VIRGIN HARLEY |  FXSBSE CVO ブレイクアウト試乗インプレ

FXSBSE CVO ブレイクアウトの画像
HARLEY-DAVIDSON FXSBSE CVO Breakout(2013)

FXSBSE CVO ブレイクアウト

文字通り既成概念を覆す
究極のファクトリーチョッパー

2012年8月、ウィスコンシン州・ミルウォーキーにあるハーレーダビッドソン・モーターカンパニーで開催されたサマーディーラーミーティングにて、この FXSBSE CVO ブレイクアウトがベールを脱いだ。110周年記念のメダリオンモデルやハードキャンディーカスタムなど、110年めというアニバーサリーイヤーを彩るモデルが多数ありながら、ディーラー関係者の目はこのブレイクアウトに釘付けだったと言う。CVO と聞くと、贅沢この上ない純正カスタムパーツや装備が奢られた重量級ハーレーというイメージが強かったが、このブレイクアウトはそのスタイルからも分かるとおり、要所要所を豪奢にしつつも無駄を削ぎ落としたチョッパーカスタムモデルとして仕上げられた稀有な一台である。その名のとおり、これまでの CVO に対するイメージを覆すカンパニーのメッセージが込められていると言えよう。そんなブレイクアウトのモーターサイクルとしての魅力を探るべく、インプレッションを敢行した。

FXSBSE CVO ブレイクアウトの特徴

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カスタムブームの転換期を告げる
煌びやかなロー&ロングスタイル

『ブレイクアウト』という名からも、カンパニーがこの一台にかけた想いを感じ取ることができる。フロント 21 インチの FX ソフテイルがベースで、そのスタイリングはロー&ロングというチョッパーカスタムの常識とも言えるフォルムにまとめられている。これを実現させているのが、レイク角 36.5 度を生み出す特別なトリプルツリーとフロントフォークの採用だ。実はこれ、かつてラインナップされていたファクトリーカスタムモデルの代表格であった FXCWC ロッカーCのものであり、ロッカーCの個性を取り入れた 2013年を代表するファクトリーカスタムという位置づけが見えてくる。これにより、1,710ミリというラインナップ中でも2位に位置する長さとなり (1位はナイトロッド)、写真をご覧いただければその数字が大げさでないことはお分かりいただけるだろう。

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こうして生み出されたスタイリングに味付けがされているのだが、いずれの部位も個性的に仕上げられている。全体的に見て気づくのが、クロームパーツの多さだろう。ここ数年、カンパニーはダークカスタムをひとつの流行とし、数多くのブラックアウトモデルを市場に投じてきた。もちろんクロームパーツを採用したモデルを軽視していたわけではないが、カンパニー渾身の一作とも言えるブレイクアウトがこれほど煌びやかにまとめられているのを見ていると、カスタムの転換期の訪れを告げる一台なのか、などと勘ぐってしまう。それにしても、エンジン全体にオイルタンク、スイッチボックス、前後ホイール、フェンダーサポート、プーリーにいたるまで眩い輝きを放っている。今回の車両はクリムゾンレッドサングロ&スカーレットレース with ハンマードスターリンググラフィックスというカラーリングだが、ハードキャンディゴールドダスト&リキッドサン with ペイガンゴールドグラフィックスだとフレームまでクローム仕上げの模様。

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そんなクロームパーツをさらに引き立てるのが、あらゆる箇所に配されたビレットパーツ群だ。前後に装着されているタービン・カスタムホイール / ミラークロームは、まるでサメの牙のように鋭利で、プーリーなどは文字通り削り出したばかりのよう。ここまで取り上げた部位だけでも、価格面だけで考えれば相当のものである。そこで驚かされるのが、295万円というメーカー希望小売価格だ。もし FXS ブラックライン (メーカー希望小売価格:212万円) をベースにアフターパーツでカスタムしたとしても、とても 300万円以内に収まるとは思えない。つまり、文句のつけようがないほどオンリーワンな一台に仕上げられつつも、驚くほど手頃な価格で提供されているのだ。ファクトリーカスタムモデルだからこそ実現できた完成度と価格と言えるだろう。

FXSBSE CVO ブレイクアウトの試乗インプレッション

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他モデルにないパワフルさと
意外なほど軽快な走りを見せる

実際にブレイクアウトを前にして思ったこと、それは「かなりワイドな体型だな」ということ。真後ろから見ると顕著なのだが、240ミリというワイドタイヤを備えていることもあって、真横から見たときには分からなかったマッチョっぷりが見て取れる。ヘッドライトナセルが装着されていることもあり、“スタイリッシュになったファットボーイ”という印象すら抱かせる。またがってみると、ワニ革スタイルのレザーシートはなかなか肉厚ながら、先端が細くまとめられていることもあり、足はストンと真下に下ろせる。ハンドルバーは思っていた以上にワイドで、実際に握り込むと少し肘が曲がる程度。コーナーはともかく、Uターンや交差点で曲がる際は片方の腕が伸びきってしまうほどだ。フットポジションがフォワードコントロールなので、身長 174センチの筆者(テスター)だと、足はステップに引っ掛ける程度、ズシンとシートに座り込み、両手でハンドルを握る……というよりは“掴む”感じで走り出す格好になる。ちなみにこのブレイクアウト、いわゆるカギがない。最新のセキュリティシステムであるキーレスイグニッションシステムを採用しており、キーフォグを持たない人間が動かそうとすると激しいアラートが鳴り響く。イモビアラームが標準装備されているのは嬉しい限りだ。

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走り出してから驚かされたのは、爆発的なまでの発進力だ。さすが、排気量で言えば約 1,800cc に相当する 110キュービックインチのツインカムエンジンである、二速に入れたあたりで公道の法定速度域にあっさり達する。排ガス・騒音規制への対策のため、日本に輸入されるハーレーダビッドソンの各車両はインジェクション機能の中枢を担うコンピューター ECU の設定が日本仕様とされており、エンジン本来のパワーを最大限に引き出せない状態で市場に投じられているのが現状だ。それでも、110ci ツインカムはそのもどかしさを感じさせない駆動力でグイグイ加速していく。すでにヘビーブリーザーハイフローエアクリーナーを標準装備しているので (同じく排ガス・騒音規制対応として日本輸入時にノーマル化されると思われたが、そのまま入ってきたのでこれも大変驚いた)、マフラーを換えて ECU を書き換えれば、その奥底に眠るパワーをさらに引き出せるのだが、そうなるとどれほどのモンスターバイクとなるのか……想像しただけでワクワク感がこみ上げてきた。

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一般公道、そしてハイウェイでインプレッションを行なったのだが、特に印象に残ったのは、軽快なハンドリングとライディングに適したシート構造である両腕がやや“ハ”の字に広がるワイドハンドルバーは、ロッカーC用の極太フロントフォークを要する車体を容易にコントロールさせてくれる。ロー&ロングのチョッパースタイルゆえ、取り回しを懸念される方がいるかと思うが、この点については心配無用。そしてシートだが、おそらく全体的な車体のフォルムを崩さないデザインであることを第一に作られたのだと思うが、高速走行時に臀部と腰をしっかりと受け止めてくれる構造となっており、長距離ツーリングはさすがに辛いかもしれないが、荷物なしで走り回る分ではまったく苦にならない。ちなみに音だが、本国仕様だとスラッシュカット版のところをノーマルに換えているため、排気音については劇的な違いがあるとは言い難い。が、ヘビーブリーザーハイフローエアクリーナーは、いずれのモデルにもない「ボボボボボボッ!」という空気を貫くようなサウンドで、一般モデルとの大きな違いと喜びをもたらしてくれる。こうしたところにも、ブレイクアウトだからこその“味わい深さ”が備えられている。

正直言って、ブレイクアウトは否の打ちどころがない一台だと思う。ゆえに、「CVO でなくても……」という意見も分からなくはない。だが、「カンパニーは“あえて”CVO で出したのではないだろうか」と、インプレッションを通じて思うようになった。例えばホイールを標準タイプのものにし、ペイントやシートもシンプルにした簡素なブレイクアウトを手がけることは決して難しくなかったはず。しかし、それはブレイクアウトの開発コンセプトにそぐわなかったのだろう、徹底的に無駄を取り除きつつ、オリジナルを多数取り入れた唯一無二のチョッパーモデルをつくる――もはや手を入れる必要がない究極のファクトリーチョッパーモデルを見ていると、これまでの CVO に対する既成概念を破壊せんとするカンパニーの情熱が伝わってくるようだ。もはや CVO は各ファミリーの一段上に位置する特別仕様版であるだけでなく、ハーレーだからこそ生み出せる、ハーレーにしか生み出せない可能性を追求するカテゴリーでもあるのだ。

FXSBSE CVO ブレイクアウト の詳細写真

FXSBSE CVO ブレイクアウトの画像
レイク角 36.5 度というフロントフォークは、かつてのファクトリーカスタムモデル FXCWC ロッカーCから受け継いだもの。
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まるで獰猛な獣の牙を連想させるタービン・カスタムホイール / ミラークローム。細部のビレット感は通常モデルのそれとはまるで違う。
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ブレイクアウトの特徴とも言えるワイドなハンドルバー。これにより、330キロという車重ながら軽快なハンドリングを実現させる。
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タコメーターと一体化したスピードメーターと、SUPER-SLAMMED CONSOLE。こうしたところに、「さすがCVO」と唸らされる。
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クローム仕様のスイッチボックスと組み合わされたスリップストリームコレクションのグリップ。全体の輝きを増すポイントだ。
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プレミアムハンドポリッシュペイントによる、クリムゾンレッドサングロ&スカーレットレース with ハンマードスターリンググラフィックス。
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ワニ革仕様のオリジナルシート。デザイン優先でつくられたのだろうが、ハイウェイライドではしっかりと体を受け止めてくれるスグレモノ。
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もはや近年のH-Dモデルには標準装備とされるストップランプ一体型ウインカーを採用。リアタイヤは 240 ミリという極太サイズ。
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フォワードコントロールとされるスリップストリームコレクション・フットコントロール。身長174センチのテスターだとわずかにヒザが曲がる。
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排気量なら 1,801cc とされる 110 キュービックインチのツインカムエンジン CVO 仕様。そのパワーは標準モデルの比ではない。
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スクリーミンイーグル製 ヘビーブリーザー・パフォーマンス・エアクリーナーキットが標準装備。エンジンのパワーをさらに引き出す注目のポイント。
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プライマリーカバーももちろんクロームパーツ仕様、そして「110」のCVOオリジナルのエンブレム入り。これだけでも「買い」だ。
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ベースであるリジッド風フレームは、3パターンあるカラーリングのいずれも塗装されている。他モデルのカラーもぜひ実物で見てみたいものだ。
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本国だとスラッシュカットマフラーのところ、日本ではやはりノーマル仕様とされる。それでも駆動力に物足りなさはないというのに驚き。
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キーレスイグニッションシステムの採用により、この車両にはカギがなく、このキーフォグを持っていないと動かす際に激しいアラートが鳴り響くことになる。

こんな方にオススメ

「これぞハーレーだ!」と自慢したくて仕方ない
自信家な人こそオーナーにふさわしい

聞くところによると、現在全国の正規ディーラーにはブレイクアウトの予約が殺到しており、日本への輸入台数がまだ分からないことから予約している人すべてにも行き届くのかどうか……といった状況だそう。ゆえに、欲しいと思った人は実車を見る前から決め打ちで予約をしないと、何年も待たなければならなくなるかも。文字どおり、限られた人にだけ与えられるモデルということになる。さてそのブレイクアウトだが、インプレッションを通じて感じたのは、現在カンパニーが「これぞ最高傑作」と自信をもって送り出してきたモデルなんだな、ということ。とにかくスキがない。まるで、どこかのラグジュアリーなカスタムを得意とするショップの作品のよう。だからこそ、このモデルを「これがハーレーダビッドソンだ」と主張したい自信家な人に向いているのではないだろうか。なぜならば、全体的なフォルムからディテールにいたるまで、あらゆる箇所がハーレーダビッドソンであることを訴えかけてくる一台だからだ。

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