2020年のミッドイヤーモデルとして、その復活を遂げたソフテイルスタンダード。当時は新たなソフテイルフレームの採用や旧ダイナファミリーの統合などが進む中で、昔ながらのチョッパースタイルで纏められたオーソドックスなモデルの登場に、既存ハーレーファンを中心に評価されたものだ。
それから早2年が経った。スポーツスターファミリーの水冷エンジン化やハーレー初となるアドベンチャーモデル、パンアメリカ1250の登場など、情勢は徐々に変化しつつある。そのような中、トラディショナルなソフテイルスタンダードに今一度触れることで、今の、そしてこれからのハーレーを考察してみたいと思う。
この世に初めてソフテイルスタンダードという名のモデルが登場したのは1984年のことだった。外観上はリジットフレームのように見えるソフテイルフレームが生み出され、それと並行して開発がされていたエボリューションエンジンを併せ持つスペシャルモデルであり、ハーレーの新たな時代を感じさせるエポックな一台として受け入れられた。
2011年に一度カタログ落ちするものの、素の状態でのバランスの良さや、カスタムベースとしても評価が高かったために中古マーケットでも一定の人気を保ち続けていた。そしてファンの要望に応える形で、2020年に新型ソフテイルフレームにミルウォーキーエイトエンジンを搭載した新生ソフテイルスタンダードが復活を遂げたのである。モダンでキャラクターの強いモデルが次々と登場する中において、オールドスクールチョッパーと言えるオーソドックスなスタイリングは、むしろ新鮮さすら覚えるものとなった。
低く構えたシャープなボディラインに、エイプバーハンドル、タックロールシートなど、定石とも言える装備で纏められたソフテイルスタンダードは、時代を超えてもなおハーレーファンの心を魅了するものであり、もはや完成されたモデルなのである。
ソフテイルスタンダードが2020年に復活登場した際、試乗テストを行ったことがあるのだが、非常に気に入ったことを今も覚えている。なので今回久しぶりに実車に触れることを楽しみにしていた。それにしても久しぶりにソフテイルスタンダードを目の前にして、そのまったくと言ってよいほど変わらないスタイリングに、逆に驚かされてしまった。ぱっと見で分かる変更点はワイヤースポークホイールが、キャストホイールホイールになったことだけであり、その他はカラーリングも含め何も変わっていない。いつのモデルを購入しても同じ満足感を得られると考えると良いだろう。
エンジンを始動し走り始める。排気量1745ccのミルウォーキーエイト107エンジンが搭載されている。2020年の復活時でもミルウォーキーエイト114、最新モデルではミルウォーキーエイト117エンジンが搭載されているものもある中だと、排気量が小さいと感じられてしまうかもしれないが、私の主観的意見としては、このミルウォーキーエイト107こそが、最もテイスティで心地の良いパフォーマンスを得られるものだと考えている。
実際に走らせてみても、その気持ちは変わらず、2000回転以下で走れば、とろけるようなクルーズをもたらし、スロットルを巧みに操り3000~5000回転を使えば刺激的なスポーツライドを楽しむことができる。114や117と比べて、エンジンマネジメントにシビアなセッティングが求められていないのかもしれないが、一瞬もギクシャク感を出すことが無く、スムーズな出力特性を得られるのだ。やはりミルウォーキーエイトは107に限ると思う。
ミニエイプバーハンドルはワイドなライディングポジションを生み出し、強烈なパワーを持つエンジンと組み合わせられていることもあり、きっかけを作ればフロントアップができてしまうのではないかとすら思わせる。しかし実は非常に扱いやすい設定であり、ハンドルには手を沿える程度で、ミッドコントロールポジションにセットされたステップを踏みこむように入力するだけで、ひらひらと車体をリーンさせてコーナーをパスしてゆくことができる。
ライディングの自由度が高く、走らせることが楽しいのでおのずと距離が延びる。これは空冷スポーツスター系のスポーティさにも通じる部分なのだが、それよりも上質なものである。調子に乗って気持ちよくバンクさせているとステップの先が路面に接地してしまうこともあるが、それほどまでに楽しいのだということをお伝えしたい(タイヤが浮いてしまう可能性があるので、ステップのステーとなる根元は接地させないように)。
素のソフテイルモデルだから、ソフテイルスタンダード。このまま乗っても良いし、カスタマイズを楽しむベースとしてももってこいだ。200万円を切る193万6000円という車両価格も魅力的であり、その分カスタムパーツやライディングギアやツーリング費用などに回すこともできる。私ならタンデムシートや高々とそそり立つシッシーバーなどを装備し、シュラフをはじめ多くの荷物を括り付けて、パートナーとあてのない旅に出かけてみたいと思う。
アウトローを気取っても良いし、一方でホワイトカラースタイルでも似合ってしまう。リッチであるが背伸びしすぎでもなく、もちろんチープにも見えない。年齢や経験を問わずに推せるモデルであり、俺はハーレーに乗っているんだ、と誇りに思える一台。私はソフテイルスタンダードが好きである。
ボアストローク100×111.1mm、排気量1745ccのミルウォーキーエイト107エンジンを採用。最大トルク144Nmを3250回転で、最高出力86馬力を5020回転で発生させる。アイドリングは800回転台で落ち着き、鼓動感が心地よい。
2020年の復活登場から、スタイリングにおいて変更されたことが分かったのは、キャストホイールの採用だった。フロントタイヤサイズは100/90B19で、細身大径であり直進安定性と寝かし込みの軽さを両立している。
オーソドックスな丸型ケースのヘッドライトは、LEDのデイタイムランニングライトを備えておりモダンな印象も併せ持つ。フロントフォークのレイク角は30度で、ほどよい寝かし加減。ホイールベースは1630mmとなっている。
ハンドルバークランプ上にセットされたコンパクトな2.14インチ液晶ディスプレイ。残燃料計、走行距離、速度、ギヤポジションの基本インフォメーションの他に、時計機能やタコメーターなども表示させることもできる。
ショート気味にカットオフされたリアフェンダーや、ストップランプを内蔵したウインカーなどのおかげで、テールセクションのデザインからはシンプルかつスポーティな印象を受ける。
エンド部を等長にカットした2本出しサイレンサー。ブラックアウトしたボディカラーに、クロームが映える。マフラーは換装してしまうことも多いが、ノーマルのバランスの良いデザインも捨てがたい。
一般的には横方向に施行されることが多いタックロールだが、縦方向に施すことで、質感を高めている。シートは座り心地が良く、長時間乗車も快適。ソロ仕様となっており、タンデムをするにはシート、ステップの装着と構造変更が必要。
ハーレー特有の左右振り分けウインカーを装備したスイッチボックス。バックミラーの後方視界は良好。ホーンボタン上部の操作で、液晶ディスプレイメーター内のインフォメーション表示を変更することができる。
大きく手前にプルバックしたミニエイプバーハンドル。ライディングポジションはワイドで、リラックスした姿勢をもたらしてくれる。クルーズでは手を添えるだけ、スポーティに走る際には上体を屈めて車体を操ると良い。
ナローな形状の燃料タンク。容量は13.2リットル。公称値での燃費は1リットルあたり約18.18kmで、実際はそれを下回るので、ガソリン満タンから200キロ程度が走行可能というところ。なおボディカラーはビビッドブラックの1色のみ。
ミッドコントロールとされたステップ位置。車体のコントロールはしやすく、ポジションは良好。コーナーリングの際に、深くバンクさせるとステップの先を擦ることもあり、注意が必要。
ソフテイルフレームなのでサスペンションは外見上見えないが、リアショックはシート下にセットされており、プリロード調整も容易。ハーレー伝統のベルトドライブを採用。リアタイヤは150/80B16と小径サイズがセットされる。
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