現在のラインアップに名を連ねるソフテイルファミリーは、すべて2018年に登場した新型ソフテイルフレームを採用し、そこにミルウォーキーエイトエンジンを搭載している。それらの新生ソフテイルファミリーはここ2年の間に、モダンなハーレーをイメージづけるFXFBやFXDRSなどの前衛的なスタイリングを備えたニューモデルをマーケットに投入したことや、ツインショックを備えたダイナファミリーが無くなった代わりに、ソフテイルとして継続や復活を遂げたモデルなども多数存在し、ソフテイルファミリーのニューモデル攻勢はとめどなく続いている。そのような中、つい先日2020年のミッドイヤーモデルとして「ソフテイルスタンダード」が追加された。今回は登場間もない同車を実際に触れて、キャラクターをはじめとした立ち位置を考察してこうと思う。
古くからハーレーの事を知る方などは、FXSTソフテイルスタンダードという名前に聞き覚えがあるかもしれない。それというのもソフテイルスタンダードは以前にラインアップされていたモデル名が復活したものだからである。そもそも初代ソフテイルスタンダードが登場したのは1984年のことで、この年はリアサスペンションを外観上見えない車体下部に置き、リジッドフレームのようなスタイリングを持つソフテイルフレームが初めて用いられたほか、エボリューションエンジンの誕生も同年の出来事となっている。そのどちらも併せ持つ最初のモデルとして生み出されたのが、ソフテイルスタンダードなのであった。2011年にはラインアップから外されていたのだが、2020年モデルとして復活を遂げたというわけだ。
出自や生い立ちを考えると、2018年の新型ソフテイルフレームとミルウォーキーエイトエンジンの登場時に出しても良かったのではないかと思ったが、スタンダードという名前からも分かるように、矢継ぎ早に現る強烈な個性を放つ他のニューモデルの中にあっては薄味に見られてしまうかもしれないため、タイミングをずらしてきたのかもしれない。ただしオーソドックスなスタイリングであっても、大きくそそり立つエイプバーハンドルやタックロールシート、細かくワイヤーが張られた光り輝くスポークホイールなど、目を引きつけられるポイントが要所に散りばめられている。
通常これまで広報車を借りるには、ハーレーダビッドソン・ジャパンのバックヤードまで行き車両を引き上げてきた。その際に周辺に置かれている他のモデルとスタイリングなどを比較をすることが私の習慣となっているのだが、ここ最近はコロナ禍により人との接触を最小限とすることから、専属スタッフがガレージまで搬送してくれることになっているために、先述したような他車と比べることができない。
ただ、私の目に飛び込んできた新型ソフテイルスタンダードはブラックカラーで纏められたチョッパースタイルのシルエットを持ち、ハードな雰囲気で魅力的なものに感じとれた。一方でどこかで見覚えがあるようにも思えるものでもあった。その記憶をたどっていくと、一台のモデルが思い浮かんだ。それはFXBBストリートボブだ。元々はダイナファミリーの一翼を担っていたストリートボブは現在ソフテイルファミリーの一員として存在しており、チョップドフェンダーやミニエイプバー、ワイヤースポークホイールなど、ソフテイルスタンダードとの共通点も多くみられることが分かる。
スタイリングに関しての大きく異なる点と言えば、ストリートボブはハンドルからマフラーまで見えるほぼすべてのパーツがブラックアウトされているのに対し、ソフテイルスタンダードはクロームフィニッシュパーツを各部に取り入れることで艶味が残されている点だ。この差に関して言えば、好みが分かれるところなので、一概にどうという答えはないが、ブラックのボディカラーを選ぶなら、ソフテイルスタンダードの纏め方の方が個人的には好きだ。しかしストリートボブではカラーバリエーションが5色用意されているのに対し、ソフテイルスタンダードではビビッドブラックのみの設定とされている。これは思案のしどころとなるかもしれない。
ソフテイルスタンダードにはミルウォーキーエイト107エンジンが採用されている。大は小を兼ねる的な考えを持ってしまっていると、どうしてもより排気量の大きなミルウォーキーエイト114を欲してしまいがちだが、私は両方のエンジンを繰り返し試乗してきた結果、107エンジンはスポーティーな走りを演出し、114エンジンは弾き飛ばされるような爆発的なトルクを楽しむものというキャラクターが明確に分けられているというイメージを持っている。実際のところソフテイルスタンダードを走らせてみると、2000回転弱程度でクルージングをしている時の心地よさと、スロットルをワイドオープンさせて高回転域まで使用して走らせた際の快活な手ごたえという両方を楽しむことができるものだ。
ライディングポジション的には高い位置に手を伸ばすエイプバーハンドルと深い位置に着座するシートのおかげにより特有の姿勢を強いられるため、Uターンひとつ行うのも気を使う。よって一概に扱いやすいとは言えるものではない。むしろこれでスタンダード(=標準的)というネーミングとするところに「ハーレーダビッドソンイズム」を覚えたものだが、フロント19インチ、リア16インチというホイール径のバランスと、ともに細身のタイヤを履かせていることで、思っていた以上にグイグイと曲がっていってくれる。ある程度のペースで流している時こそ最高と思わせる仕上げ方であり、この手のモデルはワインディングを果敢に攻めるという人の手中に渡ることは少ないかもしれないが、その気になればスポーツ走行も相当イケるということを付け加えておく。そして何よりも高くセットされた輝きを放つクローム仕上げのハンドルバーの間から臨む視界は、素敵なバイクに乗っているという優越感に浸れるものだ。
一週間ほど乗り回して感じたソフテイルスタンダードの一番の良さというのは、シンプルな構成にこそあるということだ。素のままでも十分にスタイリッシュでありながら、カスタムのベースとして楽しむこともでき、走らせることも楽しい。ソフテイルファミリーというビッグツインエンジンを搭載したプレミアムラインでありながら、車体価格を169万9500円と抑えられているために、ちょっと背伸びをするだけでエントリーユーザーも手が届く。ソフテイルスタンダードはきっちりとしたハーレーダビッドソンの世界観を備えており、それを幅広い層に感じてもらえるような一台に仕上げられているのだ。
排気量1746ccのミルウォーキーエイト107エンジンを搭載。パワフルでありながらも全回転域を通して扱いやすいため、様々なステージを走破するようなロングツーリングでも疲れ難い。
まばゆいばかりに光を反射させるワイヤースポークホイールに100/90B19サイズのタイヤをセット。レイク角は30度でハーレーの多くのモデルと同じ仕様となっており、直進安定性とコーナーリング性能のバランスが良い。
面発光LEDデイライトを備える丸型ヘッドライトは、オーソドックスでありながらもモダンな印象を受けるものだ。ペイントを施したり換装するなどのカスタマイズを行って個性を主張するもの良いだろう。
ソフテイルスタンダードのライディングフィールを決めていると言っても過言ではないミニエイプバーハンドル。ワイドなライディングポジションとなり、ハーレーらしさを大きく主張するポイントにもなっている。
ハンドルライザーのトップにインサートされたデジタルメーターパネル。コンパクトながらも視認性は高く、スピード計、残燃料計、シフトインジケーターをフィックスとし、ODO、トリップ、時刻、回転計などの表示をセレクトできる。
すっきりとしたラインを持つ燃料タンクは、13.2Lと大きくも小さくもなく標準的な容量とされている。ソフテイルスタンダードのカラーリングはビビッドブラックのみの設定となっている。
タックロールタイプのシングルシートを標準装備。クッションは厚手であり座面も広いためしっかりと腰を据えることができる。シート高は680mmと低めに抑えられており足つき性も良好。
駆動系はハーレーのアイデンティティでもあるベルトドライブ。チェーンドライブと同様にパワー伝達に優れアジャストも容易にできる上に、オイルメンテナンスは不要というメリットがある。
テールセクションには短めのリアフェンダーに、ストップランプ内蔵のLEDウインカーを備えている。シンプルでありながらもハーレーだと分かるスタイリングで纏められている。
光り輝くクロームフィニッシュとされた2into2エキゾーストシステムは、エンド部分を同長でカットされており、ロー&ロングなソフテイルスタンダードのシルエットを助長するものとなっている。
ソフテイルフレームの採用により、傍からリアサスペンションは確認することができずリジッドフレームのように見える。リアブレーキキャリパーはトライアングルスイングアームに挟まれるようにセットされている。
シートを外すとリアサスペンションを確認することができる。プリロードアジャストが容易なので、タンデムライドや重量物積載時、ハイウェイやワインディングなどステージによって適宜調整したい。
ステップバーは、ややフォワード気味にセットされている。ミッション側は気にならなかったが、リアブレーキの作動に際し、深めに踏み込むことを意識させる場面もあった。
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