VIRGIN HARLEY |  FLTRX ロードグライドカスタム試乗インプレ

FLTRX ロードグライドカスタムの画像
HARLEY-DAVIDSON FLTRX Road Glide Custom(2011)

FLTRX ロードグライドカスタム

約30年の歴史を持つFLTシリーズは
2010/11年から2機種に分化

ヘッドライトが1灯式、あるいは1灯式+補助灯×2が主流のツーリングファミリーにおいて、デュアルヘッドライトを採用するFLTシリーズは異色のモデルである。とはいえ、このシリーズを抜きにして、近年のビッグツインを語ることはできない。何と言っても現代のツーリング/ダイナファミリー全車が採用するラバーマウントフレームの起源は、’80年にデビューしたFLTツアーグライドにあるのだから。

さて、そんな歴史を持つFLTシリーズは、’90年代初頭にいったんカタログから姿を消したものの、’99年からFLTR ロードグライドとして再出発(アメリカ本国では’98年から)。以後、’07年にはエンジンをツインカム88 → 96に変更し、’09年には新設計フレームを採用するなど、他のツーリングファミリーと同様の進化を遂げてきた。そしてFLTRは’10/11年になると、近年の流行である“バガースタイル”を取り入れたFLTRXロードグライドカスタムと、ツーリング用の装備を充実させた FLTRU103 ロードグライドウルトラ の2機種に分化。唯一無二の魅力を今まで以上に確固たるものにしている。

FLTRX ロードグライドカスタムの特徴

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バガースタイルを取り入れた
メーカーメイドのカスタムモデル

近年のアメリカではツーリングモデルにチョッパー的なカスタムを施す“バガースタイル”が、市場で根強い人気を集めている。ハーレー本社がこのジャンルを意識したモデルを発売したのは、’06年にデビューした FLHX ストリートグライドが最初で、その名が示す通り、ツーリング性能よりスタイルを重視したこの車輛は、既存のFLH系をベースに、低いスクリーンやローダウンシート/リヤショック、専用設計の5本スポークホイールなどを採用していた。今回紹介する FLTRX ロードグライドカスタムも方向性としては同じだが、低いスクリーンとローダウンシート/ショックの採用に加えて、カウル装着位置の変更や(上方に 20.3mm 移動しつつ、全体を2度前傾させている)、ヘッドライト前部カバーの撤去、フロントタイヤの17 → 18インチ化、ウインカーとテールランプの一体化など、開発ベースになった FLTR からの変更点は数多い。では実際にFLTRXを前にして、どんな感想を持つかと言うと……。

誰もが真っ先に思うのは、“低くて長い”ということだろう。車体寸法の変化はごくわずかなのに(全長/全幅/全高/軸間距離は、FLTR は2390/910/1395/1,625mm だったのに対して、FLTRXは2435/930/1245/1,625mm)、このモデルには数値以上のロー&ロング感がある。もちろん、低くて長いことに価値を感じるかどうかは人それぞれだけれど、近年のアメリカンカスタムの流行を取り入れたこのスタイルに、心を動かされる人は少なくないはずだ。また、文字盤をブラック→ホワイトとしたメーターや、めっき仕上げではなくボディと同色とされたトランクの金具、既存のテールランプを廃したリアまわりの造形なども、他のツーリングファミリーとは異なる個性を演出する要素で(一部のパーツは FLHX と共有)、言ってみれば FLTRX は、生まれながらにしてアフターマーケットパーツで手を加えたような、カスタムバイクとしての資質を持っているのだ。

FLTRX ロードグライドカスタムの試乗インプレッション

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FLTならではのハンドリングを維持しつつ
良好な視界で開放感を獲得

かなりの重量物であるカウリングやヘッドライト、オーディオなどを、FLH = エレクトラグライド系のようなステアリングステム側ではなく、フレーム側にマウントする FLTR は、ツーリングファミリーの中で最もハンドリングがよく、最も快適というのが僕自身の印象だった。だから正直言って、ルックス重視の変更を受けた FLTRX にはあまり興味がなかった。たとえ見た目がカッコよくなろうとも、スクリーンを短くしてローダウンショック/シートを採用するなんて、もったいないことをしたものだなあと思っていたのだが……。

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編集部を出発して数分で、“あ、そういうことだったのか”と気づいた。このモデルの最大の魅力は開放感である。単にスクリーンが低くなっただけでそう感じてしまうのは、我ながら安直だと思うものの、FLTRX に乗っていると、とにかく視界が良好で、乗り手としては何かこう、雄大で穏やかな気持ちになってくる。もちろんスクリーンが低くなったぶん、走行風は乗り手にダイレクトに当たるし、単に開放感を求めるならハーレーにはいくらでも選択肢があるのだが、伝統の FLT シリーズの乗り味を維持しつつ開放感を獲得したことにこそ、このモデルの価値はあるんじゃないだろうか。

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一方のローダウンショック/シートについては、親しみやすさに貢献しているとは思うけれど、ハンドルがかなりのアップタイプでステップがフォワードコントロール式のせいだろうか、期待していたほどの気安さはなかった(加重時のシート高は、なぜか開発ベースになった FLTR より 7mm高い 690mm)。とはいえ、豊富な純正オプションやアフターマーケットパーツを使えば、こういったライディングポジションに関する問題はどうとでもなるだろうし、FLTRX の場合はトップブリッジ上のクランプを緩めてハンドルバーを少し手前に引くだけで、親しみやすさが格段に増すような気もする。

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さて、話の主題がどうにも細かいほうに行ってしまったが、熟成が進んだツインカム96エンジンと、’09年に全面刷新を受けた車体がもたしてくれる乗り味は、やっぱりツーリングファミリーならではの世界である。個人的にはこの車体に FLTRU や FLHTCU と同様のツインカム103が搭載されれば、さらに素晴らしくなるんじゃないかと思うけれど、現状の96エンジンをベースに吸排気系のチューニングを行うのも面白そうだし、そのあたりも含めてカスタムの素材として考えれば、FLTRX は相当に魅力的なモデルだと思う。

FLTRX ロードグライドカスタム の詳細写真

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ヘッドライトではハーレーの中では希少な2灯式。軽快なハンドリングを実現するためにカウリングをフレームマウントする点は既存の FLTR と同様だが、スクリーンは大幅に低くなり、ヘッドライト前部にあったカバーは撤去されている。
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速度/回転計をハンドルマウントし、4つの計器とハーマン /カードン社製アドバンスオーディオシステムをカウル側に設置するコクピットの構成は、既存の FLTR や FLTRU103 と同様。ただしメーターの文字盤はブラック→ホワイトに変更されている。
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左右スイッチボックスの基本構成は他のハーレーと同様だが、下部にはオーディオコントロール用ノブが増設されている。現行ハーレーでブレンボ製ブレーキマスターシリンダーを採用するのは、ツーリングファミリーとVロッドのみ。
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インナーカウルの小物入れは FLT シリーズならではの装備。容量は決して大きくないものの、使い勝手はなかなか良好だった。左上に見えるのはオーディオのスピーカー。
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インナーカウル内にはシガーソケットも設置されている。昨今ではこのソケットから一般的な電源や USB電源を取るアダプターも販売されているから、これは喫煙者以外にも有効な装備だ。
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容量22.7Lの燃料タンク上部にはクローム仕上げのコンソールが備わる。写真でその左上に見えるのがイグニッションスイッチで、いったんハンドルロックをオフにすれば、キーを使わずにイグニッションのオンオフが可能。
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シート座面のウレタン厚はエレクトラグライド系や既存の FLH より薄くなっているが、だからと言ってすぐに尻が痛くなることはなかった。加重時のシート高は、現在のツーリングファミリーでは FLHRC の次に低い 690mm。
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タンデムシート後部にはシシーバー(背もたれ)が備わっているけれど、座面の面積は、ツーリングファミリーの中ではかなり控え目。
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ブレーキホースの配管に目が行ってしまいがちだが、この写真で注目して欲しいのはステアリングステム。重量車ならではの安定感と運動性を両立させるべく、ツーリングファミリーは昔から逆オフセットを採用しているのだ(フォークがステムシャフトより後ろにある)。
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タイヤサイズは、F:130/70B18、R:180/65B16。対向式4ピストンのブレーキキャリパーもマスターシリンダーと同じブレンボ製で、近年のツーリングファミリーはABSも標準装備。
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空冷OHV2バルブ45度Vツインは、現在のビッグツインの主力であるツインカム96(1,584cc)。絶対的な力量という点では FLTRU や FLHTK が採用するツインカム103(1,689cc)に及ばないものの、最大トルク発生回転数は、実は 96 のほうが 1,000rpm も低い。
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フットボード上部には、カスタムモデルならではの3本のクロームバンドがあしらわれている。シフトペダルは一般的な操作も可能だが、シフトアップ時に後ろ側ペダルをかかとで踏めば、ブーツのつま先を傷めずに済む。
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スタイリッシュな樹脂製サドルバッグは標準装備品。容量は不明だが、数日くらいのツーリングなら余裕でこなせそうだ。ハーレーのロゴマークが入った布はフタのストッパー。
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スチール製リヤフェンダーは樹脂製エクステンションを取り付けて長さを伸ばしている。ウインカーにテール/ストップランプ機能を与えたため、テール周辺は非常にすっきりした印象だ。
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快適性という面では他のツーリングファミリーに及ばないものの、FLT シリーズならではの軽快なハンドリングと抜群の開放感が味わえる FLTRX。
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