現在30種類近いモデルラインナップを展開するハーレーダビッドソンの中にあって、特にオーソドックスなデザインを持ち、それでいながらもデラックスな装備を纏うモデル、ヘリテイジ クラシック。ツインショックフレームを持ったダイナファミリーが存在していたころは、ソフテイル ヘリテイジ クラシックと呼ばれ、FLSTCというイニシャルがつけられていたが、現行ソフテイルフレームが発表されファミリー構成が変更された今は、ソフテイルという名前が無くなり、FLHCと表記とされるようになった。
昨今パン アメリカ、スポーツスターSと、次々に新型水冷エンジンを採用したニューモデルを投入しているハーレーダビッドソンであるが、その一方で、クラシカルなモデルが再注目されている。古き良き時代のハーレーを連想させるヘリテイジ クラシックもその中の一台だ。オーソドックスなスタイリングでありながらも、中身は最新の電子デバイスをはじめとしたテクノロジーが用いられている。そんな現行ヘリテイジ クラシックを紹介しよう。
ヘリテイジ クラシックの先代モデルとなるモデルは、1988年に登場したFLSTC ソフテイル ヘリテイジ クラシックだった。今から考えるとすでにかなり古い時代の話となってしまうのだが、現在まで受け継がれるハーレーダビッドソンの始祖的モデルを1936年に生まれたELとするならば、80年代当時にそれをオマージュした格好で開発されたモデルだった。大戦後、世界各国で走り始めたハーレーダビッドソンのEL&FLは堂々とした体躯を持ち、地を這うようなスタイルで轟音を立てて走り去る。それはアメリカが生み出した高級バイクのイメージを人々に植え付けるものとなった。そして時を超え、今となっても人々の心の中に残されている。
現在のFLHC ヘリテイジ クラシックは、2018年からの新型ソフテイルフレームモデルにあたるものではあるが、基本的なスタイリングや装備はFLSTC時代から大きく変化はしていない。しかしそれは外見上の話である。エンジン、フレーム、足まわり、そしてABSやトラクションコントロールなどの電子制御システムなど、中身は最新の装備で固められているのである。その走りはどのようなものなのだろうか。早速FLHC ヘリテイジ クラシックの試乗を行っていこう。
大型のフェンダーとその頭上に備わる三連ライトとウインドスクリーン、見るからに座り心地の良さそうな低いシート、スタッズ付きのサドルバッグなど、多くのラグジュアリー装備を持ちながらも、それは華美過ぎず、スマートに纏まっている。まずこのスタイリングを見るだけでも惚れ惚れとしてしまう。ヘリテイジ クラシックの車両の撮影中、通りかかる人から「いいハーレーですねえ」、「素敵なバイクですね」、「排気量はいくつですか?」などと多くの声を掛けられた(男女問わずだが大多数はご年配だった)。普段撮影していても、声を掛けられることなどほとんどないのにだ。これは先述したように、ハーレーダビッドソンというモーターサイクルに抱く、憧れのイメージがすでに多くの人の心の中に根付いており、それを現代の世に具現化しているのがヘリテイジ クラシックということなのだろう。ウルトラ系ほどの威圧感はなく、スポーツ系ほどの若々しさが無い。ストレートど真ん中のスタイル、それがヘリテイジ クラシックの魅力だ。
ミルウォーキーエイト107エンジンに火を入れて走り出す。日本で現在販売されているヘリテイジ クラシックには107エンジンモデルと114エンジンモデルがあり、今回はあえて107モデルのテストをすることにした。”排気量が大きい=エライ”の図式がどうしても頭に残ってしまっている風潮があると思うが、私はそのバイクによって一番良いバランスというものがあると考えている。特に現在ハーレーダビッドソンで採用されているミルウォーキーエイトエンジンは、モデルによっても違うので一概には言えないが、個人的には114よりも107の感触の方が好みなのだ。
低回転域からリッチなトルク感を味わえるミルウォーキーエイト107エンジンは、歯切れの良いエキゾーストサウンドもライダーを魅了する。特に2000回転以下での鼓動感が心地よく、3000回転も引っ張れば、十分過ぎるほどのパフォーマンスを見せつけてくる。確かに114エンジンは輪をかけてパワフルではあるのだが、低回転域での滑らかスムーズなキャラクターは107に軍配が挙がる。
前後16インチがセットされたタイヤや、入念にセッティングされたサスペンションで固められた足まわりのおかげで、330kgという車重を忘れさせてくれるほど、軽快に車体をコントロールすることができる。急発進や急制動、さらにはハンドルをこじって曲がるような意地悪な入力を行っても、しっかりと動きがついてくるのには感心させられるとともに、以前のソフテイルファミリー時代と比べて、明らかに運動性能が向上していることが分かる。それと、タンクの形状と幅が絶妙であり、曲がりたい方向と逆の、内ももをタンクに当てて押すと、すっとリーンアングルまで倒れ込む。すべての動作が自然に行えるので疲れないのである。
さらに未舗装路に持ち込んで走らせてみる。強力なトルクを持つハーレーは、未舗装路などにおいてセンシティブなスロットルワークが求められてきたが、ヘリテイジ クラシックは発進からワイドオープンを行っても、ジャジャッと一瞬だけ小石を巻き上げた後、何事もなかったかのように加速し始める。もちろん超重量級の車体なので、制動距離には十分気を付けなければならないが、ロックして滑るということが無いのだ。もちろんいつ訪れるか分からない不意なコントロールをしてしまった時にこそ役立ってほしい電子制御システムではあるが、それを活かした走りを楽しむことも、最新のヘリテイジ クラシックに触れる際の嗜みだと思う。
ライダーの体格によっては多少ポジションの変更などをした方がより乗りやすくなることもあるだろうが、私にとって非の打ち所がないハーレーダビッドソンに仕上がっていた。
現行のヘリテイジクラシックにはミルウォーキーエイト107(1746cc)とミルウォーキーエイト114(1868cc)の、2つのエンジンが用意されている。排気量の違いだけでなく、キャラクターも異なるので、できれば両車を試乗したうえで選びたいところである。
トレール量は140mmと直進安定志向のセッティングだが、130/90B16サイズのタイヤとのバランスが良く、自然なコーナーリングを楽しむことができた。ロングフェンダーやスポークホイール、カバードされたフォークなど、クラシカルなスタイルで纏める。
高速道路などでライダーにあたる不快な走行風を防いでくれるウインドスクリーンは、着脱が可能とされているので、気分によってスタイルを変えても良いだろう。三連ライトは照射角が広く、夜道も不安なく走らせることができた。
メーターナセルは燃料タンク上にセットされ、クラシカルな様相を助長している。オーソドックスなスタイルではあるが、左手側のスイッチボックスに備わるボタンを押すことで、液晶部分に、距離計、時間、回転計などを表示させることができる。
容量18.9リットルと、かなり大きめのサイズとされた燃料タンク。やわらかなシルエットがノスタルジックなイメージを連想させる。文中でも触れたが、幅の広さが具合よく、内ももで挟み込むことで、車体を軽くコントロールできる。
大きく手前に引かれたプルバックハンドルは、リラックスしたライディングポジションをもたらしてくれる。スイッチボックスは、難しい操作などが必要なく扱いやすいもの。なおクルーズコントロールが標準装備となっている。
ステップボードは、若干フォワード気味にセットされている。小柄な体格のライダーであれば、ミッドセットに位置変更すると、さらにコントロールをしやすくなるだろう。
シート高は680mmと抑えられており、足つき性は申し分ない。ライダー、パッセンジャー共に厚手のシートが奢られており、ソファのような座り心地をもたらす。長方形タイプのピラミッドスタッズもポイントになっている。
リアのフェンダーは、そこまでロングというわけではないものの、エンド部にクロームパーツを装着するなどし、ヘリテイジ クラシックのキャラクターを強調している。ストップランプとウインカーを別体とするオーソドックスなスタイルだ。
右サイド2本出しとされたエキゾーストシステム。リプレイスマフラーへ交換されるオーナーもいると思うが、ノーマルでのまとまったスタイリングや、歯切れの良いサウンドも捨てたものではないと思う。
ソフトタイプのサドルバッグを標準装備する。ワンタッチで開閉、ロックが可能であり、ソフトケースでありながらしっかりとした作りなので使い勝手が良いのだが、贅沢を言えば、もう少し容量が大きいと嬉しい。
ハードテイルルックの新型ソフテイルフレームを採用。リアサスペンションはプリロード調整機構を備えている。ドライブトレーンはハーレー伝統のベルトドライブとされている。
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