYRUN」がはじまった当初のように平和ですよ。今は私たちも余裕をもって、自分たちの想いを伝えることもできています。1986年からはじまった「TOYRUN」ですが、18年かけて、やっと思い描いた「TOYRUN」になりつつあります。バイク乗りであるか無いかは関係なく、「他人に対する思いやり」や「優しさ」を持てる方であれば、是非ご協力ください。

プロフィール
中山 孝志
48歳。兵庫県神戸市にてカスタムショップ「モトコム」を営む。ハーレー専門店というわけでなく、「お客さんが持ってきたバイクをカスタムする」という独特なスタンスで営業中。また、キャンプミーティングでありチャリティイベントでもある「TOYRUN」の主催者としても活躍中。

Interviewer Column

毎年全国各地でたくさんのミーティングが行われており、中には数千人もの人が集まる大規模なものもある。人が増えてくれば、問題が出てくるのは仕方のないことなのかもしれない。が、どのようなミーティングであれ、主催する側の人たちには伝えたい「想い」が間違いなくある。「ミーティング」は企業のイベントではなく、文字通り「人との出会いを提供してくれる場」であるのだからのだから、主催者の方の「想い」を知ろうとする、そのくらいの思いやりは持ちたいな、そう考えさせられるインタビューだった。(ターミー)

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