VIRGIN HARLEY | まる(JUNE BRAND 99.99% CLUB) インタビュー

まる(JUNE BRAND 99.99% CLUB)

  • 掲載日/2006年07月29日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

ウチは日本一敷居が高い
そんなお店があってもいいでしょう

今回ご紹介するのは、東京都調布市にある「JUNE BRAND 99.99% CLUB」代表 まるさんだ。ハッキリ言うと、JUNE BRANDはVirgin Harleyの読者向けのショップではない(と思う)。ショベル以前の車両が中心で、至れり尽くせりのサービスが用意されているわけではないからだ。でも、こんなショップがハーレーの世界にはあるということを知って欲しく、また5年後、10年後にこの記事を読んだ皆さんが、旧車の魅力にハマっていたら、その時はまるさんにお世話になることがあるかもしれない。将来、愛車のことで困ったことがあったら、この記事のことを思い出して欲しい。そう思い、敢えて今回はまるさんにお話をお聞きしてきた。

Interview

整備した車両を試乗する
それが楽しみでトコトン整備します

ーまるさんの今の愛車は、原付だとお聞きしましたが。

まる●「トッパー」という165ccのスクーターです。でも、ちゃんとハーレーダビッドソン製ですから(笑)。トッパーは別にして僕は自分のハーレーを持っていないことで業界では有名なんです。所有していたことはあるんですけれど、乗りまわすためのハーレーを持っていたことはないんです。昔のバイクのメカニックは「自分のバイクを持っていると、それと比較して他のバイクを見てしまい、目が曇るからバイクには乗るな」と言われていたそうです。

僕はそんな大層な理由じゃないんですけれど「ハーレーは持っていないの?」と聞かれたら面倒なのでこの話をするようにしています。お客さんの車両が仕上がってから試乗でハーレーには乗れるので、そのときが僕のハーレーを楽しむ時間です。試乗で気持ちよく走りたいので整備にも力が入るので、いいこと尽くしでしょう。そのために余計な整備までして足が出ちゃうこともありますけれどね。

ーまるさんがハーレーに目覚めたきっかけは?

まる●高校生の頃、雑誌の表紙を飾ったショベルヘッド「ローライダー」のデザインに衝撃を受けたんです。「こんなデザインのバイクがあるんだ」とね。それからはモーターサイクルショーに行ってもメーカーブースは見ずに、ショップが展示しているカスタムバイクばかり見に行ってました。10代の小僧なのでハーレーを買えるわけはありませんが、顔見知りになったショップによく出入りするようになっていました。

ーハーレーを触るのが仕事になったのはいつ頃でしょうか。

まる●20歳の頃ですね。もともとは塗装を学びたくてショップに勤めたのですが、塗装が仕上がって外装を組み付けるとエンジンがかからないハーレーが結構ありまして。仕方がないから、車両が動くように触りはじめたら、いつの間にかハーレーをイジる方が本業になっちゃったんです。塗装の修行は結局出来ず仕舞いですね。

ー技術はどうやって習得したのでしょうか。

まる●独学で学んだ部分もありますが、わからないことがあったら他のショップの先輩方から教わっていました。僕には決まった師匠がいなかったのですが、いろんな方がかわいがってくれたので、先輩方のいいところだけをうまく自分のモノにさせてもらいました。今思えば決まった師匠がいなかったのはよかったかもしれません。師匠が1人だと、上の言うことに盲目的に従って仕事を覚えてしまいますけれど、僕にはそれがありませんでしたから。

修理のときにはまず「このトラブルは何で起こったの?」とじっくりと考えて、部品の耐久性の問題なのか、構造的な問題なのか、組み付けの問題なのか、自分で納得できるよう原因を追究した上で作業をしていました。流れ作業で仕事をしていると得るものは少ないですけれど、自分で考えて作業していると応用が利くようになりますからね。僕は「何でこうなるの?」ということにはしつこくこだわってしまうタイプなので、おかげで「何でこのパーツはこういう構造になってるの?」というところまで考えてしまうようになり、しまいには「何でこういう設計になってるの?」というところまで突き詰めていっちゃいました。同業者からは「ハーレーおたく」と言われていますよ(笑)。

ー確かに。他のショップさんに「まるさんのところに行く」と言ったら「話が長くなるから気をつけてね」と言われました(笑)。

まる●デザインから惹かれたハーレーですが、知れば知るほど、その設計は魅力的でね。昔のハーレーはデザイン部門の力が強かったのか、製造側の都合でデザインがあまり変えられていないようなんです。

ーと、言いますと。

まる●例えば、デザイナーが車をデザインしたとしましょう。デザインスケッチの段階でどれだけ斬新でカッコよくても、市販車はそのままでは絶対に販売されません。それは、デザインを製作側に回したときに「空気抵抗が悪い」や「この部品は1つの型で抜けない」、「コストがかかりすぎる」などの理由でデザインが変わるからなんです。けれど、当時のハーレーは製造側がデザインを変えた形跡が見えない、数えられないくらいのハーレーを触るうちにそれに気づいて。「このバイク、やっぱりいいな」と思ったんです。それに、パーツを見ているとデザインだけでなくその設計思想までが面白い。当時のハーレーには「永久設計」という考え方が基本設計にあって。

どういうことかというと、どこかの部品が壊れても、繰り返し再生して使えるくらいに丈夫で長持ちする設計になっているんです。日本車を筆頭にした他のバイクメーカーは壊れたら部品を交換する効率のいい設計になっていますよね。プラスチック部品なんて代表的な例でしょう。プラスチックが割れてしまったら直しようがない。もう交換するしかない。ハーレーが長いことアルミ部品を導入しなかったのは、鉄の部品ならショップが近くになくても、極端な話、街の鉄工所でも直せてしまうからなんです。モノさえあれば再生できるようにできている。当時、ハーレーのパーツが無駄に大きく、分厚く、硬く、丈夫にできているのはそういう設計思想があったからです。50年以上前のパンヘッドやナックルヘッドが21世紀の今も元気に走っていられるのは、そういうモノ造りの姿勢があったからなんですよ。

ー今、世の中にあるバイクにはそうでないものが多い、と。

まる●「パーツを修理しなくても、取り替えれば直るでしょ?」と思うかもしれませんが、メーカーがパーツの生産をしなくなれば終わりです。たった1つのパーツが手に入らなくなっても、それが基幹パーツだったらお終いです。今、世の中を走っている最新モデルのバイクが50年後、100年後の道を走っているかというと、使用されているパーツを見ると、とてもそうは思えません。ハーレーの場合、部品の再生はできる、アフターパーツメーカーが何十年も前のパーツを生産している、その環境が他のメーカーのバイクとは違います。ただ、ハーレーでもエボリューション(以下、エボ)以降のモデルになると、再生できないパーツが使われはじめています。壊れたパーツを溶接しようと思っても、今の技術では溶接できないアルミダイキャストが使われていたり、加工するにも削る余裕がないパーツが組み込まれていたりします。

「ショベルヘッド(以下、ショベル)みたいに、簡単に壊れないので大丈夫」とも言う意見はあります。確かに今のエンジンは精度が高いパーツで組まれていて、耐久性も非常に高くなっています。10万キロやそこらではエンジンを開けなくてもいいくらいです。でも20万キロ、50万キロと走り続けると、いつかはオーバーホールの時期が来ますよね。そこまで走るのには何十年とかかるでしょうけれど、そのときに果たしてパーツの供給があるのか?と思ってしまうんです。「1台のバイクを、そこまで乗り続ける人は一握りでしょう?」と言われればそれまでですが「大事にメンテしながら一生乗れるバイクを求めている」人が、旧いハーレーにこだわるのには理由があるんです。

無理に現代のパーツを
組み込む必要はない

ーショベルからエボの変化は相当大きなものだったのですね。

まる●ショベル以前のモデルはそもそもの設計が悪いところもあって、何度修理しても同じところがまた壊れることがありました。「ここがこんな設計になっていたらいいのになぁ」そう思っていたら、エボが発表されると、気になっていた部分が改善されていて「ああ、やっぱり」なんてこともありました。エボが発表されて中を見たときは驚きましたよ。それまでのハーレーは少しずつ少しずつ少しずつ進化してきて、ショベルの最終型では「もうこれ以上は進化できない。もう無理!」となっていたのが、エボになって一気に進化していましたから。ショベルを触っていて、いろんな問題を見てきていたので、なぜハーレーがエボに進化したのか、は各部の構造やパーツを見るだけでよくわかりました。それくらいよくなっています。

ーでも、大きく変わったということは触るメカニックの人も大変ですね。

まる●エボからハーレーを学び始めた人がショベルを触るのは難しいと思いますよ。「なぜエボはこういう設計になったのか。それ以前のモデルは、どんな設計でどんな問題があったのか」その歴史がわかっていないとツボを押さえた整備は難しいでしょう。それにエボ以降は部品精度も上がり、完成度が非常に高くなっていますから、それに慣れたメカニックが隙の多いショベル以前のモデルを触わるのは大変だと思います。だから今はショベルを的確に触れるメカニックは少なく、ショベルオーナーはお店選びに苦労しているんですよ。

ーショベルからハーレーを学んできたのはよかった、と。

まる●ラッキーだったと思います。僕はショベルの品質が一番悪かった時代に、ハーレーの世界に入ってきましたから。1台のハーレーを何度も何度も修理する機会がありました。「何でこんなにトラブルが続くんだ?」と調べていく内に多くのことが学べ、データもたくさん取れましたからね。

ーショベルはやはりトラブルが多かったのでしょうか。

まる●トラブルはありましたが、あくまでそれは部品の問題。エンジンはよく出来ていますよ。100点満点で30点くらいの状態でも平気で動いちゃうくらいよくできています。いい意味で大雑把にできているんです。他のバイクだったら絶対動かない状態でも走っちゃうんです。確かにコストダウンの影響を受けてトラブルの多いパーツがあって、それに悩まされた時期はありました。昔は壊れたパーツを新しいものに交換してもパーツ自体がダメだから、また壊れて同じトラブルに遭う。それが嫌になってハーレーを降りてしまう人も多かったです。でも、今は問題が修正された対策品がたくさん出ています。昔はパーツを注文しても1年、2年待つことなんてザラ。しかもドル高の時代でしたからパーツがハンパじゃないくらい高かった。それに比べると今は本当にいい環境になっていますよ。今こそショベルヘッドがちゃんと直せる時代だと思いますね。ただ、ちゃんと整備されずに、不調のまま街を走っているショベルが多いのが現実ですけれど。

ーそれは何故なのでしょうか。

まる●状態が悪くても平気で走れてしまうので、不調に気づいていないのでしょう。そのまま乗っていると、寿命が縮まったり、大掛かりな修理が必要になったりします。トラブルになる前に簡単な整備をしてやれば30点の状態が70点になったりするんですけれどね。「せっかく、いいモノを持っているのになぁ、かわいそうに」そんなショベルがたくさん走っていますよ。

ー正しい乗り方を知らないと調子を崩す、という話もありますが。

まる●今のバイクでもホントは同じなんですけれど、今はコンピューターが乗り手を助けてくれますからね。ショベル以前のモデルにはキックのかけ方、スロットルの回し方、など調子を崩さないような乗り方は確かにあって、昔はそんなことは納車のときに教えてもらっていたはずです。最近はそんなことも知らない、乗るのが下手な人が増えてきているのは確かです。自分で壊しておいて「ハズレを引かされた」と言っている人もいますから(笑)。

ー昔よりは情報が豊富なはずですが…。

まる●情報が豊富すぎて、お店のアドバイスに素直に耳を傾けない人も増えてきています。現行車と同じように荒っぽく扱う人も多いです。そういう時代の流れもあって、お店の人もだんだん細かな説明をしなくなっているのかもしれませんね。でも、中には熱心に聞いてくる人もいて、そういう人に対しては正しいショベルヘッドの乗り方、触り方を伝えていかなければいけません。ショベル以前の車両を扱う以上、こんな時代であってもショップ側はオーナーに正しい情報を伝える努力をしないといけないでしょう。「誰でも乗れますよ」や「壊れません」じゃなくて、もっとオーナーに必要な情報をね。

ー今、国内に出回っているショベルには程度のいいものは少ないのでしょうか。

まる●程度の良し悪し以前に、ショベルはもう20年以上も前のバイクですよ。よほど素性がしっかりしている車両じゃない限り、現状で乗れると思わない方がいいでしょう。少なくとも各部のチェックはすべきです。僕は気になる車両を納車するときには腰上は開けてしまいます。何も問題なければ別に触りませんけれど、各部がどんな状態で、あとどれくらい走るとどこに不調が出てくるのか、目星をつけてお客さんには説明します。「この作業はホントはやった方がいいけど、やらなくてもまだ走ることは走るよ。どうします?」と。

トラブルが出る前に未然に修理するのか、トラブルが出てから修理するのか、それはお客さん次第です。ショベル以前の車両の場合、もうトラブルはほぼ出尽くしています。対処のしようはいくらでもありますから。調子をよくするのは、下手をするとまだ登場して間もないモデルより簡単かもしれません。乗っていればどんなバイクでもいつか整備が必要になります。ショベルには今、整備が必要な車両が多い、単なる経年劣化か、間違った整備をされている車両なのか、わかりませんけれど。それだけなんですよ。納得行くまでちゃんと整備をしてやれば、いつまでも乗れるバイクなんです。

ー車両の整備には自信をお持ちなんですね。

まる●僕は「自分のことをハーレーだと思い込んでしまう」くらい、ハーレーにのめり込んでいますから(笑)。「自分がトコトン触った車両は壊れない」とまで思っていますよ。ただ動くようにするだけではなく、当時のままの状態で永く乗れるような整備しています。現代の技術で旧いハーレーのダメなところを造り直すこともできますし、実際にそれをやっている人もいます。

それも正しい方法ですし、面白いとは思います。でも、耐久性は低いけれど、できるだけ当時のままの状態で整備をしてやりたいんです。特徴を理解して、当たり前の整備をしてやれば、ポテンシャルを出来る限り維持して、永く楽しんでいくことはできますから。無理に現代のパーツを組み込む必要はないんです。ブレーキの強化など現代志向の方法はいくらでもありますけれど…。僕は当時の性能で充分使いこなせるんだからそれを維持していければいい、と考えています。別に「純正至上主義」などではありません。当時のショベルヘッドの良さをうまく引き出して、維持してやれば充分な性能を発揮できるバイクだから、必要以上に手をかけてやる必要はないんです。

ー適切なメンテナンスができるメカニックに整備してもらっていれば心配ない、と。

まる●オーナーにもある程度の覚悟をしてもらう必要はありますよ。簡単なトラブルの対応と、何かあったときに電話で的確に症状を伝えられる、そのくらいの知識は身につけてもらう必要はあります。また現行車と違って、パーツにこだわれば修理やカスタムに半年や1年は待たされることも珍しくありません。決して至れり尽くせりな環境では乗れないので、覚悟は必要でしょう。

最近は至れり尽くせりなショップが増えてきていますので、勘違いしている人もいますけれど。なのでウチはわざと「日本一敷居の高いお店になろう」とさえ思っています(笑)。僕はお店の電話が鳴っても出ませんし、雨の日は車両を外に出せないのでお店は休みになります。お客さんに至れり尽くせりな対応もしていません。でも、何度も通うくらいの覚悟を持って、ショベル以前のハーレーには付き合って欲しいので、日本に1軒くらいはこんな頑固なショップがあってもいいんじゃないか、と思いますね。それでもお店に来てくれたら、どんな相談にも乗りますから。

プロフィール
まる
43歳。20年以上ハーレーを触っている頼れるメカニック。車両を診ずにトラブルを言い当てたり、触るだけでハーレーを直したりした不思議な経験から最近は「サイコメカニック」を自称している。

Interviewer Column

「日本一敷居が高いお店」ここまで書いてしまうと引いてしまう人もいるだろう。確かにお店の場所はわかりにくく、看板にはハーレーの「ハ」の字もない。でも、こんなお店があってもいいじゃないか、とは私も思う。「お客様は神様だ」最近はその傾向が強すぎるユーザーが多い気がする。サービスを売りにするのも正解だけれど、技術だけを売りにするのだって正解。そこはお客さんが自分で選べばいいことだ。ちなみに、まるさんをコワモテと思った人がいたとしたら、それは不正解。話し始めるとなかなか止まらない。話せば話すほどギアが入るタイプの人だ。敷居は確かに高いけれど、くぐってしまえば、敷居なんて感じなくなるもの。至れり尽くせりなショップもあれば、JUNE BRANDのような個性的なショップもある。この懐の深さがハーレーの魅力でもあるんだな、そう感じる取材だった。(ターミー)。

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