VIRGIN HARLEY |  アメリカ盗難事情芦田 剛史のUSAディーラー・トレーニングダイアリー

アメリカ盗難事情

  • 掲載日/ 2007年09月04日【芦田 剛史のUSAディーラー・トレーニングダイアリー】
  • 執筆/芦田 剛史
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本場ディーラーでハーレーを学ぶ USA Training Diarys 第17回

日本では知られていない
アメリカのHD盗難事情

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こんにちは、メカニック芦田です。
秋の気配が漂ってくるこの9月、皆様如何お過ごしでしょうか? ラスベガスの9月…7、8月と比べて若干暑さも落ち着きを見せ始めました。素晴らしいバイクシーズンの到来を予感させてくれます。猛暑に見舞われる7、8月はラスベガスH-Dも、シーズンオフとまでは言わないまでも、絶好のシーズンに比べてお客様の来客も若干少なくなってしまいます。特に今年は異例の来客数減だったとか。「まさか私が働くようになったから…?」なんて思ってしまうほどの異例振り。暑さのような自然の力(私の力(笑)?)に人が太刀打ちできないのは言うまでもありませんが、人為的な恐怖も非常に恐ろしいモノです。やや無理矢理な繋ぎ方になってしまいましたが、今回はアメリカのバイク盗難事情について書いてみたいと思います。私自身はバイクを盗まれた経験がありませんが、私の周りでは悲しい経験をされた方は数多くいます。バイクを盗むという行為は社会的にもちろん重大な罪ではありますが、盗む側は一切の罪悪感や後ろめたさを覚えている様子は見受けられません。この問題は非常に繊細で重要な事柄ばかりです。書くからには慎重に言葉を選ばなければなりません。少々堅苦いコラムになりますが、どうぞお付き合い下さい。

まずは最初に盗難と言っても「どのくらいの頻度で起こっているのか?」、「どれくらい身近な犯罪なのか」を知っていただきたいと思います。ここで紹介するのはあくまでアメリカで盗難事情ですが、私が感じている限り日本もアメリカも劣悪な状況には変わりないようです。では、アメリカ全体で一体どの位のバイクが盗まれているのでしょうか。

アメリカで1年間に盗まれるバイクの数はおおよそ2万6千台

この数字は、あくまで届出があり、確実に確認されている数字です。つまり、実際は何らかの事情でデータ上に上がってこない数があるということです。見えない数字が上乗せされればもっと多くのバイクが盗まれていると言えます。日本の盗難台数と比べると少ないかもしれませんが、日本でのバイク盗難台数の多くは原付が占めます。バイクの免許区分が日本のように別れていないアメリカでは、原付に乗る人はあまりおらず、この数字はほぼ日本で言う大型バイクの盗難だと考えていいでしょう。ではアメリカでのバイク盗難台数の中で、どの様なバイクが多く盗まれているのかを見てみましょう。

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こちらはある資料からの抜粋ですが、情報としては確かだと思われます。ハーレーが被害に遭う割合は記載されているモデルだけでも、全体の25%以上ということになります。26,000台の25%ですから少なくとも毎年6,500台近いハーレーが盗まれているのです。新車の販売台数と比較してみましょうか。アメリカで年間約14万台ほどのハーレーが販売されています。この数字と単純に比較すると、全体の4.6%、つまり100人の内4.6人が盗難の被害に遭うという確率になります。この数字は恐ろしいですね。書いていて溜め息が出てきました。ここアメリカでもバイクの盗難は大きな問題なのです。

州による被害台数の違いは?
大都会に被害は集中します

いくら100人の内4人以上が盗まれると言っても、地域差があります。ここではアメリカのどの州が盗難被害に遭いやすいのかを書いてみたいと思います。先ずは、こちらの資料をご覧下さい。

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人口比率にも関係してくるのですが、カリフォルニアがダントツという結果になっていますね。ついで、フロリダ、ニューヨークと続きます。これらの州は大きな都市が存在する州ばかりです。都会にいけば行くほど盗難の被害にあう確率は高くなるのは日本と同様ですね。イリノイ、ノースキャロライナ、ミシガンはいずれも被害が多い州の隣に位置し、ここも注意が必要な地域です。カリフォルニアはその州の大きさからか若干ワーストランキングとしては不利な気もしますが、全体の15%以上を占めている要注意エリアなのは間違いありません。フロリダはバイクの聖地として有名なところで、住民のバイクの保有台数が多く、それがこういった状況を生んでいるのでしょうか。

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「都会に犯罪が集中する」のはバイク盗難に限った話ではありません。都会になってくれば、犯罪発生率は増加してきます。都市部に住むハーレーオーナーはアメリカでも日本でも注意が必要です。また、盗難の状況としては、自宅に保管、アパートの駐車場などでの保管状況下で被害にあうことがほとんど。私の「アローヘッドHD」時代の同僚が実際に被害に遭っているので、こちらの盗難の被害例もご紹介しましょう。彼は自宅ガレージ内にハーレーをしまっていました。しかし、家屋内に侵入し内側から電動シャッターを開けられ、そのまま車両を持って行かれました。ガレージ内に保管していた場合、セキュリティを厳重に装備していない場合が多く、逆に持って行かれやすいという盲点を突いた犯行です。中にはガレージ内で車両を解体し、パーツ単位に分けて持って行ってしまう恐ろしい輩もいるそうです。もっと恐いのは、こういった連中が犯行を目撃された場合、どういう行動に出るか分からないということでしょう。犯罪者が銃を持っていることは珍しくないこちらですから、発砲でもされたら…たまったものではありません。一方で、日本のように出先で盗まれるというケースはアメリカではそれ程多くはないようで、これは日本とは少し違う状況ですね。

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こちらの警察当局は盗難に関して、決して手をこまねいている訳ではないようです。インターネットで過去のニュースを少し調べてみると、何年か前に1人で50台以上ものバイクを盗んだ犯人がテキサスの警察に逮捕されています。警察とFBIが連携し、多発した盗難事件に大掛かりな捜査を行い、無事に犯人は逮捕されていますが、その被害額なんと18万ドル!にも達するそうです。押収された車両は全てバラバラだったとか。実際にはこのように被害が甚大にならないと、警察としても大掛かりな捜査には乗り出さないようで、通常は被害届を受理して状況を聞き、その場は収まってしまうことが多いのだとか。ただ、アメリカの場合は現行犯で逮捕されている窃盗犯は意外にも多く、昼夜問わずの綿密なパトロールが功を奏しているように思えます。確かに、日本と比べるとパトロールしている警察を見かける機会は多く、その頻度は日本と比べ物にならないような気がします。アパート内の駐車場なども隈なくチェックしながら走っているパトカーも見かけます。日本の警察ではこのところ毎日のように不祥事を聞きますが、それでも最後に頼りになるのは少なからずいるであろう真面目な警察になるでしょうから頑張って欲しいものですね。 

セキュリティ用品の充実度は
日本の方が上かもしれません

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近年多発する盗難事件の影響で、日本では対策グッズが数多く開発、販売されています。インターネットだけでの調査ですから簡単に比較できる物ではありませんが、私の個人的な感覚ではアメリカの窃盗団は日本の窃盗団と比べるとレベルが低いように思えます。日本の盗難状況を見ると、ディスクロック、チェーン、イモビライザーなどを何重にも装着しているにも関わらず、全て打破してバイクを持って行ってしまうケースが見受けられます。東京近辺では一日数台(!)の被害が報告されているようです。高性能のイモビライザーは確かな信頼性がありますが、それを解除か破壊(?)してしまう窃盗団の技術は脅威です。こういった危機的状況の中でも評価が高いセキュリティグッズはアメリカで売られているモノより優れたモノもあるようですね。アメリカのセキュリティグッズは基本的に日本の物と変わりはありません。ですので、特別にアメリカにしかない製品を探し買い求める必要性はないでしょう。むしろ、ロック類は日本でしか買えないものがあるくらいです。

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しかしながら、こちらのハーレーに標準採用されているイモビライザーはなかなかのモノですよ。日本では電波法の関係で残念ながら採用されていませんが…。キーフォブという無線キーを対応するモジュールを装着している車両に近づけると自動的にセキュリティがロックされたり解除されたりする機能がついています。つまり、専用無線キーを持っている人がハーレーの傍にいないとバイクをスタートできないのです(近づくだけで反応します)。アメリカ仕様はこのイモビライザーが全車標準装備で重宝されています。オプションでアラームを装着すれば、バイクを動かした時点でアラームが作動することもできます。このアラームはバッテリー端子を外しても起動し続けますし、バイクの揺れの感度も調節可能です。しかし、こういったアイテムまでも解除してしまう輩がいる最近では、一体何処にバイク管理の平穏を求めればよいのでしょうか…。

盗まれた愛車はどこへ…
アメリカ国内?それとも海外?

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アメリカには盗まれたバイクをパーツ単位に分けて売りさばいている輩がたくさんいるようです。彼等の拠点のほとんどは、バイクを盗むポイントから近い場所に拠点を置き、人目に付かない深夜を狙って行動します。ディスクロックやカバーだけを装着している車両の場合、最悪の状況だと前後の車輪が回らなくても専用のカートに車体を載せ、そのままトラックに積み込んでしまいます。そして、盗まれた数日後にはバラバラにされて売りに出されるという腹立たしい現状があるようです。また、詳しくは書けませんが、アメリカでは盗んだバイクの登録をクリアにして新たに登録できる方法も存在するようです。このような方法を駆使し、車両が流通してしまわれたら…アメリカは国土が広すぎるため、どこかで自分の愛車が盗まれたときと同じ仕様で走っていたとしても発見するのは困難でしょう。泣き寝入りするしかないのかもしれません。

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上で紹介したのは国内でも盗難車両の流通ですが、日本では被害車両のほとんどは海外に流れていくようです。アメリカ国内でも同様に、被害車両を海外へ送り出すということは起こっているのでしょうか? アメリカ警察では盗難車歴のデータは数年で消えてしまうという話を聞いたことがあります(確かな話ではありません)。ですが、盗難車をいざ海外へ発送しようとした場合、盗難車である事を理由に税関当局で差し押さえられるという話も聞いています。これはつまり、警察に古い盗難車のデータは残っていないが、税関当局は盗難車の記録を持っている(?)ということになるかと思います。そこで直接税関の相談センターへ問い合わせてみました(アチコチたらい回しにされました)。返答は「そのような盗難車の発見管理システムは当局には存在しないし、聞いたことがない。盗難車云々のことは警察の管理下であり管轄である。」という返答を頂きました。私は探偵でもありませんし、警察でもありませんからあまり突っ込んだ話もできませんが、どうもはっきりしない話です。もし全ての盗難車を水際で抑えているとすれば、アメリカで盗まれた車両は海外では出回らないということになります。ただ、メキシコやカナダなどの陸続きの国に運ばれれば…島国日本とは違う状況があるのかもしれません。このような混沌とした状況の中ですが、自分の愛車を黙って盗られるのも腹立たしい限りです。その為の盗難防止策としては、前後ディスクロック、前後どちらかの車輪を鉄製の支柱(木製等では支柱ごと破壊されてしまいます)にロックで何重にも固定、その上にイモビライザーを装着し、カバーをかける。そのくらいに注意した方がいいでしょう。そこまでやったとしても日本では盗まれてしまうこともあるようですが…。しかし、ハンドルロックだけという状況はどうぞ盗って下さいと言わんばかりの状況ですから、我々もできるだけのことをやるしかありません。 

盗難だけでもわれわれバイク乗りにとっては頭を悩まされる問題ですが、近頃は他にも心配の種が絶えません。バイクを取り巻く環境は日々、刻一刻と変化しています。バイクに対する法規制もそうですが、市民からの車、バイクに対しての見方も環境問題の観点から見て随分厳しい物になってきています。私達、少なくともココをご覧の方々はバイクが好きだと思います。しかしながら、人の趣味趣向は千差万別であり、バイクに対して寛容な方ばかりではありません。私のプライベートで付き合いのある方の中には、バイクを見て目を細める人も居ます。そういった方々にはライダーの、もしくはバイクのデメリットばかりが目に付いてしまうようです。過剰な排気音、急発進、無謀なすり抜け、追い越し等の道路上でのマナーなど。不特定多数の集まりで構成される集団は、一部の目立つ部分が全体のイメージとしてとらわれやすく、これは企業イメージや学校イメージが1つの非によって多くのマイナスイメージを与えてしまうことと似ています。バイクを保有することにも喜びを感じる私ですが、最近は盗難問題とバイクを見る目の厳しさに挟まれています。これでは前門の虎、後門の狼という状況で楽しめるモノも楽しめません。住んでいる地域にもよりますが、盗難や周りの目を気にするあまり、バイクに乗ることが億劫になっている人もいます。せめて盗難の状況だけでも収まり、安心して愛車をしまっておけるようになって欲しいものです。バイクを生涯の友とする私は、それを奪って利益を得ている人がいることに対して言葉では説明できない感情を持っています。真っ当に頑張っている人が、それに相当するだけの幸福を得られる社会であって欲しいと願わずにはいられません。現代社会がそうであるか否か、私は残念ながら答えを見失ってしまいます。今回はちょっと暗くなってしまいましたが、次回は明るい話題をお届けする予定です。それでは次回をお楽しみに。

プロフィール
芦田 剛史

26歳。幼少からバイクと車に興味を持ち、メカニックになることを誓う。高校中退後、四輪メカニックとして4年の経験を積み、ハーレー界に飛び込む。「HD姫路」に6年間勤務、経験と技術を積み重ねたのち「思うところがあり」渡米を決意。現在はラスベガスHDに勤務。(※プロフィールは記事掲載時点の内容です)

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