VIRGIN HARLEY |  河内山 智(テイスト)インタビュー

河内山 智(テイスト)

  • 掲載日/ 2007年07月10日【インタビュー】

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今のハーレーがもっと好きになる
それをカタチにするのが僕の仕事

今回ご紹介するのは、東京都八王子市の「テイスト」オーナー河内山 智さん。
河内山さんと初めて出会ったのはいつだっただろう? 「HOT DOCK」の河北さん、「イーストアーバン」の遠山さんなど、業界の大御所(?)をからかって子供のように遊んでいるのを見かけたのが最初だった気がする。その後も、クールブレーカーの会場でギターを弾いて遊んでいるのを見かける、など笑顔で遊んでいる河内山さんしか見たことがなかった。ハーレーショップオーナーには自由人が多いけれど、中でも河内山さんはダントツ。その河内山さんが作るカスタムにも自由な発想が溢れている。遊びから仕事まで、ライフスタイルすべてを自由に楽しむその秘訣はどこにあるのか、昔から現在に至るまでの過程をお聞きしてきた。

Interview

何かに長く執着できるタイプじゃない
いつも新しいことに興味が向いてしまう

ー若い頃は音楽でプロを目指していたそうですね。

河内山●中学生でギターをイジりはじめて、すぐに「これで食えるようになってやる」と思ってね。高校生のときから東京に出てきては楽器屋巡りをしたり、セッションをしたりしていました。高校を出て一応は九州の大学には進学したものの、音楽のために東京にいることが多くなってね。結局20歳くらいのときに大学をやめて東京に住むようになっちゃいました。

ーバイクとは縁のない10代を過ごしたのですか。

河内山●先輩から古いオフロードバイクを譲ってもらい、自分で触りながら乗っていましたが、あくまで生活の中心はギター。バイクに夢中になっていたって言うほどじゃなかったですね。

ー音楽中心の生活から、バイクに興味が向くきっかけになったのは?

河内山●東京に住むようになって、麻雀に勝って「YAMAHA RD50」っていうバイクをもらったのがきっかけかな。久しぶりに手に入れたバイクをふと自分の好きなようにカスタムしたくなって。3日くらいかけてカフェレーサーに仕上げたんです。そうしたら、周りから評判がとてもよかった。「この世界、ひょっとして面白いかも」と興味の対象が音楽からバイクに一気に変わってしまったんです。

ーいろんなカスタムがある中で、その後ハーレー惹かれていったのはなぜでしょう。

河内山●ハーレーって自分とは縁がないもの、関係がないものだと思っていました。「ハーレー乗り=お金持ち」みたいな偏見があって。ただチョッパーに興味を持ってからは、ハーレーに対する偏見もなくなり、チョップされたハーレーが気になるようになったんです。プロでも何でもなかった頃から、人が作ったハーレーを見て「俺ならこうするな」と思っていましたよ(笑)。もちろんインスパイアされる部分もありましたけれど、自分で作ってみたいと思う気持ちは昔から強かったですね。

ー最初のハーレーを手に入れたのは?

河内山●23歳くらいの頃だったかな。知り合いがあまり調子のよくない79年式ローライダーに乗っていて。「あ~、これもうダメだね」、「ここが壊れてるんじゃない?」と言い続けて、何とか手に入れられる金額でうまく手に入れちゃいました(笑)。

ー状態が良くない車両だったんでしょう?

河内山●輸入バイクを扱うショップで働いた経験があったので、自分で何とかできるかな、と。試用期間中にクビになるくらい短い間しか働いてなかったんですけれど(笑)。当時のローライダーは年式的にここが弱点ってとこはわかっていたので、調子よくするのにはそれほど時間はかかりませんでした。

ーローライダーにはどのくらい乗っていたのでしょう。

河内山●すぐに手放しましたね。自分のやりたいようにカスタムして、完成が見えてきたら別のハーレーを触りたくなっちゃって。知り合いが持っていたショベルのFLHと交換することにしたんです。オヤジ臭いボロボロのFLHでしたけどね。「自分の手でそれをどうカッコよくできるか」そこに興味があってね。今もそうですけれど、1つのモノに長く執着できるタイプじゃないんです。好奇心が常に新しいモノへと向いてしまう性格なんですよ。

ーそのFLHも所有期間は短かった、と。

河内山●完成したら知り合いに売れちゃいました。ハーレーの師匠からパンヘッドのフレームを借りてきて、鉄工所にFLHとそのフレームを持ち込み、パンヘッドのレプリカを造ってみたんです。細かなところも丁寧に作っていたんですが、完成が近づいたら「本物を買えば、全部ついてくるのになぁ」と急に興味がなくなっちゃってね。「売ってよ」と言われて素直に譲ってしまいました。

ーその当時は、ショップとして車両製作をしていたわけじゃないんですよね?

河内山●今でいうバックヤードビルダーみたいなものかな。何度かショップに勤めたことはありましたが、上から言われて作業するのではなく、自分の好きなモノを好きなやり方で造りたくて。昼間は配送業の仕事をしながら、仕事を早く済ませて夜中までハーレーを触る、そんな生活をしていました。

ー仕事としてカスタムを受けていた?

河内山●看板をあげていたわけじゃありませんが、仲間を通じて口コミでオーダーは受けていました。配送の仕事が終わったら上野にパーツを探しに行ったり、内燃機屋に走ったり、忙しい日々でしたよ。

ー北野 武さんのバイクを製作したこともあったそうですね。

河内山●「北野内燃機」ね。「武さんが小さい頃に乗りたかったようなバイクを製作して欲しい」って話が仲間から来てね。作らせてもらいました。「どうせ作るなら遊ばせてもらいたいな」と思って、いろんなアプローチをさせてもらいましたよ。武さんが小さい頃にはバイクメーカーがたくさんあって、その当時にもし「北野内燃機」っていうメーカーがあったとしたらどんなバイクを作っただろう? とイメージを膨らませてバイクを製作したんです。

ー市販用のバイクではなく、武さんのためだけのバイクだったそうですね。Hondaのエンジンを使ったそうですが、なぜハーレーがベースじゃなかったのでしょう。

河内山●製作したのは「Tono-1号」、「 Tono-2号 」の2台。当時、僕はハーレーしか触っていなかったんですが「ハーレーがベースなら、カッコいいモノは当然作れるよな」なんて言われてました。そんな人たちをアッと驚かせたくてね。50ccのエンジンベースにして、ベースが何だろうと“アプローチ次第でカッコいいバイクは作れること”にチャレンジしてみたんですよ。

ー河内山さんが製作したことはナイショで発表されたとか。

河内山●顔を出したくなかったんです。誰がどこで作ったのかがわからない方が面白いですし。“北野内燃機というメーカーが作った”って設定なのに、造り手の僕だけがリアルなのも変でしょ? それに、短い製作期間の間、他の仕事を停めて手伝ってくれた人がたくさんいました。途中で逃げ出したくなるようなプレッシャーの中、周りの協力で完成することができましたから、僕の名前が出なくても別にいいかな、と思ったんです。

ー北野内燃機のプロジェクトは、後の河内山さんに影響はありましたか?

河内山●エンジンはHondaの50ccを使って製作したんですが「小排気量であっても安っぽくないモノを」、「ただの改造車ではなくアーティスティックなモノを」と考えて製作したんですね。それにはハーレーやインディアン、他メーカーの旧いバイクの知識が役立ったんですが、このプロジェクトに携わったことで「ヴィンテージハーレーをもっとたくさん知りたい、乗ってみたい」という気持ちが強くなったんです。どうすればそれが実現できるか、と考えてヴィンテージハーレーを扱うショップ「パラダイスロード」をOPENさせました。「仕事だったら堂々と、いくらでも旧いハーレーに乗れるぜ」ってね(笑)

ー確かに(笑)。プライベートなら絶対無理な台数を楽しめるでしょうね。

河内山●戦前戦後のハーレー中心に、ヴィンテージモデルにじっくりと触れることができました。今でもパンヘッドやサイドバルブ、ナックルヘッドなどを触る機会は多いんですが、パラダイスロード時代にさんざんヴィンテージモデルと向き合ったおかげで、何年モデルがどんな仕様になっているのか、どこにトラブルが起こりやすいのか、年を経るごとにどこがどう進化してきたのかをわかって触ることができます。そういう点ではよかったのですが、軌道に乗るにつれてショップの方向性が自分の望むモノと変わってきてしまってね。それでパラダイスロードは人に譲り、僕は自分がやりたいようにやり直そうと決めたんです。それが「テイスト」なんですよ。

ナックルもV-RODも僕には同じ
どれもハーレー。どれも楽しい

ーテイストはどんなショップにしようと思ったのでしょうか。

河内山●「○年式の○○が最高」、「ハーレーは○○エンジン以外はダメだ」そういう狭い世界に囚われず、もっと自由にハーレーを触りたかった。パラダイスロードを経て、旧いモノの良さも充分にわかりました。でも、ハーレーのエンジンの進化をこの目で見て、触ってくると「なぜ進化してきたのか」がわかるんです。パン、ショベル、エボ、ツインカム…旧いモデルにはイイところもありますが、ダメなところがあったから新しいモデルに変わったわけです。旧いモデルを散々触ったからこそ、そんな風に思えるようになったんでしょうね。

ー最新モデルに偏見はない、と。

河内山●ツインカムが出て初めて乗ってみたときに「うわ~、ちゃんとハーレーしてるよ」と驚いたのを覚えています。V-RODも同じ。これまでにユーザーとして、パンやナックル楽しんできたのと同じ延長線上にV-RODがあるんです。旧車と現行車は確かに同じではありません。V-RODと同じように旧車を乗り回せば、ガスケットが飛んでオイルを吹き、焼きついてしまうでしょう(笑)。そんな違いはありますけど、それでも同じハーレーなんですよね。共通する楽しさはちゃんとある。ハーレーを知れば知るほど「○○は嫌い」というのは無くなってきました。今は「好き」と「大好き」しかありません。

ー新旧モデルに優劣をつけても仕方がない、と。

河内山●旧いものもいいけれど、新しいものもいい。どっちか1つを選ばないとダメってわけじゃないんです。過去に経験してきた技術や知識を今のモデルにフィードバックすることだってできますから。旧いバイクでいくらカッコいいものを造っても、ベースバイクが高くてなかなか手に入れられるモデルじゃなかったら…楽しめる人は少ないでしょ。ベースモデルでカスタムの完成度やカッコよさが決まるわけがない。新車で買える現行のハーレーのオーナーに「これをベースにするなら、これが限界」、「フレームが違うから…」、「エンジンが違うから…」なんて言いたくない。モデルによって確かにカスタムの適材適所はありますが、オーナーが見える範疇で理想のイメージを感じさせてあげるカスタムはできるはず。頭を柔らかく、アプローチ手法をかえてチャレンジすればきっとカタチになる。新しいモデルをけなすのは誰にでもできます。それよりも、いつも新しいアプローチでチャレンジすること。V-RODが出れば、実際にV-RODに乗って自分で遊んでみる。インジェクションが出ればインジェクションを触って遊んでみる。新旧にこだわらず、僕はそんな風にハーレーを楽しみ、それをお客さんにフィードバックしてあげたい。

ー年式を問わずどんとこい、というわけですね。

河内山●毎年クールブレーカーには、ウチらしいアプローチでカスタムした旧いモデルのカスタムと新しいモデルのカスタムを持って行くようにしています。次のクールブレーカーにはV-RODを持って行く予定です。「楽しめないハーレーなんて1台もない」それを伝えたいんです。「買うバイクを間違ったね」と他のお店で言われても、僕はそのバイクを好きにさせてあげる。それをやるのが僕の仕事です。

ー「常に新しいアプローチ」ということは、オーソドックスなカスタムはされないのでしょうか。

河内山●お客さんのやりたいことで仕事を選り好みすることはしません。どんなスタイルを手がけるにしろ“テイストらしいアプローチで”という意味です。ただ、誇示したり、無理な方向性に振ったカスタムはやりません。怖くて100kmも出せないV-RODとか、走らないチョッパーとかね(笑)。そのハーレーが本来持っているべき性能はちゃんと持たせて、その上でいつも違うアプローチで表現していくんです。

ーカスタムを楽しむ、ために心がけていることはありますか。

河内山●旧車のレア物パーツだけでバイクを組み上げたら、スタンダードな旧車ができるだけで面白くない。どこででも買えるようなパーツを使ってでも面白いモノは造れる。自分の中で引き出しはいくらでもありますから。いつも同じ手法で同じバイクを作ることもできるんでしょうけれど、次から次へと新しいアプローチを試さないと、やりたいことが自分の中で膨れ上がってしまう(笑)。他には周りに真似されるくらい、新しいことをやっていくこと、かな。多くの人が手に入れられるモデル、パーツを使って、それまでになかったモノを表現できれば、テイストまで来られない人もテイストのカスタムを楽しむことができる。僕は真似をされることは嫌がりません。「こんなやり方があるんだよ。面白いでしょ?」とユーザーやショップに提示しているだけなんです。それを面白がってくれて、楽しんでくれたら満足です。

プロフィール
河内山 智
49歳。山口県出身。プロのギタリストを目指し上京、東京でカスタムバイク製作に出会う。バックヤードビルダー、ヴィンテージハーレーショップ「パラダイスロード」を経て、現在は東京都八王子で「テイスト」を主宰。古くから名が知られた有名人ながら、自由奔放に遊ぶ自由人。

Interviewer Column

「新しい旧いなんてどうでもいいじゃない?」河内山さんの変わらないそのスタンスは新鮮だった。カスタムショーを見渡せば、ショベルヘッド以前のモデルでのフルカスタムが未だに中心。旧いモデルには未だに失われない魅力があるのはもちろん確か。ただ、それが「旧い=偉い」という安直な発想をする人が多いのは少し残念だと感じていた。そんな中、大御所(失礼な表現で、すいません)の河内山さんが旧いモノも新しいモノも、楽しみながらカスタムしているのが以前から気になっていた。V-RODに乗り「こないだ高速で○○kmも出しちゃったよ」とイチユーザーとして最新モデルを楽しみ、話す傍らにはヴィンテージモデルのエンジンがあるライフスタイル。河内山さんのハーレーとの付き合い方は見ていて非常に気持ちいい。こんな人に愛車を触ってもらえば、そりゃ愛車がもっと好きになるだろうな、テイストのお客さんがちょっと羨ましくなった(ターミー)。

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