VIRGIN HARLEY |  永井 康史(キタコロック開発者)インタビュー

永井 康史(キタコロック開発者)

  • 掲載日/ 2007年05月01日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

安く作るつもりは毛頭ない
最高のロックを提供したいから

関東圏を中心に続く、バイクの盗難被害。オーナーにとってかけがえのない愛車が、ある日突然目の前から無くなってしまう…なんとも理不尽な話だ。今回インタビューを行った永井さんは、そんな盗難被害に対して個人で立ち上がった方。通称“キタコロック”と呼ばれ評判の高いロックがあるが、実はこのロックの開発・製造は永井さんが行っているのだ。ちなみに、キタコは販売協力をしているパートナーである。永井さん自身がハーレーを盗まれたことをきっかけに、自分のために開発したのが“永井”ロック。その製品は、今や多くの人から信頼を受け「最強」とさえ呼ばれる製品となった。それがキタコロックなのである。永井さんのロックは、ただの既製品ではない。造り手のさまざまな想いがこもった特別な製品だ。どんな想いで永井さんがロックを開発し、常に改良を加えてきたのか、ぜひ多くの方に知って欲しいと思い、インタビューを行った。

Interview

ヤツらはどうやって盗んでいるのか
あらゆることを想定し、開発しました

ーハーレーを盗まれたときのことを教えてください。

永井●5年くらい前、名古屋市内の自宅からハーレーが盗まれました。仕事でしばらく自宅を留守にしていて、戻ってきたらハーレーがない。買ってから、まだ数ヶ月くらいしか経っていなかったんです。「盗まれた…」というのはすぐに認識できましたが「ひょっとしたら、探せばまだ近くにあるかもしれない」と近所を探し回りました。この気持ちは盗まれた人しかわからないかもしれませんが…。近くに停まっていた車の下を覗いたり、草むらの中を探したり常識的に考えたら「そんなところにあるはずがない」ところを探してしまうんです。プロは盗んだらすぐに現場を離れてしまうので、近所で見つかることなんてまずないんですけれど。「ひょっとしたら出てくるかも」とあちこち探し回っていたので、警察へ被害届を出すのも遅かったですね。

ー盗難防止のために、何か対策は取っていたのでしょうか?

永井●当時からすれば、かなりやっていた方だと思います。ワイヤーロックと当時は「これ以上のモノはない」と言われていたロックを使っていましたから。ワイヤーロックで車両と駐車場のポールを固定して、もう1本のロックを前輪に巻きつけただけで安心していました。

ー現場には遺留品は残っていたのでしょうか。

永井●切断されたワイヤーロックだけが残されていました。もう1本のロックは持ち帰られたか、離れたところに捨てられたようで、結局見つかりませんでした。今、思えば両方ポールに固定しておけばよかったですね。ワイヤーロックなんて一瞬で切られてしまいますから。

ー盗難に遭ったあと、被害届を出す以外に何か行ったことは?

永井●当時はインターネットなんてやっていませんでしたし、やっていたとしても盗難情報が集まる場所もありませんでした。「どこでどんな被害が発生しているのか」を知る術もなく、私にできることは何もありませんでしたよ。

ーハーレーを降りてしまおう、とは考えませんでしたか。

永井●盗まれてすぐに「もう一度ハーレーに乗る」と、決意を固めました。“自分の意思で”バイクを降りることを決めたのならいいのですが、本人はバイクを降りるつもりなんてないのに“盗まれてしまったから”バイクを降りるなんて…。これほど理不尽なことはありませんから。精神的にはすぐに立ち直れましたが、金銭的には苦労しましたね。私に限らない話ですが、被害に遭った人は金銭的な痛手もかなりのものなんです。いざ新しい愛車を手に入れようと思っても、家族や周りの人の反対にあってすぐには買えない、などね。何百万円もするモノが盗まれる、ほんの一瞬の出来事ですが、その傷跡は後々にも尾を引いてくるんです。自分でその気持ちを味わったから「自分の手で、絶対に盗まれないロックを作ってやる」と盗まれて間もない時期からロック開発に取り掛かりました。

ー自分でロックを作るなんて、ノウハウもないのによくできましたね。

永井●セキュリティ製品の製作に携わった経験はありませんでしたが、モノを作る環境は揃っていました。家業が金型製作や金属加工を行う工場でしたから、工作機械はある、材料の知識と仕入れルートもある。どんな仕組みでロックを作るのか、そのアイデアさえあれば形にできる環境は揃っていたんです。

ーどんなモノを作るのか、形にするのは難しかったでしょう。

永井●「窃盗団はどうやってバイクを盗んでいるのか」。それを考えに考えて、思いつく限りあらゆる方法を想定してあらゆる状況に対抗できるよう製品開発に取り組みました。もう二度と自分のハーレーが盗まれないロックを…その結果、今販売している「BM-10」が完成しました。

ー市販されていた製品を購入し、破壊実験までやっていたとか。

永井●今どんな製品が販売されていて、どんな弱点があるのか、この目で確かめたかったんです。「窃盗団がどのような道具を使い、どうセキュリティ製品を破壊もしくは解除しているのか」は防犯上ここでは述べませんが、実験を行ったことで予想できるようになりました。現実的にありえないだろう、都市伝説のような噂も実際に実験してみましたから。

ーたとえば?

永井●1つ目は、ロックを液体窒素で破壊する話。液体窒素でロックを凍らせて破壊する…噂くらいは聞いたことがあるでしょう? これはまずありえません。家業の仕事で液体窒素を取り扱うことがありますが、液体窒素は蒸発するのが非常に早いんです。しかも、ロックを破壊しようと思えばバケツ1杯くらいの液体窒素を用意し、ロックを長時間つけて放置しておかなければダメ。「液体窒素をふきかけてロックを破壊する」と、聞いた話では信用してしまいそうですが、ほぼ不可能です。車やバイクで移動している窃盗団が、そんな大掛かりで危ない道具を持ち歩くわけはないですし、破壊にも想像以上に時間がかかってしまいます。そんなリスクはヤツらも侵さないでしょう。

2つ目はバイクをクレーンで吊るして持っていく話。クレーンでハーレーを吊り上げて実験しましたが、こんな目立つ方法を窃盗団が取るわけはありません。実際に車両を吊り上げてみると車両が安定せず、吊り上げられた状態でクルクルと回転してしまい、下ろすのが大変でした。ヤツらにとっても大事な商品が傷つくリスクも侵さないでしょうからこれもありえない。「くだらない」と思うことでも実験し試してみましたが、バイクの盗難に関しては「理論的には可能かもしれないけれど、現実的には有り得ない」話がたくさんあります。何でも鵜呑みにしてしまい、周りの人に伝えてしまうのは考えモノですね。

ー永井さんのように、そこまで実験して製品を作っているメーカーはないでしょうね。

永井●絶対ないでしょう。日本で流通しているセキュリティ製品の中で、国内で開発しているモノなんて一握りです。たとえ自社の製品が実際に破壊され盗まれても、海外のメーカーに情報が伝わって製品が改善されているのか…疑問ですね。国内で開発・製造していれば緊張感は違ってくるでしょうけれど、海外メーカーからするとしょせんは日本国内での出来事。日本での輸入代理店にしても「自分たちが作っているんじゃないし…」という甘えがあるでしょう。「それなりにいいモノを作ったけれど、被害が出てしまったら残念だ」。その程度にしか思っていないところも多いはず。私が作るモノは違います。「絶対に盗ませない」。その精神ありきでスタートしたロックですから。

どんな盗難方法が現れても
必ずその上を行ってみせる

ー当初、作ったロックを販売する予定はなかったんですよね。

永井●ロックが完成して間もない時に雑誌が取り上げてくれたことがありましたが、そのときは市販予定はなかったんです。本業は別にありましたからね。ただ「これなら盗まれないだろう」というロックを作ったとは言え、自分が使うだけでは窃盗団に対して何のプレッシャーにもなりません。そんな想いから「こんなロックを求めている人の手に渡るようにはしたい」と思うようになり、いくつかのバイク用品メーカーに声をかけることにしました。

ーその中の1社がキタコだったと。

永井●実は最初、地元のメーカーにこちらから製品を持ち込みました。他にも何社か当たってみましたが「スゴイモノを作ったねぇ~」でお終い。当時はセキュリティ製品は高くても数万円程度、それでも高すぎてなかなか売れていませんでした。ですから、それ以上にコストがかかっている私の製品を取り扱ってくれるメーカーはなかなか見つからない…。かと言って、私はモノ造りはできますがバイク業界で製品を流通させるノウハウはない。私はイイモノを作ることに集中したかったので、あちこちに営業に回るつもりは毛頭ありませんでした。儲けるためにロックを作ったわけではありませんでしたしね。そんなときに声をかけてきてくれたのがキタコだったんです。

ーキタコの方から声をかけてきたんですか。

永井●キタコの社員で愛車が盗難未遂にあった人がいて、その人が私の作ったロックに注目してくれたんです。当時の状況からすると、高すぎて魅力的じゃないロックだったはずですが、愛車が盗まれそうになったという当事者意識を持っていたからでしょうね。会社に掛け合って、キタコの販売網で私のロックを販売してもらえるようになりました。自分でも「さすがに扱ってくれるところはないだろう」と思っていたので「キタコさん、思い切った決断をしたな」と驚きましたよ。

ー販売後に「高すぎる!」という声はあがりましたか?

永井●申し訳ないのですが「そう思う人には買っていただかなくてもいい」と思っています。もともと、必要としてくれる方に買ってもらえればいい、必要としてくれる人のために信頼を裏切らないイイモノを作る。そのために製作しているロックですから。「大量生産すれば安くできる」や「ちょっと危ないけれど、ココの品質を落として安くしよう」なんて考えたことはありません。「盗まれないためにはどのくらいのレベルのものを作ればいいか」。常にそれだけを考えて製品作りをしています。もちろん「何とか手に入れやすい金額で」というのは考えていますよ。無限にコストをかけられるのなら、もっと強力なロックは作れます。けれど車両本体より高いロックを作っても…非現実的な価格になってしまいます。今のロックの価格がギリギリの最低限だと思ってください。利益なんてほとんど出ていないんですから。

ーロック製作は、家業の仕事の合間に行っているそうですね。

永井●ロックで利益がでない以上、家業には迷惑をかけられませんからね。朝5時から始業時間まで、休憩時間、休日…それがロック製作にかけられる時間です。

ーそんなに忙しい中、新しい製品開発の時間はどう捻出しているのでしょう?

永井●家に帰って、食事をしてからが開発の時間です。設計をしたり、製品の改良を考えたり、睡眠時間がどんどん減ってしまっていますけれど(笑)。寝ている間にいいアイデアが浮かぶことがあるので、枕元にはいつもメモを置くようにしています。

ー家族の方は、永井さんがそこまで熱心にロックを作ることをどう思っているのでしょう?

永井●「そこまでがんばって、体でも壊したら…やめたら?」と言われたことはあります。ロック製作のために何千万もする設備投資もしてもらったのに…利益なんてほとんど出ていない仕事です。家族が心配するのも仕方ないでしょう。寝る間もない、ハーレーにのんびり乗る時間もない。ロックの製作でいろいろなモノが犠牲になっているのは確かです。けれど、これはただの仕事ではなく、私の意地なんです。「自分のバイクを盗んだヤツらに、絶対後悔させてやる。ヤツらの邪魔をしてやる」という執念で日々ロックを製作しているので、今は家族もこの気持ちを理解して手伝ってくれています。

ーその執念で、これからも今以上にいいモノを作っていくのでしょうね。

永井●今でもバイクの被害状況は常に情報が入るようにしています。ヤツらが新しい盗難方法を編み出しても、私は常にヤツらの上を行っているでしょう。

ー最後に永井さんの経験から、盗難防止のためのアドバイスをお願いします。

永井●安いロックを複数使用しても何の意味もありません。5秒で破壊されてしまうのが20秒になる程度、ただの気休めにしかならないでしょう。また、たとえ良いモノを使っていても、1つのロックで安心しないでください。私が作るロックであっても「これをつけていたら、絶対大丈夫」ということは言えません。今は大丈夫でも1年後、2年後も大丈夫とは言えませんから。最高のモノを複数組み合わせ、それでやっと安心できるのが盗難対策です。

プロフィール
永井 康史
40歳。自らのハーレーが盗まれたのをきっかけにロックを開発。その信頼性が評判を呼び、現在はキタコの協力のもとに手がけたアイテムが販売されている。通称“キタコロック”と呼ばれるモノはすべて彼の手によって開発されたモノ。全国二輪車環境改善ネットワークの一員として、常に窃盗団の一歩先を行く活動を行っている

Interviewer Column

キタコロック。名実ともに最強と言われるロックだけれど、その製作者の情熱と意思が一般ユーザーに伝わっていないのが、以前から非常に残念だった。なぜこのロックが高い支持を受けるようになったのか、なぜあれほど重く、無骨なロックになったのか。それは、すべて製作者が過去にハーレーを盗まれたことからスタートしている。高価なセキュリティ製品に誰も見向きもしなかった頃に、自らの信念に従って製品を開発した永井さん。現在は高価なセキュリティ製品は世に氾濫しているけれど、そういった製品が世に認知されるきっかけを作ったのは永井さんのロックが最初。自らのプライベートまで犠牲にし、24時間セキュリティのことだけを考え製作された「“永井”ロック」。使い手の信頼を裏切らない、世界最強のロックであることは間違いない(ターミー)。

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