VIRGIN HARLEY |  恩田 浩彦(ライディングスクール教官・レースアナウンサー)インタビュー

恩田 浩彦(ライディングスクール教官・レースアナウンサー)

  • 掲載日/ 2008年09月26日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

ハーレーは決して遅くない
ちゃんと操れば速いバイクです

ライディングスクール教官、レースアナウンサー、ライター、バイク盗難防止活動にも携わる…しかも、ちゃんとした勤め人。恩田さんのことを初めて知ったとき、「どんな人?」と質問した私に返ってきた回答はこうだった。「何だかよくわからないが幅広く活動している人」とイマイチ掴みようがないイメージだ。しかし、知り合って少し経つと、どれも中途半端ではない取り組みをする人だと知る。そして今回インタビューを行ったのだが、取材を行うとBMX競技の第一線で活躍した過去も出てきた。「どれだけエネルギーにあふれた人なんだ…」と改めて驚かされる結果となる。これまで紹介してきた誰とも違う魅力を持つ、面白いハーレー乗りを紹介しよう。

Interview

BMXで培ったバランス感覚
それが今に活きています

ー10代の頃はBMX(自転車で行うモトクロス競技)を本格的にやっていたとか。

恩田●70年代後半、まだ日本に紹介されて間もない頃にBMXをやり始めました。今のようにプロライダーなんていなくて、メーカーから車両やパーツの提供を受けるだけで嬉しかったですね。創成期のBMXの世界で日本ランキングに名を連ねていた時代もあり、結構真剣にやっていたんですよ。

ーBMXの世界で食べていこうとは思わなかったのでしょうか?

恩田●高校を卒業したら渡米し、金属加工を学んでBMXのフレームビルダーになろうと思ったことがありました。結局、親の反対で頓挫しましたけれど…。その後、一時のブランクを経て、もう一度BMXに真剣に向き合った時期はありましたが、膝や腰の怪我で乗れなくなり、それを機に本格的にバイクに乗るようになりました。

ー最初に手に入れたバイクは?

恩田●カワサキのKLR250というオフロードバイクです。本格的にモトクロスをしてみたかったのですが、バイクでレースを続けるお金の余裕なんてありませんでしたから、今でいうモタードのような改造をしてスポーツバイクを追っかけ回して遊んでいました。

ーBMXとオフロードバイクは共通する魅力がありそうですね。

恩田●BMXもバイクも2輪というのは同じ。違いは自分でペダルを漕ぐか、エンジンで走るか。あとは走るスピードが違うくらいで共通点は多いですね。実際、BMXで何度も転んだ経験はバイクに活きています。細いタイヤで滑りやすい土の上を走って学んだバランス感覚はバイクでも役立ちますからね。BMXで転んでもバイクほど大きな怪我はしませんし、一番運動神経がいい10代にBMXに慣れ親しんだおかげで、バイクで大きな怪我をせずに済んでいるのかもしれないですね。

ーそして、オフロードバイクから最初のハーレー、1990年式のファットボーイに乗り換えるわけですが、バイクのジャンルがまったく違う気がするのですが…。

恩田●僕の中ではリンクしているんですよ。それまでBMXに乗ったり、オフロードでのモトクロスレースに憧れたりと、アメリカ生まれの遊びに夢中になってきました。その流れで本場のダートトラックレースへも興味を持ち、そこでハーレーが活躍しているのも知っていました。そんな中でファットボーイに出会ったんですよ。

ーそれだとXR750の流れを汲むスポーツスターに乗りたくなるのでは?

恩田●自転車屋さんでアメリカの雑誌を見ていたとき、シルバーの初期型ファットボーイを見つけたんです。僕は乗り物は何でも銀色が好きなのですが、その当時欲しいバイクにシルバーカラーのモデルが1つもなくて。だからシルバーのファットボーイを見つけたときに「コレだ!」と思ったんでしょう。当時はバブルの頃で、多少はお金に余裕もありました。それで、知り合いを通じてシルバーのファットボーイを手に入れることになったんです。

ーソフテイルフレームのファットボーイは、恩田さんがそれまで乗ってきたバイクと違い乗りにくかったでしょう?

恩田●周りからもそう言われました。確かにカッコいいだけで手に入れたファットボーイですが、そう言われるとカチンと来る性格でしたから、「ファットボーイもちゃんと走るんだ!」と証明するためにジムカーナに出場し、完走してみせたこともあります。みんなが思っている以上にハーレーはちゃんと走るバイクなんですけれど、大きくて重いから「走らない」と勘違いされるんでしょうね。

ーハーレーは決して乗りにくいバイクではない、と。

恩田●こんなに乗りやすいバイクはないですよ。僕がそれまでに乗ってきた自転車やオフロードバイクに近い操りやすさがあります。基本に忠実に乗りさえすれば、どんなところだって走ることができるバイクです。それをたくさんの人に知って欲しくて、10年ほど前から警視庁主催のライディングスクールの教官をやるようになりました。全国で開催されているこのスクールは、交通安全協会の試験をパスした一般人が教官を務めます。ほとんどの人が白バイのようなスポーツバイクで教官を務めますが、僕はあえてハーレーで指導を行うようにしているんです。「ハーレーで他のバイクと同じような動きができるなら、どんなバイクでも同じ動きができる」、そう思ってくれるでしょうから。バイクの大きい小さい、重い軽いなんて、バイクを操ることには関係ないことを伝えたいんですよね。

大きさや重さからくる先入観
それを取り払ってあげたい

ー恩田さんは昔からレースアナウンサーをしていますよね? 全日本のロードやモトクロス、トライアルからモタードまで、あらゆるジャンルのレースアナウンサーをしていて、ハーレー以外のバイクに乗りたいとは思わないのでしょうか? ハーレーをいかに操れたとしても、そういったレースを走るバイクとはポテンシャルが違うでしょう。

恩田●コンマ何秒を争うレースとストリートでは楽しみ方が違いますよ。レースを走る人たちは「バイクでこんなことができるんだ」と極限のライディングを見せてくれますが、それをストリートでやったらたぶん命はない。バイクは命がけで楽しむものではないですからね。それに、ストリートでの「速い遅い」は同じ目的地を目指して走ってもそれほどの差は出てこない。そこに勝ち負けを求めるのは意味がない気がします。

ーストリートでのバイクの楽しみ方はレースとは違うところにある、と。

恩田●「人と比べる速さ」ではなく、「自分がいかにバイクを操れているか」を求める方が楽しいでしょう。だから、僕はストリートで乗るバイクに高性能は求めないんです。いかにそのバイクのポテンシャルを引き出して走るか、そうなるとハーレーは充分に速く走れるバイクなんですよ。

ー極端な話、バイクはどんなモデルであってもいい、と。

恩田●ハーレーのレースシーンで有名なJ・スプリングスティーンというライダーを知っていますか? 以前、彼の走りを「ツインリンクもてぎ」のこけら落としで見たことがあります。当日は濡れた路面で、普通のライダーなら怖くて飛ばせない状況。彼はそんなことも気にせず、いろいろなバイクでサーキットを走っていました。ハーレーのレーサーや、レーサーではない普通のバイクでもね。どのバイクで走っても同じラインでメチャクチャ速く走るんですよ。しかも楽しそうに。「本当に速い人はバイクを選ばない。どんなバイクでもそのポテンシャルを限界まで引き出すことができる」、それを自分の目で確かめることができました。

ー初めてのバイクがハーレーという人も多いですが、重く大きな車体もJ・スプリングスティーンのように恐れずに操ることはできるのでしょうか?

恩田●彼は特別ですから同じ走りは無理でしょうが、恐れずに操ることはもちろん可能です。初めてのバイクがハーレーというのは間違ったことではないとも思いますよ。基本に忠実に乗ればちゃんと操ることができますし、これほどタンデムに向いたバイクもない。バイクのあらゆる楽しさを1台で楽しめてしまうバイクです。短い距離を乗って「扱いきれない…」と降りてしまう人もいるようですが、「僕が操る楽しさを伝えることができたらなぁ」と何度も思ったことがあります。「ハーレーは走らない」その先入観を拭い去ってあげたいですね。

ー誰にもできない走りができる人でも、それを人に伝えるのは難しいことでしょう。恩田さんがそれをできるのは何かコツがあるのでしょうか。

恩田●長年レースアナウンサーをやってきたのが役立っているんだと思います。ライダーがどのような動きをして、どんな走りを見せたのか、レースの実況はそれを言葉だけで観客に伝えるスキルが求められます。長年アナウンサーをやっていると、遠く離れていてもライダーがどんな動きをしたのか、この先どんな動きをするのか、わかるようになってきます。そして、それを短い言葉で観客に伝える術も学びました。ライディングスクールで講習に来た人に何かを伝えるときに、その経験は大いに役立っています。

ープロライダーの最高峰の動きをつぶさに見て、自分でも何十万kmもハーレーで走り抜いた経験がある。恩田さんはライディングスクールの教官には最適でしょうね。

恩田●プロライダーのような極限の走りを教えるわけではないですからね。そんなの命がいくつあっても足りません(笑)。速く走っても遅く走っても変わらない、自分がバイクを操っている楽しさを知ってもらえれば、もっともっと乗るのが楽しくなるんです。ライディングスクールではゆっくり走りながら操り方を学んでもらいますが、ゆっくり走っているときに起こる出来事は速く走っているときにも同様に起こります。安心して練習できる環境で学んだことは、一般公道での走りにきっと役立つんですよ。

ーなるほど。最後に1つお聞きしたいのですが、レースアナウンサーとはそれだけで食べていける職業なのでしょうか?

恩田●無理です。この世界に入ったときに「この世界じゃ絶対に食っていけないから、絶対に仕事を辞めちゃダメだよ」と師匠から言われました(笑)。平日は別の仕事をして、しっかり稼がないとやっていけない世界です。それでも特別な人たちが特別な走りを見せてくれるこの世界が楽しくて、いつまでも辞められないんですよね。

プロフィール
恩田 浩彦
45歳、2001年式FLTR所有。オフロードバイクを経てハーレーに乗り始め、20年近いハーレー歴と30万km近い走行距離を重ねる。現在は鞄のデザイン製作の会社に勤め、週末は全国各地で開催されるレースアナウンサーとしても活躍している。

Interviewer Column

なかなか会う機会は少ないのだが、プライベートで恩田さんに会うときは、私はだいたいイジメられている(笑)。普段がそういう付き合いのため、恩田さんの過去の話をマジメに聞くこの取材は面白い機会だった。実は見た目以上にシャイな人のため、こういった取材がなければ聞けなかった話もあっただろう。人間関係でも仕事でも、趣味の世界でも一度本人が「やる」と決めたことには徹底的に取り組む。恩田さんのその姿勢には頭が下がる思いだ。何か1つをやり続けることでも難しいのに、複数のことに本気で取り組むなんてどれほどエネルギーが必要なのだろうか。そのエネルギーの根底には取り組んでいる各活動に対する愛情がある。シャイで口が悪い恩田さんだが(笑)、その裏に隠された男臭い情熱をしっかりと感じることができた。…これからもよろしくお願いします、恩田さん(ターミー)。

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