VIRGIN HARLEY |  岩田 慎一(SPEEDBUGGY MOTORCYCLE SERVICE)インタビュー

岩田 慎一(SPEEDBUGGY MOTORCYCLE SERVICE)

  • 掲載日/ 2007年04月10日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

バイクの楽しさってきっとシンプルなモノ
その感動をお客さんに味わって欲しい

旧くからお世話になってきた人が独立してショップをOPENした、最近はそういう話を聞くことが増えてきた。ハーレー業界でも、世代交代が始まってきたということだろうか。そんな新世代のショップオーナーの中で、今回ご紹介する岩田さんは私にとって特別な存在だ。スポーツスターに乗り始めた頃から現在まで、カスタムやメンテナンス、ハーレーに関する知識までアレコレとお世話になった恩人の一人なのだ。「いずれは独立するんだろうな」と、目していた岩田さん。『SPEEDBUGGY』のOPENに際し、これまでのバイクライフから、どんなビジョンを持っているのか、改めてお聞きしてみた。

Interview

初めてのハーレーがアイアン
コンパクトなスタイルに惹かれました

ー岩田さんのバイクとの馴れ初めは?

岩田●中学生のとき、近所の川原でHONDA「DAX」に乗ったのが最初ですね。実家の倉庫にナンバー無しで転がっていたDAXを引っ張りだし、泥まみれになりながら遊んでいました。それまで自転車で同じようなことをして遊んでいたのですが、エンジンがついていてスロットルを捻るだけで走り出すバイクは新鮮で。「エンジンがついているってスゴイなぁ」と子供ならではの感動を覚えました。バイクとの馴れ初めは至って単純なものでしたね(笑)?

ーその後ハーレーに至るまではどんなバイク遍歴だったのでしょうか。

岩田●高校生の頃にHONDA「STEED」。高校を卒業してしばらくしてから「ランブレッタ」というイタリアの旧いスクーター。その後がアイアンスポーツ(ショベルヘッドのスポーツスター)ですね。アイアンスポーツは最初79年式XLHを、今は67年式XLHに乗っています。

ーランブレッタなんて珍しい選択ですね。70年代初期に生産中止になったメーカーですよ。

岩田●新宿に遊びに行ったときにたまたま見つけて…衝動買い(笑)。ただのスクーターとは違うレトロっぽい雰囲気が好きだったんですよ。機械っぽさの残るエンジン造形も気に入りました。もう買ってから10年以上たっているので壊れていますけれど、なんとなく手放せず、当時手に入れたランブレッタはまだ手元に置いてあります。

ーランブレッタからハーレーへはなぜ?

岩田●STEEDに乗っていた頃から、ハーレーへの憧れを持っていたんです。でも若い頃は予算的にハーレーなんて買えるわけがありませんから、真剣に考えたことはありませんでした。年齢的にも「夢のまた夢」のバイクでしたね。でも、20代半ばになると収入も多少安定し「ひょっとしたらハーレーを買えるかも」という状況になってきたんです。当時は塗装業の職人をしていたんですが、寝る間もないほど忙しくて。でもその分給料も良かったんですね。

ー初めてのハーレーでアイアンスポーツを選んだのは理由があったのでしょうか。

岩田●FXRかアイアンで悩んだのですが、コンパクトなフレームとあのエンジンの形が気に入りました。それでアイアンを探しはじめたら、取り扱っているショップはなかなかありませんでした。今でこそアイアンを扱っているショップも増えましたが、当時はアイアンとなるといずれ自分が勤める『イーストアーバン』しかなかったんです。アイアンを買うのがきっかけで、僕はイーストアーバンに出会いました。

ー念願のアイアンスポーツを手に入れて、トラブルに悩まされませんでしたか?

岩田●多少はありましたけど、トラブルも笑って楽しんでいたような気がします。ツーリング中にセルが回らなくなったことがありましたが、押しがけすればエンジンはかかりましたから、そのままツーリングを続けちゃっていましたね。九州の阿蘇を走っていたときにホイールベアリングが焼きついたときは、さすがにレッカーを呼びましたけれど、自分で対処できないトラブルなんてそれくらいだったかな。

ーアイアンで九州まで! 自走で行ったんですか?

岩田●買って間もない頃、ソフテイルに乗る仲間と走りに行きました。関西まで自走して、九州まではフェリー。そんなコースでしたね。

ー買ったばかりの旧車で九州まで…。怖くなかったんですか(笑)。

岩田●あまり「旧車を買った」という感覚はありませんでした。カッコいいバイクがたまたま旧いモデルだった、というだけでしたから。でも、九州ツーリングのときに仲間のソフテイルとアイアンを交換して乗ってみて「現行車はこんなに楽なのか!」と自分のアイアンは旧車なんだな、としみじみ実感しましたけれどね。アイアンに乗ってみた仲間も「慎くん、よくコレで九州まで走ってきたね」と笑われましたよ(笑)。

ーアイアンでロングツーリングは頻繁にしていたんでしょうか?

岩田●やる気まんまんでしたけれど、九州ツーリングが最後のロングになっちゃいましたね。その後、仕事をやめてイーストアーバンに勤めはじめたので、まとまった休みがなかなか取れなくなっちゃって。

ーイーストアーバンに勤めはじめた経緯は?

岩田●もともとお客さんとしてお店に頻繁に出入りしていて、まったりとした空気が流れる雰囲気が好きだったんです。それに当時は、代表の遠山さんはイーストアーバンだけでなく、HONDAのSLシリーズのようなオフロードバイクも扱うショップも別に経営していて、ハーレーもオフロードも好きだった僕にとっては好みがピッタリ合うショップだったんです。「メカニックになりたいから働きはじめた」というよりは「遠山さんのトコロで働きたくて、この世界に入ってきた」という感じでした。働き始めたのは27歳と周りに比べ遅かったのが不安でしたが、遠山さんに相談するうちに不安も消え、思い切ってこの世界に飛び込んできました。

シンプルな、土の香がするバイク
そんなバイクに惹かれてしまいます

ー下積みの時期は大変だったでしょう。

岩田●僕が勤めはじめた頃は、ちょうど人手不足の時期だったんですよ。よく言われるように「働き始めて何年かは洗車と磨きだけ」というようなことはありませんでした。遠山さんも穏やかな人柄ですから「殴られて覚えろ」みたいなこともありませんでしたし(笑)。恵まれた環境でスタートできたと思います。ただ「新人ですから」と甘えられる環境ではなかったので、わからないことがあれば周りの人にその都度聞いて技術を学びました。はじめの頃は「ココはどういう仕組み? 何でこんなトラブルが起こるの?」と質問ばかりしていましたよ。

ー現行モデルから旧いモデル、希少車まで触れるショップですから、なかなか得がたい経験ができたでしょうね。

岩田●旧いアイアンの中にXLCRというモデルがあります。日本にそれほど数がないはずのモデルがお店に何台もメンテで入ってきたり、毎日あらゆる年式のアイアンを触ったり、イーストアーバンじゃないと経験できなかったでしょうね。エボリューションエンジンのスポーツスターのお客さんも多かったので、スポーツスターの進化の歴史は自分の目で見て、触って知ることができました。

ー勤め始めてから岩田さんはアイアンスポーツをさらに旧いモデルに買い換えていますよね。スポーツスターを深く知るにつれて好みが変わったのでしょうか?

岩田●僕が最初に手に入れたのは高年式の1000ccアイアンでした。70年代の初頭までは900ccのアイアンが販売されていて、同じタイプのエンジンでもフィーリングがまったく違うんです。1000ccはパンチがあって結構速い、900ccはトコトコとマイルドで気持ちいいフィーリングが楽しい。車両のスタイルも900ccの方が大らかな雰囲気があって、あまり遠出をしない自分には900ccの方があっているかな、と。アイアンを知るにつれて好みが少し変わってきたんでしょうね。

ー仕事で深くハーレーに触れて、他にも考え方が変わったことなどはありましたか。

岩田●確かに「最初はカスタムがしたい」という気持ちが強かったですね。でも、日々整備や修理を手がけ車両の構造を知る中で、ひたすらカスタムを手がけて形にするだけではなく、車両を調子維持し続けていくことも面白く感じるようになりました。ショップのスタンスから影響を受けたんでしょうね。「調子がいいモノを無理に触る必要はない」というスタンスでしたから。カスタムするとしてもワンオフでモノを作ったり、もともとあった形を無理に崩したりするスタイルではなく、奇をてらわないスタイルが中心でした。

 

ただ派手なだけのカスタムではなく、センスよくカスタムすることを教わりました。派手なカスタムは一時はもてはやされますけれど、何年かたつとカッコよく思えなくなる。イーストアーバンには昔作った車両が載っている古い雑誌を持ってきて「これを作ってください」と、お客さんが来ることも珍しくありませんでした。これってかなりスゴイことで驚かされましたね。旧いバイク雑誌を見てもらえればわかりますが、今見てもカッコいいバイクってなかなかありません。どうしても流行ってモノがカスタムに反映されてしまいますから。「時代に流されない」だけではなく「コンパクトにシンプルにまとめるカスタム」を学び、手がけさせてもらいましたが、これは非常に難しいことでした。「派手に大柄に」作る以上にセンスが求められますから、これからの僕のモノ造りに大いに役立つ経験でしたね。

ーコンパクトやシンプル以外に、岩田さんが「おっ」と思うバイクの条件は?

岩田●抽象的な表現ですが「土の香がすること」でしょうか。60年代のアメリカの空気スティーブ・マックイーンの「On any sunday」や「さすらいのライダーブロンソン」に出てくるバイクの雰囲気。僕はまだ生まれてませんでしたが、当時のあの雰囲気を感じさせてくれるバイクに惹かれてしまいます。ハイテクな高性能なバイクも楽しいでしょうけれど、土っぽさを感じさせるバイクをお客さんに紹介して、楽しんでもらいたいですね。

ー土っぽさ、と聞くとつい「旧車?」と思ってしまいますが。

岩田●旧車だけではなく、最近のモデルでも僕の好きなノリを感じさせるモデルはあります。21世紀の今のモデルでも土の香がする大らかな雰囲気を持ったバイクはありますから。単純に旧いモデルが好きなわけでもないんです…言葉で説明するのは難しいですね。僕にとって「オートバイらしい」と思えるバイクは土っぽかったり、機械っぽいバイクが多いんですよ。

ーSPEEDBUGGYでは当然ハーレーを中心に扱うと思いますが、ハーレーのみというわけじゃないんですよね。

岩田●今、お店には自分のランブレッタ、SL90やモペットが並んでいるくらいですから、メーカーや車種を絞るつもりはありません。エンジンのついた二輪なら特にハーレーでなくても何でも好きなんですよ。チャリンコ小僧だった自分が川原でDAXに乗った感動が僕の原点ですから。あの当時のシンプルな感動をお客さんに味わってもらえればいい、そのためにはバイクメーカーがどこか、なんて重要なことじゃないんです。お客さんが感動を味わえるバイクを調子よく維持していくこと、スタイルを変えたいと思うならシンプルにカッコよくしていくこと。僕がこのお店でやりたいことはそんな単純なことなんです。

プロフィール
岩田 慎一
33歳、SPEEDBUGGY代表。老舗ハーレーショップ「イーストアーバン」にて長年修行を積み、2007年に独立。2台のショベルヘッドスポーツスターを乗り継ぎ、旧車から現行車まで豊富な経験を持つ。プライベートではSL90やランブレッタなど他メーカーの旧いバイクも楽しんでいる。

Interviewer Column

ハーレーに乗り始めてからの私のバイクライフに大きく関わってくれた岩田さん。普段はくだらない話ばかりをしていて、どんなことを経験してきて、これから何を成し遂げようとしているのか、改まって話を聞くのは非常に面白かった。私の大好きなショップであるイーストアーバンで学んだことを活かし、自らのショップ「SPEEDBUGGY」でどのようなバイクライフを提案していくのか、楽しみだ。まだまだスタートしたばかりのショップだが、まったりとした岩田さんの雰囲気から、きっと居心地のいいショップになるに違いない。プライベートで気兼ねなく遊びに行きたくなるお店はなかなかないけれど、「SPEEDBUGGY」はきっと私の新しいまったりスポットになってくれるだろう(ターミー)。

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