VIRGIN HARLEY |  ジャイアン(メンテナンス番長)インタビュー

ジャイアン(メンテナンス番長)

  • 掲載日/ 2004年07月31日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

彼のバイクへの造詣は深く、細部まで及ぶ
しかも、その知識を惜しげもなく人に伝えるのだ

『スポーツスターオーナーズクラブ』というウェブサイトがある。スポーツスターの情報交換で代表的なサイトだ。そこの掲示板を見たことがある方は、ハンドルネーム「ジャイアン」という、いつも適切なアドバイスを書き込みされている人をご存知かもしれない。彼はメカニックでもなければ、カスタムショップを経営しているわけでもない。普通のハーレー乗りだ。ただ、彼のバイクへの造詣は深く、細部まで及ぶ。また、その知識を惜しげもなく人に解りやすく伝えることで、多くのハーレー乗りから頼りにされている。知識はすべて独学、自分でバイクに触れることで知識と経験を養ってきた。「自分でバイクをいじれるようになりたい」、そんな風に思っている人は多いだろう。というわけで、彼に「自分でバイクを触ること」についてお聞きしてみた。

Interview

少しずつ「正しいいじり方」を学んで
自分でやれることを増やしていったんだ

ージャイアンさんが自分でバイクをいじられるようになったきっかけについて教えていただけますか?

ジャイアン●特にきっかけというものはないんだよ。ただ周りにスポーツスターに詳しい人がいなかったから、仕方なく自分でやり始めただけだね。今の「4速スポーツスター」は1989年に買ったんだけど、当時は今みたいにハーレーの整備ができる専門のショップがあまりなかった。だから、まずは自分でサービスマニュアルを取り寄せてね。当時は英語版のサービスマニュアルしかなかったから読むだけでも大変だったよ。自分でやって失敗しても助けてくれる人がいなかったから、最初はオイル交換みたいな初歩的なところから始めたね。少しずつ「正しいいじり方」を学んで、自分でやれることを増やしていったよ。

ー失敗はなかったのですか?

ジャイアン●慎重に下調べをしてから、いじっていたから、大きな失敗はなかったね。いじっていて解らないことが出てくることはあったんだけど、何度もやっているとコツがつかめてくるものなんだ。でもそれがわかるまでは大変だったかな。幸い本格的にいじりはじめたときには日本語のマニュアルやハーレー雑誌で情報が手に入るようになってきて、それからは全部一人で調べる必要はなくなったんだけどね。まぁでも、オイル交換程度のメンテナンスならそういったものはあまり必要とはしなかったね。ハーレーは他のバイクに比べてメンテナンスがしやすいバイクだからね。

ーハーレーはメンテナンスがしやすいとは?

ジャイアン●例えば、ハーレーにはキャブレターは1つしかないでしょ、しかも外しやすい場所についている。国産車だとキャブレターが4つもあったりするよね。だから、セッティングを合わそうと思ったら、4つのキャブレターのセッティングを全部同調させなければいけない。それに比べたらハーレーは遥かに楽だと思わない? ハーレーは外装部品に関してはいじりやすいんだよ。ただ、エンジンは触らないね。ショップに任せるようにしてる。中には自分でやってしまう人もいるみたいだけど、俺はあんまりお勧めしないなぁ。

実はハーレーのエンジン部品の精度には個体差があるのね。その個体差を「遊び」として組みたて時に調整して精度をだしているんだよ。だからエンジンを組み立てる際にはその「遊び」を上手く調整するために、ある程度の計測機器が必要になる。これを無視して、ただ部品を組み上げただけではベストのコンディションは引き出せないんだよ。ただ組み上げるだけなら部品精度世界一の日本製バイクの方が全然組みやすいんだけど、同じ事をハーレーでやると基準の調整幅が取れない事もある。これは実は、後の修理のことを考えてハーレーの部品はわざとそう作られているからなんだけどね。

精度を要求する部分は加工されるための「幅」を持たされているし、オーバーサイズの部品も十分用意されているんだ。そういう部品の微妙な調整があるから、エンジンに関しては技術を持ったメカニックに任せた方がいい。組み付けた状態でのクリアランス(空き)を調べなきゃいけないからね。エンジンをいじるのは自分でできるレベルじゃない、と俺は思っているから信頼できるショップに任せるね。

俺のメンテナンスは
普通に機械を動かす上で必要なことをしてあげているだけ

ーでは、メンテナンスはどこからはじめればよいのでしょう?

ジャイアン●メンテナンスと言っても、何もバイク触ることだけじゃないよ。たとえば、保管の方法だってメンテナンスなんだよ。屋外保管だと気をつけた方がいいことが多いしね。例えば、シートをかけていても、どうしても雨水が入ってくるからケーブル類とか注油が必要な部分がある、錆びちゃマズイところもある。その辺は注意しないといけないよね。

他にはね、雨が降ったあとは電装系には気をつけてあげた方がいいね。地面が土の駐車スペースだと、雨が上がった後に地面から水蒸気が上がってきて、電装系が蒸気をかぶってしまうんだよ。例えば、シートの上にゴミ袋を被せて防水対策するのは手軽でいいよ。シートの下は電装系のかたまりだから、あそこに雨水がいかないように気をつけていると大きなトラブルも防ぐことができるからね。そして、雨の次の日にでも、カバーを外して換気して蒸気を抜いてあげた方がいい。そういうのって、すごく簡単なことだけど、結構軽視されがちなんだよね。でも、そういうことの上で初めてバイクに触れて…って作業があるんだな。

ー他にジャイアンさんがやられているメンテナンスにはどういったものがありますか?

ジャイアン●それほど大したことはしてないよ。俺のメンテナンスは、普通に機械を動かす上で必要なことをしてあげているだけだよ。よく一番大事なメンテナンスは洗車って聞くけど、俺は洗車があまり好きじゃないんだ。だけど、拭き掃除はよくするんだよ。そうやってバイクを拭きながら自分のバイクを見ていると、普段の調子がいいときのバイクの状態を覚えられるんだよ。調子のいい状態の自分のバイクを覚えていると、トラブルがあったときにショップのメカニックの人とも話しができるんだよ。調子が悪いときに状態と症状を伝えられるように自分のバイクをよく知る、そのために普段から自分のバイクをよく見ておく、それが俺流の「メンテナンス」かな。

初心者の人は、できれば調子のいいノーマルの状態を覚えていた方がいいね。今はバイクを買ってすぐカスタムしてしまう人が多いみたいだけど、本当は1年なり半年なり乗って、ノーマルの調子がいい状態を知ってからカスタムした方がいいと俺は思うよ。ノーマルの状態を覚えてなかったら、トラブルがあってもノーマルと乗り心地と比較できない。例えばメカニックの人に「直りました」って言われて、引き取ってから何か違和感を感じても、ノーマルの調子がいい状態を知らないから、その違和感が何かを伝えられないんだよね。

せっかくこんなに面白い物に乗ってるんだから
愛車は大事にして長く乗って欲しい

ーカスタムパーツをつける時、それで自分のバイクがどう変わったか意識しておくのがよさそうですね

ジャイアン●そうだね。今は情報がありすぎて、いろんなカスタムパーツの情報を簡単に調べられる。でもそのパーツが「そもそも何のためのモノなのか」を詳しく調べきれてない人も多いと思う。例えば「ドコドコ感がほしい、3拍子が欲しい」ために点火系をいじる人がいるでしょ。点火系をいじるっていうのは本来、チューニングしたエンジンの力を100%引き出すために点火時期を任意に調整するパーツなんだよ。それをただ単にアイドリングの調整のためだけに換えるっていうのはもったいない気がするなぁ。点火系を換えるってことは点火時期も変化させるってことだから、それが影響して違う変化が起こる事も考えなければいけないしね。

もちろん、カスタムするのは自由だよ。でも、カスタムっていうのはトータルバランスで考えるものだから、何かを換えると他のところに影響は出てくる。それは覚えておいた方がいいと思う。例えば、キャブレターを換えるとガスを濃くできるからエアクリーナーはハイフローのものにした方がいい、とかね。カスタムをする際には、そのパーツはどんな意味があるのか、それを換えることで何が変わるのか、他にも何か換えた方がいいパーツはあるのか、を考えるようにすることをオススメしたいね。カスタムをして自分のバイクがどう変わるのか、をわかっていれば、どこに気をつけなければいけないのかがわかるから大きなトラブルにもならないしね。

ージャイアンさんはきっと、頭の中で自分のバイクの地図というか、イメージが描けているのでしょうね。だから自然とトータルバランスが考えられるのだと思いますよ。私は今日までパーツ単体でしかカスタムを考えていなかったです。

ジャイアン●「キャブレターって何? カムってどういう部品? マフラーはどんな意味があるの?」などをひとつずつ理解していけば、全部つながって考えられるようになるよ。すべてのパーツには意味があるから、できればしっかり理解した上でカスタムできたほうがいいよね。

ーでは最後に「自分でバイクを触りたい」と思っている人に一言お願いします。

ジャイアン●自分勝手にやってしまわないこと、「こんなもんだろう」でやらないこと、に気をつけて欲しいね。自信がないなら、まずはショップのメカニックの人にやってもらって作業を見せてもらう。プロの仕事を見て覚えたらいいんだよ。プロがやる何気ない作業でも、実はちゃんと考えられているから、それを見せてもらうのが一番勉強になるよ。自分でやったカスタムでハーレーが壊れて嫌な思いをして、それでハーレーを嫌いになっちゃったりしたら悲しいでしょ。だから最初は恥ずかしがらず、ショップやネットでいろいろ聞いて勉強して、ちゃんとマニュアルも読んで作業をして欲しい。せっかくこんなに面白い乗り物に乗っているんだから、愛車を大事にして長く乗って欲しい、だから「正しいメンテナンス」をして欲しいね。

プロフィール
ジャイアン
44歳。彼のハーレーへの造詣は深く、その知識は、とても素人とは思えないほどだ。彼の運営するウェブサイトには、眼からウロコものの「ハーレーの正しいイジり方」が紹介されている。ぜひ一度、訪れてみては。きっと愛車の見方がかわるだろう。愛車には、XLH883とFLSTFを所有。

Interviewer Column

私、ターミーは柔道・空手をやっていたこともあり、体格はいい方だと思っていました。しかし今回、ジャイアンさんにお会いして自信がなくなっちゃいました。まず、彼はデカい。身長は190センチ近くあるはず。そんな大きな彼の夢は自分のカレーショップを持つことです。今は都内のカレーショップで修行中の身。実は年内に友人のお店の厨房任される予定で、メニューにはオリジナルカレーもあるとのこと。大きなジャイアンさんが作る手間隙かけた絶品のカレー、オープンが決まりましたら改めて皆さんにも告知しますので、お楽しみに。ちなみに私は先日ご自宅でご馳走になってしまいました。最高にウマかったですよ。(ターミー)

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