VIRGIN HARLEY | 天才日本人メカ 芦田 剛史のUSAディーラー・トレーニングダイアリー

天才日本人メカ

  • 掲載日/2007年06月06日【芦田 剛史のUSAディーラー・トレーニングダイアリー】
  • 執筆/芦田 剛史
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本場ディーラーでハーレーを学ぶ USA Training Diarys 第14回

本場アメリカで認められ
活躍する日本人メカニック

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こんにちは、メカニック芦田です。
そろそろ日本はジメジメ梅雨のシーズンに入る頃かと思いますが、愛車の錆対策は万全でしょうか? 実は私自身、愛車の錆はかなり神経質な方で、少しでも錆びているとパウダーコートをかけたくなる衝動に駆られます。溶剤を使わずコートでき、環境にも良く、塗装より硬度の高いパウダーコートは非常にお勧めです。近年、バイクにはアルミパーツは勿論、樹脂パーツ(ハーレーは極端に少ないですけれど)が増えてきており、錆に対してはそれ程神経質にならずにすむようになってきていますね。より軽く、そしてリサイクルしやすい材料へバイクパーツも変遷しているのかもしれません。さて前置きとは一切関係ありませんが、本題に入りましょう(笑)。今回の主役は私ではなく、アメリカで大活躍をするある日本人ハーレーメカニックです。私の話は最後にちょっとだけ…。自分のネタが切れたからではなく、どうしても日本のハーレーフリーク、ハーレー業界関係の方に知っておいて頂きたい方がいるため、いつもと少しカラーが違うコラムになった次第です。私が紹介しなくても、氏の存在とスキルは日本のハーレー業界でも相当有名ですが、そのキャラクターまでを知っている方は極僅かではないでしょうか? メカニックは華の無い世界です。苛酷な環境でありながら特に表彰されることも無く、社会評価を得る事の少ない職業であります。しかし、やりがいはダントツにある職業です。そんなハーレー業界の中でも、本場H-D U.S.Aにて名実共にトップクラスを走り続ける(マイペースで歩いている?)Las Vegas H-Dメカニックがいる。そのことを多くの方に知ってもらいたいのです。

私がご紹介したい方の名前は神奈川県出身の小磯博久氏。9年前に単身アメリカへと渡ってきて、現在はラスベガスH-Dの看板メカニックとして活躍しています。氏はアリゾナにある「MMI」という有名なモーターサイクルメカニックの養成学校(日本で言う専門学校)に通うため渡米してきました。「ほとんど英語を話せないまま渡米してきた」と言う話なのですが、日本での愛車であった89年式FXSTSを持ち込み、アメリカ生活をスタートさせました。英語が話せずに、アメリカでの生活をスタートさせるのは、皆さんが思う以上に大変なことです。その上愛車を持ち込むなんて登録手続きが煩雑で…。日本で少し英語を学び、渡米した私でしたが愛車は日本に放置したまま…。英語が殆どできなくても要領一つでトラブルを回避できる能力を氏は持っていたのでしょう。渡米から9年たった現在、氏の英語力は接客も充分にこなせるほぼ完璧に近いモノです。長年アメリカに住んだからと言って、完璧な英語力が身につくわけではありません。意識、無意識は別として常に英語を意識した生活を送らないと培われないモノです。私の場合、英語を意識した暮らしはある日を境に急に苦しくなってきました。「できるだけ英語を話したくない…」こう思い始めた私の英語力の成長は、完全に止まってしまったようです。いやむしろ衰退しているかも(笑)。

数少ない人が持つ天賦の才
氏はそれを持っています

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話が少し脱線してしまいましたね。MMI入学後の氏ですが、異国の地で何かを学ぶ者の常として、さぞ苦労があったかと思ったら「特に無いかなぁ…?」との返事。常に前向きで、頭の切り替えの早さも兼ね備えている氏を知っているので、特別驚きではありませんが、普通の人ではこうは行きません。しかも、渡米前の氏はメカニックの経験はありませんでした。それでもハーレーについての見識はかなりのものだったと聞いています。私は日本でメカニックを10以上頑張ってきて、やっと当たり前のことができるようになった程度です。独学でハーレーを深く知るのはさぞ大変だったはずなのですが…一を聞いて十を知る、氏の素養は日本にいたときからすでに発揮されていたのでしょう。MMIを卒業した後、OPT(Optional Practical Training)という学校卒業後に一定期間体験就職ができる制度を利用し、ラスベガスH-Dに氏は勤め始めました。ここからが氏の快進撃の始まりでした。通常のメカニックの場合、いくらMMIを出たからといっても現場でのスタート当初はあれこれと苦労するのが当たり前です(私のアメリカ修行スタート時もそうでした)。しかし、ラスベガスH-D就職直後から周囲にその実力を認められはじめます。ラスベガスH-Dでの勤務を始めた頃のことを聞くと「毎日ハーレーに触れて幸せだったよ」と振り返っていました(笑)。昔から無茶苦茶に要領のいい人だったのでしょう。それに加え、自己管理や分析、客観視能力に非常に長けているのです。

そしてラスベガスH-Dに勤めてしばらくたち、氏は正式にビザを取得しました。同じ実力を持つアメリカ人メカニックがいるなら、あえて日本人メカニックのビザ発給手続きを行い、雇用する必要などありません。私のような期間限定でのメカニック修行を経験するのは勇気と根性だけで何とかなるものです。しかし、生活の土台をアメリカで築くだけでなく、競争社会のこのアメリカで、その名を知られるようになるなんて誰にでもできることではないのです。努力で世の中の99%は乗り切れると思っていた私ですが、ここに来て小磯氏に出会い、その考えを見直すようになりました。世の中には“努力だけでは超えられない壁”が少しだけ存在するようです。私にとってのその壁は小磯氏なのですが、それはどういうことなのかお話しましょう。

全米各地からオーダーがある
氏を指名したカスタムオーダー

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人は何かしら才能を持って産まれてくる、私はそう信じています。字が上手かったり、絵が上手かったり、歌が上手かったり…。小さい頃の私は粘土細工と縄跳びが半端じゃなく得意でした(笑)。でも、一般的には人よりほんの少しだけ得意というだけの話です。若者はその小さな小さな才能を学校や職場で開花させ、努力を重ねて伸ばしていくものです。基礎と成る才能があっても、その後は努力なしでは人を驚かせたり、役に立ったりするモノへとは変化しないものです。けれど、です。そういう領域とは別の才能がもう一つあるのではないかと思うのです。「天才の閃き」とでも言いましょうか。世界に誇る野球選手のイチロー氏は、投手から放たれた百数十キロの投球が自分のバットに当る正にその瞬間まで、球の軌道を読み取り、コンマミリ単位でバットの角度や速度を微調整していると聞いたことがあります。これはまさに神の領域です。こんなことは誰にもできるわけではありません。私はこの種の“天才の閃き”という希有な才能を小磯氏に見ました。こんなことを言うと氏に「大袈裟なことを言っちゃダメだよ」と突っ込まれそうですが、私がそれくらい氏の才能に驚かされ、感化されたことは事実なのです。私が感化されたことの1つは氏の“発想力”です。身の回りにある廃材の一欠けらでさえ、氏にとっては発想転換でSST(スペシャルサービスツール)の材料となります。オーダーされたカスタムの中にも独自のアイデアで、他車両のストックパーツを上手く流用してカスタムをするなど…裏技のオンパレード。これだけなら過去の経験値と努力でカバーできないことはありません。ただ、凄まじいのはこれを毎日のように思い付く尽きないアイデア力。そしてアイデアを具現化した時の完成度の高さなのです。その具体例をここで紹介できればいいのですが、氏の秘密アイデアばかりなので私が勝手に紹介することはできません(本人は別にいいよ~と言いそうですが…笑)。言葉でうまく伝えられないのがもどかしいですが、氏が日常的に行っている作業は、一般のメカニックのレベルでなかなか思い付けるものではないのです。私もたま~にいいアイデアを思い付くことはありますが、具現化してみるとヘンテコな工作ができ上がります(笑)。しかも、氏はその貴重なアイデアを、出し惜しみすること無く、私や周りの同僚にアドバイスしてくれます。私のアリゾナでの師匠カートを彷彿させる人柄ですね。今のこのご時世、アイデア一つだって無料ではありません…太っ腹な方です!

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氏の発想力について書きましたが、氏は「ハーレーのことなら何でも」解っています。その名を全米や日本にまで轟かせているのは、ハーレーのEFIチューンです。間違いなく世界一でしょう。アメリカ中は勿論のこと、アラスカやカナダからも小磯氏にチューンの依頼が入ります。かと言ってエボリューションやツインカムなど、最近のモデルに偏った知識・経験だけを持っているわけではないのです。ナックルヘッド、パンヘッド、ショベルヘッドなど全てのモーター、シャーシに精通しています。知識だけでなく、実戦で使える確固たるスキル、です。精通度合いは度肝を抜くレベル! 元より旧車が大好きだった小磯氏ですから、何ら不思議なことではないのかもしれませんが、100年以上の歴史を持つハーレーの世界で、ここまで幅広いスキルを持つ人にはこれまで会ったことはありません。現在はラスベガスH-DのNo.1メカとして活躍している氏ですが、担当する仕事のほぼ100%は指名の仕事です。強烈なハイパフォーマンスカスタムや、モーターチューンを主に担当しています。そこには氏にしかできない仕事があり、その成果は人々を魅了し続けています。若き鬼才の持ち主である小磯氏は私にとって、イチロー選手となんら変わらないスーパースターなのです。

尊敬すべき人物の側で働ける
素晴らしい出会いに感謝します

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では最後に、そんな素晴らしきメカニックの才能を持った氏の手によって仕上げられたマシンを少しだけご紹介したいと思います。まず最初に紹介したいのが、このハーレー。氏によってプロデュースされたモーターはストックベースから仕上げられたモーターとしては正に完璧な代物。131Cu.inchと怒涛の排気量はストックのケースではほぼ限界のボアを達成、インジェクターも容量アップされておりスロットルボディーは58ミリの大口径を使用しています。カム、ヘッド、シリンダーは「ティーマン」というアメリカでも屈指のモーターパーツをプロデュースしているショップの物を使用。ティーマン製モーターパーツと小磯氏のビルドアップ&EFIチューンによるコンビネーションで捻り出される出力は、推定150hp以上! トルクがシェイクダウンの3000rpm辺りでも117ft-lbs(158Nm!)出ていたそうです。これはチューニングされた103Cu.inchの全開付近とほぼ同等のトルクで、間違いなくストックベースからのチューニングとしてはアメリカでもトップクラスでしょう。ブリーザーバルブやプッシュロッド、オイルポンプ等も全て特殊な物に換装してあり、外観は完璧に施されたポリッシュで仕上げられています。このエンジン一機で新車のFLHTCUが一台買えるほどの価格だそう…。しかも氏のチューニングで素晴らしいのは、乗り味が非常にマイルドであり、街乗りや耐久性を考慮してあるということです。圧縮比をあまり上げすぎないようにセッティングしたり、氏のスペシャルEFIチューンにて低回転からスムーズな乗り味を可能にしたりしているのです。

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次は小磯氏ご本人のハーレーをご紹介しましょう。未完成の物を含め、数台所有していますが、その中でも私が感化された車両はこちら。ベースは2006年式FXD、上記と同じく131Cu.inchモーターを搭載、しかもセッティングは過激にハイパワーを狙ったセッティングを施されているそうです。各所に独自のアイデアによる技が効いており、ごく一般的な私のようなメカニックにはまずもって製作不可能でしょう。モーター外観はブラックとオレンジのパウダーコートで整えられ、外装もカスタム塗装。現段階では未完成で、インテーク&エグゾーストシステム、プッシュロッドリフター、EFIチューンのセッティングを煮詰めている途中です。実はこの車両、今年9月に行われるボンネビルスピードウィーク(塩でできた湖上の上を走り、最高速を競うレース)にプライベーターとして参戦予定! 別に紹介した131Cu.inchの同じ排気量ですが氏のエンジンはカムなどのプロフィールは過激なセッティングになっており、冒険心が盛り込まれたチャレンジスピリットが溢れる車両です。勿論参戦するからには記録を狙っていますが、当のご本人は仕事が忙しく、スケジュールの調整がなかなか難しいのだとか。私も記録係と助手メカとしてお手伝いできるかな、と楽しみにしています。

今回、こういった形で尊敬する小磯氏をご紹介できたことは本当に嬉しく思います。海外では多くの才能ある日本人が活躍しています。多岐に渡る職業の中で、日本人が持つ能力の高さを日本の代表として世界にアピールしてくれている方々です。当の本人はそれ程気負わず、楽しみながらチャレンジしていると思いますので、こういう表現をしてしまうと大袈裟になってしまうかもしれません。ただ、私はそういう方をつい羨望の眼差しで見てしまいます。小磯氏は素晴らしい技術者ではありますが、決してその力を誇示しようとしたりはしません。私が初めてお会いした時、驚くほど気さくな方だったことに驚きました。大抵の人間は大きな力を得ると謙虚さを失ってしまったりしますが、氏は全くそんなことはありません。常に初心をお持ちなのかもしれません。誰に対しても自分らしく自然体で接する氏は人間的にも尊敬できるメカニックです。ここラスベガスH-Dでもまた一つ、忘れられない出会いを得たことが、その他の苦労をすべて忘れさせてくれます。私もいつか氏に「あいつはなかなかいいね」と言われるメカニックになりたいですね。そういう私ですが、ラスベガスH-Dでの修行は順調に評価を得ています。今は当たり前のことしかできませんが、当たり前+αへとさらなる成長を遂げたいですね。それでは次回をお楽しみに!

プロフィール
芦田 剛史

26歳。幼少からバイクと車に興味を持ち、メカニックになることを誓う。高校中退後、四輪メカニックとして4年の経験を積み、ハーレー界に飛び込む。「HD姫路」に6年間勤務、経験と技術を積み重ねたのち「思うところがあり」渡米を決意。現在はラスベガスHDに勤務。(※プロフィールは記事掲載時点の内容です)

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