VIRGIN HARLEY |  冨吉 英之(Hot Kind)インタビュー

冨吉 英之(Hot Kind)

  • 掲載日/ 2007年10月11日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

Vツインエンジンの持つ魅力
それをもっと楽しませてあげたい

スポーツスターに乗る私には、以前から気になっているショップがいくつかにあった。今回ご紹介する佐賀県の「Hot Kind」も、そんな気になるショップの1つだ。他では見かけないスポーツスターのオリジナルパーツを製作しているのがきっかけで注目し始めたのだが、Hot Kindはハーレー専門ショップではない。BMWやDUCATIから国産バイクまで、幅広く取り扱うショップ。オーナーの冨吉さんは、東京でメカニックをやっていた時代、BMWでバトルオブツインや鈴鹿8耐参戦するなど、今の姿からは想像できない経歴を持っている。ハーレー一辺倒ではない視点を持つ冨吉さんは、ハーレーのどこに魅力を感じているのだろう。これまでお会いした人とは違う答えが聞けそうで、佐賀県まで話を伺いに足を運んでみた。

Interview

80年代に東京で過ごした経験
今に繋がる財産になりました

ー冨吉さんは10代の頃からバイク業界で働くことを夢みていたそうですが、そう決心させるきっかけがあったのでしょうか。

冨吉●昔からバイクが好きで好きでたまらなくて、好きが高じてそう決めていたんですよ。若い頃に誰もが思い描く夢と同じ、私の場合はそれがバイクだったというわけです。まさか本当にこの歳になるまで、この業界関わっているとは思っていませんでしたけどね。

ー10代の頃から、ハーレーなど輸入車に憧れは持っていたのでしょうか。

冨吉●憧れという前に、そもそも身近なものじゃなかったですね。米軍の佐世保基地から近かったので、基地の人間がハーレーで走る姿を見かけることはあるかな、という程度。輸入車を見る機会なんてほとんどありませんでしたよ。

ー本格的にバイクに乗り始めたのは?

冨吉●大学への進学で上京してからです。CB750を手に入れて峠を走り回ったり、ライセンスを取ってサーキットで走り始めたりと“速く走ること”に夢中になっていた時期でした。バイク業界で生きていくことを真剣に考えはじめたのは、この頃でした。バイクメーカーの開発部門で働くことを目指しはじめたんです。

ー卒業後は希望の道には進めましたか?

冨吉●残念ながらメーカーへは就職できませんでした。「いつかメーカーで働けたら」と純正シートを製作する下請け会社に2年ほど勤めましたが、僕のやりたいこととはちょっと違っていて。それで退職して都内のバイクショップでメカニックとして修行しはじめたんです。

ーそのショップは今はもうありませんが、輸入車の取り扱いで当時有名だったショップですよね。

冨吉●大学時代にバイクのことを教わった先輩が、そこに勤めていて「ウチに来いよ」と誘われたのがきっかけです。ハーレーやDUCATI、BMWや国産の逆輸入車を中心に扱うショップで、ここに勤めたことで幅広いバイクを触る機会が得られました。

ー数あるメーカーのバイクを触る中で、ハーレーにはどんな印象を受けましたか?

冨吉●当時はまだショベルヘッドが現役の頃でしたが、印象は良くなかったですね。 バルブの焼きつき、ミッションやオイルポンプの故障など…ハーレーの修理はさんざんしましたよ。ショベルローライダーを高速で試乗していたときに、スロットルが戻らなくなったことがあって、かなり怖い思いもさせてもらいましたし(笑)。正直なところ「なんてバイクだ、コレ」と思っていましたね。でも、そういった故障の大半は整備が悪かったと気づいてね。先輩の技術を盗みながら経験を積んでいくと、「メカニックとしてはやり甲斐のあるエンジンかも」と、印象が変わったんです。

ーというと?

冨吉●OHVというシンプルな構造のエンジンで一見簡単に思えますが、シンプルなだけにメカニックの腕で調子が大きく変わるエンジンだということです。クランクの芯出しやバランシングなどをきっちりやれば、エンジンフィーリングは別物になります。ハーレーをはじめとした輸入車はメカニック次第で、調子が良くも悪くもなるところがメカニックとしては面白いトコロでした。

ー80年代はBMWに乗って鈴鹿8耐に出たり、雑誌で最新モデルのインプレッションを担当したり、ハーレー以外のバイクにも触れる機会は多かったようですね。

冨吉●80年代の経験は非常に貴重なものでした。メーカーごとに違う設計思想を実際に乗って感じることができ、技術の進歩が目覚しかった時代に最新モデルを味あわせてもらえました。そうかと思えば、最新モデルばかりが出場する中、OHVのBMWで鈴鹿8耐でどこまでチャレンジできるか、ライダーとして戦う経験もした。もし、80年代に僕がハーレーしか触っていなかったら…今のHot Kindはきっとなかったでしょう。あらゆるメーカーのモデルに乗った経験が、今に生きています。どこをどう触ればもっと楽しく走ることができるのか。スーパースポーツからOHVモデルまでを触り、走らせた経験から考えることができるんです。

1台の愛車を永く楽しんで欲しい
その手伝いをするのが僕の仕事

ー数々のバイクに乗る中で、ハーレーへの印象はいかがでしたか。

冨吉●80年代の終わりに、雑誌で初期エボスポーツのインプレッションを担当したことがありますが、当時の印象は…何というか、不思議なバイクでしたね。スポーツスターは登場して間もない頃にちょっとしたブームになったんですが、最初は「これほど乗りづらいバイクもそうそうない」と思っていました(笑)。それまで乗ってきたスポーツバイクに比べて、思うように走ってくれない。速い遅いの問題ではなくて、ディメンションが変というか…。僕の考えるスポーツができるバイクだとは思えませんでした。

ーでも今は、スポーツスターを高く評価していますよね。悪い印象が変わったのはなぜでしょう?

冨吉●佐賀に戻ってHot Kindをはじめてしばらくして、スポーツスターに乗るお客さんと永く付き合うようになってからですね。一時はハーレーの新車を販売していた時期もあり、いろんなお客さんの相談を受け、お客さんの要望をどう解決するのかに頭を巡らせる日々でした。中でも大変だったのがやはりスポーツスターのお客さん。スポーツスターでいかにスポーツを楽しむか、あるレベルまでは難しくはありませんが、僕にはどうしても気になる車両の動きがありました。「ここを触ったらどうか?」と8年近く悩んだ結果、リアサスペンションの取り付け位置を変更することで、僕が考える理想のスポーツスターが出来上がったんです。スポーツスターはノーマルでもそれなりに楽しいモデルです。でも、僕が満足できるレベルのスポーツスターを作りあげて、初めてこのバイクの面白さがわかった気がします。

ーリアサスの取り付け位置の変更パーツ。今は製品化されている「425ショックマウント」ですね。

冨吉●ビックツイン、特にダイナはいい位置にリアサスペンションが取り付けられているので、そのままでも充分楽しめます。だからこれは、スポーツスター専用パーツなんですよ。「425ショックマウントが何よりもいい」とまでは言いませんが、お客さんの求めるスポーツによっては もっと楽しくなるでしょう。リアサスの取り付け角度を変更すれば、旋回中にでもライン変更ができるようになる、かなり理想に近い動きができるようになるんです。

ーお店から少し離れれば自然のテストコースがいくらでもある、環境に恵まれたから開発できた、というのもあるかもしれませんね。

冨吉●都心にお店を構えていたら、確かにこんな製品を開発しようとは思わなかったかも。近くの山を走ればいくらでもワインディングがあり、信号はなく対向車もほとんどいない道があります。路面のギャップもほどよくあり、足回りをチェックするには最適な環境で製品開発ができました。

ーハーレーの世界は“スタイル重視のカスタム”から“スポーツ寄りのカスタム”まで、自由度が高いですけれど、冨吉さんはやはり“スポーツ”を楽しんで欲しいのでしょうか。

冨吉●1台のバイクをできるだけ長く楽しんで欲しい。そのためにはポジションをオーナーに合わせて、気持ちよく走れるようにしてあげたいだけです。それが“スポーツ寄り”というならそうでしょう。僕はお客さんには愛車がボロボロになるまで乗って欲しい。年に1万kmや2万km…できればもっと走って欲しいと思っているんです。ウチのお客さんにはもう12万kmもハーレーに乗っている人がいます。時間を見つけてはふらりと気の向くまま走っている人で、いいバイクの楽しみ方をしていますよ。

ーかなり距離を走る人は車両の調子には敏感なはず。そういうお客さんが冨吉さんのところに来るのは腕をよほど信頼しているんでしょうね。

冨吉●「かなり走っているので、そろそろ乗り換えましょう」。そう言わないのは商売的には間違っているんでしょうけれどね(笑)。でも、そんなお客さんがお店にやってきて、走りに行った先の話をしてくれるのが嬉しいんですよ。 僕がメンテして、オーナーには心置きなく距離を伸ばしてもらう、メカニック冥利につきますね。

ーハーレー乗りって、意外に距離を走らない人も多いですね。

冨吉●「一生このバイクに乗り続ける」今はそう思っていても、いずれは愛車との別れはやってきますよね。家庭の事情、体力的な事情など、理由はさまざま。そうなったときに「もっと乗っておけばよかった…」と後悔して欲しくないんです。「残念だけれど、たっぷりと楽しませてもらった」と、そんな風に思えるような愛車との付き合い方をして欲しい。そのためには、ちゃんとメンテナンスをして、時間を見つけていろいろなところに走りに行って欲しいですね。

ー今までの話だと、「Hot Kindはカスタムはやらない」みたいな印象になってしまいそうです(笑)。Hot Kindでもハーレーのカスタムはやっていますよね。

冨吉●それもハーレーの魅力ですから、もちろんやりますよ。ただ、カスタムの相談を受けるときは「そのパーツを交換すると、どう変わるか」メリット、デメリットを含めて説明するようにしています。「燃費が下がる」、「乗りにくくなる」など取り付ける前に話しておかないとパーツを交換して後悔するモノもありますから。ハーレーのパーツって安いモノばかりじゃないですからね。1つ1つのパーツの果たす役割と、どんなリプレイスパーツがあるのかをアドバイスするのも、お客さんにハーレーを楽しんでもらうために僕がやるべきことです。お客さんが求める方向性によっては高いパーツより、安いパーツの方が合っていることもある。インターネットなどで情報は溢れていますけれど、経験を積んだプロにしかわからないことだってありますから(笑)。

ー最後に。多くのバイクを知る冨吉さんは、ハーレーのどこに魅力を感じているのでしょう。

冨吉●今のモデルは違いますが、ツインエンジンなのにキャブレターは1つ。他のメーカーのバイクから見ると“出来損ない”とも思えるところです(笑)。でも、一生懸命作っているのが伝わってくるバイクなんですね。だから僕もここまで時間をかけて、ハーレーの楽しみ方を伝えようとしてしまうのでしょう。ハーレーのVツインは恐らく偶然に生まれたんだと思いますが、たまたま誕生したVツインのエンジンの鼓動は確かに人に合っています。振動が体に伝わっても辛くない、むしろ気持ちいい。ハーレーのエンジンが刻むビートが人に優しい。そんな魅力的なエンジンを積んだバイクをもっと楽しめるように提案してあげる、それがHot Kindで僕がやりたいことですね。

プロフィール
冨吉 英之
51歳。佐賀県で「Hot Kind」を営む。スポーツスターカップのルーツであるバトルオブツインの第一回目優勝者。過去に輸入バイクを扱うショップに長く勤めた経験があり、ハーレーだけではなく、BMW、DUCATIなどあらゆるバイクに精通する。

Interviewer Column

取材の前に冨吉さんに連れられ、テストコースをドライブしてみた。Hot Kindの周囲は確かに素晴らしいコースが溢れている。STOP&GOが続く街中では、思うようにバイクを楽しめないけれど、こんな環境に恵まれているならば、バイクに乗るのが楽しくて仕方がないだろう。Hot Kindという稀有なショップは冨吉さんのこれまでの経験と、佐賀という恵まれた環境にお店を構えていたことが合わさって生まれたのか、周囲を走るうちにそんなことが思い浮かんだ。加えて、冨吉さんの物事を追究するひたむきさも挙げられよう。それはバイクに対してだけではない。冨吉さんは50歳を過ぎて十数mの滝つぼから飛び込みをして遊んでいる。「何もそこまでしなくても(笑)」とは思ったが、物事にとことん没頭するその姿勢が「425ショックマウント」に代表されるアイデア溢れるバイクとの取り組み方を生んだのだろう。(ターミー)

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