VIRGIN HARLEY |  中村 功(ヴィンテージライダー)インタビュー

中村 功(ヴィンテージライダー)

  • 掲載日/ 2004年08月01日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

「パンヘッド」を希望していたわけじゃない
乗りたいと思えたのが、コイツだった

中村さんは5年前に今の1949年式パンヘッドを購入した。1949年式以降のパンヘッドは『ハイドラグライド』とも呼ばれている。フロントフォークが『スプリンガーフォーク』から『テレスコピックフォーク』になった、最初のパンヘッドだ。ヴィンテージを買うには相当ハーレーに慣れ親しんでからでないと、なかなか踏み出せないもの…というのが一般的なところではないか。しかし、彼は最初に買ったハーレーが1949年式パンヘッドだったというのだ。そこにあるドラマとはいかに。

Interview

『ハイドラグライド』は旧車の中でも
一番イモ臭くてカッコ悪いバイクだと思ってた

ー「ハーレーを買うなら必ずパンヘッドを」。そんな憧れがあったのですか?

中村●「ハーレー」への憧れは国産車に乗っているときからありましたが、特に「パンヘッドが好きだ」というわけではなかったですね。ただ、もともと自分でカスタムをすることは好きだったので「どうせ乗るなら癖のあるハーレーに乗ってみたい」という思いはありました。最初、流行もあって「ショベルヘッドが欲しいな」と思っていたんです。その頃は、ショベル以前のハーレーは考えていませんでしたが『41年式のナックル』に乗っている友人が偶然いたんですよ。そのナックルは最初トラブル続きだったのですが、ちゃんと整備していくと問題なく乗れるようになって。それを間近に見ていたので「ショベル以前のエンジンもいいかも」と思い始めちゃったんですね。自分には旧車の知識はありませんでしたが、友人にメカニック経験者が多かったので「ヴィンテージハーレーに乗っても大丈夫かな」と思っていましたね。

ーでも何十年も前のバイクを買うわけですよね。どういう風にヴィンテージハーレーを探したのですか?

中村●「エンジンがしっかりしているものを買わないと、あとで泣きを見るよ」と、いろんな人から言われていたので、今のパンヘッドを買うときには「エンジン周りだけでも純正度が高いもの」で探していました。「エンジンの純正度が高い」ハーレーって、外装も純正に近いものがやっぱり多いんですよ。「最初はチョッパーっぽいスタイルがいいな」と思って探していたんですが、純正のハーレーをたくさん見ているうちに「純正のカッコよさ」に惹かれるようになってしまいました。

ーなるほど。では、たくさん見たヴィンテージハーレー中でパンヘッドを選ばれた理由は何だったのですか?

中村●当時の純正の『リンカート製のキャブレター』はオーバーフローをしやすくて、エンジンから「ポッ」と火が飛ぶことがたまにはあるんですよ。ただ、僕のキャブレターは特にオーバーフローしやすかったみたいで(笑)。キャブレターは買った後に自分で直したつもりだったんですが、エンジンをかけたときにキャブレターに火がついてしまい、タンクキャップにまで火が移っちゃったんです。自分が跨っているときに火がついたので、さすがにビックリしましたね。すぐにスタンドを立てて逃げましたが、バイクからは火柱が上がっていましたね。バイクが燃えてしまって、塗装は剥げるし、配線は燃えてしまうし大変でしたよ。

バイクが炎上したこともあった
そんなになっても、まだコイツを駆ってるんですね(笑)

ー乗り始めてからはトラブルなどはありましたか?

中村●多々ありましたね(笑)。安く買うために「現状渡し」(輸入されたままの状態での販売)で購入させてもらったんですよ。だからいろんな部品が磨耗していたみたいで、トラブルは色々とあって買ってしばらくは手がかかりました。キャブレターがオーバーフローしてバイクが炎上したこともありましたよ(笑)。

ーバイクが炎上ですか、普通は有り得ないですよ。

中村●企画とまでは言われると褒めすぎだけど、「造ること」は大好きですね。組み立てるのも楽しいんだけど、やっぱり自分のアイディアを自分やプロの仲間たちと形にするのは面白い。しかもそれでお客さんに喜んでもらえるなんて。それは最高の瞬間だし、こういうお店をやってて本当に良かったと思えますね。

ー炎上したのはこのパンヘッドですよね? よくここまで綺麗に直せましたね。ショップさんに修理に出したのですか?

中村●いえ、高いお金を出して買ったバイクが自分のせいで燃えたんですからカッコ悪くてね、お店には持ち込みませんでした。配線を引きなおしたり、剥げた塗装を今のグリーンに塗り替えたり、自分で全部やっちゃいました。

ーそれって恥ずかしいことですかね? 乗っている人が、そこまで責任を持たなくてもいい気がするのですが。

中村●「自分で全部やりますから安く売ってください」と自分から言って買いましたからね。しょうがないですよ。

ーハーレーの炎上が「しょうがない」ですか(笑)、気合が違いますね。そんなトラブルを防ぐためには日常のメンテナンスが必要になると思いますが、何かされていますか?

中村●調子良く走るために、キャブレターやクラッチをばらして清掃したり、キャブレターのセッティングを出すくらいですかね。最初はそんなことができる知識はなかったんですが、この手の旧車に乗っていると些細なトラブルはしょっちゅう起こるんですよ。その度にバイク屋に持ち込むのは面倒ですし、恥ずかしいので、だんだん自分でアレコレ触れるようになってきましたね。

ーやっぱり自分である程度触れるようにならないと、ヴィンテージハーレーは手を出せそうにないですね。そこまで中村さんを魅了するヴィンテージハーレーとは現行車に比べて乗り心地はどう違うのですか?

中村●エボやツインカムは乗ったことがないのでわかりませんね。友達のナックルヘッドとショベルスポーツくらいしか乗ったことがないんですよ。まぁパンヘッドはハンドチェンジですし、リジットフレームですから乗り方にはかなり癖があると思いますが、慣れてしまえば問題ないですよ。スピードについては、さすがにあまり飛ばせません。ただ意外にスピード感はあるので実際の速度より速く感じられますよ。実は、パンヘッドはそこそこ回るエンジンで、ダラダラ走るバイクではないんですよ。パンヘッドに乗っている周りの仲間もみんな結構飛ばしていますよ。

ーパンって回るエンジンだったんですね。恥ずかしながら、知りませんでした。牧歌的な味わいのバイクなんだろうとばかり・・・。それにしても、5年も乗っていると愛着もひとしおですね。

中村●愛着という感じではないですね。調子悪いとやっぱりアタマにきますし。何て言ったらいいんだろう、自分にとって今のパンヘッドに乗っていることは別に特別なことではないんですよ。いろいろ手をかけていますが、調子よく乗りたいから日々メンテをしているっていう感じでしょうか。今乗っているハーレーは確かにヴィンテージハーレーかもしれませんが、正直そこにこだわりがあるわけではないんですよ。たまたま好きになったバイクがパンヘッドだったわけで。どうせ乗るなら気持ちよく乗りたいな、と思って必要なところに手を入れているだけなんです。

いいところも、悪いところすべて
好きになれるかどうかですね

ーなるほど、乗っている人にとってはそれが「自然な」ことなのかもしれませんね。ただ、自分たちが生まれる前のバイクに乗っている人には、つい特別な見方をしてしまうんですよね。これからパンヘッドやナックルヘッドに乗りたいと思っている人に一言お願いします。

中村●自分たちの父親と同じ年代のバイクですから、そういった意味では壊れるのは当たり前です。ちゃんと直して乗ってあげないと調子が悪いのも当然ですよね。パンヘッドやナックルヘッドを「カッコいいから」だけで乗ってしまうと後悔してしまうかもしれませんね。もちろん、買うきっかけは「カッコいいから」でも何でもいいと思いますが、買ったあと、どういう風に旧車に付き合っていけるのか。つまり「良いところも、悪いところもひっくるめて受けとめてあげられるかどうか」。その気持ち次第で、旧車と長く付き合えるかどうかが分かれるでしょうね。

ーそう聞くと旧車が欲しい人でも躊躇してしまいそうですね。

中村●確かに手はかかるんですが、本当に「欲しい」と思っているのであれば買った方がいいと思いますよ。憧れを持ったまま妥協して他のバイクを買ってしまうと、結局それを売って旧車を買うことになりますからね。それはお金も時間も勿体ないですから。欲しいバイクを買って永くつきあった方がいいに決まってます。

ー旧車を買って「ハズレをひいた」、「騙された」っていう話はよく聞きますが、どこを注意すればよいのでしょう?

中村●難しいですが、とにかく車両を見て自分が「しっくり」くるモノを選んでください、としか言えないですね。あとは、自分に合った信頼できるメカニックがいるショップを見つけてください。できるだけ自分で頑張るとしても、困ったときに相談できるメカニックがいると安心できますから。ただ、最初から調子がいい、完全な状態のハーレーが欲しいのであれば旧車は選ばない方がいいですよ。仮に調子が悪いモノを買ってしまったとしても、それを受け止められるくらいの余裕を持った方がいいでしょう。古いバイクですので、いろんなトラブルは起こりますが、少しずつ手を入れて調子を良くしていくものなんです。それを当たり前に受け止められる余裕を持って乗って欲しいですね。

プロフィール
中村 功
29歳。1949年式のパンヘッドを駆る。初めてのハーレーで、いきなりこのパンヘッドを購入したというつわもの。実は、彼は都内の映画館の映写技師。現在発売中の「Feel? model FLORIDA 」というアメリカのヴィンテージバイクレースのDVDの製作を行った映像作家でもある。

Interviewer Column

インタビューを見て感じていただけたと思うが、中村さんは本当に自然体でパンヘッドに乗っている。「別に特別な乗り物に乗っているわけではないですから」 「今のパンヘッドが自分には『しっくり』きたんですよ」と自然体で話してくれた。そんな中村さんが製作に携わったDVD「Feel? model FLORIDA 」の中身も中村さんらしい内容だ。ヴィンテージバイクを愛する一般の方が参戦するヴィンテージバイクレース「JenningsGP・Daytona」が紹介されている。「自分たちが大好きな、普段から乗っているバイクで」レースを楽しみたいという雰囲気が伝わってくる。私達がイメージする「バイクレース」とは一味違った映像が散りばめられているので、興味のある方は以下のサイトを確認して欲しい。「バイクを真剣に楽しむ」人達の笑顔、それを感じて欲しい。(ターミー)

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