VIRGIN HARLEY |  sakura(全国二輪車環境改善ネットワーク)インタビュー

sakura(全国二輪車環境改善ネットワーク)

  • 掲載日/ 2006年11月08日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

俺たちのバイクを盗んだこと
窃盗団に必ず後悔させてみせる

2台目の愛車となったロードキングで、銀座の街に現れたSakuraさん。待ち合わせ場所でインタビュー場所を決める僅かな時間でもバイクからは離れない。話しを聞く場所も、当然目の前に愛車を置けるカフェとなった。思い出の詰まった愛車が盗難に遭い、身についた危機感からの徹底ぶり。仕事の合間を縫って盗難被害者に会い、その状況を調べ、手掛かりが見つかればどこにでも行ってしまう行動力。どこからそのエネルギーが湧き出てくるのか。「とにかく今、起こっている状況を伝えたい。その後どうするのかは個人が考える問題ですから」。パワーの源を尋ねるとそう答えるが、それを維持するのは並大抵のことではない。活動を続けるのは、窃盗団に対する嫌がらせ、日本でバイクを盗むことはリスクばかりで危険なだけだとわからせる。俺たちのバイクを盗んだから、そうなったんだと後悔させる。そんな信念を抱いて続けてきた活動は今年で5年を超えた。今回は、そんなsakuraさんに話を聞いてみた。

Interview

なぜそこに自分のハーレーがないのか
何が起こったのか理解できませんでした

ーハーレーに乗るきっかけは、なんだったんでしょう?

sakura●最初は国産車に乗っていたんですが、友達のハーレーを借りて乗らせてもらい、自分のハーレーが欲しくなってしまったんです。独身だから稼ぎもわりと自由にできたので、ローンでファットボーイを新車で買いました。日本中をずいぶん走りましたよ。1年間で1万5千キロ走り、語り尽くせないほど思い出が詰まっていました。でも、ある日そのファットボーイが盗まれてしまったんです。

ー当時はハーレーの盗難についてはご存知でしたか?

sakura●ハーレーが盗難されやすいバイクだとは知っていました。実家が商売をしていまして、お客さんに「ハーレーに乗っているんだってね。気を付けなよ。この前、俺の知り合いが盗まれたから」なんて言われたこともあります。それでも「まさか自分が」だったんでしょうね、たいして気にも留めていませんでしたから。今は「この現状を解って欲しい」と思い活動していますが、当時の自分はまったくわかってませんでした。

ーファットボーイが盗まれた状況は

sakura●当時住んでいたマンションの駐車場で盗まれました。自分の車の後にハーレーを置いていたのですが、駅まで人を迎えに行くたった15分ほどの間になくなっていました。

ーそのときの心境は?

sakura●もうなにが何だか…。真冬でしたけどワイシャツ1枚でハーレーを探して、近所を駆け回りました。今考えたら無駄なことでしたけど、そんなことしか思いつかなくて。警察にも届けましたが、自転車が盗まれたのと対応は同じです。被害届けが受理され一応現場には来ましたが、形式どおり見て回るだけ。少し時間が経って冷静さを取り戻したときは、悔しさで一杯でした。家に一人でいると「どうしてこんなことに…」と本当に落ち込みました。

ーロックなどはしていたのでしょうか。

sakura●チェーンロックを1つだけでした。切断された残骸だけが残されていましたね。結局ローンだけが残されて、ファットボーイは消えてしまったんです。

ーそのままハーレーを降りようとは考えませんでしたか。

sakura●すぐに新しいハーレーを買うことは出来ませんでしたが、降りようとは思いませんでした。何だか泥棒達に負けたようで嫌でしたから。でもハーレーは高価で、そう簡単には買えませんでした。盗難がきっかけで知り合った、『全国二輪車環境改善ネットワーク』の仲間に「乗るものがないから、考えこんじまうんだよ。買っちゃえ」と言われ、またハーレーに戻ってきたんですよ。

ーそれからバイクから離れるときに注意しているところとか、ありますか?

sakura●絶対に目は離しません。幸い、家にはガレージがありますけど、外出先で駐車するときはバイクが見えなくなる場所には行きません。高速のパーキングでトイレに入った一瞬の隙にやられた、コンビニでハンドルロックだけして買い物をしたら盗まれた、という例がありますからね。目をつけられていれば大げさではなく、ほんの数秒でなくなりますよ。

ー全国二輪車環境改善ネットワークの仲間とは、何がきっかけで出会ったのでしょうか?

sakura●自分のバイクが盗まれたときに、チェーンの残骸が残っていたのはすごく稀な例だったらしく、それを知った『VIBES』に取材されたんです。その取材を機に、今一緒に活動している仲間に出会いました。僕を含めてほとんどの仲間は過去に盗難被害に遭ったメンバーで、それぞれに自分の力で何かできないか、と考え動いていたんです。取材前から、僕は一人で盗難被害者の人に話しを聞きに行くようになっていていました。けど、別々に活動をしていた仲間と出会ったことで、いろんな動きができるようになりました。

ーなぜ盗難被害者に会おうと思ったんですか?

sakura●一番には自分が味わった悔しさを忘れないためです。どんな場所で、どんなロックをしていたのか、あらゆる状況を知り、そしてそれに負けないようにしたかった。さっきも言った「一人でいると、盗られた嫌なことばかり考える」という理由もあり、動き始めた面もあります。ただ、被害者の情報を集めることで「何とかしてこの状況を改善できるはず」と、そんな思いに突き動かされていました。今は自分のブログや『VIBES』、『VIRGIN HARLEY』などで、この現状を伝えていくことができます。当時は「情報を集めてどうするのか」集めた情報を伝える手段はありませんでした。でも「伝え方は後から考えればいい」と、まずは情報を集めようと動きはじめていました。

ー「二度と愛車を盗まれないために」から始まり、「誰も被害に合わないために」今のこの状況をみなさんに伝えるようになったわけですね。

sakura●今は何かおかしい状況ですよね。「人の物を盗む」という、やってはいけないことをする連中がいて、皆さん考えている以上に多くの人が被害に遭っている。バイクに乗っている人なら誰もが“ヤバイ”状況にいるんですから。決して盗まれた人だけの問題ではなく、皆さんが思う以上に「身近な」問題なんです。情報を集めながら、仲間とは何度も話をして「誰もやらないのなら、自分たちが動こう。安心してバイクに乗れる環境にしなければ」そう考え始めたんです。

ー多くの被害者に会いはじめたことがきっかけで、全国二輪車環境改善ネットワークの活動が始まったんですね。

sakura●大事なバイクの盗難被害に遭う人をいつかゼロにしたいですから。被害に遭った人にとっては「ただモノが盗まれただけ」では済まないんです。この気持ちは実際被害に遭ってみないとなかなか解らないかもしれません。でも、そんな気持ちは誰にも味わってほしくない。誰かがこの現状を何とかしなければいけないんです。そうじゃないと、バイクはこんなに楽しいものなのに「盗まれるのが嫌」という理由でバイクに乗ることができない人が出てきてしまいますから。

我々はボランティアじゃない
自分たちのための活動なんです

ーネットワークの活動はどんなことを。

sakura●被害者に会う以外だと、メディアに記事の執筆や情報提供も行っています。ときにはアジアやギリシャなど海外にまで出向き、日本から持ち出されたバイクを追うこともしていますね。

ー被害状況はどうやって知るのですか。

sakura●インターネットやショップからの連絡ですね。どこかのサイトに盗難情報があればメールをし、活動内容を理解してもらい、了解を得られればどこのメーカーのバイクかに関係なく会いに行きます。それでも盗難被害に遭ったばかりの方ですから「コイツ何者?」と疑われることもありますよ。話を聞いてもらいたい人もいれば、一刻も早く忘れたいからかまわないでほしい、そういう方もいます。自分たちを「何でそんなことをやっているの? 頭がオカシイんじゃないの?」と言う人もいました。それでも、どんな些細なことでもいいので情報が欲しいです。何かあればどんどん連絡してもらいたいんです。もちろん又聞きや事実とずれてしまっているケースもありますから、情報が正しいかどうか精査することはしますけれどね。

ーネットワークの活動が本職ではないんですよね。

sakura●仕事は別にしていて、仕事が終わってからが活動の時間です。平日は夜まで仕事をし、一度帰宅してから被害者に会いに行ったり、仲間とミーティングをしたりしています。被害者に遭うためなら関東圏ならほぼどこにでも行っているので、寝る時間が深夜になってしまうのは珍しくありません。

ー完全なボランティアなのですね。

sakura●皆さんそう言いますけれど、僕らはボランティアしているわけではないんです。仲間や自分が気持ちよくバイクに乗るためにやっているんですから。第一に自分のバイクは盗ませない、そして次に仲間のバイクが盗まれない、そうして全バイカーが盗まれない。そんな気持ちで活動していますから、ボランティアではないでしょう。

ー活動のゴールは「盗難ゼロ」ですか。

sakura●盗難を完全になくすのは難しいでしょうけれど「今のこのひどい状況を変えることはできる」そう思って活動しています。安心してバイクに乗れる環境を作りたいですよね。ときには「盗まれるほうが悪い」なんてことを言う人がいますけれど、そんなことは絶対にあり得ません。だって、子供のときから人のものを盗っていいなんて教えてもらってないでしょ? 盗むほうが悪いに決まっていますよ。

ー活動の中で、自分たち以外に協力を求めることはありますか。

sakura●もちろん協力してもらえるところには、いろいろとお願いもしています。マスコミでは『VIBES』と『TBS』。国際的な警察機構であるインターポールも協力的です。逆に、もっと協力してほしいのは各バイクメーカーやバイク専門誌ですね、もっともっと現状を取り上げて欲しいと思いますよ。

ー日本の警察とはどうなんでしょう。

sakura●バイクの盗難は、基本的に自転車を盗まれたのと同じ対応です。なかには協力的な方もいますけれど、警察は縦社会ですから協力をいただけると言っても限界があります。でも、警察に対してどうこう言うつもりはありません。文句ばかり言っても、何も変わりませんからね。まず自分たちの足で稼ぎ、できることをやっていきます。こうして活動していなければ、もっと被害は広がっていきますし…。自分達の動きで被害を少しは食い止めていると自負していますから。立ち止まるわけにはいかないんです。

ー愛車を盗難されない方法はありますか。

sakura●一人ひとりの意識が大切ですね。ハーレーをどこかに駐車するということは、そこに100万、200万の現金を置くのと同じことだと思ってください。そんな高価なものを置くのだから、盗られないような万全の対策をするべきなんです。

ーアパートの駐輪場や道端にしか止められないとしたら、どうすればいいのでしょう。

sakura●道端に駐車するのは、リスクがありすぎます。ロックをつけるにしても、路上駐車はできれば止めるべきです。コンテナやガレージを借りてください。また、イモビライザーと地球ロックは必ずしてくださいね。少しでもいじられた形跡やおかしなことがあれば、迷わず警察に通報しましょう。通報が増えればその地域は警察が重点的にパトロールされますし、そうなれば窃盗団もその地区では動きづらくなりますから。

ー万一、盗難にあってしまったときは。

sakura●警察に被害届を出し、陸運局にも廃車届を出してください。すぐ廃車届を出すことはあまり知られていませんが、過去に被害車両が国内の中古市場に並んでいたことがあります。廃車届を出していれば、第三者が国内での被害車両の再登録はできなくなりますから、廃車届も必ず出してください。

ーこの環境を変えるために個人でできることはあるのでしょうか。

sakura●まずは危機感を持って下さい。本当に現在は危ない状況です。最近1ヶ月で、都内だけでも大型バイクだけで70台以上が被害に遭っています。危機感を持って対策をし、簡単には盗まれないようにしてください。そうして対策を取っていれば窃盗団も少なくなります。今の日本は簡単に高級バイクが盗め、簡単に輸出できてしまうから窃盗団に狙われるんです。バイクを盗むときに大きなリスクが必要になれば、それだけこの犯罪も減ってきて、もっと楽しくバイクに乗れるようになるでしょう。みなさんに対策を取って欲しいとは言いましたが、注意して欲しいことがあります。もし盗まれる現場を目撃しても、真っ向から犯人とは戦わないで下さい。窃盗団も捕まらないために命懸けですから、立ち向かうのは相当危険です。しっかりとした対策を取っていただいても、絶対ではありません。もし未遂などの被害に遭えば、このサイトの盗難情報局までメールを下さい。

ーこれからも活動は続けますか。

sakura●続けます。被害者の方から話を聞くのは楽しい話ではないので、辛くなるときがほとんどです。それでも僕たちと同じ、盗難被害という辛い体験をしている人がいれば放って置けません。被害に遭われた方は、誰かに話を聞いてもらうだけでも気持ちが違ってきますから。盗難にあった後で「またバイクを買いました」なんていうメールを貰うとホッとしますよ。窃盗団に、僕たちのバイクを盗んだことをいつか後悔させるために、バイクを愛する人たちが安心してバイクに乗れるようにこの活動は続けていきます。

プロフィール
sakura
自らのハーレーが盗難に遭ったこときっかけに、盗難被害に遭った人に会い被害情報を集めはじめる。その活動を通じ知り合った仲間と全国二輪車環境改善ネットワークを設立し、現在も活動を行う。Sakuraさんのブログはこちら。

Interviewer Column

どんな活動であろうとそれを邪推したり、悪く思ったりする人は必ずいる。ただ盗難をなくしたいと考えて活動していてもそれはあるらしい。稼ぎになるわけでもなく、ときには危険な目に遭うことすらあるというのに。「楽しいはずのバイクライフを楽しいままで過ごすために」言葉にすればずいぶんと矛盾している。それでも現実はそうなってしまっているのだ。ただ、楽しさを辛さに変えないために活動し続ける男たちがいることを忘れないで欲しい(大森 茂幸)。

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