マニュアルも何もないこのJDが私の教科書です
船場のサービスエンジニア、細見昌男さんはこの道23年の叩き上げのメカニックだ。25才の時にハーレーのメカになりたいと飛び込みで船場の門を叩いた細見さん。整備士の基本的な技術はあったものの、ハーレー、ましてやビンテージモデルのいろはも分からぬ素人メカニックであった。当時の工場長の河野さんや先輩メカニック、そして先代社長からの教えを生かし、今では船場の車両すべての修理とメンテナンスを行っている。そんな細見さんの愛機は1927年式のJD SIDECAR。オホッツバルブの1200ccモーターを搭載した、紛うことなきアンティークモデルである。
「このJDは2007年に手に入れたものです。それまではWLAやハイドラ、ヨンパチに乗っていたんですが、雑誌の取材でこのJDに丸一日乗る機会があって、想像以上のパフォーマンスに驚き欲しいと思うようになったんです。それまで20年代のアンティークモデルというものは飾って、眺めて、拝むものだと思っていましたから(笑)。私は92年の4月に船場に入社したんですが、このJDがお店にやってきたのも同じ時期だったんですよ。同期と言えば同期ですね。そんな意味でも思い入れの深い車両です」
このJDを20年代のアンティークモデルと侮るなかれ。3速ミッションであるが、パンやナックルヘッドと同じペースでツーリングに行くことができるし、WLなどのサイドバルブモデルよりもキビキビ走らせることができ、真夏でなければ通勤に使うこともできるという。20年代のJDが現代の日本で実用的に使えるとは驚きだ。
「船場で扱う車両はパンやナックルヘッドが多いのですが、冷静に考えればとんでもない車両だと思うんです。もちろん値段も高価ですし。そんな貴重な車両を台無しにするわけにはいかない。ちゃんとここ日本で乗れるように仕上げなければならないという使命感のようなものが強いんです。当時の姿、調子を取り戻すことを第一に考えて日々作業しています。新車のコンディションにどこまで近づけることができるかという挑戦ですね。マニュアルも何もないこのJDが私のいい教科書になっています。本当に学ぶことが多いですよ、このJDからは……」