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インジェクションチューニングのススメ
    取材協力/DYNOMAN・野口商会 取材・文/青木タカオ 撮影/箱崎 太輔 (photographer) 構成/Virgin-HARLEY.com編集部
    掲載日/2012年9月26日(水)

野口商会に聞く! インジェクションチューニングの真実

オーナーそれぞれにあるベストセッティング
それを提供するのが我々の仕事

――インジェクションチューニングとは、どういうものなのでしょうか?

坂口 ●マシンが本来持っている性能を最大限に引き出し、かつ十人十色のオーナーの乗り方に合わせた状態を作り上げることだと考えています。弊社では、さまざまなインジェクションコントローラー (サブコンあるいはフルコン) を使って燃料の噴射量を調整し、場合によっては点火時期なども見直しつつライダーそれぞれに合った車両を作り出します。

――ハイパフォーマンスを追い求めるだけではないのですか?

坂口 ●セッティングは、サーキットなどを速く走るためのものだけではありません。「もっとパワーが欲しい」という要望にも応えられますが、目的はそれだけではないのです。市街地を走るのに乗りやすくして欲しい、ツーリングで疲れないバイクにして欲しいなど、オーナーのさまざまな要望に応えることが目的です。

――乗り手によってチューニングもそれぞれ異なるということですね。

坂口 ●ストップ&ゴーを繰り返す状況下で乗ることが多い人、高速道路をゆったりと流す人、あるいは高回転を使ってギンギンに走る人、コーナリング特性を高めたい人、タンデムが多い人、乗る人の環境やアクセルの開け方、好みはそれぞれ異なります。オーナーとそのマシンに見合うベストな状態を導き出すことが、インジェクションチューニングだと考えています。

テクニカルマネージャー
坂口 真一 氏

ハーレーのプロメカニックを目指し、単身渡米。H-D 社の委託を受け、ディーラーのメカニック対象のトレーニングをおこなう養成学校「MMI」を卒業。帰国後はハーレーだけにとどまらず、サーキットなどであらゆるメーカーの車両で F.I.チューンを追求。愛車は2007年式 FXD。

――我々が普段ハーレーに乗っていて、「おやっ、インジェクションの設定を見直さなければならないのかな?」と思うのは、たとえばマフラーやエアクリーナーを交換したら、なんだか調子が悪くなってしまった。バックファイヤーが出て困った。そういう症状が出たときですが、それも解消してくれるのですね。

坂口 ●はい、よくある症状ですね。抜けの良いマフラーあるいは吸気効率の良いエアクリーナーに交換したがゆえに、吸気と排気のバランスを崩してしまい、乗りにくいバイクになってしまった。しかしながらサウンドや見た目には満足しているのでそのまま我慢してしまうというパターンです。カスタムを楽しみたいとせっかく高価なパーツに交換したのに、セッティングはノーマルのまま。それではベストパフォーマンスは得られません。マシンを健康な状態で、長く維持させるためにも適正なセッティングを施す必要があります。

――インジェクション車はコンピュータ制御ですから、勝手に調整してくれるのではないのでしょうか?

坂口 ●スロットルポジションや O2 など各種センサーから適正な空燃比を割り出すのが電子制御フューエルインジェクションの特徴ですが、調整範囲には限度があり、マフラーなどを交換すると補正しきれなくなってしまうのです。

――ノーマル車両ならば、セッティングは無用ですよね?

坂口 ●現行車の場合、排ガス規制等の問題でメーカーは燃料の供給量を薄めに作っているのが現状です。その設定は計算され尽くしたもので本当によくできているのですが、マシンが持つポテンシャルを最大限に引き出しているかと言われればノーです。「こんなものか……」と、諦めてしまう人が多いのですが、それではせっかく買ったハーレーが泣いています。

――サブコンやフルコンと呼ばれるインジェクションコントローラーを付ければいいのでしょうか?

坂口 ●インジェクションコントローラーはあくまでもツールに過ぎず、それを取り付けただけではベストセッティングは出せません。弊社ではまずシャーシダイナモでパワー特性を徹底的に追求し、オーナーによる実際の走行でベストな状態を突き詰めていきます。アクセルレスポンスはどうか、低中回転域のトルクは十分か、高回転域の伸びはどのくらい欲しいか……。それは乗り手によってさまざまですから、オーナーの要望を聞きながら作業を進めていきます。

――そもそもサブコンとフルコンの違いはどこにあるのでしょうか?

坂口 ●まず、インジェクションシステムは ECM とインジェクターの2つから成り立っています。ECM は人間でいう脳の役割を果たすコンピュータで、車両各部に設けられたセンサーからエンジン回転数や温度、吸気温度、排気ガスの状態を分析します。そして最適な量の燃料を射出するようインジェクターへ指示し、点火タイミングも制御しています。サブコンは司令塔である ECM に補正信号を送りコントロールするのに対し、フルコンは純正ECMに依存せず独立して完全な制御ができます。調整幅を考えればフルコンですが、サブコンでも十分に満足のいくセッティングが可能です。

――どの製品がいいのでしょうか?

坂口 ●それぞれに特徴があり、性能は異なりますが、燃料噴射量や点火タイミングを調整するという目的はどれも同じです。調整範囲など機能面に差はありますが、どれが良いとか、どれがダメという考え方は間違いだと思います。どのインジェクションコントローラーを用いるかは、どんな乗り味を求めるかユーザーと相談しながら、予算に応じて決めていただくようにしています。

――巷では、「あれがいい」、「これがいい」といった声がありますが、肝心なのはそれを使ってどんなセッティングを施すかってことなんですね。

坂口 ●もちろん取り付けただけでも、既成の汎用マップによりそれなりの効果は得られますが、せっかくのセッティングツールですから、存分に性能を発揮させなければもったいないと思います。まずは取り付けるだけで自分であれこれ調整してみたいという人もいますので、それも大歓迎です。「自分でやってみたけれど、どうしても満足できない部分があるからやっぱり見て欲しい」、そんな人もたくさんいらっしゃいますからね。

――既成のマップとは、どういったものなのでしょうか?

坂口 ●アメリカあるいはヨーロッパ等で作成したマップということは、日本の環境 (気候、標高、燃料のオクタン価) とは異なる場所で作り上げたものです。想定される速度も違えば、アクセル開度も異なるはず。そもそも車両すべてに個体差がありますし、乗り手のクセや好みも違う。あくまでも汎用マップです。

――セッティングはどういう流れで行われるのでしょうか。?

坂口 ●まずはシャーシダイナモを使ってオーナーの要望に適ったマップを作成します。その後、実際にオーナーに走っていただき、微妙な部分を調律していくという流れです。個々の車両・オーナーに合わせたセッティングを施すことが、車両にとって一番良いことであり、そのお手伝いをするのが我々の使命だと考えています。

野口商会に聞く! インジェクションチューニングの真実

今回はハーレー用に開発されたフラッシュメモリータイプのデバイス「パワービジョン」(ダイノジェット製) を用いてセッティングを施してもらい、その車両を実際に試乗した。作業自体はいたって簡単だが、キモとなるのは最適なマップをつくり出すノウハウと経験。坂口さんの腕の見せどころは、まずシャーシダイナモ上での PC とのにらみ合い。ディスプレイされたパワーカーブを繰り返しチェックすることに始まり、実際に乗ったライダーの意見を聞く対話でフィニッシュにいたる。

 

まずはマッピング

シャーシダイナモと PC 2台でエンジンの出力特性 (パワーカーブ) を徹底的にチェックし、補正ポイントを検討・確認。シャーシダイナモ上で最適な状態のマップを PC で作成する。シャーシダイナモと PC 2台でエンジンの出力特性 (パワーカーブ) を徹底的にチェックし、補正ポイントを検討・確認。シャーシダイナモ上で最適な状態のマップを PC で作成する。

 

まずはマッピング

PC で製作したマップをパワービジョンに移行した後、車両側のメンテナンスポートにパワービジョン本体をワンタッチ接続。PC で製作したマップをパワービジョンに移行した後、車両側のメンテナンスポートにパワービジョン本体をワンタッチ接続。

 

まずはマッピング

タッチスクリーンのカラーディスプレイでマップを選択し、ECM を書き換える。パワービジョン本体には6種類のマップが保存でき、もちろんノーマルもセーブ可能。タッチスクリーンのカラーディスプレイでマップを選択し、ECM を書き換える。パワービジョン本体には6種類のマップが保存でき、もちろんノーマルもセーブ可能。

2012年式 CVO FLHXSE3
ストリートグライド

1801ccもの排気量を持つツインカム110を専用ホイールをはじめとした豪華絢爛な車体に搭載。贅の限りを尽くしたモデル。

 

[車両協力]

ラッキーズサイクルサプライ

住所/兵庫県加古川市尾上町安田244-1
Tel/079-422-5660
>> ウェブサイト

チューニング完了モデルをインプレッション!

ギクシャクして乗りづらかったマシンが
パワフルかつスムーズに吹け上がる!

テスト車両はゴージャスな外装を持つ CVO ストリートグライド。豪快なサウンドが楽しめる、抜けのよいリプレイスマフラーが装着されているものの F.I.セッティングはノーマル状態のまま。1,801cc の排気量にものを言わせ、それなりに走るはずだが、そんな予想とは裏腹にアクセルの開け始めでギクシャクしスムーズに回っていかない。中回転域でもトルクが落ち込むところがあり、これではオーナーにとってストレスだろう。せっかくの CVO がもったいないと感じる重症レベルだ。

 

とはいえ、テスター (筆者) がこれまでのオーナー取材を通じて感じていることだが、このくらいの状態で乗り続けるオーナーは決して少なくないのが現実。ベストな状態を体感しないまま毎日乗っていれば、こんなものだろうと諦めてしまっていることがほとんど。セッティングを見直そうというオーナーは、残念ながら実際には多くないのである。

 

まずはセッティング前の状態で乗ってみる。抜けの良いマフラーに換装されているため、吸排気のバランスがガタガタ。アクセルを開けるとギクシャクするところがあり、不満点はすぐに見つかった。

 

DYNOMAN・野口商会がある大阪府大東市、そのガレージの周辺をひとまわりした後、不満点をあれこれと坂口さんに伝えると、待ってましたと言わんばかりに用意していたマップに書き換えてくれる。今回使ったインジェクションコントローラーは、アイドリング、加速ポンプ、レブリミッターの回転、燃料の噴射時間、点火タイミング、暖気運転調整、O2 センサーの解除などができるダイノジェット製のデパイス「パワービジョン」。接続は車両側のメンテナンスポートにワンタッチで、いたって簡単。ハッカーまがいの知識を駆使しなければ純正 ECU をいじらせない車両メーカーもあるなか、ハーレーの ECM にはセキュリティロックなどはなく、F.I.セッティングのユーザー関与にメーカー側も寛容であることが改めて分かる。

 

パワービジョンの操作はタッチスクリーン式で、画面を見ながら簡単に操作できるのが特徴。画面上には6つのマップが保存されており、坂口さんはあらかじめ用意したそのうちのひとつを選んだ。キャブ時代ならジェット類を取り替えたり、点火時期の進角/遅角は面倒な作業だったが、F.I.モデルはコントローラーをカプラーに接続するだけで自由自在だからセッティングがより身近になったと言える。これまで興味のなかった人もセッティングに関心を寄せる機会が飛躍的に増していることは、坂口さんのようにその重要性を早くから感じ、真剣に取り組んでいる人にとってはプラスとなったことだろう。

 

乗り手の意見はすぐに反映される。坂口さんはパワービジョンで別のマップに切り替え、ライダーの好みをさぐる。妥協せず、好みのエンジンに仕上げてくれる腕前は、さすがとしか言いようがない。

さて、セッティング済みの CVO ストリートグライドに乗ってみる。その違いはクラッチをミートした瞬間から体感でき、巨体が滑らかに動き出した。セッティング前は半クラッチを当てつつアクセル操作に慎重になる必要があったが、ラフに開けてもついてくるからツインカム 110 の加速がよりエキサイティングなものに生まれ変わった。タイトコーナーからの立ち上がりでは、スロットルレスポンスに不満を感じていたがそれも解消。潤沢なトルクとともにスムーズに高回転域まで回り、アクセルを大きめに開ければ胸のすくダッシュが味わえる。

 

明確に乗りやすくなったことを伝えると、坂口さんは再びマップを書き換えた。今度のセッティングは電子制御スロットルのレスポンスが鋭くなり、開け始め (アクセル開度 1/8 付近) のツキが気持ち良く、マシンを自由自在に扱える感覚が得られた。アクセルワークが 1:1 の感覚に近く、Uターンなど細かい動きがしやすくなったのだ。

 

マップ書き換え後はセッティング前の不満点を完全に解消してくれ、マシンのポテンシャルが上がっただけでなく扱いやすさも向上。セッティング前後の違いは明白で、自分好みの味付けに愛車が変身していくこの感覚は、オーナーにとってはこれ以上ない贅沢だと言えよう。

このへんまでセッティングを詰めてくると、あとは乗り手の好みや走行環境によってアジャストしていくだけとのこと。スロットルレスポンスが鋭すぎて乗りにくいと感じる人もいれば、その逆もまた然り。トルクを出し過ぎるとアクセルが開けられなくなり乗りにくいと感じる人もいるし、ピックアップの良さを求めるオーナーもいるからそこは千差万別。セッティングを通じての坂口さんとのやりとりは実に楽しく、時間が過ぎるのを忘れてしまうほどだった。

 

高価なパーツを取り付けるのとは
また違った喜びと価値がある

モトクロスのサンデーレースを趣味で楽しむ筆者は、インジェクション化した最近のモトクロッサーでセッティングの必要性は十分に感じていたが、それはあくまでもクローズドコースを速く走るためのものであり、行動をノンビリと走る分にはさほど影響のあるものではないと考えていた。しかしながら今回、ハーレーでもセッティングを施すことで乗りやすさや気持ち良さが倍増することを実感。エンジンのフィーリングを楽しむハーレーこそ、その効果は絶大ではないかと考えを改めた。

 

優秀なチューナーとの、マシンを挟んでのやりとりは非常に贅沢なものだ。「そこはこうして欲しい」、「ここは解消して欲しい」と要望を伝えると、即座に応えてくれる。自らもハーレーオーナーで、その魅力と楽しみかたを知る坂口さんの方向性の導き方は、これまでセッティングとは無縁だった人にも分かりやすく馴染めるはずで、自分には無用、関係ないと思っていた人にも、ぜひ坂口さんの話を聞いてもらいたい。

乗り手の要望を聞き、マップを選ぶDYNOMAN・野口商会テクニカルマネージャー坂口真一さん。インジェクション仕様のハーレーと付き合っていくには、頼もしい主治医となってくれるはずだ。

 

見た目で分かりやすい高価なパーツをつけた喜びもまたカスタムの醍醐味だが、愛車のポテンシャルをプロと一緒になって上げていく作業は、それとはまた違った至福のひとときとなるだろう。DYNOMAN・野口商会のガレージはインジェクションセッティングの知識に乏しい人や経験のないビギナーにも門戸を広く開けて待っている。

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パワービジョン

パワービジョン

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価格(税込)/64,800円

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パワーコマンダーV

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小型化された本体にはマップ切替機能などの多彩な機能を備え、別売りの「オートチューン」を使用することによりマップ自動補正機能が可能になった。マルチファンクションハブ機能を本体にビルトインし、多彩な制御およびマップ作成ができる。

価格(税込)/46,000円

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フラッシュチューナー

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O2センサーやECMなど純正システムをそのまま使用し、ECM内のプログラムを書き換えるので信頼性が非常に高いEFI チューニングキット。燃料噴射量、アイドル回転数、レブリミット、点火タイミングを設定でき、データーレコーディング機能を備える。

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