VIRGIN HARLEY |  中里 正勝(イージーライダース)インタビュー

中里 正勝(イージーライダース)

  • 掲載日/ 2005年06月12日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

身の回りのモノを「デザイン」として鑑る
その積み重ねがセンスを磨いてくれました

今回ご紹介するのは東京都世田谷区の「EASYRIDERS」スタッフ 中里 正勝さんだ。昼間はイージーライダースでカスタムを担当しているメカニックであり、夜は自らが運営するプライベートガレージ「BRAT’S CYCLE」の主宰者である。昼も夜もハーレーに関わる、まさに「ハーレー漬け」の毎日を送る中里さんだが、そのパワーの源はいったい何なのだろうか、どんな夢や目標を持つと、それだけの時間をハーレーだけに費やすことができるのだろうか、時間をいただき率直に語っていただいた。

Interview

ハーレー以外の車両を触わり、 カスタムを手がけた経験
それが今の自分に生きています

ー中里さんは中型免許もなく、イージーライダースに入社したとお聞きしましたが。

中里●福岡から上京してきて、50ccのジャズにずっと乗っていました。イージーライダースに入社した頃はジャズを自分でマルボロマン仕様にカスタムして乗っていましたから、それが気に入って雇ってもらえたのかもしれません。

ーなぜ、イージーライダースを選ばれたのですか?

中里●当時は「VIBES」も「HOTBIKE」もなくて、読んでいた「Mr. BIKE」という雑誌にイージーライダースの広告が出ていました。そこに「スタッフ募集中」と書いてあったんです。バイク業界で働きたいな、と思っていたので募集に飛びついたわけです。

ーご自分でジャズをカスタムされていたということは、基礎的な技術は身につけていたのですか?

中里●いえ、ただの素人作業です。入社しても最初はまったく使い物にはなりませんでしたよ。工業系の学校を出ていれば、多少の知識や技術は身についているのでしょうけれど、僕はデザイン系でしたから。簡単な工作機械の使い方も入社してから学びました。だから、最初は入荷してきたハーレーをひたすら磨いていましたね。おかげで、「車種や年式での仕様の違い」や「どんなカスタムパーツがあって、取り付けると、どういうルックスになるのか」を目で見て勉強できました。

ーデザイン系の学校を出ているんですか。バイク業界では珍しいのでは。

中里●珍しいでしょうね。最近はデザイン畑の人もバイク業界に入ってきているようですが、昔はまったくいませんでした。入社した頃はかなり苦労しましたけれど、今思えばデザイン畑からバイク業界に入ってきたというのが自分の強みになっています。

ーというと?

中里●デザイン畑の人間はいろいろなデザインが頭の中に蓄積されています。缶コーヒーや携帯電話のようなありふれた物でも、デザインや機能性を意識してじっくり眺めていられるんですよ。身の回りに溢れているモノでもデザインとして見ていくと、いざモノを造るときに役立ちます。そういう視点でモノを見ることができる、それが自分の強みです。たとえば、ハーレーにボルトオンパーツを着けるとしましょう。普通の人はそのまま付けてしまうようなパーツでも、何インチかずらして付けてみたり、加工して付けてみたり。パーツ単体で見るとほんの少しの差なのですが、車両全体が仕上がったときにデザインのバランスがぐっとよくなっているんです。

ーでも、細かくデザインバランスを考えていると手間がかかって仕方がないのでは?

中里●手間かかって割に合わない仕事をして怒られることもあります(笑)。けれど、最近は目が肥えたハーレー乗りの人が増えてきていますから、ちょっとした工夫でも見る人が見たらわかってくれるはず。お客さんの予算の都合もあるので、好きなようには作業できませんが「あとちょっとこうしたらカッコよくなるのに」と思うことはお客さんに提案するようにしています。

ーデザインのセンスやカスタムの幅を広げるために、一度イージーライダースを辞め、他のお店で修行をされていた、とお聞きしましたが。

中里●ハーレーに限らず、いろんなバイクのカスタムを手がけてみたくてイージーライダースを離れたことはあります。技術よりセンスに磨きをかけたくて。イージーライダースでは扱えない車両を触わり、できないカスタムをやってみたかったんです。SRなどの国産バイクのカスタムも勉強でき、それが今に生きています。そんな経験を経て、またイージーライダースでハーレーを手がけています。

斬新なモノ、他にないモノ。
オリジナルなモノを造りたい、それだけです

ー中里さんは日中から普段の仕事と並行して「BRAT’S CYCLE」というカスタムショップをやっているとお聞きしましたが。

中里●「BRAT’S CYCLE」は個人でやっているプライベートガレージで、ショップではないんです。イージーライダースに入って間もない頃から、仲間のバイクのカスタムをやってあげていたんですが、だんだん預かっている車両や部屋に置いているパーツが増えてきて。スペースが足りなくてガレージを借りたのが「BRAT’S CYCLE」の始まりです。プライベートでやっているガレージなので、何でもできるってことはありませんが。だた、自分が面白いな、と思ったオーダーは受けています。

ー普段の仕事と並行してガレージビルダーとして作業をするのは大変なのでは?

中里●朝11時から夜9時くらいまでイージーライダースで仕事をして、それからが「BRAT’S CYCLE」の時間です。一番忙しかった頃は毎日朝4時とか5時までガレージにいましたね。忙しいときには睡眠時間は2,3時間くらいでイージーライダースと「BRAT’S CYCLE」の両方をやっていた時期もありました。死ぬかと思いましたよ(笑)。

ー普段の仕事でハーレーを触っているのに、プライベートの時間もハーレーに取られてしまう。ハーレーを嫌いになってしまうのでは?

中里●ならないですね。「BRAT’S CYCLE」はプライベートガレージだから自分の好きなハーレーが造れます。手間やスタイルを気にせず好きなように造って周りから評価してもらえる、楽しくて仕方がないですよ。「次も、誰も見たことないようなカッコいいモノを造ってやる」と毎日考えています。仕事としての作業だと、当然ながら予算や納期に縛られてしまいます。お客さんから直接オーダーを受けるわけでもなく、自分の好きなカスタム車両を造るわけにも行きませんし。純粋に自分のやりたいようにできる空間が持てて、楽しくないわけがないですよ。それがガレージビルダーの面白さです。

ー寝る時間を削って深夜に作業をやっているわけですから、好きじゃない仕事はできないでしょうね。

中里●そうですね。雑誌に載っているハーレーを見せられて「このバイクを造ってください」みたいなオーダーは受けません。仕事としてやっていると、そういう依頼も受けなければいけないのでしょうけれど、寝る間を惜しんで作業しているので「自分のカラー」が発揮できない依頼は受けられませんね。

ー「自分のカラー」を確立するのは難しいと思います。ハーレー雑誌などを見て研究されたりしますか?

中里●昔は他のショップのカスタムバイクは雑誌やショーで飽きるほど眺めていました。でも、最近はあまり見ないようにしています。雑誌をパラパラとめくることはありますが、じっくり見すぎてしまうと、影響を受けて偏ってしまいそうで。知らない間に他の人が造った車両に似たものを造ってしまうのは怖いですから。昔好きだったカスタム車両に影響を受けて、今の自分のスタイルがあることは否定できませんが、これからは自分らしさをもっと前面に出していきたいんです。だから、雑誌はほとんど見ずに、パーツカタログを見るようにしています。

ーどんなカスタムを目指したいですか。

中里●斬新なもの、他にないもの…つまりオリジナルになんですが、それを造りたくて、毎日頭をひねっています。今のカスタムシーンは「奇抜なモノ」か「昔からあるスタイルを焼き直したモノ」が多い気がします。乗っていて恥ずかしいものは造れませんし、昔のスタイルを焼き直すこともしたくありません。ただ、最近のカスタム車両は技術レベルが非常に上がっています。技術は勉強させてもらって、センスの部分は自分の頭の中でアイデアをこねくり回して「オリジナル」なモノを造りたいと思います。

ーオリジナルな車両を造るに当たって、何に一番苦労するのでしょうか。

中里●斬新なアイデアを出すことですね。実は作業時間より、どんなモノを造ろうか、と考えている時間の方が圧倒的に長いです。既製品をオーダー通りに組み上げるだけでしたら、たいして時間はかかりません。けれど、オリジナルなモノを作りあげる際には「考える時間」が必要です。それこそ眠れないくらい、吐き気がするくらい考えます。カスタムのことを考え始めると、他のことはもう考えられなくなってしまいます。それくらい集中しないと、いいモノができないんです。集中して考える時間が欲しくて、付き合っていた彼女と別れたこともありますよ(笑)。

ーカスタムをオーダーする側は「車両を触っている時間」だけを「工賃」として考えていると思います。オリジナルなバイクを造る際に膨大「考える時間」が必要となると、それを全てお客さんに請求するわけにも行かないのでは。となると、カスタムの世界にデザインなどの「オリジナリティ」を持ち込むのは難しい気もしますね。

中里●そこは難しいところですね。ただ、造り手のセンスやクオリティが評価されれば、お客さんも納得してくれると思います。ショップによって工賃はさまざまで、高い安いがありますよね。工賃が高いお店には高いなりの理由があり、お客さんが評価しているから人が集まっているのでしょう。高額のパーツにしても、材料の原価だけではなく、開発までにかかった期間や人の手など、見えないところも計算され価格が決まっています。でも、そこに納得して購入する人はいます。理由のわからない高額な工賃やパーツ価格だとお客さんに見放されてしまうと思いますが、「オリジナリティ」も周りから評価されるレベルに持っていくことができたら、正当に評価されると思いますよ。工賃も単純に時間だけではなく「中里の作業だから」と評価してもらえるようになりたいですね。

ーなるほど、評価されるレベルまで自分を高めればいいわけですね。

中里●そうです。ハーレーから離れ他のショップで修行をし、イージーライダースでハーレーのカスタムを手がけ、「BRAT’S CYCLE」で自分らしいカスタムを造って。それはすべて「オリジナリティ」を磨くこと、「自分らしさ」を追及することにつながっています。自分が満足できるレベルにたどり着いたら、自分のお店を始めたいですね。

プロフィール
中里 正勝
33歳。カスタム業界の老舗「イージーライダース」に勤めながら、夜は「BRAT’S CYCLE」というプライベートガレージを主宰。24時間ハーレー漬けの暮らしを続けている。自らの「オリジナル」なスタイルを磨きあげることに情熱を注ぐビルダー。※2006年2月、中里さんは独立し「BRAT’S CUSTOM CYCLES」をOPEN。

Interviewer Column

ハーレーのメカニックの中にはハーレーで長距離は走らない人も多い。そんな中で中里さんは「造ること」も「走ること」も好きという。新しく造り上げたパーツは時間をかけて走って試し、自分で組み上げた車両はじっくりと走行テストを行う。「ハーレーで走ることが好き」だから、そこまで力を入れることができるのだろう。「走ることが好き」なメカニックが造り上げるハーレーだから安心して乗ることができる。しかも「デザインにこだわりを持つ」と来れば、そのスタイルも楽しみになるというもの。いつの日か中里さんが自分のショップを持つ際には、第一号のカスタムをお願いしたい、そう思える時間を過ごせた。(ターミー)

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