愛車スポーツスター XL1200R を TRAMP CYCLE に預けて約3ヶ月……。ついに今回のフルカスタム企画が終わりを告げようとしています。おそらく僕を含めた多くの方がもっとも気にしていたペイント&デザインが車体に施され、フルカスタムは完成するのです。フルカスタムのメニューに「ペイント」という項目が入っていると、どうしてもそうした外装部分に注目してしまいがちですが、今回の連載の流れからも分かるように、まずはきちんと走れるようにするメンテナンスがもっとも大事で、それから外装への着手と進むのがキホン。要するに“お楽しみは後に取っておく”というワケですよ。いやそれにしても長かったような短かったような。それではお待たせしました、最後の仕上げたるペイント編と完成した姿、篤とご覧くださいませ。
前回の「バランス調整編」と似た話になりますが、やはりオーナーあってこそのバイクなので、“主役たるオーナーをいかに引き立たせられるか”が重要になってきます。なので僕は、まずオーナーのファッションや他の趣味・趣向をお聞きした上で、そのオーナーを引き立たせられるベストなデザインを考案していくやり方を採っています。今回であれば、まずイメージしたのがジャージーさんの普段のファッション。ウチに来られる際の服装はどちらかと言えば黒いレザージャケットを着て……という感じではなく、至ってカジュアルなもの。そして着目したのがシューズ。“お洒落は足元から”という言葉、一度は耳にされたことがあるかと思いますが、僕もその人がどんなシューズを選んでいるのかを見ることがあります。ジャージーさんはブーツではなくスニーカー、しかもアメカジ風の明るいトーンのものではなく、フランスのーPATRICKなどシックな感じのものが好みのようで、ご本人のデザイン要望にあった「ブラック + ホワイト + イエロー」というダーティ&ワルそうなイメージが、どうしてもオーナーとマッチしませんでした。そこで僕のオススメカラーである「ブルーグレー」をご提案したのです。アメリカンな感じとは違った、ヨーロッパをイメージさせるカラーはジャージーさんのファッションにもマッチするかな、と。彼、元々トライアンフ乗りですからね(笑)。
このように、TRAMP CYCLE(というより僕)は“オーナーこそ主役”と考え、その人の好みや趣味に合わせたデザインとカラーリングをご提案させていただいています。そこで大切になってくるのは、ショップとオーナーのお付き合い、コミュニケーションです。お互いが分かり合えていないと、オーナーにマッチしたカスタムなどできませんからね。今回のフルカスタム依頼も、それまでのジャージーさんとの交流がなければお受けしていなかったかもしれません。一朝一夕でより良いものは生み出せません。いきなりフルカスタム! とするよりは、気に入ったお店で少しずつカスタムしていき、ビルダーとのディスカッションからスタイルを考えていく方が面白いんじゃないかな、と思っています。
そしてもう一点、フルカスタムの好影響を言いますと、「オーナーのライフスタイルにプラスアルファをもたらす」ことでしょうか。これだけバイクがカッコよくなると、このスタイルをベースに服選びをするようになったり、「アクセントになる色を入れてみようかな?」など変化が生まれてくることがあります。せっかくカッコいいバイクに乗るワケですから、オーナーもカッコよくなりたいですもんね。
確かにフルカスタムは、誰もが手出しできるわけではないと思いますが、あなたの趣味性をより高めてくれること請け合いです。今、ご自身の愛車をカスタムしたいとお考えの方がいらっしゃるなら、まずご自身が気になるショップに足を運んで、ビルダーとの交流と図って自分の目指すべきスタイルを追求していってみてはいかがでしょうか。妄想しながら想像力を広げていくのも、カスタムの楽しみですからね。
カラーリングは本当に悩みました。先ほども述べたとおり、オーナーの意向であるテイストは確かにワルそうなイメージたっぷりでカッコいいんですが、どうしてもジャージーさんのイメージにマッチしなかったんです。そこから「じゃあ自分だったらどんなイメージがあるんだ?」という点について考え、生み出されたのがグレーという色。それも艶出しのピカピカしたグレーではなく、アルマーニやディオールを思わせる高級感がある半艶グレー。
東京 ⇔ 大阪間なので電話でのやり取りとなったわけですが、ある程度こちらのイメージをお伝えし、「グレー……いいですね、そのご提案、いただきます! グレーでお願いします!」というジャージーさんの言葉を受けて、早速色の配合を行います。ウチは自社で色の配合から塗装までやっています。
が、ここからが大変でした。ひとくちに“グレー”と言ってもいろんなグレーがありまして、ちょっとした濃度の違いで印象ががらっと変わってしまいます。なのでTRAMP CYCLEでは通常、決めた色をベースにしたカラーを10パターンぐらい作成します。今回もグレーをベースに配合して10パターンほど作ったのですが、この際「こう配合したらどうなるやろ?」と1パターンだけ試験的に行ったところ、“ブルーグレー”といったあまり見かけないカッコいいカラーが出来上がりました。見た瞬間、「ええやんこれ!」と思ったのですが、よくよく考えればこれは偶発的に生まれたカラーでして、改めて調合してみるもなかなか同じ色合いが出ない。しかもパターン違いのグレー4種類をジャージーさんにお見せしたところ、「このブルーグレーがイイです!」とおっしゃるじゃありませんか……。
10日間(!)ほどいろいろと試行錯誤をした結果、なんとかこのブルーグレーを生み出す調合を発見。想像以上の苦戦に、日数も労力もかなり消耗してしまいましたが、なんとか僕自身も納得できるカラーリングにまとめられたのです。ただスケジュールが押したため、オーナーへの納車が遅れてしまいまして……。まぁ本車輌を出展する NEW ORDER CHOPPER SHOW には間に合わせられたので、結果オーライってことで(笑)。
デザインに関しては、目立ちすぎない程度の薄いガンメタリックのラインをタテに入れました。往年のカーレースに登場するスポーツカーに見られるデザインで、ヨーロッパ × アメリカンを融合させたもの。どうです? カッコいいでしょう? ラインに使用したガンメタのグレーをもう少し濃くしようか?とも思ったのですが、あえて控えめにしている方が落ち着きがあるのでこの濃さで行くことに。また同じブルーグレーをピンラインでホイールにも施すなど、気付きにくいところにこだわりを入れてあります。もちろん、自己満足のためです(笑)。
それにしても、今回のフルカスタム企画でもっとも時間と労力を要したのがこのカラーリングでした。この記事を通じて、カスタムに関するお問い合わせをちょうだいしたりするのですが、先に言わせてください。このカラーリングは今回限りで、もうやりません(苦笑)。
最後に組み上がった車輌のテスト走行を行います。当たり前のことですが、一度完全にバラして組み直したわけですから、きっちり締まっていたボルトに変化が出る等々、カスタム前より若干バランスを崩している部分があるわけです。これは実際に走ってみなければ分かりません。TRAMP CYCLE では僕や従業員で100~200キロは走行して、不具合などがないかチェックします。僕らも年間通して何十台ものハーレーに乗っているので、どんな細かな違和感でも発見できるのですよ。こうして納車前に最終チェックを行ない、オーナーにお渡しします。
ここをクリアすれば、納車です!
約3ヶ月ぶりに再会した愛車は、外装はもちろん乗り味まで劇的に変化しておりました。とにかく速くなったんです。取り付けられた各パーツによって軽量化が図られ、ダンロップ K300GP に履き替えられたことでグリップ力もアップ。3ヶ月も離れていたせいかもしれませんが、「あれ?こいつこんなに速かったっけ?」と思うほどの変化でした。さらに攻撃的なライディングフォームは、走行中の気分を高揚させてくれます。期待どおり、いや期待以上の仕上がり。長いようで短いような3ヶ月間でしたが、この姿を目にしたら待ちわびた日々も遠い昔のことに思え、ただただ今という幸せに浸ってしまいますね~。
ですが。
完成した姿をまじまじと見て思ったこと、それは「あそこやあそこも触っておきたかったなぁ」ということ。長岡さんに言ってみたところ、「みんな納車のときにそう言うんですよ(笑)。そして大抵の人は、必ずそこに着手(カスタム)されます」と……。今回の連載企画を通じて、いろんな意味で目も知識も肥えたなぁ、と思うワタクシですが、それがこの“カスタムの連鎖”を生み出すハメになるとは(笑)。
“見た目”か、“走り”か。
TRAMP CYCLE でカスタムされた方は、どちらかの方向に向かって邁進していくそうです。今の段階では後者のような気がしますが、それはもうしばらく、今のスタイルで乗ることを楽しんでから考えたいと思います。
H-D 2008年式スポーツスターXL1200Rを所有するV-H担当者。バイクに関する知識は皆無なくせにバイクに乗るのは滅法好きという関西人で、東京⇔関西間をやたら自走取材するので走行距離は1年間で2万キロと伸びる一方。ようやくスポーツスター一台に絞ったにもかかわらず、H-Dの他モデル(特にダイナ)や原2バイクに心奪われることが多い。現在大阪の某カスタムショップで愛車をフルカスタム中。完成後の姿や如何に……。
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