初代ロードグライドが登場したのは1998年のことだが、歴史を遡ってみると、2灯ヘッドライトを持つフレームマウントフェアリングというスタイルで、1980年に発売されたツアーグライドを祖としていると考えられる。高い防風性能とスタイリッシュなデザインを併せ持つシャークノーズフェアリングを、フレームにマウントするロードグライドは、多くのバイカーに受け入れられ、ロードグライドカスタムやロードグライドウルトラなど派生モデルを輩出しながら、存在感を増してきた。2015年には、研究、設計、開発すべてにおいて見直し、ツーリングモデルの大革命と言われたプロジェクトラッシュモアに沿った新型となり、さらに現在は心臓部にミルウォーキーエイト114エンジンが採用されている。ラインナップの中でも高い人気を誇るバガーモデル、ロードグライドスペシャルを紹介してゆく。
電動モーターサイクル界に一石を投じるライブワイヤーや、新たなアドベンチャーワールドを開拓するパンアメリカ、既存モデルではダイナファミリーの終焉、さらには新規開発されたミルウォーキーエイトエンジンの採用など、ここ数年ハーレーダビッドソンの動向は極めて活動的であり、目を見張るものがある。
そのような中、バージンハーレーでも様々なモデルのテストを行ってきた。今回テストモデルとして照準をあてたのは、FLTRXS ロードグライドスペシャルだ。都会的にソフィスティケートされたスタイリングや、ロングツーリングも快適にこなす高い運動性能を備えたバガーモデルとして人気を博している一台だ。先述したようにロードグライドの歴史はなかなか長いものであり、年式や派生モデルで、そのキャラクターは異なるものだ。最新のロードグライドスペシャルをテストすることでその進化、いや、真価を探りたいという気持ちを抱いたのだ。
実は今回のテストに入る1週間ほど前にはCVOストリートグライドに乗っていたこともあり、エンジンをはじめ多くの部分に手を入れられたCVOであることから同列の比較はできないにせよ、両者の使い勝手の面での違いに関しても探っていきたいと思う。
2灯タイプヘッドライトを収めた大きなシャークノーズフェアリングから、タンク、シート、サドルバッグエンドまで、流れるような美しいラインでまとめられたロードグライドスペシャル。使い勝手の良し悪しもあることには違いないが、トップケースを持さないこのスタイルが個人的には好みだ。2430mmの全長、387kgの車重というのはツーリングシリーズの中では中間的数値ではあるが、それでも大柄なことは確かだ。グッと力を入れて車体を起こし、エンジンを始動させる。温まるまではオートチョークにより高めの回転数が維持されるが、しっかりと熱が通った後の落ち着いたアイドリングは大排気量Vツインエンジンの味を色濃く打ち出す。
ロードグライドスペシャルに搭載されているのは、ミルウォーキーエイト114エンジンだ。その排気量は1868ccを誇り、軽くクラッチミートするだけでいとも簡単に巨体を押し出す。今回テストした車両は特に低回転域がまろやかなフィーリングで扱いやすく、ロングに設定されたギア比と相まって、シフトを固定したままオートマティック的なイージーライドを楽しめた。 大きなフェアリングがあるためフロントヘビーな印象は否めないが、フレームにマウントされている分、フロントタイヤへの依存度は、フォークマウントモデルに比べて薄まっている感があり、ワインディングで振り回すような走りをしても至ってスムーズな印象を受けた。ミルウォーキーエイト114の強大なトルクを重ねれば、極上のスポーツライディングを楽しめる。特別に仕立てられたものではないものの、昨年からアメリカで開催され話題となっているレースイベント『キング・オブ・バガーズ』で観られる迫力ある走りを、わずかでも体感することができるのだ。
約1週間の車両テスト期間、ほぼ毎日ロードグライドスペシャルを乗り回した。そうそう、CVOストリートグライドとの違いだが、デザインこそ違うもののどちらも大型のフェアリングを備えていることやサイズ的に同等であることもあり、使い勝手そのものに大差はない。エンジンのフィーリングはスクリーミンイーグルの手が加えられ、さらに排気量の大きいCVOストリートグライドの方が高回転域でパワフルに感じられるが、ロードグライドスペシャルでも十分すぎるポテンシャルを備えている。それにロードグライドスペシャルの質感がとても高く、例えばダッシュパネルのペイントなど、厚く塗り重ねられた漆のごとく艶めかしい輝きを放っており、それを脇目に走らせることがとても気分が良い。
2021年モデルは今回テストに使用したツートーンカラーのペイントオプションの他、全11色からボディカラーを選ぶことができるものポイント。トラクションコントロールをはじめセーフティかつダイナミックなライディングを得るための車体制御機構であるREFLEX™ディフェンシブライダーシステムや、単体での音楽再生はもちろん、スマートフォンなどと連動することで、より快適なツーリングをもたらしてくれるBOOM!™ BOX GTSインフォテインメントシステムも標準で装備されており、ハーレーダビッドソンのツーリングシリーズならではの多大なプレミアム感には脱帽せずにいられない。
市街地でのパーキングスペースにやや難を感じる場面はあったものの、それはビッグツインエンジンモデル全般に言えることであり、そんなことを気にすることなく、今日も走らせようと思わせる大きな魅力がロードグライドスペシャルには備わっていた。
排気量1868ccを誇るミルウォーキーエイト114エンジンがロードグライドスペシャルに搭載されている。洗浄可能な高性能エアクリーナーが採用されており、吸気サウンドも良い。エンジンガードも標準で装備される。
足まわりは新形状のホイールで固められている。4ピストンのブレーキキャリパーのタッチや効きが良く、コントロール性も高い。ABSも標準で装備しており、巨体を安定して制動させることができる。
ロードグライドスペシャルの特徴の一つでもある2灯ヘッドライトを収めた大きなシャークノーズフェアリング。防風性能に優れており、ハイウェイクルーズでも不快な走行風をライダーに受けさせない。
振動緩和機能を持つフットレストボードのおかげで、ロングツーリングも疲労度を軽減。シフトチェンジレバーはシーソータイプではなく、シングルとされている。走行距離の少ない個体だったが、シフトの入りが良かった。
BOOM!™ BOX GTSインフォテインメントシステムを標準で装備。ハンドル左右に備わるスイッチの他、パネルタッチでも操作が可能となっている。単体での使用もできるが、スマートフォンやヘッドセットなどと連動することで、さらに機能を引き出すことができる。
景色が写り込むほどに厚くブラックペイントされたダッシュボードに魅力を感じるコックピット。各メーターの配置や、高音質を誇るスピーカーの搭載など、もはやモーターサイクルを超越した存在と言える。
シート高は695mmとされている。数値からも分かるように、かなり低く抑えられており、ほとんどのライダーが踵が接地することであろう。ただし車重はあるため、取り回しには少々コツがいる。
シンメトリックなデザインでまとめられた左右2本出しマフラー。リプレイスマフラーへの交換はカスタマイズの定石的手法ではあるが、ノーマルでも迫力あるVツインサウンドを奏でる。
燃料容量22.7Lと、大柄なタンクを備えている。ただ低回転を維持し流すようなクルージングでの燃費は良いが、スロットルをワイドオープンしパフォーマンスを楽しんでいると、残燃料計の針はみるみるエンプティ―ラインに向かってゆくので自制心も必要。
左側のスイッチボックス。ホーム機能を備える十字ボタンでボリュームや音楽の進み戻しができる。クルーズコントロールも使い勝手が良く、道が開けるとついつい使ってしまう。
サドルバッグは見た目以上に容量が大きい上に、ワンタッチで開閉することができるので、本当に便利に使うことができる装備だ。2、3泊程度の荷物であれば収めることができ、ロングツーリングもスマートなスタイルで楽しめる。
フロントスピーカーの下方にはユーティリティボックスが用意されており、右のボックスにはUSBコネクターが用意されている。インフォテインメントシステムとスマートフォンの連動だけでなく、ガジェット類の充電にも使えるので便利だ。
サドルバッグを取り外すとツインショック式のリアサスペンションが姿を現す。プリロード調整も容易に行えるため、タンデム時や荷物の積載時など、その時々のシチュエーションに合ったセッティングを行いたい。
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