VIRGIN HARLEY |  Simpson(VANS PRO)インタビュー

Simpson(VANS PRO)

  • 掲載日/ 2006年12月22日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

無理をして手に入れたハーレー
それが人生を変えてくれました

Simpsonさんと知り合ったのは、2005年10月「神戸缶コーヒーミーティング」の打ち上げの場だった。「スポーツスターのDVD製作をしているらしい」、初めはその程度の認識だったが、その後もいろいろなところでお会いして、映像製作にかける熱い想いを少しずつ知ることになった。ハーレーに関する映像製作だけではなく、しばらくするとオートバイの魅力を伝えるTV番組製作に携わるようになり、手がけたTV番組「Like a wind」も放映開始から早や半年を越えている。もう1年ほどSimpsonさんを見てきたけれど、その忙しさは半端ではなく、寝る間を惜しんで精力的に動き回ってきた。どこからその情熱と体力が出てくるのか、舌をまくばかり。仕事として働くだけならば燃え尽きてしまいそうな忙しさの中で、なぜSimpsonさんは活き活きと動き続けてこられたのか。それを知りたくてインタビューを行った。

Interview

27歳からのハーレーライフ
遅咲きでもいいじゃないですか

ー初めてのオートバイは何だったのでしょうか。

Simpson●HONDAの「JAZZ」でした。ベタですけれど「ハーレーダビッドソン&マルボロマン」という映画に感化されたのがきっかけです。でも、お金に余裕がなかったので「原付を買って自分でイジってやる」と選んだのがJAZZです。自分なりにあちこちカスタムをして乗っていたのですが、松田優作のリバイバルブームのときに「VESPA」に乗り換えてしまいました。流されやすいですね、僕は(笑)。

ー「VESPA」から大きなオートバイにステップアップしたのはいつの話でしょう。

Simpson●そのまま長いこと「VESPA」にばかり乗っていました。車に夢中になったり、結婚をしたりで、ずるずると歳を重ね、本格的にオートバイに乗ることになったのは27歳のときです。遅咲きライダーなんですよ。

ー27歳でなぜ急にオートバイに?

Simpson●妻が妊娠したのがわかったとき「子供が生まれる前にオートバイを買わないと、一生乗れないかも」とふと思ったんです。小さな頃からGP選手権を見ていましたし、憧れてきたオートバイもあります。ずっと「いつか」と思い続けてきました。大変な時期で妻には申し訳なかったですけれど、あのときオートバイを買っていなかったら、今の僕はなかったでしょう。

ーハーレーを買う、と決めていたのでしょうか。

Simpson●欲しいバイクはたくさんありました。昔から憧れていたのはSUZUKIの「カタナ」、KAWASAKIの「NINJA」などで「絶対ハーレーが欲しい」というわけではありませんでしたね。ただ家族もいましたので、あちこちのショップを回りかつての憧れのモデルを見ても「いまさら飛ばすオートバイに乗るのもなぁ…」とイマイチピンと来なかったんです。具体的にハーレーを候補に考えはじめたとき「ハーレーは飛ばすバイクじゃないから」と家族を説得しやすいな、とも考えました(笑)。もちろん「King Of Motorcycle」としての憧れはありましたよ。でも、まさか20代でハーレーに乗るなんてね。なかなか踏み切れないものですよ。

ー奥さんは素直に許してくれなかったでしょう。

Simpson●「とりあえず見るだけだから」と一緒に近くのディーラーまで足を運びました。誰もが経験があると思いますが、生でハーレーを見ると「買おうかな」が「欲しい」に変わっちゃいますよね。スタッフの方が気を利かしてハーレーのエンジンをかけてくれたから僕もスイッチが入っちゃって。ハーレーらしい低音の利いたサウンドが聞こえてくると一発でヤラれましたね。その音に妻のお腹にいた子供が驚いて暴れたらしく、あとでかなり怒られましたけど(笑)。そんなことがあって、本気でハーレーを買おうと雑誌を片っ端から読み込んで、どのモデルにするのか悩みはじめました。

ー最終的に選んだのは?

Simpson●スポーツスターでした。カスタム車両を見ていたときに「HOTDOCK」が製作したドラッグスタイルのスポーツスターが目に入ったのがきっかけです。それからスポーツスターについて調べていくと、ハーレーの中では一番スポーツ性が高い。スポーツスターだけのレースがある。スポーツスターのいいトコロがたくさん見えてきてたんですよ。

ーでも半年でビックツインに買い替えたんでしょう(笑)。

Simpson●そこは突っ込まないでください(笑)。ハーレーを買ってから知り合った方がマルボロマン仕様のFXRに乗っていまして…。彼のハーレーのウンチクを聞いていたら、僕がバイクの世界に足を踏み入れるきっかけになった「ハーレーダビッドソン&マルボロマン」の映像が頭から離れなくなったんです。タイミングよく、行き着けのショップに出物のダイナが入荷してきて「これはきっと運命だ」と。

ー奥さん対策はどうやったのですか?

Simpson●朝スポーツスターで出かけて帰ってきたらダイナだった、それで何とかなるかな、と。「アンタ、それどないしたん?」と、あっさり見破られましたけどね。あとはひたすら謝るのみです。家族にはちゃんと説明してから買わないと家庭内不和になるのでオススメできませんね(笑)。

ー怒られても当然ですねぇ。苦労して手に入れたダイナはいかがでしたか。

Simpson●エボリューションのFXDだったのですが、ラバーマウントのブルブル震えるあのエンジンはたまらないものがありました。フォークを伸ばしてネックを寝かし、JBのフォワードコントロールを入れて、理想どおりのスタイルで乗っていましたね。ただ、加速時にお尻がずれてステップから足が離れるのが少し怖かったですけれど。

ーダイナでは随分走り回ったようですね。

Simpson●ダイナに乗り換えてからハーレーの楽しみ方をわかりはじめた気がします。仲間やショップを通じて輪がどんどん広がりはじめ、休みの度にあちこちへツーリングに出かけるようになりました。昔から憧れていたオートバイライフをやっと手に入れた、そんな感じでしょうか。

映像のプロの力を駆使して
オートバイの魅力を伝えたい

ーダイナを手に入れた頃には今のVANS PROに勤めていたのですか?

Simpson●まったく畑違いの一般企業に勤めていました。まさか自分がバイクに関する仕事に携わるとも思わず、イチハーレー乗りとして関西を走り回っていましたね。VANS PRO に勤めはじめたのは30を過ぎてしばらくしてからです。

ーなぜ畑違いのVANS PROに転職されたのでしょう。

Simpson●30を過ぎてしばらくしてから、将来について考える時期があったんです。前の会社には15年近く勤めたのですが、そのまま勤め続けるのか、そのキャリアを捨てて新しいことにチャレンジするのか。家族もいて、自宅を購入したばかりの時期でしたから相当悩みましたね。妻の支えもあって最終的には退職することに決め、新しい道を探ることにしました。

ー映像分野で働こう、と決めていたわけではなかったのですか。

Simpson●まったく何も考えていませんでした。VANS PROに勤めはじめるまでの3ヶ月はずっと行き着けのハーレーショップに入り浸っていましたから。仕事もせずに家でゴロゴロするのは居心地がよくないので、朝から晩までショップにいてスタッフやお客さんと話していましたね。お客さんが来たらコーヒーを入れるなど、半分スタッフみたいになっていましたよ(笑)。

ー長く勤めた後のリハビリ期間だったわけですね。

Simpson●本当にボーっとしちゃっていました。何も考えず、ショップで出会ったハーレー乗りと話をし、どこかへ走りに行く、そんな日々でした。それまでは根を詰めて仕事をしていましたから、今思うとそういう時間を持つことができて良かったかもしれません。日がなショップにいたお陰でVANS PROの社長とも出会えましたし。無理に仕事を見つけ充電期間無しで働き始めていたら、きっといいスタートは切れなかったでしょう。

ーVANS PROにはハーレー繋がりで勤めることになったんですか。

Simpson●社長もかなりのハーレー好きで、僕がショップにいるときによく遊びに来ていたんです。初めはお互いに何の仕事をしているのかも知らず、ハーレー乗りというだけの共通点で繋がっていました。ハーレー繋がりの仲間だと、お互いの職業や、下手をすると本名も知らないままで親しく付き合うことがありますよね。しばらくはそんな繋がりでした。ハーレーという共通の話題だけで話せるあの時間が居心地よくて、たまに一緒に走りに行きながら次第に親しくなっていったんです。

ー仕事で繋がることになったのは?

Simpson●知り合ってしばらく経ち、たまたまスポーツスターのイベントに遊びに行ったときに社長が撮影クルーを連れて取材に来ていたんです。社長が指示を出している姿を見て「ああ、こんな仕事をしていたんだ」とそのとき初めて知りました。社長と仕事の話をするようになったのはそれがきっかけです。過去に「Like a wind」というオートバイ番組を手がけていて、いずれはその番組を再び製作したい。自分が好きなオートバイに関する映像製作をしたい。その第一弾として今スポーツスターだけを集めたDVDを製作している。そんな話を聞いているうちに僕も次第に興味を持ち始めました。

ー不思議な縁でVANS PROに入社したんですね。

Simpson●興味は持ったものの映像分野でのキャリアはゼロでしたから、「自分に手伝えるのか?」という不安もありました。でも社長はそんな僕に現場を見せてくれて「映像の世界で素人でも構わない。バイクが好きで情熱があればいい。何とかなる」と背中を押してくれました。不思議な出会いでスタートしましたが、そんな経緯で僕はVANS PROに勤めはじめたんです。

ー右も左もわからない世界で、どんな仕事を担当したのでしょう。

Simpson●経験ゼロからのスタートでしたから、撮影のスケジュールを組むなど、現場の雑務を一通り手伝うところからはじめました。とにかく現場に出て、仕事の流れを学ぶことで必死でしたね。僕も大変でしたけれど、周りのスタッフはもっと大変だったと思います。周りはプロばかりの中で、まったく未経験の僕が仕事の段取りを組むんですから。

ー仕事を覚えるために意識したことは?

Simpson●とにかくコミュニケーションを取ることに気を遣いました。社長が創りたいモノ、カメラマンが撮りたいモノを知り、撮影に協力してくれる方々に気を配る。僕が間に入っていかにスムーズに現場を仕切っていくのか、とにかく話を聞くことを心がけていました。それしかできることはありませんでしたからね。

ーそんな中で製作したスポーツスターのDVD「Like a Wind Life with Sportster vol.1」が完成したときは感動したでしょう。

Simpson●DVDは製作途中に入社して、周りに迷惑をかけながらの仕事でしたから「感動した」というよりは「ホッとした」という感じでした。達成感を最初に感じたのはDVD製作後に企画段階から参加したTV番組の「Like a wind」の第1回目の撮影が終わったときですね。スタートから僕が関わった最初の映像コンテンツでしたから。ただ、DVD製作に携わったことでショップの方、個人の方と話しができ、一気に輪が広がったのが、その後TV番組を製作するときの助けになりました。今でも感謝しているのは神戸缶コーヒーミーティングのスタッフの方々。たくさんのスポーツスターオーナー・ショップを紹介していただき、打ち上げに呼んでくださって。そういう出会いと会話の中から2006年4月に放映を開始したTV番組の「Like a wind」の企画が持ち上がりましたから。「人との出会いから何もかもが始まる」そう実感できた最初の仕事がこのDVD製作でした。

ーかつてTVで放映されていた「Like a wind」を復活させるのは社長の悲願だったのですよね。

Simpson●非常に想い入れのある番組です。当時の放映が終わるときも「いつか必ず戻ってきます」と番組で宣言していましたし、社長の大好きなオートバイの番組でしたから。社長に「Like a wind」を再び盛り上げる想いがなければ、きっと僕が入社することもなかったでしょう。社長がそうですから、撮影に携わるスタッフも皆バイク好きばかりが集まっています。VANS PROはそもそも報道番組などの映像製作が得意な会社なんですけれど、社長をはじめとするスタッフのオートバイへの想い入れの強さから「Like a wind」は生まれています。「オートバイ好きによる、オートバイ好きのためのオートバイ番組」それが「Like a wind」なんです。乗っている人間にしか作れないオートバイ番組を視聴者に届けよう。大変な想いも多いですけれど、スタッフにその情熱があってこそ成り立っている番組です。今はまだ関西の一部地域での放映ですけれど、いずれは全国のオートバイ好きに番組を届けたい、その日が待ち遠しいですね。

ーでも、オートバイ好きばかりが集まると、企画を決めるのも好みがぶつかって大変でしょう。

Simpson●確かに製作に携わるスタッフの感性は皆バラバラ(笑)。でも、それがいいんだと思います。一人の個性に偏った番組ではなく、幅広いジャンルを取り上げることができますから。ハーレー好きもいるし、他メーカーのバイク好きもいる。「ハーレー乗りのための」ではなく「オートバイ好きのための」番組ですから。いろいろな好みが入った方がいいんだと思います。好みがぶつかることもありますが、芯には「オートバイって面白い」で共通していますから大丈夫です。

ーそこまで情熱を込めて番組製作をしているのに、Simpsonさんのハーレーは長いこと入院中だとか。

Simpson●そこが辛いところです。実はDVD製作の直前に、ダイナからまたスポーツスターに乗り換えたのですが…カスタムのため長期入院中なんです(笑)。いろいろな方にお会いすればするほど、やりたいことが増えてしまっていつまでも完成しません。あと少しで完成の予定ですから、納車された暁には思う存分走り回ってやりますよ。我慢を重ねて待っている分、誰よりもスポーツスターを満喫する自信がありますね。

プロフィール
Simpson
34歳。「VANS PRO」勤務。ハーレーのDVD製作やオートバイ専門のTV番組「Like a wind」のマネージメントを手がける。これまで3台のハーレーを乗り継いできた。現在所有するスポーツスターはカスタムで長期入院中。

Interviewer Column

「Like a Wind」DVDの製作を間近で見ていたので、たった1本の映像製作にどれほど時間がかかっているのか、には驚かされた。見る人にとっては2時間強のDVDだけれども製作の裏側には何十倍もの時間が費やされている。TV番組「Like a wind」もそう。15分番組だけれども製作の裏側には想像しえない手間がかかっている。オートバイに関する映像コンテンツが少ない今、VANS PROのような映像製作会社の存在は貴重だ。我々視聴者はTV番組を気楽に見ているけれど、番組製作の裏側には必ずそこに携わるスタッフと情熱が存在する。今回は番組のマネージメントを手がけるSimpsonさんを紹介したけれど、「Like a wind」に携わるすべてのスタッフの力があって一つの番組が成り立っている。オートバイの魅力を広く知ってもらうためにも、今後もその情熱を燃やし続けて欲しい(ターミー)。

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