VIRGIN HARLEY |  松本 悌一(BLACK CHROME BIKE WORKS)インタビュー

松本 悌一(BLACK CHROME BIKE WORKS)

  • 掲載日/ 2004年08月01日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

飛行機乗りを夢見る青年
そこにあった「ハーレー」というモーターサイクル

「BLACK CHROME BIKE WORKS」代表、松本悌一さん。彼の経歴は一風変わっている。飛行機乗りになることを夢見て、高校卒業後、18歳で航空自衛隊に入隊。夢に向かって走っていたが、訳あって自衛隊を除隊。その後「イージーライダース」、「丸富オート販売」を経て、今のショップをオープンさせるに至る。飛行機からハーレーへ。その中にあった葛藤、勇気、そして行動。それを支えたのは、ハーレーの魅力なのだろうか? じっくりお聞きしてみた。

Interview

ある本と出会ってしまいまして
バイクの仕事に就くことになったんです

ー松本さんは飛行機乗りになりたくて、航空自衛隊に入隊されたわけですが、自衛隊ではどんなお仕事を? 飛行機に乗っておられたのですか?

松本●いえ、まったく関係のない仕事をしていました。具体的には、三沢基地で警戒管制システムの部隊に所属していたんですね。飛行機乗りになるのは専門の学校を出ないといけないので、無理だというのはわかっていました。せめて航空機整備の仕事に就きたいと思って入隊したのですが、うまく配属されなかったんです。警戒管制の仕事は面白かったのですが、何かが違っていました。そういう心境だったからか、休みの日には、友達のバイクを借りて走り回っていました。自衛隊に所属中は、バイクに乗ったらダメだったんですがね(笑)。

ー時からバイクには乗ってらっしゃったんですね。

松本●高校の時からオフロードバイクに乗ってました。その時はオフロードバイクにばかり目が向いてましたね。でも自衛隊入隊後、ある本に出会ってバイク熱が燃え上がりました。片岡義男さんの「彼のオートバイ 彼女の島」っていう本なんですけどね。彼の文章は、すごくイメージがしやすくて、感情移入できたんですよね。しかも、自衛隊の基地に閉じこもっている時期だったので、大きなオートバイで自由に走り回る物語には憧れましたね。自衛隊時代は何度も読み返しましたよ。

ーその本のおかげで自衛隊除隊後にはバイクの仕事に就くことになったんですね。

松本●いえ。除隊後は友人と別の仕事を始める予定だったんです。でも、自転車で遊んでいるときに怪我をしてしまって。その話が流れてしまった。それで何をしようか悩んでいた時、求人誌で「オートバイの製作」という募集を見つけましてね。そこがオープンして数年目の「イージーライダース」だったわけですよ。「『オートバイの製作』って何をやるんだ?」ってワクワクしてしまいましてね。もう居ても立ってもいられなくて、すぐにお店に行きました。そして、またビックリ。それまでの僕の中でのバイクのイメージが、根底から覆されましたね。「イージーライダース」は、当時からフレームをカットしたり、フロントを伸ばしたりしていましてね。「バイクってそういうトコロも改造するモノなの?」って、ホント、カルチャーショックを受けましよ。「こんな世界があるのか」ってね。

「これでお金をもらってもいいの?」
そう思うくらい「イージーライダース」の仕事は楽かった

ー「イージーライダース」で働きはじめていかがでした?

松本●刺激、刺激。その連続でした。「こんなに楽しい仕事をしてお金をもらってもいいのかな」っていうくらいに思っていましたから。当時は今ほど大きなショップではなかったので、車両の仕入れ、販売からカスタムの企画・製作まですべて教えてもらえました。なので、面白いだけではなく、ちゃんと勉強になりましたしね。のめり込むようにして働いていました。今でも当時のお店のどこにどの工具が置いてあったのかまでハッキリ思い出せるくらいですよ。

ー長く勤めていたんですか?

松本●4年ほど働いていましたが、父親のやっていた仕事が大変になってきて、その仕事を手伝うことになりまして。「イージーライダース」を退職して、しばらくは父親の仕事を手伝い始めたんです。でも、ハーレーのことはなかなか忘れられなかった。当時は自分が何をしたいのかに悩んでいた時期でしたから、父親の仕事が安定した頃からバイク以外の仕事にも挑戦してみました。でもやっぱり、何か満ち足りない。「自分は何をやっていれば楽しいのか、真剣に取組めるのか」。それを突き詰めていくと、結局はバイク業界での仕事になったんです。バイクの仕事なら「もっと学びたい、もっと技術を身につけたい」という気持ちが自然に湧いてくるんですよ。

「俺にはこの業界しかない」、そう腹をくくりましたね。当時「ショベル・スポーツスター」を持っていて、自分でいろんなところに手を入れるようになっていたのですが、「もっとこうだったらいいのに、もっとこうしたい」と思うアイデアがいくつかあり、それは「チョッパー」とは少し違ったところにありました。もちろんチョッパーは一つの楽しみですが、オートバイ本来の面白みは違うところにもあるんじゃないか、そう思うようになっていました。 だから今までとはカラーの違うショップを経験してみたいと考えていました。

ーでは、バイク業界での次のお仕事はどういったショップさんだったのですか。

松本●ライトスタッフというカスタムショップにお世話になることになりました。そこはハーレーを含め、いろいろなメーカーのオートバイを取り扱うショップで、ビレットパーツ、FRPなどのワンオフまで手がけているショップでした。そこで「アレンネスバイク」やドラッグレーサーに関わり、多くの人にも出会え、影響を受けましたね。そのお店ではチョッパー以外のバイクのカスタムを学べましたし、ハーレーというバイクの可能性を強く感じました。ライトスタッフに勤めたことで「ハーレーで食っていこう」という決心がさらに強くなりましたね。

ただ「本気でハーレーをやっていくなら基本を一から勉強し直した方がいい」そう思いはじめました。ハーレーを基本から学び直すのであれば、ディーラーショップで勉強するのが一番だろう、と。それで「丸富オート販売」の門を叩いたわけです。正解でしたね、社長が叩き上げの人でしてね。長年オートバイを触っているものだから、技術力がすごい。誰も知らないような裏技をたくさん持ってるんですよ。もちろん、技術以外にも大切なことを学びました。例えば、モノに対する考え方ですね。彼は「壊れたら交換する」ではなくて「壊れたら直せばいいだろ」っていう人だったんです。「直せる」っていう揺ぎ無い自信があるわけですよ。交換したほうが早かったり、安上がりだったりするんですが、彼は「直す」ことにこだわる。モノを大事にする姿勢を学べたのが今に一番役立っているかもしれませんね。

ーそれから店長として「イージーラーダース」に戻られた…と。

松本●そうです。でも、管理職としての職場復帰だったので、現場を思うように見れないジレンマがありましたね。自分がやりたくて請け負った仕事を他のスタッフに任せなくてはいけなかったりしたりね。自分はつくづく現場向きの人間なんだな、と実感しました。仕事をする時、いつも自分の中には「こういう風になりたい」というイメージがあるんです。でも、「イージーライダース」で管理職をやってみて「自分のやりたいこと」と「会社が自分に期待していること」にはズレがあることが分かりました。それじゃあ独立して「自分でやろう」と思ったんですよ。

これほど情熱を傾けられる仕事に
出会えたことを誇りに思いますね

ーそれで今の店舗のオープンに至ったわけですね。

松本●いえ、最初は店舗を持つなんて考えていませんでした。お客さんのところに行って、その場で修理ができるものは、その場で直して、時間がかかるものであれば自宅に回収して直す「出張ハーレー屋」みたいなことをやっていたんですよ。でも、徐々に部品待ちや、修理に時間がかかるハーレーが増えてきて。置き場に困ってしまうようになったんですね。お客さんのバイクですので、盗難にも気をつけないといけませんし。それで今の店舗を見つけて、本格的にショップをスタートさせたんです。

ーご自分でショップを経営されるのはご苦労も多いのでは?

松本●お金儲けがしたいだけなら、他の業界の方がいいでしょうね。この業界でやっていくためには、まず「ハーレーが好き」じゃないとダメだろうと思います。カスタムで言えば、正確な技術に加え、自分のオリジナリティが求められますから。仕事と割り切っては、できないですよ。というより、造っている人間が楽しんでいないと、オリジナリティが出てこない、ホンモノのカスタムバイクはできない気がします。「カッコいいバイクを造りたい」、「調子がいいバイクを造りたい」っていう情熱がないとお客様にも失礼ですからね。その情熱ってきっとお客さんにも何となく伝わっていると思うんですよ。以前、あるお客さんから「ここにバイクを預けると何となくバイクの調子がよくなるね」言われたんですよ。それはもう最高の誉め言葉でしたね。言葉じゃなく体で自分の想いを感じてもらえた、そんな気がしたんですよ。

ー松本さんがそこまでハーレーにこだわる理由は何でしょうか?

松本●「イージーライダース」から始まって、ずっとハーレーをずっと見てきたわけですがいつも不思議だったんです。「こんなに可能性のあるバイクなのに、なぜみんな注目しないんだろう」って。エンジンをいじれば速く走れますし、フレームなどをいじればチョッパーにもできる。こんなにいろんなことを試せるバイクなんて他にはないですからね。だから僕は「このバイクの可能性にかけてみたいな」って思う。まだまだハーレーのことで知りたいこと、やってみたいことがいっぱいあります。多すぎて困るくらいです。でも、それが際限なく僕をワクワクさせてくれるんですね。天職なんですよ、やっぱりこれが。

プロフィール
松本 悌一
40歳。「BLACK CHROME BIKE WORKS」代表。自衛隊を除隊後、チョッパーで有名なカスタムショップ「イージーライダース」、伝統を誇る神奈川のハーレー正規ディーラー「丸富オート販売」などを経て、今に至る。夢はハーレーのエンジンを載せた飛行機を作ることだとか。

Interviewer Column

松本さんの昔の夢である「飛行機乗りになること」、実はその夢は今別の形で実現しようとしている。「鳥人間コンテスト」というTV番組に彼は周囲の人たちとチームを組んで参加しているのだ。バイクのカスタムで培った知識、自衛隊時代に培った知識が、飛行機の製作に役立っているという。将来はハーレーのエンジンを積んだ飛行機を製作し、自分で乗ってみたい、と松本さんは笑顔で語ってくれた。自分の夢は決してあきらめず、夢を実現するまでの過程をも楽しみながら自然体でやっていく松本さん。楽しみながら何かを実現させていく、その姿勢はブラッククロームに来るお客さんにも伝わり、お店の雰囲気を形作っているのだろう。(ターミー)

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