
伝統とは、守るだけでは風化する。
革新とは、追うだけでは芯を失う。
その両極のあいだで揺れ動きながらも、アメリカンVツインの鼓動を軸にブランドの再定義を進めてきたハーレーダビッドソン。その2026年モデルが、いよいよ日本市場で姿を現した。ツーリングの進化、CVOの頂点化、ナイトスターの戦略的再配置、そしてパンアメリカの熟成――。二子玉川で切って落とされた新章は、単なる年次改良ではない。ブランドの輪郭をもう一度描き直す、明確な意思表示である。

2025年1月にハーレーダビッドソンジャパンの代表に就任された玉木一史氏が登壇。1年間かけて、今、ユーザーに求められているハーレーダビッドソンの楽しみ方を学び、それを実践、行動に移す。

ヒーローモデルの位置に置かれたのは、CVOストリートグライドSTと、ナイトスターの2車種。会場内には、その他、ほぼフルラインアップが展示された。どれも粒ぞろいで魅力的なモデルが溢れる。

往年のダートトラックレーサーであるXR750を連想させるカラーリングが採用されたナイトスター。車両価格が148万8800円(税込)と抑えられたことで、一気にマーケットが盛り上がることが予想される。
2026年2月20日、東京・二子玉川ライズで開催されたハーレーダビッドソンの2026年モデル発表イベント。都市型ショッピングエリアのど真ん中で新ラインアップを披露するという演出は、ブランドの現在地を象徴していた。
世界的な二輪市場の変動、電動化へのプレッシャー、プレミアムセグメントの競争激化――。近年のハーレーダビッドソンは、伝統と革新の両立という難題に正面から向き合ってきた。その中で打ち出しているのは「コアの再強化」だ。すなわち、アメリカンVツインという原点を磨き込みながら、電子制御、安全装備、快適性といった現代的価値を高次元で融合させること。
今回日本導入が発表されたのは23車種(うち19車種が即日発売)。注目すべきは、単なるカラーチェンジにとどまらず、パワートレインや装備のアップデートが各カテゴリーに波及している点だ。特に可変バルブタイミング機構を備えたMilwaukee-Eight 117 VVTの本格展開は、ツーリングファミリーの再定義とも言える。
ハーレーダビッドソン2026年モデルは、守りではなく攻め。その号砲が、ここ二子玉川で鳴らされたのである。

キング・オブ・バガーズに参戦するファクトリーレーサーからインスピレーションを受けたカラーリングのCVOストリートグライドST。ファクトリーカスタムの頂点に立つこのモデルの価格は581万200円(税込)。

二子玉川ライズにて開催されたハーレーダビッドソン2026モデルジャパンプレミア。イベントの後、同場所はポップアップストアとなり、3日間限定で一般開放された。普段バイクに触れない方もハーレーワールドを体感。
ステージに立ったハーレーダビッドソンジャパン代表である玉木一史氏が、繰り返し強調していたのは、「モーターサイクルは移動手段ではなく体験そのものだ」というメッセージだった。販売台数やスペック競争だけでなく、ライダーのライフスタイル全体をどうデザインするか――それが2026年のキーワードである。
その象徴が、グランドアメリカンツーリングの進化だ。新型エンジンを搭載したストリートグライド リミテッドおよびロードグライド リミテッドは、Milwaukee-Eight 117 VVTによりトルク特性と高回転域の伸びを両立。さらに吸排気系の最適化、冷却効率の改善が図られ、従来以上に洗練されたフィーリングを獲得している。
加えて、再設計されたGrand Tour-Pakラゲッジ、Rockford Fosgate製オーディオ、Skyline OSによるタッチスクリーンナビゲーションなど、長距離タンデムツーリングを前提とした装備の充実は、まさに“体験価値”のアップデートだ。
一方で、よりパーソナルな領域にも踏み込む。クルーザーファミリーではMilwaukee-Eight 117をベースにClassic/Custom/High Outputという3種のチューニングを明確化。キャラクターを差別化することで、ライダーの個性に応える体制を整えた。
単にラインアップを拡充するのではない。体験の質を再構築する――それが今回の発表会で打ち出された、明確な戦略だった。

搭載するミルウォーキーエイト117VVTエンジンがデチューンされ、よりトルクフルかつ高回転の伸びが良くされたロードグライド リミテッド。より洗練されたライドフィールをもたらす。価格は435万3800円(税込)から。

相変わらず高い人気を誇るブレイクアウト。クルーザーファミリーは、クラシック、カスタム、ハイアウトプットと、それぞれのキャラクターをより一層明確にし、それぞれの個性を引き上げている。ブレイクアウトは345万1800円(税込)から。

シンプルなアメリカンクルーザースタイル、心地よい乗り味をもたらす素性の良さ、手を出しやすい価格などで、ハーレーダビッドソンの世界観を広い層に伝えてくれるストリートボブ。価格は259万3800円(税込)から。

古い世代からすると、エレクトラグライドウルトラクラシック、そのように目に映るものだが、現在はモダンなストリートグライドリミテッドとしてラインアップされる。旅へ誘う一台だ。価格は435万3800円から。
2026年モデルで最も華やかな存在は、言うまでもなくCVOだ。Custom Vehicle Operationsの名のもとに展開される最上級シリーズは、今年で27回目を迎える。
中でも新型CVO ストリートグライド リミテッドは、Milwaukee-Eight VVT 121エンジンを搭載し、専用カラー“シトラスヒート”や“エレクトリックコースト”といったプレミアムフィニッシュで登場。塗装品質、トリム、足回りのブラックアウト処理に至るまで、量産車の枠を超えた完成度を誇る。
さらにパフォーマンス志向のCVO ロードグライド STは、King of the Baggers直系のスタンスを感じさせる1台。軽量化と高出力121 H.O.(ハイアウトプット)エンジンの組み合わせは、ラグジュアリーとレーススピリットを同時に成立させる。
その対極に位置するのが、スポーツカテゴリーのナイトスターだ。フラットトラックレーサーを想起させるブラッドオレンジの新グラフィックは、往年のXR750へのオマージュ。クロームからブラックへと変更されたパワートレインまわりは、視覚的にも引き締まった印象を与える。
価格改定によってより戦略的ポジションに置かれたナイトスターは、ハーレーの“入り口”としての役割も担う。CVOがブランドの頂点なら、ナイトスターは未来の顧客を呼び込む磁力だ。
両極からのアプローチ。それが2026年の布陣である。

「600万円をゆうに超えてきたか」と会場がざわつかせていたCVOストリートグライドリミテッド。ただ、その質感は高く、まさしく王者の乗り物というオーラを放っていた。気になる価格は630万800円(税込)から。

ハーレーダビッドソンの持つ、長い歴史を今につなげるスタイルのヘリテイジクラシック。スタンダードなデザインは飽きることなく、長く付き合える相棒となってくれることだろう。324万8300円(税込)から。
そして筆者が個人的に最も気になったのが、パン アメリカ 1250 リミテッドだ。
アドベンチャーツーリング市場に参入して数年。Revolution Max 1250エンジンは熟成が進み、信頼性と完成度を着実に高めてきた。その集大成とも言えるのが、この“リミテッド”である。
SW-MOTECHと共同開発したアルミ製防水パニア(総容量120L)、アダプティブライドハイト(ARH)、セミアクティブサスペンション、クイックシフター、グリップヒーター――フル装備を標準化し、長距離とオフロード双方に対応する万能性を獲得した。
派手さではCVOに及ばない。しかし、ツーリング性能と実用性の高さ、そしてブラックアウトされたパワートレインの精悍さは、確実に“本物”の進化を感じさせる。
ハーレーダビッドソンは2026年、ツーリング、クルーザー、スポーツ、アドベンチャーの全方位で攻勢をかけてきた。頂点を示すCVO、裾野を広げるナイトスター、そして熟成を武器にしたパンアメリカ。
二子玉川で切って落とされたその一手は、単なるモデルイヤー更新ではない。ブランドの次章を告げる、明確な宣言だった。

アドベンチャーモデルに追加投入されたパンアメリカ1250リミテッド。SW-MOTECHと共同開発したケースは、合計120リットルもの積載容量を誇る。大陸横断の新たなスタイルを切り開く。価格は315万5900円(税込)から。

ハーレー公式のアパレル専門店が2026年3月にオープンする予定となっている。従来からハーレーダビッドソンとファッションのつながりは強かったが、それをライダーだけでなく、バイクに乗らない人々にも訴求する。