デュベールさんは、フランスのパリに近い都市部で生まれ育った。子供の頃から日本にとても興味を持ち、武道であるカラテを習い、初めて読んだ書物はなんと宮本武蔵の伝記だと聞いて驚いた。
興味の国「日本」には、バックパッカーとして訪れた。全国各地を廻り、その後、日本の大学に留学して見識を深め、日本語も習得し、大学を卒業。そしてフランス企業の日本支社勤務となり、現在は東京に住んでいる。
「少年時代はキッズモトクロスに参戦していたし、フランスの大学に通っているころはホンダに乗っていました。だから日本に来てもバイクに乗ることは僕の日常。気軽に乗れるモデルが好きだから、友人の勧めでショップを訪れ、スポーツスターにしました」
彼と待ち合わせたのは、ハーレーダビッドソン新宿である。先日開催された創業60周年のパーティーにも彼の姿があった。誰とでもフランクに付き合うナイスガイ。それが彼の姿である。
どこかショートツーリングに行こうと誘うと、目的地は山梨県の大月が良いという。そこにお気に入りのうどん屋さんがあるらしいのだ。素朴な味のするうどんが大好き「本当にうまいよ」とほほ笑む彼は、日本人よりも日本人っぽいような気さえしてきた。
中央自動車道を西へ走って、一路大月へ。甲州街道に降りてほど近い場所にそのうどん屋はあり、彼は大好物の肉うどんを注文する。川沿いにあるお店には和風のテラスがあり、そこで涼しい風にあたりながら昼食を食べた。
「いいでしょここ。良く来るんだ。東京から少し走るだけでこんなに自然が豊富にある。それは、素晴らしいことです」
東京からたったの40キロほど走っただけで、日本には深い山がある。海も近い。川は爽やかに流れ、心地良い風が吹いている。僕らは、日常的に触れているこの国の素晴らしさに気付いていない。
彼は自分のスポーツスターを「自転車みたいな存在」と言う。気軽に乗れる日常的な相棒なのだ。大きさもカラーリングも大のお気に入り。その漆黒のボディは日本の風景や建物の中に良くマッチするとほほ笑んだ。
少し足を伸ばして、猿橋を見物に行く。旧甲州街道にかかる江戸時代の木造橋。その隣には、明治時代建造の水道橋も掛かり、意外なほど深い渓谷があたりを包む場所。普段、高速道路や幹線道路を走っているだけではまったく目に入らないが、日本の歴史がそこにはある。
デュベールさんは、目を輝かせて写真を撮っていた。その後は丹沢山系のマイナールートをたくさん走って、最後は相模湖インターから帰路につく。
「楽しかった。また走ろうね。日本はやっぱりすばらしい。素敵な場所がたくさんある。出会う人もみな最高なんだ」
そう言うと、彼は優しく目を細めて遠くを見つめていた。