VIRGIN HARLEY |  浦野 哲(海上自衛隊員)インタビュー

浦野 哲(海上自衛隊員)

  • 掲載日/ 2009年07月08日【インタビュー】
  • 取材協力/Fillmore-Trip-Cafe

ハーレーインタビューの画像

潜水艦乗組員と並行して始まったハーレーライフ
ハーレーは「ハーレー」という乗り物だ

神奈川県横須賀地区の海上自衛隊基地に勤務する浦野 哲さん。自衛官になって3年目となる1994年、映画『ハーレーダビッドソン&マルボロマン』を観て虜になったハーレーダビッドソンを新車で購入し、現在3台目のハーレーとなる愛車FXRスーパーグライドとの付き合いが5年目を迎えようとしている。過去にヤマハRZ250RやホンダNSR250SE、カワサキGPZ900Rというスポーツバイクを所有するなど、根っからの飛ばし屋という側面を持つ浦野さんに、彼ならではのハーレーダビッドソンの存在意義を聞いた。

Character

若い頃からバイクが好きで、そのバイク熱は成人しても変わらず。海上自衛隊に入隊後、それはさらにエスカレートした。切り裂く風に心地良さを感じるのは、何も勤務が水中だからではない。数あるバイクの中でも“速いバイク”が大好きで、それは友人からは「どんなバイクに乗ったって、乗り方は変わらないよ」と言われるほど。以前所有していたカワサキGPZ900Rは、まわし過ぎでエンジンを3回も壊した経歴を持つ。そんな韋駄天男もこれまで3台のハーレーを所有してきた。気さくな人柄で知人も多く、その大きな輪はハーレー業界内にも広がりを持つ。

浦野 哲/Tetsu Urano

  • 海上自衛隊員(海上自衛隊基地勤務)
  • 生年月日/1970年12月27日生まれ
  • 出身地/東京都文京区
  • 所有ハーレー/1991年式 FXRスーパーグライド

Owner’s Harley – Davidson

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1991年式 FXRスーパーグライド

映画『ハーレーダビッドソン&マルボロマン』の中でハリウッドスターのミッキー・ロークが跨っていたFXRスーパーグライドは、とても斬新で惚れぼれするハーレーだった。しかし、ハーレーの世界に足を踏み入れたきっかけとなったそのモデルと現在所有するハーレーは、まるで接点が見られない1台としてまとまっている。購入後にカスタムしたのはハンドルとマフラーだけで、「後はまったくそのまま」だというから大きな矛盾があるが、それはそれ。今後の展望はただひとつ、全塗装。「フレームを黒でパウダーコートして、外装は赤にしたい」そうだ。これまで乗り継いだ2台のクルマがともに真っ赤だったという赤好きの浦野さん。エンジンは絶好調で、自宅近くのショップ「BULL ORIGINAL」にて面倒を診てもらっている。

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【左】購入後に交換したスーパーバー。もともとはドラッグバーが採用されていた。ハイライザーはフリスコを意識したわけではなく、国内で流行ったその以前から装着していたとか 【右】フリスコテールにルーカステール、ショートサスも購入当初から付いていたもの。サスペンションはスポーツライドが期待できるオーリンズかビチューボ(イタリア製)を狙っているそうだ
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【左】お気に入りの2穴一体型のファットボブタンクも、購入当初から付いていた 【右】レーシーな2本出しマフラーはホットラン製。購入当初にブラックアウトしたのだが、エキパイ付近は熱で塗装が剥げてしまったため、現在キャブセッティングが交換を考案中

Interview

マルボロマンを観て火がついたハーレー熱
まわり道してたどり着いた念願のFXR

ー浦野さんはいつ頃からハーレーに興味を持ち出したのですか。

浦野 ●私の場合は、1991年に公開された映画『ハーレーダビッドソン&マルボロマン』がキッカケなんです。あの映画を見て、ハーレーに乗っているミッキー・ロークとドン・ジョンソンが「すごくカッコいいな、自分もハーレーに乗ってみたいな」って思いました。恥ずかしながら、そこが入り口です。

ーおおっ、その世代ですね。それまではハーレーにはまったく興味はなかったのですか。

浦野 ●バイクは昔から乗っていました。でもハーレー…というか、アメリカンバイクにはほとんど興味はなかったですね。テレビとかマンガで、たまにその姿を見る程度の記憶しかありません。

ー映画がキッカケでハーレーに興味を持たれたわけですが、その当時は、限定解除をするには試験場に行って試験を受けなければいけない時代ですね。試験を受けて限定解除をし、それからハーレーを探しに行った…といった感じでしょうか。

浦野 ● 限定解除は、仕事で神戸にいるときにしました。それから初めてハーレーの雑誌を買って、ミッキー・ロークが乗っていたあのFXRを探しました。彼が着ていた革ジャンの胸あたりにパッチが付いていて、そこに「FXR-S」ってあったんです。それで、「このバイクはFXRというモデルなんだな」と知ることができました。それで、とあるショップに売っているのを見つけて訪れたのですが、すでに売れていました。そしてなぜか、スポーツスターXL1200を新車で購入したんです。

ーFXRが欲しくて買いに行って…なぜスポーツスターになったのですか。

浦野 ●その頃はまだハーレーのことは全然詳しくなかったんです。またちょうどその頃に、雑誌に載っていたショップ「イーストアーバン」(神奈川県川崎市)にあるカッコいいスポーツスターのカスタムバイクを見ていたので、「スポーツスターでもいいな」という気持ちもありました。ほら、FXRとスポーツスターって横から見ると似ているじゃないですか、フレームの三角とか(笑)。

ーそういうことですね(笑)。では、自身のイメージはイーストアーバンに傾いていたということですか。

浦野 ●それが問題で、雑誌で見たカッコいいカスタム・スポーツスターというのが、後々よく見てみるとショベルヘッドのKフレームモデルだったんですよ。だから、同じスポーツスターでも全然違ったわけです。ちょっとショックでしたね(笑)。

ービギナー時代の恥ずかしい話をありがとうございます(笑)! その後のスポーツスターとの付き合いを教えてください。

浦野 ●買ったときのクーポンでハンドルとマフラーを変えました。通勤とかにも使っていましたよ。でもその後、腰にヘルニアを患って手術し、ハーレーに乗るのが少し辛くなってしまったんです。それで悩んだ末、「また体が良くなってから乗ろう」と思い、手放しました。持っていたら負担になってしまいますから。でも、当時から周囲にはバイク乗りが多くいたので、熱は一向に覚める気配はなく、腰が落ちついた2年後ぐらいに2台目のハーレーを購入しました。スプリンガー・ソフテイルをベースにしたカスタム車です。ワイドグライドフォークが付いて、21インチホイールにカスタマイズされていました。立ち上がったライザーにドラッグバーとスラッシュカットマフラーも装着されていましたね。

ー以前とは違う雰囲気のハーレーですね。何か心境の変化があったのでしょうか。

浦野 ●そういうわけではないんです。ちょうど欲が大きくなってきた頃に、通勤の途中で見つけた1台で、「カッコいいな」と思いまして。購入したところまでは良かったのですが、ちょうど出張が多くなった時期で、あまり乗れませんでした。そうして長期出張の際に知り合い宅に置かせてもらっていたのですが、盗難に遭ってしまったんです。あまり乗っていなかったとはいえ、ショックでしたね。その後、気持ちが落ち着いた頃に、今のFXRを買ったんです。

ーようやく最初の目標にたどり着いたわけですね。

浦野 ●第一印象は、「ものすごく乗りやすいバイクだな」という感じでした。最初のスポーツスターは腰高なイメージで、2代目のソフテイルはポジションがあまり良くなかった。このFXRは走りやすいですね。映画を見たときから十数年、ようやく乗れたかなという思いでした。最初からFXRにすれば良かったんですよね。でも遠回りしていろいろなモデルに乗れましたし、それはそれで良かったかな、って思います(笑)。

数十日間にもおよぶ海中での生活と
ハーレーに乗って太陽の元を疾走する楽しさ

ー浦野さんは自衛隊という特殊な職務を勤められているわけですが、入隊するきっかけは何だったのですか。

浦野 ●本当に、何となくだったんですよ(笑)。ちょうど高校の卒業式を間近に控えていたとき、クラスメイトが「陸上自衛隊に入る」って言ったんです。その頃私は、まだ仕事が決まっていませんでした。それで「俺も入ろうかな」なんてその友人に言ったところ、その翌日には自衛隊の勧誘の人が自宅まで来ました(笑)。それで一週間後には横須賀(※)にいました。新入隊員としてドナドナされて行きましたね(笑)。

※陸上自衛隊武山駐屯地内に、新入隊員が教育を受ける施設がある
ー現在は海上自衛隊で潜水艦に乗務しているとお聞きしましたが、その配属には「海が好き」とか「船が好き」といった、何か理由があったのですか。

浦野 ●最初の訓練期間に適正検査があるんですよ。そのとき「おまえ、潜水艦の適性あるけど、やってみるか?」って言われました。それで教育訓練で護衛艦に乗ったときに、「海もいいかな」って思ったんです(笑)。それで決まりましたね。そんな頃から始まった潜水艦乗りの勤務も、来年で20年目……早いものです。私を誘って入隊した友人は、教育期間(陸上自衛隊は2年間)で辞めてしまいましたから(笑)。

ー公にはできない話もあるかとは思いますが、少しだけ潜水艦のことを教えてもらえますか。

浦野 ●現在は、横須賀地区で潜水艦司令部に勤務しています。以前は実際に乗っていたのですが、腰を壊してしまってから陸に上がりました。さっきお話しした1台目のハーレーを降りるきっかけになった病です。潜水艦って、乗り込むひとりひとりが戦力になるので、ひとりが欠けるとまわりに負担が掛かるんです。それで自分が動けなくなってみんなに迷惑をかけるのが嫌だったので、潜水艦から降りることにしたのです。

ー潜水艦って国家機密的な部分があるとのことですが、そうなんですか。

浦野 ●はい。浮上した時も艦体にカバーを掛けますし、出港自体が秘密ですから。これは家族に対してもなんですよ。「いつ帰ってくる」というのも、「大体これくらいに帰ってこられるかも」みたいな感じでしか話せません。

ーやっぱり潜水艦の中って狭いんですよね。

浦野 ●ええ、広くはないですね。だいたい1回出港すると数十日間は海の中なんです。正確な日数とか速さは言えませんが、海の中で十数日を過ごした後に水面に上がると、太陽を浴びたときにいつもクラクラってしてしまいますね(笑)。

ーそれだけ狭いところで長い時間過ごしていると、無生にバイク(ハーレー)に乗りたくなったりしませんか。

浦野 ●そうですね、スポーツスターを購入した当時などは、結構ムチャな乗り方していたかもしれません。仕事を終えて帰ってきたら、すぐに寝て、夜中ずっと走り回って朝にそのまま出勤とかしましたよ。ある日曜の朝に、横須賀の自宅を出て神戸まで走り、夜中まで遊んでから走って帰ってきて、翌朝そのまま出勤したりしましたよ。時間があるときは、そんな遊び方をしていましたね。

ーでは、最近はハーレーとどういった付き合いをしているのですか。

浦野 ●以前から「自分でバイクをイジりたい」という気持ちがありまして、時には本格的にエンジン修理ができるレベルになるため工具を買い揃えようと思ったこともあったんですよ。でもある時、「自分でやったことが、どうしても信用できない」と思うようになってしまったんです。どう考えても私は素人なので、いくらマニュアルと特殊工具を備えようとも、そんな修理は信用できないな、と。その頃から、信用のできるショップに依頼するようになりました。

ー信用できるショップというと、何か基準はあるのですか。

浦野 ●私の場合は何度も通って話をして、それで自分の中で信頼が持てれば頼むという感じです。だから、その信用しているお店側から言われた値段に「高い」とか、提示してきた提案に「嫌だ」とかは言わないようにしています。

ー宝物のような大事なハーレーを預けるわけですから、それぐらい徹底した信念はある意味当然なのかもしれませんね。

浦野 ●はい。でも、私は何もハーレーだけが好きなわけではないんですよ。バイクそのものが好きですね。今でも、ハーレー以外に欲しいバイクはあります。速いバイクが欲しいですね。無節操なんですよ(笑)。

ースピードの出るバイクが「速いバイク」なら、浦野さんの中でハーレーとはどんなバイクですか。

浦野 ●ハーレーはオートバイとかという感覚ではないですね。ハーレーは、「ハーレーという乗り物」だと思っています。「ハーレーなんてバイクではない」って言う人もいるけれど、ハーレーはハーレーという乗り物だと考えればいいでしょって思うんです。私は「ハーレーは、ハーレーだ」って言いますね。

ーそんなハーレーという大好きな乗り物の中で、一番好ましいFXRというモデルを手に入れられたわけですから、今後の展開は考える余地はなさそうですね。

浦野 ●いえ、そうでもないですよ。新車としてラインナップされていないFXRをツインカムで作る野望はあります。現行のFL系モデルをベースにすれば、なんとなく形になりそうじゃないですか、横の三角とか(笑)。

ーということは、そのツインカムFXRでマルボロマンを作るのが、最終目標ということでしょうか。

浦野 ●(きっぱりと)マルボロマンはないですね、どう見ても乗りにくそうですから。あのフレームに、リジッドバーを入れる感覚が分かりませんね。今さらですけど、変ですよ。なぜあのスタイルがカッコいいかというと、ミッキー・ロークの背の高さと脚の長さ、そしてお姉さんが乗っているからなんですよね(笑)。

Interviewer Column

哲さん、楽しいお話をありがとうございました。僕としては正直なところ、哲さんのハーレーの話よりも、潜水艦の話が楽しくて楽しくて。たぶん、知り合いに潜水艦乗りがいる人なんて、世界を見渡しても数少ないんじゃないかな、と誇りに思っています(大袈裟ですが)。特に「国家機密」なんて言われると、聞きたくなるんですよね。今度、飲みに行ったときにでも魚雷の話とか微妙に聞き出すのでお願いします(笑)。また年末には、あのでかいカメラマンの手伝いを共にする感じですね。今後ともよろしくお願いします。

文・写真/佐々木孔一朗
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