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インジェクションの全て

ハーレーにインジェクションが採用されたのは1997年モデルからのこと。日本で販売されたモデルでは、つい最近までキャブレターモデルが主流だったものの、すでに10年以上の実績を持っているのだ。実際、アメリカ本国で販売されているモデルではTC88の頃からインジェクションモデルがかなり普及していた。2007年にTC96が登場したのと同時に、スポーツスターを含めた全モデルがインジェクション化されて今や3年目。ユーザー間でもインジェクションに対する抵抗感は少なくなってきた。それと同時にインジェクションチューンが話題に上ることが多くなり、VIRGIN HARLEY.com の掲示板でも盛んに情報交換が行われている。そこで今回の特集では、インジェクションのイロハから実際にインジェクションチューンを行った車輌のダイノマシンでのデータまでを紹介しよう。これからインジェクションチューンを行うユーザーの皆さんは参考にして欲しい。

インジェクションを知る

インジェクションの仕組みインジェクションって何?
どういう仕組みになっているの?

まず「そもそもインジェクションってどんなシステム?」ということを説明しよう。インジェクションは、車の世界では「EFI(Electronic Fuel Injection)」などと呼ばれる電子制御の燃料噴射システムのこと。従来は機械式で行っていたガス供給量と、プラグから火花を飛ばす点火タイミングの調整を行うことだ。それがコンピューター制御になることで、機械式では限界のあったガスの供給や点火タイミング調整をエンジンの状態に合わせてコントロールしているのだ。

 

インジェクションシステムはECMとインジェクターの2つから成り立っている。ECMは人間でいう脳の役割を果たすコンピューターだ。車輌の各部に設けられたセンサーからエンジン回転数や温度、吸気温度、エンジンから排出される排気ガスの状態を分析する。そして、最適な量のガス射出をインジェクターへ指示し、点火タイミングも制御しているのだ。

 

ECM

インジェクション採用モデルでは必ず搭載されているのがECMと呼ばれているコンピューターだ。どのモデルでもシート下に収納されている。インジェクション採用モデルで、それまでのキャブレターモデルとシートの互換性がないのは、シートベース下にこのECMの逃げのスペースが設けられているため。

インジェクター

キャブレターの代わりに採用されたのが、上記のインジェクターだ。コンピューター制御でガソリンを射出(=inject)することから、こう呼ばれている。エアクリーナーBOXの裏側に隠れているため、外観をスポイルすることはない。ハーレーにインジェクターが採用されて以来、3度の変更が行われている。

Delphi製インジェクションシステムの変更点

2001~2003年 2004~2005年 2006年 2007年~
MAP 低速~高速までストレスなく回る。 94db加速騒音規制に対応させたため、始動時のツキが悪く、低回転でのスロットルレスポンスが損なわれた。 排気量が上がり、MAPや点火時期も見直され、2004~2006よりは低回転時のレスポンスが改善。
インジェクター 2006年途中からより性能のいいインジェクターに変更され、霧化性能も向上している。
インジェクションチューンを考えている多くの人はTC96以降のユーザーだと思うが、現在のDelphi製のモノには2001年以降で3度の変更が加えられてきた。2003年式までのインジェクション採用モデルでは低速でのトルクの細さは感じづらいが、2003年9月から輸入車導入された加速騒音規制のため、2004年式~2006年式モデルでは低中速の出力・トルクが抑えられたデータとなっている。ビックツインではTC96採用以降の2007年式からは排気量の拡大と点火タイミングの見直しによって、低速時もスムーズに改善された。
インジェクションチューンの最大の目的は、各種規制により抑えられているエンジン本来のポテンシャルを引き出してやること。そのため、ノーマルの状態でECMを交換するだけでも違いを体感できる。燃焼効率や点火タイミングを最適なものに変更する場合は、キャブレターモデルでのキャブ交換のように、トルクと引き換えに燃費が悪くなってしまうことはない。また、(時間さえかければ)いかようにでもデータを変更することができるため、好みのエンジンフィーリングを作りあげることも可能。なお、ノーマルのECMではアイドリング回転数を下げられないため、その目的でECMを交換するユーザーも多い。
インジェクションチューンの
カスタムパーツあれこれ

現在、国内で販売されている代表的なモノでは、Zippers「サンダーマックス」・Daytona Twintec「インジェクションコントローラー」・DynoJet「パワーコマンダー」・Vance&Hines「フューエルパック」などが挙げられる。上記パーツはキット内容によって“フルコン”と“サブコン”の2種類がある。“フルコン”とはノーマルのECMを取り外し、コンピューターを丸ごと交換するシステムで、“サブコン”はノーマルのコンピューターを活かしつつ、サブコンピューターとしてパーツを組み込むシステム。「サンダーマックス」と「インジェクションコントローラー」は“フルコン”にあたり、コンピューターを丸ごと交換するため、高価な価格設定になっている。一方、“サブコン”である「パワーコマンダー」や「フューエルパック」はフルコンの半額程度の金額で購入できるので、こちらの方が手頃な価格で手に入れることができるのが特徴だ。「“フルコン”と“サブコン”の違い」を簡単に紹介すると“サブコン”はあくまでノーマルのデータを基にして調整を行うため、大きくノーマルから外れた変更ができないこと。一方“フルコン”はコンピューターをまったく新しいモノに交換してしまうため、自由な変更が可能となっている。

 

サブコン

ノーマルECMのデータをベースに限られた範囲内で補正するシステム。アイドリング調整機能はない。

フルコン

自由にデータが書き換えられるため、あらゆる仕様のモデルをセッティングすることが可能。

サブコン

排気ガスを分析し、ECMでデータの微調整を行ってくれるセンサー。ECMとセットで販売されている。

計測数値で見る
インジェクションチューン

ユーザー間でのインジェクションチューンの話題を見ていると、「ECMを交換したらどうなるの?」という質問が多い。ノーマルから愛車がどのように変化するのか、そこは当然ながら気になるところだろう。そこで、今回はスポーツスター883、スポーツスター1200、ビックツインの3モデルをインジェクションチューンした場合の、出力とトルク変化のデータを公開することにしよう。このデータは日本のハーレーインジェクションチューンの第一人者、埼玉県の「BURN HD SPORTS!(以下、BURN)」にてダイノマシンで計測されたデータだ。使用されたECMはZipper’s製「サンダーマックス」となっている。ベースとなった車輌はなるべく近年のモデルからチョイスしており、年式によってノーマルのECMデータに違いがあることはご理解いただきたい。なお、「BURN HD SPORTS!」ではかなりの数のインジェクションモデルのデータをストックしているため、自分の愛車をサンダーマックスでチューンした場合の変化や、エアクリーナーやマフラーの条件などもおおよそ合ったデータが見つかることだろう。気になる人はショップにて相談して欲しい。

モデル1

マフラーはノーマルのまま、インジェクションチューンを考えている方は多いだろう。エンジンのポテンシャルを最大限に引き出すには吸排気をセットでチューニングするのがベストだが、昨今の厳しい規制や、近所への配慮を考え「マフラーはノーマルのままで」とオーダーするユーザーは多い。しかし、エアクリーナーだけは吸入量が多いものに変更することをオススメする。点火時期やガスの射出量・タイミングを調整するには、エンジンに送り込む空気の量を増やしてやる必要があるからだ。BURNではS&SやZipper’s製エアクリーナーに交換することが多いとのことだが、サンダーマックスとエアクリーナーを交換すれば、ノーマルマフラーでも充分にチューニングは体感できるレベルにあるという。それでは3モデルのノーマルとチューニング後のデータを比較してみよう。

 

2007年式XL883

出力はノーマルの最大40馬力から48馬力へ、常用する2000~2500回転での谷間が無くなっているのがわかるだろう。谷間がなくなるのはトルクでも同じ。もっとも多用する回転数で馬力、出力とも綺麗なカーブになるため、乗りやすくなる。

2007年式XL1200R

883と同様にXL1200Rでも、ノーマルでは2000~2500回転で出力とトルクの谷間が見られた。これは加速騒音規制に対応させるため、抑えられていると考えられる。マフラーはノーマルでもエアクリーナーとECMを交換するだけで10馬力ほど出力が上昇した。

2007年式FLHX

ビックツインはTC96エンジンで排気量が拡大されたことで、ノーマルでも綺麗なカーブとなっている。しかし、インジェクションチューンを行うことで、出力もトルクもさらに増大させることができることが、このグラフの数値からわかった。

モデル2

規制により出力、トルクともに抑えられているハーレーのエンジンのポテンシャルを引き出してやるためには、やはりエアクリーナー、マフラーの交換が望ましい。上記モデルケース1のデータとカーブの描き方は似ているように見えるが、同じ回転数での出力・トルク数値は明らかにモデルケース2の数値の方が上回っている。本来のポテンシャルをできるだけ引き出してやりたいならば、吸排気の両方を交換するこのプランをオススメしたい。

 

2007年式XL883

エアクリーナーのみの交換データと比較すると、常用回転数では大きな差はデータ上からは見受けられないが、3000回転を超えた以降のカーブの上がり方はマフラーも交換した車輌の方が大きい。最大出力、トルクともにモデルケース1より上となっている。

2007年式XL1200R

XL1200Rの場合はマフラー交換の有無は、2000回転前後から差となって出てくる。出力の上がり方も大きく、トルクについてはモデルケース1でノーマルと同様に表れていたトルクの谷間が、モデルケース2では発生していない。

2007年式FXD

ビックツインの場合、マフラー交換まで行う差はトルクの谷間の有無、トルクカーブの上がり方に顕著に見られ、低回転からより太いトルクを発生している。出力もモデルケース1の場合より大きくなっており、回転数が高くなるにつれ、差は明らかになってくる。

モデル3

スポーツスターの場合、モデルケース3のようにカム交換を行う必要はない。もちろん、リプレイスカムもあるものの、そこまでしなくても吸排気チューンのみでエンジンポテンシャルのかなりの部分を引き出すことが可能なのだ。それはBURNで数多くの車輌を手がけてきたデータから実証されている。

 

しかし、ビックツインの場合は吸排気チューンのさらに上のカスタムとしてカム交換も有効だ。BURNの試乗車となっている2007年式FXDはエアクリーナーとマフラーに加えTW26Hというカムに交換され、ノーマルと排気量は同じながら、まったく別物のマシンへと変貌を遂げている。ノーマルとは比べものにならない出力、トルクを実現しながら、全回転域でスムーズな乗り味となっているのだ。低中速を楽しむことができるのはもちろん、高速ではどんな速度からでもスロットルを捻ればグングン加速。乗り手にTC96の真の実力を知らしめることだろう。モデルケース2のデータと比較してみると、2000回転以下でトルクの差が明らかになっている。出力については回転数が上がるほどに数値の差は拡大。高回転時には10馬力近い出力差が発生している。

2007年式FXD

shop883とダイナは試乗車があります。
実際に乗って体感してみてください。

インジェクションチューンで愛車がどう変化するのかは、口で説明するのが難しいんです。そこで、今回データを提供させていただいたのですが、体感的な気持ちよさや力強さはデータだけを見てもわからないものがあります。気になる人はお店に遊びにきて試乗してみてください。よくお客さんに尋ねられるアイドリングについてですが、650回転までなら下げても大丈夫。それ以上となるとオイルポンプの交換が必要になってきます。ただし、3拍子はオススメしていません(ハーレーらしいサウンドはできますよ)。データ的には作ることができますが、エンジントラブルの原因になりますから。

 

SHOP / BURN ! H-D SPORTS

代表 / 奥川 潔氏