VIRGIN HARLEY |  呑海 和彦(V-Factory)インタビュー

呑海 和彦(V-Factory)

  • 掲載日/ 2006年06月14日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

有名になりたいわけじゃない
V-Factoryがお客さんの遊び場になればそれでいい

今回ご紹介するのは大阪府東大阪市の「V-Factory」オーナー、呑海 和彦さんだ。雑誌に広告も打たず、誌面で取り上げられる機会の少ないショップだが、大阪周辺のハーレー乗りの間では口コミでその名は知られつつある。特別派手なハーレーを造るわけでもなく、旧車に強い名店というわけでもない。地味な作業でも丁寧にこなしてくれるショップ、居心地の良さについ長居をしてしまう、そんなショップが「V-Factory」だ。周辺には多くのショップがひしめく激戦区の中で、「V-Factory」になぜ人が集まるのか、オーナーの呑海さんにお聞きしてきた。

Interview

バイクはずっと乗っていましたが
まさか自分がバイク業界で働くことになるとは…

ー呑海さんは長く車のメカニックをしていたとか。もともとは車好きだったのでしょうか。

呑海●学校を卒業してから約10年、マツダのディーラーに勤めていました。でも、僕が勤めていたカーディーラーはトラックなど業務用の車の販売・整備が主でした。なので、スポーツカーなどはほぼ触ったことがありません。車のチューンではなく、あくまで整備の仕事です。仕事で使う車の整備をしていると365日「今すぐ直してくれ」などの連絡が入ってくるのでかなりハードな仕事でしたよ。趣味の乗り物と違って「動かないと仕事にならない」乗り物ですから。夜中だろうが何だろうが、連絡があれば動いていました。

ーオートバイには、カーディーラー時代から乗っていたのでしょうか。

呑海●バイクには高校の頃からずっと乗っていましたよ。職場にも大型バイク好きの仲間もいて、いつも何かしらバイクには乗っていました。大型連休がもらえると、東北や九州まで一人旅を楽しんでいましたね。それを仕事にしようとは考えたことはありませんでしたけれど。

ーでは4輪から2輪へと、畑違いのジャンルに飛び込んだきっかけとは?

呑海●カーディーラーで最後はチーフメカまでやらせていただいたのですが、現場の営業を見ていたら「なぜここでお客さんに電話しないの?」など「自分ならこうするのに…」という疑問が湧いてきまして。「営業の仕事も経験してみたい」とディーラーを退社し、しばらくお店の看板製作の営業をしていたんです。そうしたら、メカニック時代の先輩から「今、勤めているバイク屋でメカニックが足りない。手伝ってくれない?」と誘われまして。気が付けばバイク業界に足を踏み入れていた、というわけです。

ーそこでたまたま担当したのがビューエルだったと。

呑海●そうです。そこはビューエルのディーラーで、僕はそのメカニックをやることになりました。それまではSUZUKI「カタナ」やHONDA「CB1100F」など4発のバイクを中心に乗っていましたから、ビューエルのコンパクトなスタイル、独特のエンジンフィーリングには驚かされましたね。仕事柄、ビューエル以外にハーレーも試乗する機会もありましたから、スポーツスターからビッグツインまで一通り乗りましたね。ハーレーのあの重さに慣れるのも時間がかかりましたけどね(笑)。

ー10年間、車のメカニックを勤めた経験は役立ちましたか?

呑海●バイクにはパワステやエアコンのような装備もなくシンプルな造りですし、エンジンの原理は同じですから。まったく畑違いということはありませんでしたね。それに、カーディーラーで叩きこまれた電気のイロハもバイクの世界では大いに役立ちました。ただ、バイクの部品は何もかもがコンパクトにできていますし、部品が外に剥き出しになっているので「配線処理」や「部品の取り付けをいかに綺麗にするのか」はイチから先輩に教わりました。ハンドルに配線を中通しにし、ハンドル周りをシンプルにする作業を見たときなどは“目からウロコ”でしたね。車の世界では絶対に求められない工夫がバイクの世界には、特にハーレーの世界にはある、新鮮な驚きでした。

ー何かと部品加工が必要なのことにも驚いたとか。

呑海●「古い部品を外し、新しいモノを正しく取り付ける」はじめはバイクのメカニックとはそういう仕事だと思っていました。でも、いざカスタムパーツを取り付けようと思ったら穴の位置がずれていたり、そもそもボルトを通す穴がなかったり…「これ、クレームと違うの?」と思うようなことばかりで。溶接をしたり、旋盤を引いたりする機会が、まさかこれほど多いとは…。ただ、この業界に来てから「自分が造っているんだ」という実感が強く感じられて、楽しませてもらっています(笑)。

ーたとえば、どんな作業のときにそう感じるのでしょうか。

呑海●ハーレーは性能より、まず「見栄え」が重要視されますよね。ですから、いかに綺麗にパーツを取り付けるか、綺麗に見えるようどのパーツを取り付けようか、選択肢が多いこと。ボルト1本からカスタムパーツとしてカタログに出ているような世界は、ハーレーの世界だけですよ。それに、同じものを取り付けるとしても、自分なりの工夫ができるでしょう。同じ配線を引くにしても配線が目立たないよう、何本かの配線をまとめて細く見せたり、できるだけギボシを使わないようにして美しさと防水性にこだわってみたり、目立つところ以外にもよく見てもらえれば気づいてもらえる自分なりの工夫を施せます。車の世界では配線などは蓋をされ、外からは見えませんからそこまでこだわることはありませんから。どこまででもこだわれる深さが、この世界にはあります。

用事がなくても気軽に遊びに来ることができる
僕はそんなショップが作りたかった

ー独立することになったきっかけを教えてください。

呑海●ハーレーのイロハを教えてくれた先輩がショップを辞めることになり、その先輩に誘われて二人で「V-Factory」を立ち上げることになったんです。なかなかお店の場所が見つからず、一時は一時的に倉庫を借りて作業をしたり、それまで乗っていたビューエルを売ってお店の開業資金にしたりと初めは苦労続きで大変でしたね。落ち着いたと思ったら、事情があって僕1人でお店をやることになってしまい、いまだにバタバタと大変ですけれど、お客さんに助けられて何とかやっていけています。

ー「V-Factory」は夜遅くまで空いているお店ととして有名ですが、OPEN当初からわざとそうしているのでしょうか?

呑海●人手が足りないから作業が遅くまで続いているだけですよ。初めは夜7時にはちゃんとお店を閉めていましたから。僕がバタバタと忙しく、夜遅くまでお店に残っているので、知らないうちにお客さんも仕事が終わってから遊びにくるようになり「不夜城」みたいになってしまいましたけれど(笑)。

ー私も公式な閉店時間(19時)以降にしか来たことがないですからね。

呑海●アナタ達はいつも来るのが遅すぎです(笑)。でも、夜遅くお客さんが来ると言っても、お客さん同士が話したり、待ち合わせ場所になったりがほとんどですから、僕がお店にいる間は自由にくつろいでくれて構いません。逆に土日にお客さんに押し寄せられるよりは、平日に遊びに来てもらって、ついでにカスタムの相談などをしてくれた方が楽な面もありますから。わざわざ仕事帰りに遠回りをしてウチに立ち寄ってくれるのも有難いことですからね。ひとまずは今の状態でもいいかな、と思っています。できればもう少し早く帰りたいですけれど(笑)。

ー呑海さんがそう言ってくれるのでお客さんは甘えてしまう部分があるのでしょう。用事がなくても仕事帰りに立ち寄れる場所は貴重ですよ。喜んでいる人は多いでしょう。

呑海●僕は「V-Factory」をみんなの「遊び場」として使ってくれたらいい、と思っているんです。僕が高校の頃にバイクを買ったお店は、お金を払うときにしかスタッフが振り向いてくれないお店で。嫌な思いをしたことが何度もありました。ですから、自分がショップを始めたときは「誰でも気軽に入ってきて、気兼ねなく遊べるショップにしたい。敷居も低いショップにしよう」と決めました。ウチは近所のおばちゃんが「自転車がパンクしたから直して」とやってくるくらい敷居が低いんですよ(笑)。

ーどちらかというと若いお客さんが多いのは、ココの居心地の良さに引かれているのでしょうね。

呑海●確かに年輩の方以上に、若い方に集まって頂いてますね。ちょっと不思議ですけれど(笑)。みんなお昼ご飯代を節約したり、夜遅くまで仕事を頑張って貯金したりしているので、無理にカスタムは勧められない人ばかり。ですから、僕から「ああしよう」などと営業することはほとんどありません。僕が作業をしている間、お客さん同士が雑誌を見ながら「コレがカッコいい」、「いやコッチの方が」などと勝手に話をして「呑海さん、コレに決めました」と言ってくる、ちょっと変わったショップですね。僕は遊び場を提供して、やりたいカスタムがあったら僕がやってあげる…そんなスタイルのお店です。

ーでも、大掛かりなカスタムを手がけてもいますよね。

呑海●わざわざ遠いところから、カスタムをオーダーしてくれる人もいるんですから有難いですね。近所には有名なところ、技術のあるところ、いろんなショップがあるはずなのに、ウチにオーダーしてくれる。たぶん、雰囲気が肌に合っているから来てくれるんでしょう。去年も、お客さんの紹介でやってきた方のヘリテイジを、見た目がガラリと変わるほどカスタムをやらせてもらえました。ショップをOPENさせてから、ウチは一度も広告を出したこともなくひっそりとやってきていますが、いろんな人に助けられてやりたいことを試すチャンスをもらえています。

ー「V-Factory」のお客さんには「俺は客だ!」と偉ぶるタイプの人がいないのも珍しいのでは。

呑海●逆にこちらが気を遣ってもらっているくらいです(笑)。「今週は忙しそうだから、来週にコレをお願いしよう」みたいに、僕の作業スケジュールを気遣ってくれる人がいて。口コミで集まった人が多いからでしょうか。バーンと広告を打ってお客さんが集まりすぎても、気を遣って作業を待ってもらっているお客さんの迷惑になりますから、スタッフが育ち、余裕ができるまでは地味にがんばっていきますよ。

ー5年後、10年後、「V-Factory」をどういうショップにしていきたいのでしょうか?

呑海●有名になりたい、などは考えていません。「V-Factory、ショーに出展!」みたいな大それたことも考えていません(笑)。あくまでウチはお客さんが気持ちよく遊べる場であればいい、作業をお待たせしないように人を増やしたり、お客さんからのオーダーを何でもできるようもっと技術力を上げたり、そういうことはしたいと思っています。でも、それは「僕がお金持ちになりたいから」ではなく「お客さんに気持ちよくハーレーで遊んでもらいたいから」なんです。あえて1つだけ願うのなら…たまには休めるようになりたい、もう少し早く帰れたらいいな、でしょうか(笑)。

プロフィール
呑海 和彦
36歳。「V-Factory(大阪府東大阪市)」代表。車両販売からカスタムまで、何でも相談できる頼れるアニキ。大阪だけでなく、京都・兵庫などからもハーレー乗りが集まり、夜遅くまでいつも賑やかなショップ。

Interviewer Column

V-Factoryに遊びにいくようになったのは1年くらい前、ハーレー仲間に連れて行ってもらったのがきっかけだった。私の家からは100km近く離れた遠い場所だけれど、近くを通るときはふと立ち寄ってしまうショップだった。「あそこに行けば誰かいるんじゃない?」そんな期待を漂わせる雰囲気が気持ちよく、実際行ってみれば知り合いに会えることも数知れず。そこで新たな出会いが生まれることも珍しくなかった。「非常にバイク屋らしいお店」V-Factoryを例えるならそんな表現しか思いつかない。こんなお店が近くにあれば…用事がないときは毎日遊びに行ってしまうかもしれない(ターミー)。

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