VIRGIN HARLEY | クリアランスとオイル まつもと流ショベルヘッド入門

クリアランスとオイル

  • 掲載日/2007年11月13日【まつもと流ショベルヘッド入門】
  • 執筆/ハーレー屋まつもと 松本 雄二
まつもと流 ショベル入門コラムの画像

まつもと流 ショベル入門コラム 第3回

ショベルはパーツクリアランスが広い
それにはちゃんと理由があるのです

ショベルヘッド(以下、ショベル)はその後のエボリューションやツインカムに比べ、パーツ同士のクリアランス(隙間)が広い、という話は聞いたことがあるでしょうか? このクリアランスの広さから“ショベルはオイルが漏れやすい”という都市伝説がまかり通っていますが、今回はそのお話をいたしましょう。ショベルのクリアランスが広いのには理由があります。まずパーツ精度にバラつきがあったこと。パーツの加工技術が同時代のBMWなどに比べると低かったため、わざとクリアランスを広くとったわけです。当時の部品でクリアランスが狭いと、エンジンが熱を持ちパーツが膨張したときにパーツ同士が干渉するリスクがあったからですね。それ以外にも、アメリカ人はスロットルを乱暴に回す人が多いのも理由の1つかもしれません。BMWなどでは慣らし方法も細かく指定し、ユーザーもそれを守っていたのでタイトなクリアランスで、精度の高いエンジンを作れたような気がします。

まつもと流ショベルヘッド入門の画像

クリアランスの広さには意味があります

さてクリアランスが広いことで、(現行車と違った)どんな注意点があるでしょうか? 1つ目は油圧の問題。「アイドリング時に油圧が低い」という声を聞くことがありますが、これは日本ならではの問題です。日本人はアイドリングを低くし、“3拍子”を楽しむ人が多いのですが、これを実現しようとしてアイドリングを下げると油圧が上がらない、という問題がでてきます。この油圧が上がらないことクリアランスの広さも関わっているのです。油圧は内部に抵抗がないと上がらないのですが、クリアランスが広いためそこから油圧が抜けてしまう現象が起きます。アイドリングを上げ、送られるオイル量が増えれば油圧が抜けることはなくなるため、アイドリングを上げさえすれば、こんな問題は起きないのですが…。アメリカで、こういった問題をあまり耳にすることがないのは“POTATOサウンド(3拍子のこと)”にこだわる人が少ないからなのです。でも、「どうしてもアイドリングを下げたい」という人のために、日本ならではの工夫も可能です。例えばロッカーシャフトのエンドプレーを締めるなどの方法でクリアランスをタイトにしてやると、低いアイドリングでも油圧を確保することはできます。これは個々のメカニックの経験と知識に頼るところが大きく、誰にでもできるわけではありません。あらゆるクリアランスをタイトにしてしまえば、パーツが歪んでしまうなどの問題が起きてしまいます。エンジン内部でのオイルの流れを熟知し、各部の機能を把握した上で触ってやらないと、新たなトラブルの原因になってしまうので気をつけましょう。

パーツ間の密封性について
オイル漏れが起こる理由とは?

「ショベルはオイルが漏れやすい」にまつわる話として、ガスケット素材を挙げる人もいます。かつてはゴムとコルクが混ざったガスケットが使われており、現在はメタルガスケットのような金属素材のモノも用意されています。「メタルガスケットにすればオイルは漏れない」と言う人もいます。確かに金属製ガスケットのシール性は高いのですが、取り付け方法や取り付けるパーツの状態によっては柔らかい素材のガスケットの方が適していることがあるのです。ガスケットを取り付けるパーツの接合部分に目に見えないほどの凸凹があった場合、メタルガスケットを取り付けても凸凹に合わせてなかなか変形してくれません。接合部分が綺麗ではないパーツの場合は柔らかいガスケットを利用してあげた方が、凸凹に合わせてガスケットが変形し、シール性が高くなることもあるのです。これは部品精度の問題にもなってきますが、一概に最新のガスケットを使えばいいわけではありません。また古いガスケットを取り除く場合、綺麗に剥がせずカスが残ることがあります。これをそのままにして新しいガスケットを付けてしまうと…その部分のシール性が下がってしまいます。古いガスケットを再利用するのも、力が掛かってすでに変形しているガスケットですから、ボルトをさらにきつく締めないと以前と同じシール性にはなりません。しかしボルトを規定値以上のトルクで締め付けると…パーツが歪んだり、ネジ穴が潰れたり、などのリスクが増してきます。ガスケットはパーツの接合部をシールする重要なパーツです。ケチらずに新しいものを使ってやりましょう。

まつもと流ショベルヘッド入門の画像

こういった部分をちゃんと綺麗にしてやることが大事

ガスケットについて「素材の違いはオイル漏れの原因にはならない」と書きましたが、ガスケットのシール性がオイル漏れの原因になることは、実はあります。本来のショベルはブリージングシステムのおかげで、エンジンの中は外気より気圧が低く、負圧になるように設計されています。外気より気圧が低いということは、エンジンに空気が流れ込むことはあっても中から外へオイルが漏れることはないのです。ただ、現在走っているショベルの中で、ブリージングシステムが正常に機能しているのは10台中1台程度くらいかもしれません。この仕組みを知らずに組まれているか、知っていても機能しないような組み方をしている車両が多いのです。ガスケットのシール性が低かったり、どこかで外気と繋がっていたり、などで負圧を維持できる仕組みになっていないと、オイル漏れのリスクは高まります。プライマリーケースの中などは負圧を維持する圧力室の役割を担っていますから、オープンプライマリーの車両は負圧を維持できる状態ではありません。どこかをカスタムし、ノーマルの状態を崩すということはこういったリスクがあると思ってください。また、ブリージングシステムとは関係のない箇所からのオイル漏れもあります。ミッション部分からのオイル漏れは、スタッドボルトに付属しているシール材が劣化しているからであって、この場合はシール材を交換すればオイル漏れは止まります。ショベルは「オイルが漏れて当然」という話をする人もいますが、パーツの精度や組み方など、どこかに問題があるからオイルは漏れてきます。オイルを漏れないようにすることはできるのです。

まつもと流ショベルヘッド入門の画像

プライマリーケースは圧力室の役割も担っています

オイルが漏れている車両がこれほど街中を走っているのは、ハーレーが適当に組んでも走ってしまうのが理由かもしれません。他メーカーのバイクならエンジンがかからないような状態でも、ハーレーはエンジンがかかってしまうのです。点火時期やカムギアのタイミングを間違えていても、シリンダーとピストンのクリアランスが広すぎていてもハーレーは走ってしまいます。ひどい例だと、ボアが広がったシリンダーにスタンダードのピストンが入っていて、ピストンがカタカタ動く状態で走っている車両もありました。もしハーレーがシビアに調整しないと動かないバイクだったら…今走っているショベルはもっと調子のいい車両ばかりになるでしょう。ハーレーがタフ過ぎるのも困りモノかもしれません。

ショベルに使用するオイルとは?
粘度から純正・社外の違いまで

最後にショベルに使用するオイルについて。「ショベルは『シングル50』のオイルを使う」と言われています。確かに初期のショベルはシングル50が推奨されていましたが、実は70年代終わりから20W50が採用されています。パーツのクリアランスが広いショベルでは、硬いシングル50番でないとオイルが漏れてしまうことがあったのです。しかし、ハーレーのオイルコントロールシステムが進化し70年代の終わりには20W50を使用しても問題ないようになりました。どちらのオイルを使用すべきかはチョークで確認することも可能です。シングル50を使用する車両の場合、アイドリング時にチョークを引いてもアイドリングが上がることはありません。逆にアイドリングが上がる車両の場合は20W50を使用してください。また、シングル50は普段20W50を使用している車両にでも真夏は使用可能です。私は、真夏はシングル50を勧めています。ただし、シングル50は外気温が30度以上の場合に使用できるオイルですから、真夏でも北海道などに行く場合、シングル50は使ってはいけませんよ。オイルポンプシャフトが壊れてしまうリスクがありますから。まれにシングル60のオイルを使用する人もいますが、私なら使用しません。硬いオイルを使えばエンジン内部の音が聞こえにくくなるため、一見異音がせず調子がよくなったような気がします。しかし、これは硬いオイルで音を誤魔化しているだけですから、エンジンに優しいというわけではありません。

まつもと流ショベルヘッド入門の画像

オイル粘度にも意味があるのです

次に純正と社外オイルとどう違うのか。昔からああでもない、こうでもないと議論になってきたテーマです。私はそれぞれのオイルの成分分析をしたわけではありませんが…。これまでの経験の中で、10万km以上走った車両をメンテナンス担当として何度もバラしてきた経験からは、純正オイルをオススメしてきました。オーバーホールの際、「各部がどんな状態になっているのか」を綿密に確認するとスラッジのたまり具合が、使用してきたオイルによってかなり違っているのです。純正オイルを使用してきた車両はエンジンの中が非常に綺麗に維持されていました。1万、2万kmで違いが出てくることはありませんが、長く乗るほどに違いは明らかになってきます。長く大事に楽しみたいのなら、オイルくらいはいいモノを使って欲しいですね。こういった話になると「アメリカでは、純正と社外オイルの値段はほとんど同じじゃないか」という話もでます。市販の値段は同じかもしれませんが、恐らく仕入れ値は違うはずです。純正と社外だと社外オイルの方が、あちらのショップでの利益率が高くなっているのでしょう。それぞれにかけられているコストがどれだけ違うのかは実際に車両に入れ、長距離を走ればわかります。また、価格的には純正オイルを越える高価なオイルもありますが、空冷OHVの大排気量Vツインエンジンにどこまで適しているのか、私自身が試したことがありませんので、むやみに勧めることはできません。こういった高性能オイルについてはレースなどを走っているショップさんの方が詳しいでしょう。

まつもと流ショベルヘッド入門の画像

社外オイルを使い続けたピストン。かなり焼けています

ただ、ハーレーでも車重によってエンジンにかかる負荷は違いますので、いいオイル・悪いオイルを使ったときの差に違いは出てくるはずです。ショベルの話からはずれますが、同じツインカム88・96エンジンを使っているダイナとツアラーでは同じエンジンで引っ張る車両の重さが違うので、必然的にエンジンにかかる負荷も変わってきます。こういった状況では品質の悪いオイルを使ってもダイナとツアラーでは違った結果が出てくるかもしれません。いずれにせよ、ハーレーに適した、いいオイルを使用するにこしたことはありません。いいオイルを使って大事に乗ってやってください。

プロフィール
松本 雄二

58歳。1971年よりハーレーに関わり“超マスターオブテクノロジー”と称されるほど、その技術力の評価は高い。複数のディーラーを経て「ハーレー屋まつもと」をオープンさせ、日々ハーレーの修理にいそしむ。なお不正改造車、マフラーのウルサイ車両は触ってくれないので注意!

関連する記事

注目のアイテムはコチラ

ピックアップ情報