VIRGIN HARLEY |  秀島 憲一(ハーレーダビッドソンシティ川越店)インタビュー

秀島 憲一(ハーレーダビッドソンシティ川越店)

  • 掲載日/ 2009年07月21日【インタビュー】

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ディーラーメカニックの目で見る
ハーレーダビッドソンのコスモポリタニズム

メンテナンスリフトの向こうから現れたのは、鍛え上げられた身体に人なつこい笑顔。いまや世界で最も愛されるブランドのひとつとなったハーレーダビッドソンの人気を影で支えているのは、全国各地のディーラーメカニックだ。日本とアメリカで数多くのユーザーに接してきたベテランメカニックである秀島憲一さんを通して見るハーレーの世界は、あらゆる国のあらゆるユーザーを包み込み、懐は果てしなく広い。それはまるで、広大なアメリカ大陸そのもののような…いや、汎世界的なブランドとなったハーレーを取り巻く状況を形容するには、すでにその言葉はふさわしくない。ハーレーダビッドソンは、オートバイメーカーの中では稀な、強力なコスモポリタニズムを持っているのだ。

Character

まだ学生だった10代のころ、現在の愛車であるFXSTBソフテイル・ナイトトレインを手に入れたのがハーレーとのなれそめ。ディーラーメカニックとして地元仙台で7年間勤め上げた後、アメリカに渡り、単身アリゾナ州で本場の技術と雰囲気を吸収。その後、再び日本に戻り、現在の肩書きは、ハーレーダビッドソンシティ川越店のサービスフロントだ。通常の修理やメンテナンスのほかに、エンジンチューニングも得意とする。「最新のハーレーの魅力を伝えたい」というポリシーに基づいたユーザーとのコミュニケーション能力は、他のスタッフからも高く評価されている。

秀島 憲一 / ひでしまけんいち

  • 生年月日/1975年5月30日生まれ
  • 出身/宮城県仙台市/埼玉県川越市在住

Shop Infomation

ハーレーダビッドソン シティ川越店

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関東一円にハーレーダビッドソン正規ディーラー店を展開しているシティグループの川越店。川越市を横断する国道16号線に建つ巨大店舗だ。3階建て構造のショップは1階がショールームで、2階には談話室や車両預かりスペースがあり、3階にはダイノジェットをはじめ最新の設備を有する整備工場がある。また川越店で忘れてはならないのが、カスタムコンテストにおける入賞数の多さだ。ハーレーダビッドソン・ジャパン主催のコンテストでは毎年入賞ディーラーの中に名を連ねる存在で、他のディーラーから一目置かれる存在。最低限の条件を満たしつつもギリギリのカスタマイズを施すそのセンスの高さに、足を運ぶユーザーも多いと聞く。

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【左】3階建てのディーラー店。国道沿いでも大きな存在感を放っている【右】1階のショールームには、最新車両や各種パーツ、アパレル関係のほか、川越店自慢のカスタム・ハーレーも並んでいる
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【左】秀島さんをはじめ有能なメカニックの作業場である整備工場【右】2階の談話室。スペースの快適さもさることながら、来店したオーナーがいつでもくつろげるよう、各自のマグカップを保管しているのには驚いた
  • 住所/〒350-1165 埼玉県川越市南台2-3-19
  • 電話/049-249-2280
  • ファックス/049-249-2282
  • 営業時間/10時~19時
  • 定休日/水曜日
  • >> ウェブサイト

Interview

ハーレーを取り巻く本場の空気を
ダイレクトに感じてみたかった

ーまずは、ハーレーと出会うまでの経緯を教えてください。プロメカニックになるほどだから、きっとドラマチックな出会いがあったんでしょう?

秀島 ●ところがそうでもないんですよ。親戚がロスに移住していることもあって、アメリカの文化は、僕にとって子供の頃からごく身近なものでした。学生時代に、地元でチョッパーに乗っている先輩と仲良くなってハーレーに乗るようになったのも、そういう環境にいたからごく自然な流れだったんです。現在の愛車であるFXSTBを手に入れたのは11年前、学生時代のことでしたが、周りの影響もあって、すぐに自分で改造するようになりました。エンジンチューニングは最も得意なジャンルですが、当時からそれを追求したいという思いはありましたね。

ーその後、ディーラーで働き出して、やがてアメリカへ武者修行、そして再び日本へ戻り、メカニックを続けているわけですね。どうしてアメリカへ渡ろうと考えたのですか?

秀島 ●結果として仕事に結びついていますが、始まりはとても個人的な思いからでした。自分の中で、最新のハーレーをもっとダイレクトに感じたいというのがあったんです。最初に、カスタムショップじゃなく地元のディーラーで働くようになったのも、ハーレーの最新情報に接していたいという思いがあったからです。それで情報発信源をたどっていくと、当然ですが、どうしてもアメリカに行き着く。それじゃあ日本ではダイレクトじゃないのかと言われると困っちゃうんですけど…とにかくアメリカでハーレーを取り巻く環境がどんな状況にあるのかを、この目で確かめてみたかったんです。エンジンチューニングに関しては、最も進んでいるドラッグレースへの興味もありましたしね。アメリカには過去何度も観光で訪れていたこともあって、なんとなく様子は分かっていたし、決意も固まっていたから、特にきっかけもなく自分の行けるタイミングで渡米しました。そして、アリゾナ州のディーラーで「働かせてほしい」と頼んだのです。そうしたらあっさり雇ってくれると。ただ「今日の午後から働けるか?」というオーナーの申し出に対しては、「いや来週から…」と答えましたけど(笑)。

ー日本人であることのハンデは感じませんでしたか?

秀島 ● オーナーからは「日本人だからといって特別扱いはしない」と、非常にライトな感じで言われましたね。でもそれは、多民族国家のアメリカでは当たり前のことなんです。コミュニケーションはすべて英語だし、仕事については会社のやり方に従ってもらうと言われました。それでも最終的には、本当にいろんなことをやらせてもらえるようになりました。オーソドックスな修理やメンテナンスのほかに、ショップが所有するドラッグマシンのメンテナンスやチューニングを任されるようにもなり、レースメカニックとしてドラッグレースの現場に何度も足を運びました。そして、休日には日本から持って行った自分のバイクのエンジンをいじったり、それであちこち走り回ったりしながら、プライベートでもエンジンチューニングの研究をしました。おかげで持ち帰ったFXSTBは、ちょっとおおっぴらに走れないスペックになっちゃったんで、日本に戻ってからはまだ乗っていません(笑)。もちろん安全上は問題無いんで、近日中に公認車両として登録するつもりではいますけどね。

ー「自由の国」アメリカと日本では、相当状況が違うんでしょうね。

秀島 ●一般のお客さんに関してはそうでもないと思いますよ。アメリカにだってやたらと細かいことを言う人がいるし、ガレージにしまいこんでほとんど乗らない、いわゆる所有する喜びに価値を見出す人もいます。逆に、日本にだって、洗車なんか一度もしたことがないようなマシンで、雨が降ろうが槍が降ろうがおかまないなしという人もいるし…日本もアメリカも同じですよ。でも大枠では、ハーレーが好きな人たちって、日本人もアメリカ人も似ていますよね。体格とか言語の違いを除外してよく観察してみると、どちらにも似たような人たちがいるんですよ。これは世界中どこへ行っても同じなんじゃないかなあ。ただ、世界最高峰のドラッグレースと、日本でも有名な、あのアウトローモーターサイクルチームは別ですよ。お客さんの中に準メンバーみたいな人もいましたが、そういった世界を垣間見ることができたのは、アメリカならではの体験でしたね。後者については、日本人はあまり首をつっこまないほうが良いと思いますけど…。

ー秀島さんにとって大きなテーマであるエンジンチューニングについては、かなり収穫があったのではないですか?

秀島 ●現地のドラッグマシンはすごいですからね。AHDRAのトップフューエルクラスでは、日本でも有名な重松健さん(ハーレーダビッドソン・ブルーパンサー)も活躍していますが、健さんが見ている世界と自分が見ている世界には、まだまだ大きな差があると思います。でも、比べることに興味は無いんです。勝ったとか負けたとか、誰かと比べるんじゃなくて、自分のパフォーマンスを向上させていくのが、僕にとってはなにより楽しいんですよ。幸い、人に何かを教えてもらうことに全く抵抗を感じないように生まれついているので、誰かにものを教えてもらうことを恥ずかしいと思ったこともありません。物事の限界って、たぶん人が一人で決めるようなことではないと思うんです。まずやってみて、壁にあたって初めて自覚する。しかしその壁だって、3日過ぎたら状況が変わっている可能性だってある。いろんな事情でレベルが上がることもあるだろうし、逆に下がることもあると思う。先のことなんて分からないじゃないですか。でもたぶん、エンジンチューニングに関しては、頂点を見ることなく終わるんだろうな(笑)。そのくらい、世界のトップで戦っている連中はすごいです。ハーレーがほんの6秒ほどで400メートルを走りきる様子は、見ているだけで鳥肌ものですよ。

ー日本で自分のエンジンチューニングを試してみたいと思うこともあるんじゃないですか?

秀島 ●そうですねえ。でも、試す機会がありませんよね。仙台にいたころは、自分のバイクで試したことをお客さんのバイクにフィードバックしたこともありましたけど…。アメリカで実践してきたことをレースマシンで試してみたいという気持ちもありますが、日本では専用コースが仙台にしかないこともあって、そもそもドラッグレース自体がそれほど頻繁に開催されていませんからね。

ーモータースポーツはどうして日本で定着しないんでしょうね?

秀島 ●簡単に言うと危険だからでしょうか。向こうでは、登校するのにキックボードとか日本で言う遊びの道具を使ったりする子もいるんですよ。そして、それに対して大人たちは何も言いません。自転車で登校する子供に強制的にヘルメットをかぶらせる日本では考えられないでしょう? なにかを選択するときに責任は自分で持つという感覚が当然のこととしてあるから、そういうことができるんでしょうね。でも一方で、日本では子供たちの間で普通に稽古が行われている空手のようなものに対しては、何かあったときのためにうるさいくらいの誓約書を書かされたりするから、ちょっと分からないところもあるんですが…結局、受け入れてきたものが日本とアメリカでは違うんでしょうね。

ハーレーが引き継いできた
「言い表せない魅力」

ーそれでも、アメリカという国で生まれたハーレーは、文化の違いをものともせず日本でも多くのユーザーに愛されていますね。

秀島 ●ハーレーって、ものすごくたくさんの人たちを惹きつける素養を持っているのだと思います。ビューエルやスポーツスターのようなライトウェイトスポーツから、巨大なツーリングファミリーまで、多くのラインナップがありますし、1台だけとりあげても、ハーレーは、実に多くの魅力を備えているように見えます。さっき「ハーレーに関わる人たちは、日本とアメリカでそんなに変わらない」という話をしましたが、実は、典型的なハーレーファンの中にも、いろいろなことを言う人がいますよね。あるユーザーに聞くと、Vツインエンジンのバイブレーションがいいという答えが返ってくるし、別の人に聞くとスタイリングが良いという。また別の人はゆったりしたポジションがいいという場合もあるだろうし、中には、とにかくハーレーだから、ハーレーというブランドに憧れていたからという人もいます。

ーでも、そういうことを少し突っ込んで聞こうとすると…。

秀島 ●そう、だいたいの人がうまく答えられないんですよね。でも、それでいいんです。本当に魅力的なものは、必ず言葉では説明できない何かを持っているものです。僕も、自分がどうしてハーレーにこだわり続けるのかよく分からないし、うまく説明できません。だから、初めてのお客さんには、ハーレーについてくどくど説明する前に、まず乗ってみてほしいと思うんです。どんなことでもいいから何かを発見してほしい。そして、できればそれがどういうものか教えてもらいたい。そういうことがきっかけで、僕自身も新しい何かを発見できるかもしれないじゃないですか。それはどんなものであっても構わないんです。ユーザーがみな、それぞれのハーレーを発見できればそれでいい。ハーレーダビッドソンというメーカーが長い時間をかけて築き上げてきたのは、そういう“言葉に置き換えることができない何か”なんでしょう。

ーハーレーが世界中で多くのユーザーに受け入れられている理由は、その辺りにあるんでしょうね。

秀島 ●そういう“言い尽くせないハーレーの魅力”がきちんと伝わるように、マシンをしっかり整備し、世界中どこにいても同じサービスが受けられるようにすることが、僕たちディーラーメカニックの仕事です。オールドハーレーを否定するつもりはありませんが、僕自身は、毎年ハーレーが出してくるニューモデルがその時点での最高のモデルだと考えています。メーカー側が出してきたものを正確に理解し、その魅力をお客さんに伝え、逆に現場で把握した改善点をメーカー側にフィードバックしていく。そうやって、ほんの一部ですが、ハーレーが歴史を塗り替えていく過程を僕たちも担っています。その意味で、僕らはお客さんに対してだけでなく、ハーレーダビッドソンの歴史に対しても責任があると言えるかもしれません。

Interviewer Column

速さ、軽さ、利便性など、人は、いくつかの尺度を基準に乗り物を評価し、進化させてきた。本当の意味で愚かな子供だった僕は、「21世紀には、スピードも軽さも利便性も、とてつもないレベルに到達しているに違いない」と、そんな風に思っていた。しかし、現に21世紀のまっただ中にある日本で多くの人が選んだのは、とてつもないスピードで地上を駆ける万能マシンではなく、重く、不規則に振動を伝える、けして速いとは言えない乗り物だった。ハーレーダビッドソンは、ここ数年、大型バイクの新車登録台数でトップを維持しているのだ。その実績を評価するときに巧妙なマーケティングだけを挙げる人がいるとすれば(そんなやつはどこにもいないだろうが)、それは人間を全く理解できていない証拠だと言わざるを得ない。先行き不透明な未来を切り開く鍵の一部は、簡単にそれと言い切れないハーレーの魅力の中にあるかもしれない。

取材・文/小平晴史、写真/VIRGIN HARLEY.com 編集部・田中宏亮
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