VIRGIN HARLEY | 根岸 幹宏(ROOT MOTORCYCLES) インタビュー

根岸 幹宏(ROOT MOTORCYCLES)

  • 掲載日/2008年07月24日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

別に優等生なわけじゃない
まっとうに仕事をしたいだけ

今回は久しぶりにシリアスなインタビューとなった。話を伺ったのは埼玉県熊谷市のROOT MOTORCYCLESの根岸さん。1年半ほど前にオープンした、ハーレーを中心とした車両整備を行う気鋭のショップ代表だ。本来ならハーレーとの馴れ初めから、ハーレーの持つ魅力についてなど、語っていただくところだ。しかし、私の方から敢えてテーマを絞っての取材をお願いをし、バイク業界の認証工場資格の話題を中心に話を聞くことにした。昨今、ディーラー以外でも認証工場資格を取得するショップが増えてきたが、根岸さんのショップはオープン時から認証工場資格を取得した珍しいショップだ。我々ユーザーの間でも認証工場とは何なのか、なぜその資格が必要なのか、あいまいな理解しかない人も少なくない。そこで認証工場資格という真面目なテーマでインタビューを行ったのだ。

Interview

部品交換ではなく修理がしたい
それでこの世界に入ってきました

ー初めてハーレーを手に入れたのは早かったようですね。

根岸●22歳のときです。ガソリンスタンドでフリーターをしていたときに勢いで買ってしまいました(笑)。

ーずっとハーレーを欲しいと思っていたのでしょうか?

根岸●高校生のときから不動車を直して乗るくらいバイク好きでしたが、20歳を過ぎてからしばらくは車に夢中になっていました。でも、ふと「久しぶりにバイクに乗りたいな」と思ったときに、欲しいと思えるバイクがハーレーだけだったんです。特別ハーレーに憧れていたわけではなかったのですが。

ーハーレーのどこに惹かれたのでしょう?

根岸●ハーレーにはクロームパーツなど煌びやかな部品がたくさんあり、そこに目がいきがちです。でも、よく見ると機能美の塊なんですよね。エンジンに刻まれた美しいフィンは飾りではなく、エンジン冷却の役割を果たしているなど、意味のないパーツがないんですよ。それがきっかけで調べていくと、整備がしやすいシンプルな構造になっていて、ガソリンスタンドで整備をカジっていた僕にとっては非常に面白いバイクに映ったんです。

ー車のメカニックをやっていたんですか?

根岸●オイル交換や代行車検など、簡単な整備をやっていただけです。工具も設備も揃っていなかったので、そこでできることは限られていました。だから整備をしているときにトラブルの種を見つけても、それを直してやることができず、歯がゆい思いをしていましたね。

ーちゃんとした環境で車の整備しようと思ったのですか?

根岸●高校を卒業して間もない頃に父親が倒れ、それを機にガソリンスタンドで働くようになったんです。一時は資格を取って車の整備を本格的に学ぼうと思った時期もありました。でも、整備学校を出て、メカニックをしている友人に話を聞くと「トラブル箇所は部品ごと交換するのがほとんど。使える部品を修理することはまずない」と聞いて、車のメカニックを志すのはやめました。ハーレーを手に入れたのは「フリーターから脱却して何かしよう。好きなことでストレスなく働きたい」そう思い悩んでいた時期です。それが縁で今、この仕事に就いています。

ーこのバイクを整備する仕事に就きたい、と。

根岸●そう。それまでいろんなバイクをプライベートで触ってきましたが、自分のハーレーを触ってみると、部品の頑丈さはそれまでのバイクとは段違い。「ここまで丈夫にする必要はないだろう」っていうくらいでした。部品の点数も非常に少なくて、バラして組み立てるだけなら簡単にできてしまう。触る側の人間からすれば理に適った魅力的なバイクでしたね。それに、カスタムパーツや旧い車両のパーツ供給の豊富さも驚きでした。どんな形にだってできるし、戦前のハーレーだって修理ができてしまう。メカニックとして「こんなバイクを触わることができれば楽しいだろうなぁ」そう思ってハーレーのメカニックを志したんです。

ー埼玉のモトスポーツ(現在は閉店)に勤めることになった経緯は?

根岸●ハーレーの世界をもっと知ろうと思い、いろいろなショップを訪ねていた時期があり、よく名前が上がったのが近所にあった「モトスポーツ」でした。それがきっかけで、初めてのハーレーをそこで購入することになったんです。それで付き合いはじめたモトスポーツでしたが、認証工場でちゃんと整備士資格が取れる環境にあり(※1)、お店の雰囲気も好きだったので、ハーレーのメカニックを志すことを決めたときは迷わずモトスポーツで働くことにしました。
※1 各県の整備振興会に加盟している認証工場で一定の実務経験を経験すると、資格試験時に実技試験が免除される。

ーいざハーレーを触りはじめて、いかがでしたか?

根岸●いきなりは触らせてもらえませんよ。最初は別店舗で原付の整備からスタート。毎日毎日、原付の整備でエンジンをバカバカ割っていて…おかげで度胸がつきましたよ。2年ほどしてハーレーを触らせてもらうようになりましたが、原付でさんざん経験したせいか、エンジンを開けるのはまったく怖くなくなっていましたから(笑)。

ーハーレーを触りはじめたのは、ちょうどエボからツインカム88の過渡期だったと思いますが、両方のエンジンの整備経験が積めたわけですね。

根岸●エボやツインカム88だけではなく、ショベルだって触る機会はありました。ショベルを新車の時代から販売していたショップですからね。ショベルとなると自分が生まれる前の年式の車両も珍しくない。ショベルを初めて任されたときはさすがに緊張したのを覚えています。でも、各世代のエンジン整備を一通りやらせてもらったのはいい経験になりました。今に繋がる僕の財産です。

ー独立を考えはじめたのはいつ頃からでしょう?

根岸●モトスポーツに入社したときから「独立希望」ということは伝えて働きはじめていました。具体的に独立へと動き始めたのは2級整備士資格を取った後、30歳のときでしたね。ただ、それまで自分を育ててくれ、お世話になったショップをいきなり辞めるわけもいきません。社長に相談して独立したのは30歳になってからでした。

長くやっていくのに必要だから
それで取得したのが認証工場資格

ーROOT MOTORCYCLESはオープン時から認証工場の資格取得を行っていますよね。最初からそこまでするのは珍しいのでは?

根岸●本当は分解整備を仕事にするためには必要な資格なんですよ。現実にはハーレーの世界に限らず、未取得のショップが多いのですが…。

ーそもそも認証工場資格とは何なのでしょう? どういった経緯で生まれた資格なのでしょうか?

根岸●認証工場資格が生まれたのは戦後間もない頃だったと聞いています。自動車に乗る人が増えはじめたものの、整備する人の技量がまちまちで整備不良が原因の事故が増えたのがきっかけだとか。有資格者がちゃんとした設備の整備工場で車両整備をしようという制度です。

ー分解整備とは何を指すのでしょう? あらゆる整備が分解整備になるのでしょうか。

根岸●車とバイクで定義が違い、これがややこしいんですが、バイクではブレーキキャリパーの脱着を行うと分解整備。ただ、オーナーが自分でも行うような、日常的に行われる基本メンテナンスは分解整備ではありません。それ以外は分解整備に含まれると思ってください。

ーほとんどのショップは分解整備を仕事としているわけですよね? 認証工場資格を取得していないショップが多いのはなぜなんでしょう?

根岸●認証工場資格を取得するには条件があるんです。整備士の資格や人数、整備工場の面積などが決められていて、古くからある自転車屋からスタートしたようなお店だと、面積の問題で取得できないこともありました。また、資格取得には指定の工具や設備の購入などでかなりお金がかかるため、今も資格を取得していないショップが多いんです。法律は作っておきながら、取得を奨励する制度がなかったため、ハーレー業界に限らず、メーカーと直接取引がないショップには未認証の工場が多くあります。

ーこれから独立しようとしていた根岸さんにとって、認証資格取得でお金がかかるのは辛かったのでは?

根岸●お金の工面もそうですし、資格を取ることができる敷地を探すのも大変でした(笑)。でも、これからショップを経営するのに、認証取得は絶対必要なことだと思っていたので苦労して取りましたよ。この先もずっとバイク業界で食べていくためには、認証を取得していないとまっとうに仕事ができなくなるでしょうから。僕は別にお上の言うことなら何でも聞くような人間ではないですし、どちらかというといろんなことに噛み付きたくなるタイプの人間です。けれど、お客さんに「ウチは大丈夫」と胸を張って仕事をするためには認証取得は最低限必要なモノだったんです。

ーこれからのバイク業界にとって必要とはどういう意味でしょうか。

根岸●排気ガス規制や騒音規制が強化され、各メーカーの販売するラインナップが絞り込まれていっていますよね? キャブがインジェクションになり、空冷エンジンから水冷中心になりつつあります。それでも規制に対応させるのは難しくなってきているので、将来ガソリンエンジンがモーターに取って代わられても驚きません。今はこれからバイクがどうなるのか、その過渡期だと思っています。そういう大変な時代だからこそ、ちゃんとやっているところとそうではないところで差は出てくるでしょう。誰にでも胸を張って仕事ができる資格を取り、堂々と仕事をしていかないと、この業界で食っていけなくなるような気がするんですよ。未認証のまま仕事をしていると、本来やっちゃいけない仕事を依頼されても断れなくなってしまいますから。「ウチはこれからもずっと、まっとうに仕事をし続けていきます」。自分やお客さんにそう宣言するために必要な資格ですね。

ーエンジンがモーターになる、そんな時代が来るのでしょうか。

根岸●そういうバイクが登場するのは、そう遠い先の話ではないでしょう。でも、モーター駆動のバイクって、皆さんが想像するほどつまらないものじゃないかもしれませんよ。パワーも運動性能も環境性能もガソリンエンジンより優秀なものが出てくるでしょう。今のガソリンエンジンは環境負荷を考えて、性能が抑えられている部分があります。モーターに切り替えることでそうじゃなくなるなら、それでバイクという乗り物が存続することができるなら、僕はモーター駆動のバイクの登場を喜んで受け入れますけれどね。

ーハーレーの魅力を考えると、空冷Vツインエンジンであることなど、未来のバイク像からかけ離れている気がしますね。ハーレーは生き残っていけるのでしょうか?

根岸●メーカー側も考えているでしょう。空冷Vツインエンジンはわかりやすいハーレーの魅力ですが、無駄な装飾が少ない機能美の追求だったり、大人が乗っても安っぽく感じられない質感だったり、創業以来守り続けている伝統があります。そこから外れない限り、ユーザーの支持は得られるんじゃないか、そう思いますよ。

ー確かに、何十年も先に今のバイクと同じようなモノが新車で販売されているとは思えません。今、ハーレーや他メーカーのバイクに乗っている人は最後にガソリンエンジンを楽しめる世代のような気がしてきました。

根岸●モノは考えようですよ。我々の世代はガソリンエンジンも、いずれ登場する新しいバイクのエンジンも両方楽しめることができる。100年以上も前に基本形が生まれた内燃機関が新しいモノに生まれ変わるかもしれない。その瞬間に生きることができるんですから。

ーただ、「もうすぐ乗れなくなるんだから好きに乗っちゃえ」と考える人が出てくるかもしれません…。

根岸●それが怖いんですよ。僕たちが今「バイクをどう楽しんでいくのか」は、バイクの将来に大きく影響を及ぼすでしょう。排気ガス規制や騒音規制はバイクの実情を把握できていない状況下で、バイクを知らない人たちが決めていて、いろいろ矛盾もあります。でも、バイクに縁のない人たちから苦情があって規制強化に繋がったのも事実。今、規制を守らないともっと厳しい規制がやってきて、将来バイクが楽しめなくなることだってあるかもしれません。カスタムの世界でも、厳しい80年代を乗り越え、90年代に規制が緩和、90年代にやり過ぎた反動でこれからは厳しくなりそうです。ユーザーとメディアを含めた我々業界の人間が「これからどうバイクを楽しんで次の世代に繋げていくのか」それを考え、この先もこの素晴らしい乗り物を、世代を越えて伝えていきたいですね。

プロフィール
根岸 幹宏
32歳。22歳でハーレーに出会ったのをきっかけにHDディーラーに入社。メカニックとして修行を積み、2007年に独立しROOT MOTORCYCLESを立ち上げる。バイク業界と真剣に向き合うが、家庭では2児のよきパパでもある。

Interviewer Column

こんなインタビューを行ったものの、我々メディア側には矛盾が多い。そのままでは車検に通らない車両を取材することだってある。ユーザー側も何も知らないか、何となくグレーゾーンで取り締まりがないから、という理由でそういった車両に乗っている人も多い。でも、時代の流れが変わりつつあるのだ。「自分が楽しみたいから」という理由だけで、好き放題にカスタムしたバイクに乗れない時代を迎えつつある。メーカー、メディア、ショップ、ユーザー、すべての人間がこれからどう動いていくのか、それ次第でバイク業界の未来が変わっていくだろう。「じゃあ、Virgin Harleyはこれからどうしていくの?」それを聞かれても即答はできない。ただ、これからの業界を引っ張っていく、根岸さんのような若手のショップが誕生していること、それを多くの人に知って欲しいと思ったのだ。最後に、根岸さんをただの優等生のショップ代表だと勘違いしたならば、その考えは改めて欲しい。認証取得は、この先もずっとバイクと真剣に向き合っていくために、必要な選択だったのだ。こういうショップが今後増えていけば…バイク業界の未来は明るい気がする。(ターミー)

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