VIRGIN HARLEY | 井上 浩伸(NITRON JAPAN) インタビュー

井上 浩伸(NITRON JAPAN)

  • 掲載日/2011年07月31日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

英国生まれのサスペンションを手がける
若き経営者の情熱に触れる

イギリスが生んだハイエンドなショックアブソーバーブランド「ナイトロン」は、今やスーパースポーツに乗るライダーのみならず、ハーレー乗りのあいだでも愛用されるまでになっている。その日本総代理店「ナイトロン・ジャパン」の代表取締役を務める井上浩伸氏は、以前はスポーツスター XL1200Cに、そして今は VRSCDX ナイトロッド・スペシャルを駆るなど、偏見なくハーレーの魅力を引き出すための眼を養うことに余念がない。他メーカーとは違うナイトロンのすごさとは何なのか、そして彼が見るハーレー乗りの楽しみの幅を広げるためのポイントとは。イギリス本国から全幅の信頼を受けるまでになった人物の素顔に迫ろう。

Character

イギリスのショックアブソーバーメーカー「ナイトロン」の日本総代理店「ナイトロン・ジャパン」代表取締役。幼い頃からバイクに憧れ、16歳でバイクに乗り始めて以来、公私ともにバイク三昧の日々を過ごしてきた。「バイク業界で働いていきたい」という想いからバイクに携わる仕事に就いてき、2001年にサスペンションのセッティングサービスやモディファイを手がける「テクニクス」を立ち上げ、独立。2005年には縁あって「ナイトロン」と業務提携を結び、「ナイトロン・ジャパン」となる。代理店という存在ながら、イギリス本社の製品開発やビジネス展開に携わるなど、他国とは違った密な関係を築き、全幅の信頼を得るまでに。今なお月に一度はサーキットに赴き、自らテスト走行をして製品の完成度を確かめるなど、精力的に開発に取り組んでいる。

井上 浩伸 / HIRONOBU INOUE

Interview

“バイク業界で生きていきたい”
その想いに従って進んだ若き頃

ーバイクとの馴れ初めをお教えいただけますか。

井上 ● 馴れ初めですか(笑)。興味を持ち出したのは小学生の頃、6つ上の兄貴が買って帰ってくるバイク雑誌を読んでいるうちにどんどん興味が沸いてきて、免許が取れるようになったら絶対取得しに行こうと思っていました。それで16歳のときに普通自動二輪免許を取得し、KAWASAKI ZZR250 を購入しました。小さい頃は SUZUKI GSX-R250 に憧れていたんですが、月日が流れるとともに好みも変わっていたようです(笑)。

ー当時のバイク人気が高かったからでしょうか。

井上 ● レースブームだったんですよね、あの頃って。歳が離れた兄貴とバイクの話で盛り上がれたのも、鈴鹿8時間耐久レースなどのバイクレースがテレビで放映されていたから。そりゃ夢中になりますよね。GSX-Rに憧れたのも、そうした背景から。まぁ、今「買うか?」って言われても買わないですけどね(笑)。

ーそれが ZZR250 とは、ツーリングに出かけたくて?

井上 ● そう、「旅に出よう」と。あの年頃って、逃避行がしたくて仕方ないんですよね(笑)。とにかく遠くまで行きたくて選んだんですが、おかげですごく世界が広がったと思います。

ーどんなところまで行かれたんですか。

井上 ● 夏休みを利用して2週間北海道へ行ったりしましたよ。

ー高校生のときに?

井上 ● そうです。そのほか、信州や東北、名古屋など、東日本や北日本へ走りに行っていました。最近はあまり出かけなくなってしまいましたが、ほんのちょっと前までは週末になるたびにどこかへ走りに行っていたものです。完全にツーリングライダーでしたね。おかげで全然勉強をしなくなっちゃいまして(笑)。教科書よりもツーリングマップル見る方が楽しくて楽しくて。

ー都内の進学校に在籍していたとか。

井上 ● ええ、全員が大学に進学する某エリート校だったんですが、バイクに夢中になってしまった結果勉強がおざなりになってしまい、大学に進学できなかったんです。たぶんあの学年で僕だけじゃないかな?(笑)

ーなんだか絡みづらい展開ですね(笑)。その後は?

井上 ● バイク便のアルバイトを始めました。大学にこそ進みませんでしたが、「バイク業界で働きたい」という想いは以前から持っていたので、迷いはなかったですね。

ーというと、メーカーに勤めたりとか。

井上 ● そうですね、漠然とではありますが、メーカーで開発や設計に携わりたいなぁ、なんて思っていました。やっぱりモノを作るのが楽しいと感じる人間ですので、だからこそ今があるのかもしれませんね。

ーその後、カワサキの正規販売店にお勤めになったそうですね。

井上 ● ご縁があって、埼玉県越谷市にあるお店でお世話になることになったんです。社長と僕の2人だけの店で、基本的にメカニックとして雇われたんですが、きちんとした経験を積んでいませんでしたので、社長にイチからすべて教えてもらいながらの日々でした。

ーカンタンな整備なら経験はお持ちだったんですよね。

井上 ● ええ。ですがやはり自分のバイクとお客さんのバイクとでは責任の重さが違いますからね。ああやって教えてもらえたのも自分にとって大きな財産になりました。また肩書きこそメカニックでしたが、人数が少ないこともあって、営業や事務職などありとあらゆる仕事をこなしました。「バイク屋はマルチでこなせなきゃダメだ」が社長の口癖でしたので。

ー井上社長はレーサーとしての顔もお持ちだそうですが、その経験はこのときから?

井上 ● そうですね、ロードレースにモトクロスといろいろ参加したものです。速くはないんですけどね、走るのが好きなので、どんどんのめり込んでいきました。

ーそのときからバイクまみれだったんですね。

井上 ● 仕事ではバイクを触り、休みの日になればバイクで走りに行く。またある休みの日にはサーキットに走りに行くから、前日の夜は仕事が終わった後、自分のバイクをセッティングして……という日々でした。それ以外は何もしていなかったですね。でも楽しかったですよ。サスペンションを触る楽しさを覚え出したのもちょうどこの頃でした。自分で細かくセッティングして、サーキットで走ってみるとその感触を実感できる。それが楽しくて仕方なかったですね。

ーそれが、会社を立ち上げるキッカケになったのですね。

井上 ● 立ち上げたのが2001年だったんですが、ちょうどバイク業界が芳しくなくなってきた頃でもあって、「このまま従業員として過ごしていても、何も生み出せない」と感じ、自分が興味を持ち出していたサスペンションのセッティングサービスやモディファイを手がける会社「テクニクス」を興したんです。

ー“起業する”というのは大きなパワーを要することだと思います。想いの源はどこなのでしょう。

井上 ● 若い頃に抱いた“バイク業界で働きたい”という想いですね。やっぱり自分はバイクが大好きですし、だからこそ業界を盛り上げる何かがしたいと思ったんです。

ー事業展開をしていくうえで苦労されたことも多かったでしょう。

井上 ● 当時は今ほどサスペンションメーカーがあったわけではなく、2社ほどの製品をベースにサービス展開を広げていたのですが、いずれも海外メーカーだったため、オーダーしても「在庫がない」、「入荷まで3週間ぐらいかかる」といったことが相次いだんです。そうなると僕らだけでなく、お客さんもフラストレーションを抱えてしまいますよね。それがサービスの低下と評価される。「海外製品だから」と言われればそれまでなんですが、「こんなことでいいわけがない」という思いを拭えずにいました。自分が理想とするサービス提供ができるブランドを立ち上げたら……そんなことを考えていたときに、ナイトロンに出会ったのです。

より高いクオリティの製品を提供する
ナイトロンと出会いが今を生んでいる

ーナイトロンとの出会いはどういったところから?

井上 ● インターネットで調べていたときに発見して「面白そうだな」と思い、問い合わせてみたんです。そうしたら社長のガイ・エバンスが対応してくれて、「今度日本に行くから、そのときに会って話をしよう」と。

ーエバンス社長が来日したのはまったくの偶然?

井上 ● そうです。イギリス大使館では自国で生み出されている製品を日本にアピールする場を定期的に設けていて、ちょうどナイトロンがそのタイミングだったんです。それが2005年のことで、イギリス大使館に赴いてエバンス社長にお会いし、お互いの話をいろいろとしているうちに意気投合しちゃいまして。当時エバンス社長が39歳で、僕が32歳とふたりとも若くて野心にあふれていたことが大きかったと思います。

ーもちろん事業のあり方についてもディスカッションを?

井上 ● ええ。「出来合いのものをただ箱に詰めて売るだけの商売はやりたくない。サスペンションはそんなものじゃない」という想いは一致していました。このとき、ウチ以外にも「ナイトロンの日本総代理店になりたい」という会社はいくつもあって、いずれも大きな企業でした。しかしお互いの事業理念が合致していたことから、エバンス社長は僕を選んでくれたんです。

ー合致した想いを具体的に言うと?

井上 ● お互いが「こうしたい」と意見が一致したのが、フルオーダーメイドでの提供ですね。ライダーによって好みや体型が違うわけですから、当然サスペンションだってその人に合ったものというのが存在します。そのひとつひとつを職人の手で組んで提供し、よりバイクライフを楽しんでいただきたい――。ここがつながったことが一番大きかったと思います。エバンス社長から「お前が気に入った」と言ってもらい、そしてナイトロン・ジャパンとなったのです。

ーナイトロンも、サスペンションメーカーのなかで言えば比較的新しい存在ですよね。

井上 ● 設立が1997年ですから、他メーカーと比べたら確かに新しいですね。ウチも設立当初は小さな事務所から始めたんですが、その話をエバンス社長にすると「ナイトロンも最初はすごく小さかったよ」と笑っていました。彼自身が「こう」と決めた方針に則って事業展開をしてきたから今があるのでしょう。

ーエバンス社長がこちらに来られることも?

井上 ● もちろん、年中足を運んでくれていますよ。多いときは一ヶ月に一度とか。僕も頻繁にイギリスに行っているので、彼とは毎月顔を合わせている感じですね。長いお付き合いをさせていただいたことで、今では部品の選定やサービス展開の相談など事業の核となる話し合いをしたり、またあるときは一緒にドイツやイタリアのモーターサイクルショーに行ったり。ビジネスパートナーでもあり、友人でもある、そんな間柄です。

ーナイトロンは世界各国に展開されていますが、世界ではどのように受け入れられているのでしょう。

井上 ● 日本以外ではヨーロッパ諸国にアメリカ、あとオーストラリアやマレーシアといったところです。現在はイギリス国内を中心に認知度の向上とともにオーダーが増えてきているそうです。また日本4メーカーから新モデルが発売されるとセッティングをしなければいけないのですが、僕らが先にサーキットでテストを行い、その結果や製品などをナイトロン本社に送るということをやっています。

ーそれが任されるということは、信頼の表れと言っていいですね。

井上 ● 本社もジャパンクオリティに対して信頼を寄せてくれているんです。結果として、イギリス国内のライダーが「ナイトロン、いいじゃないか」と評価してくれているのが嬉しいですよね。

ー対応車種の幅広さにも驚かされます。

井上 ● 完成した状態ではなく、パーツ単体で在庫しているので、そのときどきで合うものを選んで組んでいけば、どの車種にでも適合させられるんです。確かにこのやり方ですと、大量生産をすることができないんですが、その代わりひとつひとつ時間をかけて作り上げられるんで、提供するサスペンションには絶対の自信を持っています。

ーオーダーメイドでサスペンションを組む際、リサーチする内容とはどういったものでしょう。

井上 ● 車種/お客さん(オーナー)の体重/使用用途の3点ですね。ウチには蓄積したデータがあり、それからベストな組み合わせを出してセッティングしていきます。この方式のメリットとしては、出来合いのものに加えてオプションパーツを買わなくていいこと。自分に合う仕様とするには、オプションパーツを買わねばならない。でも最初からオーダーメイドなら、不必要なパーツを買わなくて済みます。サスペンションはバイクの乗り味を左右する重要なパーツですから、だからこそここまでこだわりたい、ここまでクオリティを追求したいんです。

ーハーレーにも適合する製品を手がけられていますよね。ソフテイル以外の現行モデルならどれでも扱われるとのことですが、ハーレーとなると他メーカーとは違った楽しみ方が出てきます。そのあたりについて、どういったところを気遣われていますか。

井上 ● やっぱりハーレーは「見てカッコいい、走ってカッコいい」というイメージが大事ですからね。だから“スタイリングを崩すことなく乗り心地を良くすること”を重視しています。ハーレーのユーザーさんも増えてきていまして、以前だと「メッキサスがいい」や「ローダウンしたい」という声が多かったのですが、今では「より乗り心地を良くしたい」という方が増えてらっしゃいます。こうした声が聞けるのはとても嬉しいことですので、遠慮なく問い合わせていただき、いろんな角度から対応していきたいですね。

Interviewer Column

「ハーレーの楽しみ方は千差万別」――この仕事を続けていていつも感じ入ることがこれ。数あるバイクメーカーのなかでも実に特殊な存在で、ツーリングやサーキットはもちろん、井上社長がおっしゃられていたとおり“見てカッコいい”というスタイリングを優先したカスタム文化も有している。今回お話を伺ったナイトロンのサスペンションは、このとおりレースシーンでも活躍するハイエンドモデルばかり。ハーレーというバイクを前提に考えれば、“日ごろのライディングをより良くするための選択肢”ということに他ならない。「ハーレーはこういうものだから」と乗り味の悪さをあきらめるなかれ、きちんと手を入れてやれば驚くほど乗り心地は向上する。「今より快適なツーリングを楽しみたい」、そう思っている方のキッカケとなるインタビューとなれば幸いである。

文・写真/VIRGIN HARLEY.com 編集部 田中宏亮

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