VIRGIN HARLEY |  横塚 博昭(スポーティガレージ)インタビュー

横塚 博昭(スポーティガレージ)

  • 掲載日/ 2008年12月02日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

いつまでも楽しめるスポーツスター
それを専門店としてサポートしたい

スポーツスターからハーレーライフが始まった筆者にとって、スポーツスターは特別なモデルだ。購入から6年ほどで10万kmも走り、その思い入れはかなりのモノ。ビックツインへのステップとして購入する人も珍しくないスポーツスターだが、その一方で、私と同様にスポーツスターへ惜しみない愛情を注ぐ人も少なくない。今回紹介するSporty Garageの横塚さんもその一人だ。20歳の頃にスポーツスターに乗り始め、2台のアイアンスポーツ(ショベルヘッド時代のスポーツスターの愛称、以下アイアン)を経て、現在はスポーツスターのルーツ「Kモデル」をレストア中。しかも、スポーツスター好きが高じて、スポーツスター専門店をオープンしてしまった。周囲にもスポーツスターに夢中になっている仲間は多いが、これほどのスポーツスターフリークはまずいない。横塚さんとスポーツスターの出会いから、なぜそこまでのめり込むのか、じっくりと話を伺ってきた。

Interview

旧車乗りが多い街で育ったから
バイクに興味を持つのは自然なこと

ー小さい頃からいろんなバイクを見ることができる、恵まれた環境で育ったそうですね。

横塚 ●生まれも育ちも東京都大田区ですが、僕の小さい頃からこの辺りは国産や輸入車の旧車乗りが多かったんです。ハーレーだと近所にカスタムショップの草分けショップや老舗ディーラーがありました。トライアンフを何十台も持っているマニアの人も近所に住んでいましたよ。いろんなメーカーの老舗ショップがある土地柄だったからか、希少なバイクを近所で見かけるのは珍しいことではありませんでした。小中学生の頃からそんなバイクを見ては「あれは!」と興奮していて、免許が取れるようになるのが待ち遠しかったですね。

ー初めて手に入れたバイクは?

横塚 ●高校生のときに先輩から譲ってもらった、カワサキの「Z200」という単気筒バイクです。

ーマニアックなチョイスですね

横塚 ●レプリカブームに火がつき始めた頃で、そんなバイクに乗る仲間はほとんどいませんでした。その後のバイク遍歴はスズキの「RG250E」やホンダの「CB250RSZ」など、250cc以下のあまり人気のないバイクばかりでした。安くて手に入れやすかったというのもありますが、シングルかツインのバイクが好きだったんですよ。

ー両親から「バイクに乗るな」などと反対されなかったのでしょうか?

横塚 ●父親がミュージシャンで好きなことをして食べていたからか、まったく反対されませんでしたね。僕は高校を卒業して音楽の専門学校に行ったのですが、そのときも「どうせなら海外の専門学校に行けばいいのに…」というくらいだったんです(笑)。

ー最初は音楽の道に進もうと思っていたのですか?

横塚 ●そこまで真剣には考えていませんでした。高校を卒業して働きたくなかったのと、そこを卒業すればちょっとした資格が手に入ったので。

ー初めてのハーレーを手に入れたのは専門学校時代でしたよね。

横塚 ●20歳でしたね。乗った期間が短くて、詳しく覚えてないんですが…確か4速のスポーツスターだったと思います。キックが付けられるコンパクトなハーレーが欲しくて、それで手に入れたんですが、購入してからキックが付けられないことが分かって、しばらく乗って乗り換えました。

ーなんでちゃんと調べないんですか…おっちょこちょいですね。

横塚 ●キックを取り付けたスポーツスターを雑誌で見て「付けられる」と思い込んだんですよ。後から知ったのですが、そのキックはダミーだったとか…。それで1981か1982年式アイアンに乗り換えました。

ー最終型のアイアンもキックはつけられなかったのでは…?

横塚 ●そう、また間違えたんです(笑)。それで3回目の乗り換え。それが最近まで乗っていた1968年式XLHでした。スポーツスターで定番のスモールタンクではなく、大柄の亀の子が採用されていたモデルです。今もそうですけれど、亀の子タンクのスポーツスターってあんまり人気がないんですよね。僕も最初はカスタムするつもりでしたが、乗っているうちに気に入ってしまいました。スポーツスターのルーツを知るにつれ、英国車にも通ずるあのスタイルが好きになってしまったんです。

工具メーカーとディーラーでの経験
それがあったから今の僕があります

ーアイアンに乗り始めたころはスナップオンツールズに勤めていたんですよね? バイク好きが高じてとか?

横塚 ●専門学校を卒業してしばらくは原宿のアパレルショップに勤めていました。華やかな世界で楽しかったんですが、将来ずっとアパレルの世界で食べていく覚悟はありませんでした。それで、次の職を探していたときに偶然見つけたのがスナップオンツールズだったんです。その頃から自分でアイアンを触っていましたし、外資系の会社だからなんかカッコ良さそうだな、と(笑)。

ーいろんなショップを回ってみたかった、将来独立するためのリサーチみたいな気持ちもあったのでは?

横塚 ●それほど深く考えてはいませんでした。でも、車やバイクのいろんなショップを見ることができたのは結果的には今に活きています。一般のショップから本格的なチューニングをしているショップまで、どんなショップがどこまでの設備を整えているのか、自分の目で見て、メカニックの方から話を聞けたのはいい経験でした。

ー「ここまでやるか!」と驚かされたショップは?

横塚 ●車のエンジンチューンをしているショップですね。エンジンチューン専用の部屋を持っていて、そこは年中同じ室温に保つ温度管理をしていました。チューニングの世界はそこまで徹底するのか、とビックリしましたね。あとは、腕の立つメカニックの職場や、その人の工具箱をいろんなショップで見ることができたのもスナップオンにいたから得られた経験でしたね。やっぱり腕が立つメカニックがいる職場には共通するところがあるんですよ。道具を大事にして整理整頓に気を遣っているなど、そういうプロの職場を数多く見る機会なんて、スナップオンにいなければ無かったでしょう。

ーその後、ハーレーディーラーの村山モータースに転職した経緯は?

横塚 ●たまたま募集されているのを見かけたんです。スナップオンには8年近くいて、収入も安定していたので妻には反対されましたが、好きなハーレーの世界で働きたいと何とか説得しました。

ーメカニックではなく営業で入ったのはなぜなのでしょう?

横塚 ●自分のアイアンのエンジンをバラしてみるなど、メカニックについては素人なりに学んでいました。ただ、お店の運営やお金の管理などは経験したことがなかったので、せっかくディーラーに勤めるならそっちを学んでみたいな、と。漠然とですが、将来ショップをやりたいと考えはじめていたんですよ。幸い、社長や周りのスタッフにも可愛がってもらえて、良い経験を積ませてもらえました。

ーメカニックを学ぶ機会は?

横塚 ●村山モータースには、多分日本一なんじゃないかと思うほどベテランのメカニックの方がいたんです。メカニックとして足りない部分は営業が終わってから教わったり、作業を見て盗んだりさせてもらいました。ただ、技術うんぬんより、メカニックとしての姿勢から学んだことの方が多かった気がします。

ーメカニックとしての姿勢とは?

横塚 ●ベテランの方の仕事って、その場しのぎの修理や整備だけではないんですよ。毎回お客さんから丁寧に話を聞いてカルテに残す、同じようなことをしている人は他にもいるでしょうけれど、その丁寧さは半端ではありませんでした。修理に関係ないこと、たまたまお客さんがポロっと話した車両の状態のことも記録に残していて、そういう情報を元にトラブルの原因を突き止めたり、トラブルが出る前に整備を行うこともあったりしました。この人の真似をしたい、そういう人に出会えたのは幸運だったと思います。

ー現行車両を扱うディーラーで働いたのも今に活きる経験だったのでは? アイアン中心にバイクを触ってきたんでしょうから。

横塚 ●仲間とガレージを借り、仕事が終わってからそこで仲間のバイクの整備やカスタムを行っていましたが、最新モデルのことはディーラーで働いていなければ学ぶ機会は少なかったでしょうね。スポーツスター専門店というアイデアも、ディーラーで働いていなければ思いつかなかったでしょう。

ーというと?

横塚 ●ディーラーで日々お客さんに接していると、街のカスタムショップに足を運ぶのを躊躇している人がどれほど多いか、実感する機会がたくさんありました。「何か怖そう…」や「旧車メインで現行車は扱ってくれなさそう…」だとか。だから自分がショップを出すのなら「何を得意としていて、どんな方向性のショップなのか」を明確に打ち出そうと決めていました。僕はスポーツスターが好きでこの世界に入ってきたクチですし、ヴィンテージから現行のビックツインまで、何でも触れるほどの経験はありません。だから、自分が得意とするスポーツスターに絞ったショップにしようと決めました。

ースポーツスターなら現行から旧車までOKと?

横塚 ●大丈夫ですよ。スポーツスターのルーツとなったKモデルも大丈夫。長く乗っていたアイアンは手放してしまったので、自分のバイクとしてKモデルを手に入れたんですよ。部品の供給があまりよくないですし、自分のバイクは後回しなので、仕上げるのにちょっと時間がかかるかもしれません。店頭に置いてあるのでスポーツスターのご先祖がどんなバイクだったのか、見てみたい人は気軽に遊びに来てください。

ーただのスポーツスター好きだけに止まらず、専門店を開いてしまいましたが、スポーツスターのどこにそこまで惹かれているのでしょう?

横塚 ●ロングクルージングできる現行のスポーツスターは一日中走ったとしても疲れにくい。ラバーマウントのエンジンだけではなく、フレームなどの剛性も間違いなく上がっています。そんなモデルと比べると、アイアンは振動がスゴイですし、トラブルの覚悟も必要。長距離ツーリングには不安も残ります。でも、現行モデルにはない荒削りなテイストが魅力的で、旧車なのにかなり速いんですよね。ガチャガチャとした音や振動を立てながら、乗ったことがない人はビックリするような加速が楽しめますよ。一世代前のエボスポーツは両方の魅力をバランスよく持っている。スポーツスターはどの年式を取っても魅力に溢れているんですよ。しかも、キャラクターはそれぞれ違うものの、どれも同じスポーツスターとしての筋の通った魅力を持っている。現行のエンジンがいくら進化したと言っても、未だにOHVエンジンを採用していますからね。21世紀の今にこんな魅力的なバイクが販売されているのは、本当に素晴らしいことだと思いますし、それをたくさんの人に伝えたいんです。

ーその魅力あるバイクをサポートするためにスポーティガレージを立ち上げたと。

横塚 ●スポーツスターは通勤などで日常的に使用されることも多いので、年式の割にかなり距離を走っている車両が多い。だから、それを整備するショップが必要とされているでしょう。特に東京周辺のスポーツスターはかなり距離を走った車両が多い気がします。だから、長くスポーツスターに乗っていきたい人のためにも「スポーツスター専門」と謳ったショップが1軒くらいあってもいいでしょう。

プロフィール
横塚 博昭
35歳。工具メーカー、HDディーラーを経て、現在はスポーツスター専門店「Sporty Garage」を主宰する。20歳の頃に購入したエボスポーツを皮切りにスポーツスターの世界に夢中になる。3台のアイアンスポーツを経て、現在はKモデルを所有。

Interviewer Column

全国を見渡せば、スポーツスター専門店(と思えるショップ)はいくつか思い浮かぶ。カスタムやメンテナンス、エンジンチューンなど、それぞれに得意分野を持ち、その名が知られている。ただ、日本全国のスポーツスターユーザーから考えれば、専門店はもっとあってもいいだろう。ビックツインとスポーツスター、どちらも同じハーレーではあるが、乗り手の気質やカスタムスタイルに違いがあるのも事実。スポーツスターだけをサポートするショップがあってもいいはず。いちスポーツスターマニアとして、“スポーツスター専門”を謳うショップの登場は嬉しいことで、ぜひ応援していきたいと思う(ターミー)。

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