
RH975ナイトスター(以下ナイトスター)がニューモデルとして登場したのは2022年のこと。長年にわたり親しまれてきた空冷Vツインエンジンを搭載するXLスポーツスターが生産終了となり、その役割を受け継ぐ存在としてラインアップに加わったモデルである。伝統的なスタイルと鼓動感を愛するファンにとっては、その変化に戸惑いの声があったことも事実だが、時代の要請に応じた進化であったこともまた見逃せないポイントと言える。
ナイトスターに先立って登場していたRH1250SスポーツスターSと同様に、水冷式Vツインエンジンを搭載している点も大きなトピックだ。排気量975ccのパワーユニットは「レボリューションMAX975T」と名付けられ、従来の空冷ユニットとは設計思想からして大きく異なる。高回転域までスムーズに吹け上がる特性と、ライディングモードチェンジで特性を変更できることは、従来のスポーツスター像に新たな価値観をもたらすものとなっている。

また、空冷スポーツスターが最終型までアナログ的要素を色濃く残していたのに対し、ナイトスターは心臓部の水冷化にとどまらず、ライディングモードセレクトやトラクションコントロール、さらにはドラッグトルクスリップコントロールといった電子制御デバイスを積極的に採用している。これにより、ライダーの意思に忠実なスポーツライディング性能と、安全性の両立を高次元で実現。単なる“扱いやすさ”にとどまらない、現代的な走りの質を手に入れている点は見逃せない。

近未来的でモダンな印象を前面に押し出したスポーツスターSとは一線を画し、ナイトスターはあえて空冷スポーツスターを想起させるボディラインやツインショックレイアウトを採用。そのスタイリングは、一見すると伝統回帰のようにも映るが、実際には最新技術とクラシカルな意匠を巧みに融合させたものだ。結果として、新たなハーレーユーザー層の開拓に寄与すると同時に、従来のファンに対しても“これもまたハーレーである”と納得させるだけの説得力を備えている。
ナイトスターはXLスポーツスターの実質的な後継にあたるモデルだと先述したが、その中身は従来モデルのコピーや単なるアップデートではなく、これからの時代を担う存在として一から再構築されたものである。 ここで一度、ハーレーダビッドソンの立場に立って考察してみたい。
1903年に創業し、120年以上の歴史を持つハーレー。その長い時間の中で、1957年に初代が登場したXLスポーツスターは、60年以上にわたり世界中のバイカーに愛されてきた主力モデルだ。幾度となく改良が重ねられてきたが、現代の環境規制への対応が難しくなってきたことに加え、時代の変化とともに交通環境や使用シーンも大きく変わってきた。そうした背景から、新たな形として生み出す必要に迫られていたのである。
ユーザーの中には、この最も長く続くシリーズであるXLスポーツスターを崇拝する層が存在することも事実だ。しかし同時に、現代的な価値観のもとで、これからの50年、100年を見据えた新たなスタンダードモデルを生み出さなければならないという使命もあった。 そうして誕生したのがナイトスターである。

水冷化されたパワートレーンは、単なる排ガス規制対応にとどまらず、性能面や制御面における自由度を大きく引き上げることに寄与している。また975ccという排気量設定とすることで、スポーツスターSに搭載される1250ccユニットの圧倒的なパフォーマンスとは異なり、扱いやすさと回転を楽しむフィーリングを高い次元で両立させている。 ツインショックや低く設定されたシート高といった車体構成も、単なる懐古的演出ではなく、ライダーとの親和性を高めるとともに、新たなユーザーに対する間口の広さを意識した設計と言えるだろう。

さらに、ライディングモードやトラクションコントロールといった電子制御デバイスは、走行性能を制限するためのものではなく、あくまでライディングの楽しさを底上げするための存在として機能している点も見逃せない。

私がスポーツスターS、そしてナイトスターの登場時に感じたのは、“ポルシェ的進化”とも言える在り方だった。ポルシェ911が空冷水平対向エンジンから水冷へと移行した際、それは決してすべてのファンに歓迎されたわけではなかった。しかし実際に触れた人々は、その本質が失われていないこと、むしろ新たな価値として昇華されていることを理解し、結果として広く受け入れられていった。 ナイトスターもまた、そうした進化の系譜に連なる一台であると感じている。では実際の走りはどうなのか。その真価を、次の走行インプレッションで詳しくお伝えしていこう。

2026年モデルのナイトスターには、フラットトラックレースのレジェンドマシンとして知られるXR750をモチーフとしたオレンジのカラーリングが用意されている。その昔、空冷スポーツスターでも“XR750スタイル”を目指したカスタマイズが人気を博したことがあり、実車を目の前にした私は「そうそう、これこれ」と懐かしい感覚が呼び起こされた。
ロー&ロングの美しいシルエットと、約705mmに抑えられたシート高は、見る者を「乗ってみたい」と感じさせるに十分な魅力を備えている。足つき性の良さは安心感にも直結し、幅広いライダー層にとって扱いやすいパッケージングと言えるだろう。

エンジンを始動すると、「レボリューションMAX975T」Vツインの歯切れのよいエキゾーストノートが響く。水冷エンジンでありながらも、ハーレーらしい低音の鼓動感はしっかりと残されており、耳だけでなく身体にも伝わってくる感覚が心地よい。
クラッチレバーを握ると、その軽さに驚かされる。これまで数多くのモデルに触れてきた経験から、「ハーレー=クラッチが重い」という先入観があったが、そのイメージは良い意味で裏切られる。同様に車体の取り回しも軽快で、走り出す前の段階から扱いやすさの高さが際立っている。

走り出してまず感じたのは、かつて所有していたXL1200Sスポーツスターの記憶との重なりだ。空冷エンジンとは回転フィールこそ異なるものの、低回転域でのトルクの出方や、ややスポーティなライディングポジション、ハンドル越しに広がる視界など、ライディング体験の“核”となる部分に通じるものがある。単なる別物ではなく、確かに同じ流れを汲んでいると実感できる瞬間だ。
ブレーキのタッチおよび制動力も十分以上。空冷時代のXLスポーツスターと比較すると、その性能は明確に向上しており、現代的な走行性能に見合った安心感をもたらしている。

フロント19インチ、リア16インチというタイヤサイズ、そして約1545mmのホイールベースが生み出すハンドリングは、特にフロントの切れ始めに独特のフィーリングがある。しかしそれは扱いづらさではなく、このモデルならではのキャラクターとして成立しており、走り込むほどに理解が深まるセッティングだと感じた。丁寧なテストと熟成を経て仕上げられていることがうかがえる。
スロットルを大きく開ければ、想像以上のパフォーマンスを発揮する。かつて「ハーレーは遅い」と言われた時代もあったが、少なくともこのナイトスターに関しては、そのイメージは完全に過去のものだ。「ハーレーは速い」と言い切れるだけの実力を備えている。
乗りやすく、楽しく、そして速い。ナイトスターはその三拍子を高いレベルで成立させている一台だ。エントリーモデルとしてはもちろん、経験豊富なライダーのセカンドバイクとしても十分に魅力的な選択肢となるだろう。実際、私の知人にもナイトスターのオーナーがいるが、実にスマートに乗りこなしており、その姿には素直に羨望の念を抱かされる。

さらに特筆すべきは価格設定だ。2026年モデルでは車両価格が148万8800円へと見直され、従来よりも大幅なプライスダウンが図られている(※2026年4月現在)。この内容を踏まえれば、コストパフォーマンスの高さも見逃せないポイントと言える。
実際に見て、触れて、乗ったうえで、ナイトスターは非常に完成度の高い一台に仕上がっていると感じた。そして同時に、これからのハーレーダビッドソンを担っていく存在であるとも確信している。
何十年か後にこの記事を読み返したとき、「ナイトスターという新たな起点が生まれ、そこから次の時代へとつながっていった」——そう感じてもらえるのであれば、これほど嬉しいことはない。

水冷60度Vツイン「レボリューションMAX975T」を搭載。排気量975cc、最高出力約91hpを発生し、高回転まで伸びるスポーティな特性が特徴だ。従来の空冷スポーツスターとは異なる設計思想ながら、トルク感と扱いやすさを両立している。

空冷スポーツスターを連想させるピーナッツタンク形状を採用するが、実際にはエアボックスカバーとして機能する“ダミータンク”。燃料はシート下に配置され、低重心化に寄与している。新たにXR750を想起させる伝統的な配色も用意された。

丸型ケースに収められたオーソドックスなヘッドライトデザインを採用しつつ、内部はフルLED化されている。ウインカーもLED仕様で、あえて存在感のあるサイズ感とすることで、クラシカルなハーレーらしさを視覚的にも強調している。

フロントにはSHOWA製41mm正立フォークを採用。ブレーキはフロントにブレンボ製4ピストンキャリパーを装備し、十分な制動力を確保する。タイヤサイズは100/90-19で、細身かつ大径のフロントが軽快なハンドリングに寄与している。

丸型シングルメーターは、往年のXLスポーツスターを想起させるシンプルなレイアウトを採用。内部は液晶ディスプレイとなっており、車両情報の表示に対応する。

左側スイッチボックスはウインカーやホーン、メニュー操作などを集約したシンプルな構成。直感的な操作性が重視されている。バーエンドミラーが標準採用されていることもポイントとなっている。

標準ではシングルシート仕様とされ、短く引き締まったリアフェンダーの造形が際立つデザイン。フェンダー後端にはテールランプとライセンスプレートがコンパクトにまとめられ、軽快かつミニマルな印象を演出している。

リアタイヤは150/80B16サイズを採用し、安定感とトラクション性能を確保。アルミキャストホイールと組み合わされる。マフラーは軽量な2into1レイアウトとされ、現代的な性能と伝統的なシルエットを両立している。

駆動方式にはメンテナンス性と静粛性に優れるベルトドライブを採用。リアサスペンションはツインショック式とされ、スポーツスターの伝統的なレイアウトを踏襲しながら、現代的な乗り味を実現している。

ステップ位置はミッドコントロールを採用し、自然で操作しやすいライディングポジションを実現。クラッチはアシスト&スリッパークラッチ構造により操作が軽く、シフトチェンジもスムーズで扱いやすいフィーリングとなっている。

シート高は約705mmと低く設定され、優れた足つき性を確保。シングルシート仕様とすることで車体との一体感を高め、コンパクトで引き締まったシルエットにも貢献している。初心者からベテランまで扱いやすい設計だ。