VIRGIN HARLEY |  中島 早人(スポーツスターレーサー)インタビュー

中島 早人(スポーツスターレーサー)

  • 掲載日/ 2005年11月06日【インタビュー】
  • 写真/やすこうち てつや

ハーレーインタビューの画像

ベストタイムにはこだわりたい。なぜならそれは
今までの自分を越えた、ということですから

今回ご紹介するのは福岡県大野城市の中島 早人さんだ。大阪のカスタムショップ「Tramp」が主催する「シーズ関西&トランプ」に所属し、スポーツスターとビューエルのみが出走する「スポーツスターカップ(以下、SSC)」に参戦している。Trampのオーナーであり「シーズ関西&トランプ」の監督でもある長岡氏の信頼は厚く、ビューエルを差し置いて何度も上位入賞を果たしている。

先日、岡山のOKサーキットで行われたレースで中島さんが見事2位に入賞したレースを生で見る機会があった。フレームの重さやノンカウルのスタイルなど、明らかにハンデがあるのにも関わらず、スポーツスターでビューエルを追い詰める姿は壮観の一言だった。「SSC」の名前は知っていても観戦に行ったことがある人はきっと少ないだろう。「SSC」とはどういったレースなのか? なぜスポーツスターでレースが行われているのか? サーキットを走る楽しみとは? 気になっていた質問を中島さんにぶつけてきた。

Interview

はじめはサーキットで走るのが怖くて
ミニバイクでイチから練習しました

ーレースには疎いので、基本的なところから教えていただきたいのですが「SSC」とはどのようなレースなのでしょうか?

中島●一般の人がイメージするレーサーバイクが走るレースには「GP125」や「GP250」などがあります。こういったレースで実績を上げた選手が世界選手権で活躍しています。「SSC」はそういったレースとは違い、実績を上げてもステップアップはありません。スポーツスターとビューエルだけで争われるいわゆる「ワンメイク」レースです。

ー「ワンメイク」とはどういう意味なのでしょうか?

中島●「ワンメイク」とは「同じ種類」という意味です。同じ車種だけで競われるレースを「ワンメイクレース」と呼んでいます。「SSC」だけでなく、BMWの「ボクサートロフィー」や「DUCATI CUP」などいろいろなバイクでワンメイクレースは開催されています。ワンメイクの「SSC」が始まる前は「バトルオブツイン(以下、BOT)」という「ツインエンジン」のバイクで競い合うクラスがあり、スポーツスターやBMW、DUCATIが競い合って走っていたようです。今は各メーカーのバイクそれぞれにクラスがあり、定期的にレースが行われています。「SSC」の中には「883クラス」と「オープンクラス」の2種類があります。

ー「883クラス」と「オープンクラス」の違いは何なのでしょうか?

中島●「883クラス」はほぼストックの883で争われるクラスです。厳しい規定内でのチューンは許されていますが、車両の性能では大きな差がないので、一般の方でも参加しやすいクラスですね。「オープンクラス」は自由にカスタムができるクラスで、バイクの性能・ライダーの技量の両方を高め、争われるクラスです。僕は「シーズ関西&トランプ」チームで「オープンクラス」に参戦しているんです。

ー中島さんがサーキットで走るようになったきっかけを教えていただきたいのですが。

中島●「SSC」で走り始めたのは1998年からですが、1988年からサーキットを走ることに目覚めてもう17年近くレースに関わってきました。

ーそんなに長く走っているのですか。ひょっとしてプロを目指されていたのでしょうか?

中島●とんでもない。サーキットで走っていた先輩に誘われて、何となく走り始めただけです。最初はサーキットで走るのが怖くて…。レースを楽しむ余裕もありませんでした。

ー怖い、とは?

中島●公道と違い、サーキットでは200km以上のスピードを出すことは珍しくありません。少し峠を走っていたくらいで、いきなりサーキットを走ったので、公道との速度感が違いすぎたんでしょうね。「サーキットで走っても怖いだけで、まったく楽しめません」と先輩に相談したら「じゃあ50ccのミニバイクで練習してみるか」と言われて。ミニバイクの練習を始めてからやっと楽しめるようになりましたね。ミニバイクは排気量が小さいので、一度アクセルを戻すとスピードを取り戻すのに時間がかかるんですよ。だから、サーキットではほとんどアクセルは開けっ放し。僕はそんなことも知らなかったのですが、他の人の走り方を見て「あの人はコーナーでもアクセルを戻さず突っ込んでいる」や「このコーナーはブレーキを踏まなくても曲がれる」など目で見て学び、実践して体で覚えて。バイクを走らせる基本はミニバイクから学びましたね。

ー走り方を覚えると楽しくなってきましたか?

中島●そうなんです。乗り方を覚えると楽しく走れるようになりました。自分が速くなっているのはタイムでハッキリわかりますから。タイムが縮まってくると嬉しいんですよね。素人ながらも「こうすればもっと速くなるんじゃないか」と考えて、実践して。そうやっていつの間にかサーキットを楽しめるようになってきました。ある程度自信がついてから仲間と125ccクラスでサーキットを走るようになって。最初は怖かったサーキットですが、ミニバイクからやり直したおかげで地方選のシリーズチャンピオンが取れるようになりました。

ーそれはスゴイことなのでは? それでもプロを目指せないのですか?

中島●上には上がいますから。それにスポンサーが付くレーサーになるまでには非常にお金がかかるんですよ。親や周りの人から支援され、若い頃から死ぬほど練習し腕を磨いて。その中でも一握りの人間だけが世界に出ていくんです。サーキットを走っている人の多くは、もっと肩の力を抜いてサーキットを楽しんでいますよ。自分の過去のタイムにチャレンジしていく、などの目標があればプロじゃなくても充分楽しめます。僕は一時期自分がどこまでやれるのか、を試してみたくなって1年だけ地方選のGP125に参戦しました。GP125に出るのはお金がかかって大変でしたが、何度か入賞することができ、満足でしたね。GP125を卒業してからは、SRのようなレーサーじゃない市販車両でレースを走ることにハマってしまって。

ーなぜ、市販車両でレースをしていたのですか?

中島●レーサーはもともとレースで走ることを念頭に置いて造られているので、速く走れて当然の車両です。でも、SRや今乗っているスポーツスターはレースで走るために造られた車両ではありません。スポーツスターなんてフレームは鉄製で重いんですよ。そういうハンデのあるマシンでどこまで走れるのか、それを確かめるのが楽しくて。

初めて乗ったスポーツスター
「走らず、曲がらす、停まらない」な、と

ー今、中島さんがスポーツスターでサーキットを走っている理由はそこなんですね。

中島●そうです。Trampさんから「スポーツスターで走らないか」と誘われたとき、実はスポーツスターは好きでも嫌いでもなかったんです。でも「ビューエルと走る」そこに魅力を感じて。それでSSCで走ることになったんです。

ーTrampさんからヘッドハンティングされたんですか?

中島●違いますって(笑)。当時「シーズ関西&トランプ」チームにはビューエルでSSCを走っていた田代選手というエースライダーがいましたから。「ビューエルだけじゃ寂しいからスポーツスターも走らせたい」とTrampの長岡君は前々から考えていたみたいで。でも、明らかにハンデのある車両でサーキットを走るライダーは、この世界にはなかなかいなかったみたいで。僕と田代選手は前から知り合いだったのもあって声をかけてもらいました。

ー初めてのスポーツスターはいかがでしたか?

中島●「走らず、曲がらず、しかも停まらない」でした(笑)。キャブ、マフラー、リアサス交換くらいのライトチューンのスポーツスターでしたから仕方がありませんけど、正直驚きましたね。

ーレーサーとしてのスポーツスターは高性能とは呼べませんでしたか?

中島●公道では充分な性能ですが、サーキットで走らせるとなると…限界が低いバイクですね。けれど、僕はサブライダーでしたから、無理をせず、少しずつスポーツスターの限界を探りながら走ればよかったので気が楽でしたね。でも、しばらくするとビューエルの田代選手がSSCを卒業することになったんです。「これからは中島さんメインで行きますから」と長岡君に言われてあせりましたけれど、僕のマシンにも手をかけてもらえるようになって「走る、曲がる、停まる」スポーツスターで戦えるようになり、意識が変わりましたね。

ー本気で手をかけられたスポーツスターならビューエルとも戦えるのですか?

中島●もともとの設計が違うので、当然ストックではビューエルの方が速いですけれど、時間とお金、愛情を注ぎ込んでやればスポーツスターでも戦えます。ただ、上位クラスになるとマシンの性能の差が大きく影響してしまうので大変ですけれど(笑)。でも、そこが楽しい。「何十キロも軽く、カウル付きのビューエルにスポーツスターでどこまで戦えるのか」という欲求がだんだんと湧いてきて。「乗り手の自分とスポーツスターの可能性を限界まで引き出せば勝てるんじゃないか」そう思ったんです。そんなことばかりを考え始めたからでしょうか、プライベートでもスポーツスターに乗り始めるようになりました。

ー中島さんからマシンのチューンのアイデアを出されることはあるのでしょうか?

中島●マシンをどうチューンしていくか、は長岡君がほぼ考えてくれます。僕は長岡君のアイデアを聞いて「それはしたいねぇ」や「したくないねぇ」と助言をするくらいですよ。実は長岡君は昔、サーキットで走ったこともあるので、メカニックとしての経験に加えて、ライダーとしての経験からもアイデアを出してくれるので心強いですよ。それに、こちらから「ああしてくれ、こうしてくれ」というのは、走らせてもらっている身の僕から言うことではないかな、と思うので。与えられた環境でベストを尽くすのみです。

ーそれは心強いですね。前にスポーツスター仲間とSSCに遊びに行ったとき、パドック内で他のチームの方同士、和やかに話されていたのを見ました。勝負の世界なのでもっとピリピリしているのか、と思いましたがそういうことはよくあるのでしょうか?

中島●お互いに情報交換はよくします。チューン方法についてや、付けているパーツの話もしちゃいます。レースが終わったあとは無駄話ばっかり(笑)。SSCに限らず、ワンメイクレースってそういう雰囲気なんですよ。レースなのでお互いに競い合いますが、みんな「スポーツスターの限界がどこまでなのか知りたい、可能性を追求したい」と考えている人ばかりですから、持っているノウハウの出し惜しみはあまりないですね。

ーSSCで走るライダー同士はライバルではあるけれど「仲間」ということでしょうか。

中島●仲間よりさらに踏み込んだ関係ですね。大げさな言い方ですが、走っている最中は生死までかけていますから。同じ時間、同じコースを一緒に走り、レース後の解放感も一緒に共有する特別な関係です。ワンメイクレース特有のこのノリは、レースだけじゃなくプライベートにも広がっています。プライベートでツーリングに行ったり、一緒にスポーツスター缶コーヒーミーティングを開催したり、とサーキットを出てからもつながっていますね。

ー中島さんにはスポーツスター仲間の応援団がいますが、応援で力は湧いてきますか?

中島●当然なりますよ。レース中にもスタンドにいる仲間は見えていますし、同じスポーツスター乗りの応援があると「俺がビューエルをぶち抜くところを見せてやる!」と燃えてきます。実際ビューエルを抜くとスポーツスター乗りの人は喜んでくれるんですよ。ビューエルとスポーツスターが競り合っている光景なんて滅多に見れないでしょうし、楽しんでくれているようです。

ー確かに、スポーツスターとビューエルの競り合いは迫力がありました。雑誌でSSCの記事を読んだことはありましたが、生で見るのは臨場感が違いましたね。

中島●生で見ると楽しいですよね。でも、前にターミーさんがSSCを見に来たときはレース以外にもみんなでキャンプをやっていて、そっちも楽しそうでしたよ。パドックをのんびりと見学して、みんなでご飯を作って、お酒を飲んで。レースがつまみみたいに見えました(笑)。僕は最近まで「レースは見るものじゃなく、やるもの」だと思っていましたから、みんな自由に楽しんでいるので新鮮でした。「レース場でキャンプ…そんな楽しみ方もあるんだなぁ」と。

ーのびのびと遊んでしまいましたね。走る側にとっては「SSCの魅力」とは?

中島●ベストタイムが出せたときの嬉しさは格別です。順位が高い低いに関係なく、みんなそこは同じじゃないかな。僕はチームとして走っていますから、順位を追いかけるのは当然ですけれど、順位はベストを尽くした結果、付いてくるものだと思っています。「今までの自分をいかに越えるか」、「与えられた環境の中でいかにベストを尽くすのか」それがベストタイムという明確な結果で返ってくるのがレースの魅力ですね。ベストタイムを叩き出したあとのビールなんて最高です(笑)。SSCではそれを参加者全員で喜びあえる。「ベストが出ました!」と誰かが言えば皆で祝福する。ライダーもメカニックも観客も、全員が近いので一体感があるのがSSCの良さなのでしょうね。

ーでは、最後にまだSSCに来たことがない人に一言お願いします。

中島●SSCは普通のレースとは雰囲気がちょっと違います。観客もパドックパスを買えば、パドック裏に入ることができますから。憧れのショップのレースマシンを目の前で見ることができますし、写真だって自由に撮れます。ライダーだって目の前にいますから、話しかけても大丈夫。パドック裏はお祭りみたいな雰囲気なので、レースだと堅苦しく思わず自由に楽しんでください。

プロフィール
中島 早人
39歳。通称「ナックおやぢ」。福岡県にて「Nak.HayS」というカスタムペイントショップを営みつつ、SSCを走るトップレーサー。山口スポーツスター缶コーヒーミーティングスタッフの顔も持ち、レース以外でもスポーツスターに深く関わる。

Interviewer Column

私がバイクに乗り始めてもう12年になるものの、今までバイクレースを観戦したこともTVで見たこともなかった。おそらく今後も私が全日本選手権に足を運ぶことはないだろうけれど、SSCにはちょくちょく足を延ばすことだろう。自分が乗っているバイクがサーキットを走る、しかもビューエルをぶち抜く、なんて見ていて気持ちがいい。公道では見ることができないスポーツスターの全開走行の迫力は言葉でも写真でも伝えられないものがあり、病み付きになってしまいそう。「みんなスポーツスターの限界を知りたいんです」と中島さんが言うように、市販車でサーキットを走っているからこそ、つい見る側ものめり込んでしまうのだろう。今までレース嫌いだった皆さん、一度SSCに足を運んでみてはいかがだろう? レースの前後はパドックパスを買ってパドック裏の雰囲気も味わって欲しい。そうすれば見る側も一緒に走っている気分にきっとなれる。「ワンメイクレースの雰囲気って楽しい」きっとそれに気づくはず。(ターミー)

ピックアップ情報