VIRGIN HARLEY |  大谷 欽洋(ディバイスカスタムワークス)インタビュー

大谷 欽洋(ディバイスカスタムワークス)

  • 掲載日/ 2005年10月12日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

ライフスタイルに自然に溶け込む
それが今のテーマです

今回ご紹介するのは愛知県名古屋市「Device CUSTOM WORKS」代表 大谷 欽洋さんだ。中部地方のショップはチョッパー製作を得意とするショップが多い。そんな中で「Device CUSTOM WORKS」はチョッパー製作もするものの、スタイリッシュなカスタムバイクも製作している、そんなイメージを抱いていた。チョッパー文化圏の中部において、独自のカラーを出し続けるには流されない「軸」があるはず。そう思い大谷さんにお話をお聞きしてみた。ハーレーとライフスタイルこれが今回のキーワードだ。

Interview

パンヘッドのエンジン…
30回以上はバラしたんじゃないかな

ー大谷さんとハーレーの出会いは、バラバラになった一台のパンヘッドだったとお聞きしました。

大谷●懐かしいですね。メーターの針までバラバラにされたパンヘッドと出会ったのがハーレーにのめり込むきっかけでした。ハーレーショップのメカニックがバラバラにして、そのまま誰にも組み上げられなかった車両らしく、何年も人手を渡り歩いていたみたいで。昔からの仲間が「これはオマエにしか組めないんだ」と僕を煽ってきて。「そうか。これは俺じゃないと組めないんだな」と、その気になって買ってしまったんですよ。

ー当時はハーレーの知識もメカの知識もなかったんですよね。

大谷●ハーレーを触ったことはありませんでしたが、バイクをバラしたり組み上げたりは小さい頃からやっていました。親戚がレースをやっていたので、小さな頃からバイクは身近なものだったんです。若い頃はレースメカニックを目指したことがあって、整備の学校も出ていましたし。だから「オマエにしか組めない」と言われるとつい熱くなってしまって。

ー簡単に組みあげることはできましたか?

大谷●苦労しました(笑)。エンジンをかけるだけなら1年もかかりませんでしたが、ちゃんと走るようになるまで30回くらいはバラしては組み上げ、を繰り返したはずです。足りないパーツ、使えないパーツもあったので、パーツ探しも苦労しましたね。いろんなショップに足を運んでは、わからないことを質問したり、欲しいパーツを譲ってもらったり、名古屋から東京のショップにまで足を運んだこともありましたよ。

ー中部のショップさんでは手に入らないパーツなどがあったのですか?

大谷●今でこそ、中部はハーレーショップも多い地域ですが、僕がパンヘッドを組んでいた頃はまだハーレー雑誌もなかった頃でした。ハーレー専門ショップなんて数えるほどしかなくて。ハーレーについて質問しても、納得できる答えをもらえるショップが少なかったんです。「ハーレーだったらオイル漏れなんてアタリマエだよ」みたいに言われることが多くて。「ホントにそうなのか?」と思うことが度々ありました。パンヘッドは確かに何十年も前の機構で動いていますが、バラバラになったパーツを一つ一つ見ているとちゃんと理屈にあった造りをしているわけですよ。だから、きちんとと組めば問題なく走るはず、そう思っていました。当時から名の通っていたショップは関東に多くありましたから、関東まで足を延ばして自分の疑問について質問してみよう。それで関東までわざわざ行ってみたんです。

ー行ってみて、収穫はありましたか?

大谷●納得できる説明をしてくれる人に出会えましたね。「サンダンス」の柴崎さんは半日くらい僕の話に付き合ってくれて、いろいろなことを教えてくれました。欲しかったパーツもその場でバラして譲ってくれて。あとは、河口湖に引越したばかりの「MOTOR CYCLES DEN」にも遊びにいきましたね。まだご存命だった佐藤さんともお会いできました。お店に入ると半分バラされた「TITAN」やカスタムバイクが置いてあって。カスタムバイクは名古屋でも見たことはありましたが、感動できる造りのカスタムバイクには「MOTOR CYCLES DEN」で初めて出会えたんですよ。パンヘッドのレストアのことで関東まで足を延ばしたのですが、それまでまったく興味がなかった「カスタムバイク」に興味を覚えたのも収穫でした。この出会いは今の自分の原点の一つになっていますね。

ーそれだけ手間暇をかけ、やっと組みあがったパンヘッドに灯が入った瞬間はいかがでしたか?

大谷●なんとも言えない感動がありますよ。今でもそうなんですが、組み上げたばかりのエンジンは不思議といい音をするんです。「マフラーがこれだから」とかの話ではなくて、生き返ったエンジンの息吹のようなモノが感じられるんですよ。

ーそんな感動を味わえたことが「Device CUSTOM WORKS」の原点になっているのでしょう。

大谷●そうかもしれません。パンヘッドをレストアしたときは、親がやっていた材木関係の仕事を手伝っていたのですが、それ以降も仲間のハーレーを直したり、海外からパーツを引っ張ってきたり、ハーレーにハマりはじめていましたから。パンヘッドのレストアから僕が「Device CUSTOM WORKS」を始めたのは自然な流れだったのかもしれません。

ハーレーダビッドソンは
ライフスタイルの「一部」

ー昨年のホッドロッドショーで883ベースの「BEACH CRUISER」を拝見しました。ショーへ車両を出展する際は、車両の製作の手間がかかったり、期間中はお店を閉めなくてはいけなかったりします。もし、展示車両にオーナーがついていなければ製作費までもショップ側が負担しなければいけませんよね。クールブレーカーもあるのにホッドロッドショーにも参加するショップが多いのは何故なのでしょうか?

大谷●例えば、ホットロッドショーではAWARD(賞)があます。自分たちが造り上げた車両が周りからどう評価されるのか、知ることができるのは魅力です。ビルダーはみな「どうだ、こんなバイク造ったぞ」と思いながら車両を造っていますから、AWARDという評価があると造り手のモチベーションは高まるんですよ。しかも、ホットロッドショーはハーレーだけのショーじゃありませんからね。普段ハーレーに触れることがない人にも自分たちの作品を見てもらえます。でも、ショーに車両を出展して、周りからもっと刺激を受けたい、というのが一番大きい理由かもしれないですね。

ーというと?

大谷●お客さんとしてショーバイクを見に行っていると、どうしても批判的なモノの見方で見てしまうんですよ。「ここの造りが甘いな」というように。自分が出展する側に回ると、普段の仕事の合間や寝る間を惜しんで車両を造るので「もっと時間があれば…」のような苦労を経験します。限られた時間や予算の中で、どれだけ自分たちの力を出し切れるのか、それを経て一台のカスタムバイクを造りあげると、他の出展者の車両を見る目が変わってくるんです。手の込んだ作業に共感したり、「きっとここには苦労したんだろうな」と製作者の心情が手に取るようにわかったり。そんな眼でカスタムバイクを見れるようになると、傍観者で見る以上に刺激を受け、もっといいモノを造れるようになります。だからこそ、多くのショップが無理をしてでもショーに出展するんじゃないでしょうか。

ー大谷さんは日本だけじゃなく海外のショーもわざわざ見に行くことがあるようですね。それはやはり多くの刺激を受けたいからなのでしょうか?

大谷●アメリカで流行っているスタイルは僕の好みじゃないモノも多いですが、それでも日本のカスタムシーンよりモノ造りの水準が高く、いい刺激になるんです。現地のビルダーと話していると、恵まれた環境が羨ましくなることもありますけどね。

ーどんな部分が恵まれているのでしょう?

大谷●例えば、市販されていないサイズのタイヤを使いたい、と思ったとします。そのコンセプトが面白ければメーカーがサポートしてくれる。出展したショーでAWARDを取れば賞金が出る。内燃機などの分野でプロフェッショナルなショップがあり、アイデアはあっても自分たちには造れないものは専門のショップが製作してくれる。カスタムバイクを製作する際にそれぞれの分野で分業できているので、面白いアイデアを具現化できる環境・技術が揃っているんですよ。

ー日本にはその環境はまだ…ない?

大谷●残念ながら。「BEACH CRUISER」の製作の際にも、ショップ名の刻印を施したブレーキローターを製作しましたが、さすがに刻印は僕にはできないので製作してくれる会社を探したんです。電話帳を見て片っ端から電話をしては「特殊なモノは高いよ」や「一個だけの仕事は受けられない」と断られて。一つのパーツをオーダーするのに、さんざん苦労してやっと協力してくれる会社を見つけました。アメリカなら恐らく電話一本で済むことでしょう。アメリカが何でもいいとは思わないけれど、ショップが斬新なアイデアを考え出し、それを多くのメーカーがサポートする、そうやってハーレー業界が育っているのが羨ましい。メーカーやショップが連携して、斬新な作品を造っていく環境ができれば、日本のハーレー業界はもっと活気に溢れてくるんじゃないか、そう思います。でも、文句ばかり言っていても仕方がありませんから、近い将来、ウチのバイクを一台アメリカのショーに持って行こうと思っています。日本でもこんなカスタムバイクが造れるんだぞ、というのを向こうの人たちに見せてやりたいな、と。自分たちに造れる最高の一台を造りあげて、向こうの人間を驚かせてやりたいですね。

ー海外から注目されているカスタムショップも実際ありますから、日本のカスタムシーンは海外に劣っているわけじゃない、と思います。ところで、近頃フルカスタムよりはライトカスタムを好むハーレー乗りが多い気がします。それについてはどうお考えでしょう。

大谷●確かにそれはあるかもしれませんね。昔は「ハーレーが自分のライフスタイルのすべて」という人が多くいましたが、最近は「ハーレーは自分のライフスタイルの一つ」というハーレー乗りが増え「カスタムはそれなりに」で満足している方が多いかもしれません。でも、それは別に構わないと思いますよ。少し前まで一握りのマニアの乗り物だったハーレーが多くの方に認知され、これだけハーレー人口が増えたわけですから。他にも趣味を持つ人たちにハーレーが受け入れられ始めているということですよ。むしろ喜ぶべきことなのかもしれません。

最近の僕のカスタムは「ハーレーだけじゃないライフスタイルを持つ人」を意識しています。「BEACH CRUISER」を制作したコンセプトは「SURF&ROD」。ハーレーもサーフィンも好きな人はきっとこんなハーレーが似合うだろうな、と考えて製作しました。今まではハーレーの世界だけのムーブメントでカスタムバイクは製作されてきましたが、ハーレーがいろいろなライフスタイルに溶け込みはじめた今、カスタムの志向性も変わり始めているんだと思います。カスタムショップがハーレーだけを見ずに、ライフスタイルを含めたカスタムの提案をしていけば、今の新しいハーレー乗りの人にもきっと評価してもらえるでしょう。

ーハーレーはライフスタイルの一部。確かにそうかもしれませんね。ハーレー専門誌だけではなくガレージライフの専門誌の写真にハーレーが映っていたり、ファッション誌にハーレーが登場したり、いろんなジャンルにハーレーが自然に溶け込んでいますから。

大谷●元気な大人が増えてきたから、というのもあるかもしれませんね。最近は60歳を過ぎてから初めてのバイクにハーレーを選ぶ人も少なくありません。そういう元気な大人が自分たちのライフスタイルにハーレーを組み込みはじめている。以前は若い人が流行のムーブメントを作っていましたが、これからは年齢を重ねた大人の感性でも新しいムーブメント生まれてくるかもしれないですよ。多くのライフスタイルの中でハーレーをどう表現していくのか、近頃はそんなことばかり考えています。

プロフィール
大谷 欽洋
39歳。幼い頃からオートバイが身近に溢れ、一時はレースメカニックを目指した過去を持つ。一台のパンヘッドのレストアを機に、ハーレーの世界に足を踏み入れる。独自のセンスでオリジナリティ溢れるカスタムバイクを製作し、その眼は海外にも向けられている。

Interviewer Column

Device CUSTOM WORKSに遊びに行ったことがある人なら、きっとわかるだろうが、お店の外観・雰囲気が非常に「まったり」としている。取材などで頻繁に東京~神戸を行き来する際に、ふらっと遊びにお邪魔して用事もなくダラダラと過ごしてしまう、私にとってはそんな居心地のいいお店だったりする。なぜハーレーショップには珍しい雰囲気が漂うのか? よくよく話をお聞きすると、大谷さんは昔サーフィンをやっていたようで「いかにもハーレー」な雰囲気ではなく、サーフショップのような雰囲気をイメージして内装をデザインしたとのこと。なぜ私が、なんとなく引き寄せられてしまうのか、この話で納得がいった。ライフスタイルとハーレーの融合、Device CUSTOM WORKSでは普段から当たり前のことのようだ。(ターミー)

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