
FXRTをオマージュしたかのようなスタイリングでまとめられたローライダーSTが登場したのは2022年のこと。今でこそ名機として扱われているFXRTだが、その人気を高めたのは、ここ十数年来の西海岸でのカスタムシーンであるクラブスタイルにおいて、スポーティなフェアリングの装着が好まれた影響も大きい。

ローライダーSTは、現代的なメーカーカスタムモデルとして企画され、スタイリングのみならず強力なエンジンや鍛え上げられた足まわりによって、スポーツツーリングモデルとしての魅力が凝縮された一台となってた。その結果として、多大な支持を集めるに至ったのである。
従来モデルでも十分すぎるほどのパフォーマンスを備えていたが、2025モデルではディテールの変更に加えて、エンジンの仕様や足まわりの強化も行われ、さらに進化。今回はその内容を掘り下げるとともに、実際に走らせた印象をお伝えする。

今期のモーターサイクルショーで発表されたハーレーダビッドソン2025年モデル群から、約3か月遅れて登場したのが2025年ローライダーSTである。

ソフテイルフレームを持つクルーザーモデルには、いずれもミルウォーキーエイト117エンジンが搭載されているが、モデルごとに「クラシック」、「カスタム」、「ハイアウトプット」というキャラクター分けが施され、それぞれ異なる特性を与えられている。この仕組み自体が2025年モデルの大きなトピックスとなっており、今回のローライダーSTも、すでにリリースされていたローライダーSと同じく“ハイアウトプット(高出力)”仕様を採用している。

ローライダーSTのミルウォーキーエイト117ハイアウトプットは、排気量こそ従来と同じ1923ccだが、吸排気系の改良と最適化されたチューニングにより、トルクとレスポンスを大幅に強化。その結果、最高出力は従来比で9馬力増となる114馬力に達し、最大トルクも173Nmを発生する。
もちろんただエンジンの特性が変更されただけでなく、ライディングモードを選べるようにされていたり、トラクションコントロールの介入度もリセッティングされるなど、走りと安全面を同時に引き上げられたことも新型ローライダーSTにおいての注目点だ。

春先に同じ117ハイアウトプットを積むローライダーSを試乗した際、その強烈なパフォーマンスには驚かされた。ゆえに今回のローライダーSTにも大きな期待を寄せていたのである。それでは、実際に走らせたインプレッションをお届けしよう。

2025年ローライダーSTを目の前にしてまず感じたのは、スタイリング的には従来モデルから大きな変化が見られないということだった。同時に登場した2025年ブレイクアウトはヘッドライトが刷新され、顔つきから印象が大きく変わっていたため、むしろローライダーSTを見て“ホッとした”というのが正直なところである。これはすでにデザインが完成域に達していることの証左であり、既存オーナーにとっても歓迎すべきポイントだろう。

スタイリングディテールにおける従来モデルとの最大の違いは、エキゾーストシステムが2into1タイプへと変更された点だ。これはミルウォーキーエイト117がハイアウトプット仕様となったことに起因すると推測できる。加えて、メーターディスプレイも従来のハンドルライザーにインサートされたコンパクトタイプから、オーソドックスな丸形ケースへと改められている。これまでのものはカスタムライクな雰囲気があったが、インフォメーションの視認性という観点では新型に軍配が上がる。

エンジンを始動し走り出す。新型ローライダーSTではライディングモードが「ロード」「スポーツ」「レイン」の3種類から選択可能となっており、まずはスタンダードなロードモードで試すことにした。
最初に感じたのは、スロットル操作に対する回転上昇のレスポンスが明確に向上している点だ。従来モデルも十分なパフォーマンスを備えていたが、スロットルの開け始めにどこか抑え込まれている感覚があったのは否めない。そのため、走りを重視するオーナーの中にはコンピューターチューニングに手を出す者も少なくなかった。

次にスポーツモードを試すと、エンジンのピックアップは一気に過敏さを増し、少しでも気を抜いてスロットルをワイドオープンにしようものなら、即座にライダーを振り落とさんばかりの勢いで加速していく。このフィーリングは強烈でありながら、中毒性すら感じさせる楽しさに満ちている。

新型ローライダーSTで強化されたのはエンジンだけではない。足まわりにも熟成が加えられ、そのセッティングは絶妙といえる仕上がりだ。従来のローライダーSTは、比較的高めにセットされたハンドルの影響もあって、フロントタイヤからのインフォメーションが伝わりにくい傾向があった。加えてフェアリングはフレームマウントながら、大きな重量物としてフロントセクションに掛かっていることに変わりはなく、攻め込んだ際に限界点を掴みづらかったのである。
それが新型ではフロントフォークの動きがいっそう滑らかになり、ストロークをしっかりと使い切るような果敢なコーナリングを楽しめるようになった。リアサスペンションのストロークも拡大されており、前後のセッティングが相乗効果を生み出しているといえる。車重のスペックを見ると従来モデルと比べ実に5kgもの軽量化を実現しており、それも運動性能を引き上げる要因となっている。快適なクルージングを楽しめるのはもちろんだが、スポーツモデルさながらの運動性能を得たローライダーSTに、ストリートで真っ向から対抗できるモデルは多くはないだろう。

もっとも、トラクションコントロールを備えているとはいえ油断は禁物だ。特にスポーツモードに設定した際、スロットルをわずかに開けただけでも強烈なトルクが襲いかかってくる。その力を無造作に扱えば、それ相応のリスクを負うのは間違いない。自身のライディングスキルを磨きつつ、アウトロー的キャラクターを持つローライダーSTを自在に操ることができれば、まさに鬼に金棒である。
カラーバリエーションも拡充され、クロームトリムが3色、ブラックトリムが5色の合計8パターンを用意。カラー選択の幅が大きく広がった点も嬉しいニュースだ。先に述べたように、スタイリングの変化はわずかにとどまるが、ひとたび走らせれば進化のほどに驚かされる新型ローライダーST。これから手にする新たなユーザーはもちろん、すでに従来モデルを所有しているライダーにも、ぜひ一度その進化を体感してほしい一台である。

ミルウォーキーエイト117ハイアウトプットエンジンを採用。マネジメントの適正化や吸気フィルターの形状やエキゾーストシステムなども見直され、最高出力は114馬力に、最大トルクは173Nmまで引き上げられている。

φ43㎜シングルカートリッジ式の倒立フロントフォークを採用。ブレーキシステムはダブルディスクに4ピストンキャリパーをセットする。ABS、トラクションコントロール、ドラッグスリップコントロールなどの安全装置も標準装備。

ローライダーSTの大きな特徴となっているフロントフェアリングは、ハイウェイクルーズで大きな効果を得ることができる。フレームマウントや形状などは従来通りで変更は無いようだ。

シート高は715mmとかなり抑えられている。表面の仕上げ、形状ともに従来モデルを踏襲。デフォルトではシングルシートとなっている。

従来モデルのハンドルライザー上部にインサートされていたコンパクトなディスプレイを辞め、オーソドックスな丸形ケースのアナログタイプメーターに変更されている。好みは分かれるが、インフォメーションの視認性は新型が良い。

車体に乗り、両腕をまっすぐ前に伸ばした位置にセットされたバーハンドル。小柄な体格だと若干遠く感じることもあるかもしれないが、慣れてしまえば扱いやすい。スイッチボックスは左右とも新たな形状に変更されている。

スタイリングの的にはコンパクトでスポーティな印象を受けるサイドケースは、想像以上に容量があるうえ、ワンタッチでロック開閉が行えるので非常に便利に使うことができる。

フロント110/90B19、リア180/70B16という太すぎず、大きすぎずという前後タイヤセットも、ローライダーSTでの高い直進安定性と、気持ちの良いコーナーリングを両立するポイントとして寄与している。

ステップはミッドコントロールにセットされている。クルーズ時には足元がリラックスできる位置でありながら、スポーティなコーナーリングを楽しみたいときには、しっかりと荷重を掛けることができる。

燃料タンク容量は18.9Lと十分。テスト車両はFXRTを連想させる鮮やかなレッドカラーで、新型ローライダーSTでは、このほか計8パターンのカラーリングから選ぶことができる。

もはや”新型”と言えないほど熟成された感のある現在のソフテイルフレーム。リジッドフレームに見えるスイングアームを構成するパイプは細く見えるが、適正な剛性が考えられておりとても乗り味が良い。

サイドバックは従来モデルと同様だが、新型ローライダーSTではテールランプやターンシグナルが変更されており、ヘッドライトを含めすべてがLEDライトとなっている。