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シートの本質を考え、シート造りに励む 今回ご紹介するのは東京都練馬区の「K&H」開発主任の上山 力さんだ。長時間乗っても疲れない、「K&H」のシートのそんな評判を耳にする機会は多いだろう。なぜ「K&H」のシートがそれほど評価が高いのか、その秘密を探るとともに、そもそもシートが持つ役割とは何なのか、シートは何を基準に選べばいいのか、についてお聞きしてきた。 「お尻が痛くならない」方法
上山●「快適」はウチのシートの一面でしかないですよ。「オートバイに楽しく乗ることができるシート」それがK&Hの造るすべてのシートのコンセプトです。「楽しく乗る」ために造る中で「長距離を走っても疲れにくい自然な乗車姿勢」「ステップやハンドル周りの操作をし易く」「車体を支えるための自然な足の着き方」などの工夫を凝らしているのですが、「快適」が一番わかりやすいのでそういうイメージがついているのでしょう。
上山●スタッフ全員がオートバイに乗りますし、実際に走らせながら造ったシートというのが大きいかもしれません。シートを製作する車輌はすべて、ノーマルの状態で長い時間乗ってみて、どういう動きをする車輌なのか、乗車位置をどこにすれば操作がし易いか、ユーザーと同じ立場に立ってシートを製作します。だから、そういう評価を得ることができたのでしょう。ただ「快適」というイメージだけが先行して「絶対にお尻が痛くならないんですよね?」と問い合わせをいただくこともあります。それは違いますから(笑)。
上山●シートだけではなく、ハンドルとステップの位置も重要です。ハンドルが高すぎたり、遠すぎたり、手前過ぎたりすれば上体が不自然になり、腰痛や、肩や首の凝りにつながります。ステップの位置も同様に自然な位置でないと疲れてしまいます。これからポジションを変えようと考えている方は、まずシートで乗車位置を決めてからハンドルなどを変更したほうが良いでしょう。シートに比べハンドル交換の方が費用と手間が少ないからと、ハンドルから替えてしまうと、シートを変えた後につじつまが合わなくなることが多いので注意していただきたいですね。 ハーレーのシートを造りはじめたとき
上山●「腰が痛い」や「お尻が痛い」と相談されるお客さんは多いですね。いろいろな車種に乗ってテスト走行をしているので、車種や体型や装着しているパーツを聞けばどういう状況なのかは大体わかります。シートだけでお尻の問題を解決できればいいのですが、手足の位置から相談に乗らないと解決できないお客さんもいます。かなりカスタムしてしまっている車輌のオーナーだと、お尻が痛い原因が「このパーツだろう」と薄々気付いていても、高いお金を出してしまっているので、どうにか自分を納得させて乗っている、そんな方がたくさんいます。
上山●その経験は大きいですね。でも、シートの本質を考えて造っていくと「乗って楽しい」に辿りつくんだと思いますよ。本来、シートは機能パーツなんです。座るためのシートで、操作するための形状なんです。デザインから造られるものではありません。機能を押さえた上でスタイルを造っていくべきなんじゃないかと。機能とデザイン、相反するように聞こえる、この二つを両立しようとしているのですから大変です。ただ、デザインには個人によって好みがありますし、人によって体型や使い方も違います。それらに対応するためラインナップが増えていくのですが、増やしすぎて型の置き場所に困っていますよ(笑)。
上山●うちがハーレーのシートを造りはじめたときは、業界からは異端児のように見られていたでしょうね。でも「乗って楽しいモノを」という信念を持ち、自分で乗りながらシートを造り続けてきたおかげで、最近やっと支持され始めたという感触はあります。ウチは「インジェクション製法」という、型枠の中にスポンジを流し込み、発泡させる製法でシートを造っているのですが、自分たちが納得できる発泡方法、型枠の作り方にたどり着くまで2年以上もかかりました。そんなノウハウはどこにもなく、全くの手探りだったんです。
上山●「楽しくオートバイに乗る人」が増えて欲しい、そこに尽きます。楽しく乗る人が増えれば、業界全体がもっと良くなる。オートバイ楽しそうに乗っていれば、他に乗りたい人も増えてくるはず。そのためにK&Hはこういうシートを提案し続けているんです。オートバイに乗ることの本質は「乗って楽しい」ですよね。でも、そこまで辿り着けず、オートバイのパーツをアレコレと着せ替えて「もういいや、疲れた」となってしまう。のんびり乗るつもりが急いでカスタムをして、本当の楽しさに気付かないままハーレーを降りてしまう。
上山●いつまでもハーレーが楽しめる、そういう環境を業界全体で用意できたら、きっとそれは「流行」ではなく「文化」になると思います。そのために、長く楽しめるいいシートを造り続けますよ。 INTERVIEWER COLUMN 過去に30人以上の人にインタビューをしてきたが、今回が今までで一番長いインタビューだった。インタビューをする前も、K&Hに遊びに行き、夜遅くまでじっくり話し込むことが何度もあった。上山さんの話には個人的に「ハッ」とさせられる部分も多く、今の自分のカスタムの方向が変わるきっかけになった。「乗って楽しい」。オートバイの本質は確かにそうなのだろう。どんなハーレーだったら自分は楽しめるのか、そんなことを考え出して、前よりもっとハーレーに乗るのが楽しくなっている自分がいる。シートを換えるだけでオートバイを乗り換えたような感動がある、それを教えてくれた上山さんには感謝している。(ターミー) |
上山 力 32歳。シート製作の名店「K&H」に長年勤め、開発からテスト走行、販売まで携わる。シートだけでなく、ハンドルやステップを含めた「乗車姿勢」について造詣が深い。「オートバイを楽しむ」を24時間考える彼への信頼は厚く、そのシートへのリピーターも多い。 |