VIRGIN HARLEY |  クワイケイイチ(BADLAND)インタビュー

クワイケイイチ(BADLAND)

  • 掲載日/ 2005年05月09日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

今だけを見るのなら流行に乗っていればいいでしょう
でも、そこからは何も生まれない。だから「新しいこと」にチャレンジし続けます

今回ご紹介するのは神奈川県川崎市の「BAD LAND」オーナー クワイケイイチさんだ。W&Wなどのヨーロピアンパーツを日本に紹介した第一人者であり、オリジナリティ溢れるユーロスタイルカスタムや最先端のV-RODのカスタムでご存知の方も多いだろう。ヨーロピアンパーツ。存在だけは知っているが、実際目の当たりにしたことがない人がほとんどではないだろうか。しかし、クワイさんが情熱を注ぎ、拘り続けるにはきっと魅力があるはず、そう思いインタビューをお願いした。アメリカ生まれのハーレーになぜヨーロピアンパーツを? それには当然理由があった。本当の職人が造るパーツへのこだわりを、是非知っていただきたい。

Interview

初めて買ったどうしようもない状態のアーリーショベル。
そのレストアをお願いしたとき、スウェーデン製のフレームに出会いました

ークワイさんとハーレーとの出会いを教えていただけますか。

クワイ●もともとハーレーには興味はなくて。むしろ嫌いだったかもしれない。というのも昔、音楽を真剣にやっていたことがありまして。バンドメンバーにショベルヘッドに乗っている仲間が二人いました。その仲間のショベルはしょっちゅうトラブルを起こしてね。僕はボーカルだったんですが、一日練習を休むと翌日には昨日まで出ていた音域の声が出なくなってしまうんです。それで毎日真剣に、それこそ命掛けで練習していたんです。でも仲間のハーレーがトラブルになって、肝心のリハーサルができなくなってしまうことが多々あって、全く迷惑でしたね。「何でそんな壊れるバイクを買うんだよ。お前ら馬鹿じゃねぇの」とよく言っていました。

ーでもクワイさんは67年式のアーリーショベルを買われたんですよね。

クワイ●そう。当時よく通っていた道沿いにハーレーショップがあって、自分が買ったアーリーショベルがそこに並べられていて、何となく通りすがりに眺めていたんですよ。ある程度予備知識があったので見ているうちにだんだん興味が湧いてきてね。ある日、お店に見に行ったんです。じっくりとハーレーを眺めたのはその時が生まれて初めてで、見ていると何か伝わってくるモノがありました。自分はROCKをやっていたので「ROCKを形にするとこういう形になるんだな」と強烈な衝撃を受けてしまって。いいイメージを持っていなかったハーレーだったのに、結局自分も買うことになってしまいました。

ー購入後にトラブルはありましたか?

クワイ●買った次の日からエンジンがかかりませんでした。メカの知識もなく買った自分も悪いんですけれど。お金を払ってから納車まで、半年もあったのにお店でエンジンをかけてもらうこともなく、納車日まで自分のハーレーがどんな状態なのかを確認していませんでしたから。ピストンがオーバーサイズでタペットも点火も調整されていない、今思うとひどい状態のものでしたよ。納車日だけはエンジンはかかったのですが、翌日からはもうダメで。

ーお店にクレームは出されましたか?

クワイ●出しませんでした。納車までの半年くらいはそのお店とも付き合いはあって、何となくどんなお店かはわかってきていましたから。「コイツらに言っても、きっとダメだろうな」と思って。周りの仲間は信頼できるところで直してもらって走り回っていたので「直せば走る」ことはわかっていました。最初は「自分でやってやろう」と思ってプラグを磨いて。仲間から教えてもらい、素人ながらいろいろやりましたよ。それで何とかエンジンはかかるようにはなったんですが、そもそもエンジンの中身がムチャクチャだったので走るわけがなかったんです。結局、信頼できるお店に出会って、そこで直してもらったんですが、エンジンとミッションケースだけ残してあとは全て使いものになりませんでした。

ーひどいお話ですね。

クワイ●いい勉強になりましたよ。そのショベルヘッドを買ったおかげでユーロパーツに出会えましたから、「BAD LAND」があるのはそのおかげかもしれません。

ー早い時期にヨーロピアンパーツと出会ったんですね。

クワイ●ええ。買ったショベルヘッドのフレームにクラックが入っていて、別のフレームに乗せ換えないとダメで。そのときに薦められたフレームがスウェーデン製のモノだったんです。最初は「何でスウェーデン製なの?  この人は一体何を俺に薦めているんだろう?」と思いましたよ。当時の自分は当然の事ながらアメリカオンリーで、ヨーロッパの存在なんて頭の片隅にも有りませんでした。でも、よく話を聞いて、他のフレームと見比べてみて納得が行きました。シンプルなスタイルですが形もよく「スウェーデン鋼」という最高の材料を使って造られていて。半信半疑でオーダーしたフレームでしたが、自分の目で確かめた時「コイツはホンモノだな」と直感した事を今でもよく覚えています。

最高のモノに乗っているはずなのに
なぜ適当なモノを取り付けようと思うのか

ーヨーロピアンパーツは素材も造りもいい、と聞きますが、アメリカ製のものと比べてそれほど違いますか?

クワイ●全く違います。比べものにならないですね。アメリカ製のパーツと言っても結局は中国・台湾製ですよ。別に中国・台湾を否定するわけではないですが、昔から「台湾JUNK」と言われる、品質がよくないモノがあるのは有名な話です。安い材料に薄いメッキ、いい加減な精度等しばらく使うとダメになるパーツが多々あるんですよ。

ーなぜヨーロピアンパーツは品質が高いのでしょう。

クワイ●モノ造りにおける環境の差でしょうか。ヨーロピアンパーツと言っても、その中心はドイツです。ドイツにはTUV(テュフ)規格という厳しい工業製品規格が定められていて、その規格をクリアーする製品でないと販売する事ができません。また、ドイツ人には「いい加減な物を造る」という発想がみじんもありません。ドイツに行って街を歩けばわかりますよ。皆が普通に歩いている石畳が何百年も前に造られたものだったり、今も使われている建物が1000年前のものだったり。「いいモノを永く大事に使う」それが当たり前の価値観で、ヨーロッパ人、特にドイツ人にとってはそれが合理的なんですよ。だから、パンやハム・ソーセージ、ワイン等の食料品や日常品、道具、車や建築物、時計等に代表されるような精密機械まで、とにかくモノ造りに対しての力の入れ方や想い込みはアメリカナイズされた我々日本人には想像も出来ない程徹底しています。

「マイスター(職人)制度」といって技術者を養成するための国家制度もあり、マイスターを目指す人間は各分野で真剣にモノ造りに取り組める環境が用意されています。何千年と続く欧州の歴史が現在でも脈々と受け継げられてきた生活環境の中で造られるハーレーのパーツですから、品質や精度が悪い訳がないんですよ。間違いなく世界最高水準でしょう。初めてドイツに行ってそのパーツメーカーの作業を見たときには驚きましたね。「なんでこんなに時間のかかる効率の悪い仕事をしているんだろう、これで商売になるのかな」とね。はじめは理解出来ませんでした。

ーヨーロピアンパーツは「ハイテク」というイメージがあるので「手作り」というイメージはないのですが。

クワイ●「BAD LAND」を始めて5年程になりますが最近つくづく感じることは「ハイテクとは究極のローテク」ということです。高価な工作機械ももちろん使っています。でも、最初の発想から最終的な工程まで、尋常ではないくらい人の手が入っています。

ーどういうところに人の手が入っているのでしょうか。

クワイ●たとえば、わかりやすい部分としては非常に細かなところのポリッシュ。究極の手作業ですよ、アレは。機械ではできません。ポリッシュをかけないで製品を量産することは簡単です。最初から人間が手を入れなくてもいいように設計すればいいんですから。型にアルミを流して、出来上がってきたものにメッキをかけるだけ。でも、ヨーロッパの人たちはそう言う「うわべだけの製品」は簡単に見抜いてしまうし、求めていない。要は金額では無いと言うことです。造りはじめのコンセプトからして他の国とは考え方が違うんです。

ーデザイン面ではどうでしょう。

クワイ●抜群ですね。僕が言うまでも有りません。それは多くの有名ブランドが皆ヨーロッパ生まれである事からもうかがえると思います。とにかくデザインのセンスは素晴らしい。これはもう我々日本人が真似しようたって真似出来るものでは有りません。歴史が違う、宗教が違う、生活環境が違う。あんなに美しい町並みや風景の中で暮らしているんですから。デザイン面で一番にお伝えしたい事は、ヨーロッパカスタムの場合殆どのスタイルが生まれるべくして生まれたスタイルであると言う事です。ヨーロッパの歴史、民族性、物の考え方、風景、制度や美意識が混然一体となって生まれたスタイルです。ユーロカスタムの優美な曲線を多用したシルエット、そしてそれを現実の物とする事の出来る高い技術力。今やその代名詞となったワイドタイヤ、これはドイツ人がハーレーに求める過激さ、ハードなイメージの象徴の結果と僕なりに解釈しています。

決して奇をてらったスタイルではなく、どれもが彼等の理にかなったスタイル。必然性に満ちた全く無理の無いスタイルなんです。その必然性こそが本物の証で、僕がヨーロッパにこだわる最大の理由です。ドイツの地方の古い村なんかを歩いていると石畳の道に真っ赤なポルシェやシルバーのベンツなんかが走り抜けます。茶色がかったどちらかと言えば陰鬱で重厚な風景に、鮮やかなカラーで洗練されたデザインの車が重なる、我々日本人は非常にアンバランスな感覚を持つと思うのですが、現地では実に見事な具合で調和します。その場面はハッとするくらい実に美しい。その感覚こそがヨーロッパの必然性であり彼らの進歩的な考え方と美意識なのだと思います。ヨーロッパではごく当たり前な日常をこうも感動的な口調でお話しするのですから、僕を含め多くの日本人が余りにもヨーロッパを知らなさすぎると言うことなのでしょうね。

ーユーロパーツはアメリカのカスタムバイクに使われているようですね。

クワイ●ヨーロッパのスタイルはアメリカにもかなり大きな影響を与えたと思います。現に丁寧な造りのカスタムがアメリカでも見られるようになってきています。これは確実にヨーロッパの影響です。ヨーロッパ製のパーツも当然ながらかなり使われています。今をときめくジェシー・ジェームスやポール・ヤフィー等々、かつてはヨーロッパフリークのアメリカ人だった、と僕は思っています。「BAD LAND」立ち上げの頃は、そういう流れがアメリカを通じて日本にも入ってくるだろう、と思っていました。ヨーロッパからはなかなか情報は入ってきませんし、メディアでも取り上げてくれない。でもアメリカで火がつけば日本でもきっと認められる日が来るだろう、そう思っていました。実際はまだまだ、これからという状況です。

ー「W&W」という名前はよく雑誌でも見かけますし、ちょっとハーレーに詳しい人であれば知っている人も多いでしょう。

クワイ●少しずつ認知して頂いているようですが、もっともっと多くの人にW&W、そしてユーロパーツの素晴らしさを実感してもらいたいですね。僕はW&Wを通して「ホンモノ」のパーツを取り扱っている自負を持っています。「本物、偽物」という意味での「本物」ではなく、こだわり抜いて造られている「ホンモノ」という意味ですよ。それだからこそ「BAD LAND」をやっているんです。でも、最近のカスタムは「いかに安く」という傾向が多すぎる気がします。「最高のモノに乗っているはずなのに、そこになぜ適当なモノを付けようと思うのか」理解できないことがあります。「普通の人が乗るバイク」と言う宣伝と風潮の中で、確かにハーレー乗りの裾野は格段に広がったかも知れません。

しかし、良い意味でも悪い意味でも跨がったとたんに人生の方向性が変化したり、金銭的にも今まで経験した事の無い理解し難い世界に直面したりと、ハーレーの持つ魅力と魔力は変わっていないと思います。その本質はエンジンがTWIN CAMになった現在でも何ら変わっていないでしょう。よく言われる所の「バイカー」と言う言葉はあまり好きでは有りませんが、やはりその言葉の本質は尊敬に値すると思います。極論かも知れませんが、普通の人のままでは乗りこなす事はできないんじゃないでしょうか。金銭的にも精神的にもあらゆる面において努力され、誇りを持ってハーレーと付き合いそしてカスタムをして頂きたいと思います。 ただ現時点では僕の努力不足も相まって「直感的にホンモノに価値観を見出してくれるお客さん」でないとユーロパーツに辿り着き、それを選択して頂くのはなかなか難しいですが。

ーそういう方々が少ない中、クワイさんのスタイルは厳しい面もあるのでは?

クワイ●そのご質問に対して常識ある社会人又は経営者としての回答は「ご心配頂きありがとうございます」が無難でしょう。しかし、あえて私のキャラクターとスタンスで述べさせて頂きますと「それはよけいなお世話です」となり、当然の事ながら「お前、ふざけんなよ」と言うニュアンスもそこには多々含まれていることをあえてお伝えいたします。あなたがどういった次元やレベルで物事を見、考えお話しをされているか判りませんからこれ以上の暴言を吐くつもりは有りませんが…。ヨーロッパでのカスタムの進化の度合いは余りにも早い。次々とこれでもかと言う位に新しいアイディアと表現方法で迫って来ます。

「新しければ良いのか?」と言う揶揄に関してまともに切り返すつもりは有りませんが、一言「古ければ良いのか」とだけは言っておきたいです。EVOやTWIN CAMをナックルやパンの様な旧車風にカスタムしている国なんて日本以外には無いんですから。とにかく「BAD LAND」を取り巻く国内の現状がどうであれ、こうしてヨーロッパに関わった以上、現地同様に常に新しい事にトライし具体的に体現しなければダメだと思っています。今だけを見るのであれば流行に乗っていればいいんでしょうけれど、そこからは何も生まれませんし、そんな事には僕自身全く興味が有りません。たしかに新しいことをやるのはビジネスとしては厳しい部分はありますよ。それでも自分はやりたい、これからもやり続けたい、そう思っています。「BAD LAND」にカスタムしてもらいたい、「クワイ」にプロデュースしてもらいたい、そう言って下さる方もいます。新作のカスタムをホームページで発表させて頂くと、励ましのメール等を送ってくれる方もいます。ユーロカスタム全体が少しずつではありますが認められつつあるのかな、とは感じています。だから、これからも「新しいこと」にチャレンジしていきます。常に先頭で走り続けます。

プロフィール
クワイ ケイイチ
41歳。初めて購入したショベルを通じてヨーロッパのカスタムパーツに出会い。その緻密で丁寧な造りに惚れ込み。「BAD LAND」を立ち上げる。最高の品質・デザインにこだわり続け、オリジナリティのあるカスタム車両をプロデュースし続けている。

Interviewer Column

情熱をもって何かにこだわり続ける、それが趣味であればそう難しいことではないだろう、しかし仕事としてこだわり続けるのには大変な困難が伴う。私たちもメディアを運営してきて日々そう感じる機会は多い。クワイさんはマイスターが造る製品に惚れ込み、それを日本に紹介するため日々悩み、試行錯誤している。その情熱をどうしても読者の方にお伝えしたかった。品質がいい、そこを紹介したかったわけではなく、一人の男が人生を注ぎ込む、それほどの価値があるものだ、ということをお伝えしたかった。私もヨーロピアンパーツに関しては勉強不足であったがクワイさんのお話をお聞きして、是非ドイツに足を運んでみたくなった。(ターミー)

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